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トヨタと川崎重工、褐炭由来の水素を水素カローラへ供給することで水素仲間に 川崎重工橋本社長はモリゾウ選手に共感

トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏。レーシグスーツを着ているのは、モリゾウ選手としてスーパー耐久を走るため。見慣れた風景でもあるが、よくよく考えると世界的には珍しく、世界一のカーガイであるのは間違いない

水素カローラの仲間に加わった川崎重工

 トヨタ自動車と川崎重工業は9月18日、スーパー耐久第5戦鈴鹿が開催されている鈴鹿サーキットで共同記者会見を行なった。鈴鹿戦ではトヨタがスーパー耐久に開発参戦している水素カローラに、川崎重工も手がけるオーストラリアの褐炭由来の水素が使われている。会見にはトヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏、同 GAZOO Racing Company プレジデント 佐藤恒治氏、川崎重工業株式会社 代表取締役 社長執行役員兼CEO 橋本康彦氏、ルーキーレーシングの片岡龍也監督に加え、水素カローラがレース参戦するきっかけを作ったドライバーで、2021年のル・マン24時間優勝者でもある小林可夢偉選手が参加した。

 今回のスーパー耐久鈴鹿戦では、水素カローラをオートポリス戦に比べてもパワーアップ。GRヤリスの最高出力200kW(272PS)、最大トルク370Nm(37.7kgfm)と同様のパワーとトルクを出すことに成功しているという。また、課題となっていた給水素時間の短縮についても、水素充填口をクルマの両サイドに設けることで高速化。富士スピードウェイで約5分かかっていた給水素時間を、効率化を図ることでオートポリスでは約3分に短縮化。鈴鹿ではそれをデュアルにすることで、約2分に短縮したという。

 使用する褐炭水素については、J-POWER(電源開発)がオーストラリアで運営するプラントで製造。褐炭を産出・加工する際に排出されるCO2については、CCS(CO2 Capture and Storage、CO2回収・貯留)という国際的にも認められている方法で地下に埋め込みカーボンニュートラルとしている(ブルー水素)。今回はその水素をオーストラリアで水素ボンベに詰め、日本では岩谷産業の手によって詰め替えられ、鈴鹿サーキットまで運ばれてきた。2022年においては、川崎重工の世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」で運ばれる水素を使用することになっている。

 さらに今回は国内輸送についても低炭素輸送を実証。オーストラリアから運ばれた褐炭由来の水素と、福島県浪江町(FH2R)で製造されたグリーン水素の2種類を水素エンジン車両に使用しており、オーストラリア産の水素は「Commercial Japan Partnership Technologies」(CJPT)の取り組む小型FCトラックで、FH2Rの水素はトヨタ輸送のバイオ燃料トラックで運んでいる。

 豊田章男社長は、「今回のスーパー耐久で私どもカローラ水素エンジンが3回目の挑戦になります。この水素エンジンでの参戦は、カーボンニュートラル時代において選択肢を広げていくんだということにつきると思います。1戦目の富士は、水素の『つくる』『つかう』『はこぶ』でいうと、使う側の選択肢を広げましょうというトライアルであったと思います。2戦目のオートポリスにおきましては水素を『つくる』ということで、地熱発電による水素を作るというトライアルだったのではないでしょうか」とこれまでの水素カローラによる挑戦を振り返る。

 そして、会見に同席した川崎重工の橋本社長を紹介。川崎重工が作り上げようとしている水素サプライチェーンなど、オーストラリアから水素を運ぶ枠組みや水素に関する事業を紹介した。

 さらに豊田社長は、自分の後方にセットされた会見ボードを紹介。「1回目の記者会見(富士24時間)からずっとご出席の方は感じ取っていただけると思いますが、最初はこのボードに、こんなにたくさんの会社名はございませんでした」と、会見ボードに多くの会社名が書かれていることを指摘。今回は、褐炭を水素にするのにJ-POWER、水素を運ぶトラックにCJPTの協力を得ており、トヨタが水素で目指す仲間作りが広がりを見せていることを示した。

共感がスタートだった、トヨタとの水素に関する取り組み

オートポリスに続きグリーンモンスターカラーのポロシャツで登壇した川崎重工業株式会社 代表取締役 社長執行役員兼CEO 橋本康彦氏。2019年の鈴鹿8耐を制覇したときのように、カワサキスタッフは緑のウェアでバッチリ決めていた

 新たに仲間に加わり記者会見に登壇した川崎重工の橋本社長は、「今回のスーパー耐久レースでは、ルーキーレーシングさまにオーストラリアの褐炭から作られた水素を使っていただけるということで、私ども大変光栄に感じております」とあいさつ。仲間に加わった理由としては、「私どもはトヨタ自動車さまが掲げられております、モータースポーツを通して社会に思いを届けたい、あるいは水素エンジンによるカーボンニュートラルの実現、そういう思いに大変共感し、モータースポーツを通じた安全・安心な社会をともに実現したい」と、仲間に加わった理由として第一に“共感”があるという。

 その上で、「実は2019年に当社グループのサーキット、オートポリスでレースをされたモリゾウ選手こと豊田章男社長さまから、レーサーの目線で安全対策に関するご提案をいただきました。そこには、モータースポーツへの発展の熱い思い、徹底的な安全への配慮、そしてモータースポーツにかかわるすべての人に楽しんでいただきたい、という強い気持ちにバイクメーカーとして大変共感した」と、レーサー目線でサーキットの安全性を評価するモリゾウ選手には、バイクメーカーとして共感したという。

「私どももさまざまな分野の企業がビジョンを強化して、カーボンニュートラルの実現、これに情熱を持って具体的に歩み続ける、そして仲間作りをすることが大変大切だと感じております」と、川崎重工としても水素社会には仲間作りが大切だとする。

 実際、川崎重工は、褐炭から水素を製造するJ-POWERや液体水素の港湾での荷受け作業を行なう岩谷産業らとHySTRAを立ち上げ、水素サプライチェーンの実現に仲間作りから取り組んでいる。

 こうした取り組みを進めている最中にトヨタから水素カローラへの水素供給の話があり、橋本社長は「トヨタ自動車さまの『使われる』という企業サイドのみなさまと、われわれの『つくる』『はこぶ』『ためる』という供給サイドが豊田章男さまのお声がけでつながっていく。こういうことは大変意義があって、水素社会を大きく前に進める原動力になっていると考えます」と、そうした取り組みがつながることの大切さを説明。

「私どもも、モーターサイクルや航空機で水素エンジンを実現しようとしておりますし、発電用のガスタービンで水素燃焼をやっております。水素を使った社会の実現を、ぜひ一緒に目指していきたいと思います」と、橋本社長は語った。

 そして、水素社会の実現については、各企業・団体・政府機関とともに歩んでいきたいと、橋本社長は会見冒頭のあいさつを結んだ。

会見全景。背景ボードに描かれるサポート企業が毎戦増えていく。水素仲間が増えているということ