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フェラーリ、V12のスペシャルモデル新型「812 Competizione」と「812 Competizione A」発表
2021年5月6日 15:49
- 2021年5月5日(現地時間)発表
フェラーリ史上最強のV12モデル
フェラーリは5月5日(現地時間)、「812 スーパーファスト(Superfast)」をベースにした新型リミテッド・エディション・スペシャルシリーズとなる「812 Competizione」とそのタルガバージョン(オープンモデル)「812 Competizione A」をオンラインにて発表した。
この2台はフェラーリの至高の伝統を愛する極めて限られたコレクターやエンスージアストに捧げられるモデルで、どちらも限定生産となっている。発表会はフェラーリのテストコースであるフィオラノサーキットのコースサイドにある「GTスポーティング・アクティビティ部門」にて行なわれた。まず812 Competizioneがサーキットを走り、車両のフォルムとV型12気筒のエンジンサウンドを披露。その後、チーフ・マーケティング&コマーシャル・オフィサーのエンリコ・ガリエラ氏による解説があり、さらに解説の後半では812 Competizioneのオープンモデルとなる812 Competizione Aの初披露も行なわれた。
812 Competizioneのボディサイズは4696×1971×1276mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2720mm、前後重量配分はフロント49%リア51%、乾燥重量は1487Kg、パワーウエイトレシオは1.79Kgを誇る。搭載されるエンジンは812 スーパーファストと同じV型12気筒 6.5リッター自然吸気エンジンだが、コンロッドをスチール製よりも40%軽いチタン製にしたり、ピストンピンにDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)コーティングを施し摩擦係数を低減、クランクシャフトのバランス取りを実施。さらにF1の経験から生まれた技術で、バルブトレインとシリンダーヘッドを新設計し、DLCコーティングを施したカムシャフトの回転でバルブシステムを動かす「スライディング・フィンガーフォロワー」を採用するなど、エンジンの主要コンポーネントに大幅に手が加えられているという。その結果、最高回転数は9500rpm、最高出力は610kW(830CV)/9250rpm、最大トルク692Nm/7000rpmを発生。最高速度は340km/h、0-100km/hは2.85秒、0-200km/hは7.5秒をマークする。なお、812 Competizione Aの主要諸元は後日発表となっている。
また、全回転域でエンジンが適切に空気を取り込めるように吸気システムも再設計。マニホールドとプレナムチャンバーをコンパクトにすることで経路の全長を短縮させ、高回転域でもパワーを発揮するようにしただけでなく、吸気ダクトアッセンブリーの長さを絶え間なく変更しつつ、点火順序に合わせることでシリンダーへの充填を最大化させる「可変ジオメトリー吸気ダクト」を搭載。レッドゾーンまで谷間なく吹け上がるという。さらにエンジニアは、エンジン全体の効率を高めるために、エンジン内部の油圧を継続的に調整する「可変容量オイルポンプ」も新たに開発している。
厳しくなる排ガス規制にも対応させるため、燃料噴射のタイミングと量のキャリブレーションに加え、噴射圧の引き上げにより、特にエンジンが冷えているときのCO2排出量と粒子状物質の生成を削減。さらにイオン電流を測定して点火タイミングを制御する「イオン感応システム」を搭載。これらをECUが制御することで、常に高い燃焼効率を維持できるという。また、排気システムも新たな「エグゾースト・テールパイプ」を開発し、GPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター)を導入したことで、フェラーリのエンジンサウンドはそのままに、排ガス規制に適合させている。
ミッションは7速デュアルクラッチ・ギアボックスを搭載。制御変更で変速時間は5%短縮しているという。ギアレシオも812 スーパーファストと同じだが、最高回転が500rpm引き揚げられたことで、さらにスポーティな乗り味になったという。HELE(High Emotion/Low Emissions)システムも進化し、アイドリングストップ機能を備えたほか、マップ制御によりHELEオンでは排出量を低減し、オフではレスポンスを最大化させる。
新エンジンのパワーアップに合わせて冷却システムも強化され、V12モデルでは初めて「シングル・フロント・エアインテーク」を導入。ラジエターに送る風量を増加させながら、冷却液の回路も改良したことで、冷却性能は812 スーパーファストよりも10%向上。また、エンジンオイルタンクも再設計し、オイル量を1kgほど減らしつつ、オイル流量は最高30%増を実現したという。
こだわりのエアロダイナミクス
ラジエターを通過した熱い空気はボンネット中央の「ブレード」の両側にある排気口とフェンダーにあるルーバーで効率よく排出でき、ボディ下部の開口部を減らせたことで、全体としてフロントのエアロダイナミクスが向上。ブレード両側の排気口から出た空気はボディサイドに沿って流れ、車体後方の風と合流するという。
ブレーキシステムは刷新され、SF90 ストラダーレと同じ、鋳造キャリパーの内部にエアインテークが組み込まれた「エアロキャリパー」を採用し、バンパーの横に設けられた開口部から取り込んだ空気により冷却される。その結果、ブレーキの作動温度は812 スーパーファストよりも約30℃下がり、サーキットでの長時間走行でも安定した制動力とブレーキフィールを発揮する。またエアロキャリパーによる1.8Kgの重量増は、整流版や特殊なダクトを排除したことで相殺しているという。
ブレーキシステムのモディファイにより、フロント・アンダーボディも再設計され、新たなレイアウトではダウンフォース発生に利用できる表面積が広くなり、さらにS字状のサイド・ボルテックス・ジェネレーターも挿入。フロント・ディフューザーと相乗効果を発揮し、812 スーパーファストを超えるダウンフォースを発生する。フロント・ディフューザーは250km/hを超えると開くパッシブ式可動エアロシステムを備える。
リアまわりは、アンダーボディの空力的気流を横方向に最大限に広げるため、リア・ディフューザーを全幅に拡張。これはバンパー両側にテールパイプを配するエグゾーストを新設計したことで実現。また、この配置により高温の排気ガスがカーブしながら突き出した外側のディフューザー・フェンスに作用して、フェンス末端に発生するボルテックス(渦)を増加。これがディフューザーからの冷たい気流の勢いを強め、結果ダウンフォースが増加するという。これはF1マシンにも使われてる技術という。また、リアタイヤ後ろの3本の切れ目にもリアダウンフォースに貢献する。
リアスクリーンを完全に閉じてしまったのはプロダクションカーとしては初めてとのことで、3組の突き出した形状はボルテックス・ジェネレーターとして作用し、気流を曲げてリアアクスルの揚力場のバランスを変更しているという。このリアスクリーンにより、リア・ダウンフォース増加量全体の10%を担っているという。
ただし、屋根のない812 Competizione Aでは、リアスクリーンがないため、左右のフライング・パットレスの間にブリッジエレメントが設けられ、気流を効果的にそらして無駄なくリアスポイラーへと気流を導き、812 Competizione同等のダウンフォースを実現しているという。
812 Competizioneは、ビークル・ダイナミクスのパフォーマンス向上が目標で、独立4輪ステアリングの初採用、サイド・スリップ・コントロール(SSC)システムのバージョン7.0への進化、さらに専用の新ミシュラン・カップ2Rタイヤの開発などが行なわれた。SSCの7.0が統合するシステムには、電子制御ディファレンシャル(E-Diff 3.0)、トラクション・コントロール(F1-Trac)、磁性流体サスペンション・コントロール(SCM-Frs)、限界域でブレーキを制御するFDE(フェラーリ・ドライビング・エンハンサー)、バーチャル・ショート・ホイールベース3.0が含まれる。
なお、7年間のメンテナンス・プログラムが用意されていて、2万km走行または毎年1回の定期メンテナンスでは、診断テスターを使い詳細な検査を受けられ、常に最高の状態で乗れるようにサポートしてくれるという。