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パナソニックの新型「ストラーダ」2021年モデル、「HD美次元マップ」の採用や処理速度の大幅向上など性能進化について開発者に聞く

2021年10月14日 発表

ストラーダのこれまでのフローティングモデル変遷。最新の2021年モデルは右上

「カーナビのソフトウェアも新CPUに最適化しました」

 パナソニックは10月14日、新しい2021年モデルとなるAV一体型カーナビステーション「ストラーダ」の10V型有機ELディスプレイ×HDモデル「CN-F1X10BHD」「CN-F1X10HD」、9V型HD液晶モデル「CN-F1D9HD」、7V型ワイド液晶ディスプレイを採用する「CN-HA01WD」「CN-HA01D」「CN-HE01WD」「CN-HE01D」と、全7機種を発表した。

 7機種はすべてHD解像度のディスプレイを持ち、地図を高精細化した「HD美次元マップ」の採用とともに処理速度を大幅に向上させ、スマホライクな操作性で高精細な地図をスムーズにスクロール、拡大縮小、角度調整などを実現している。

 地図の「高精細化」と「高速化」とひと言で言える進化だが、実際にカーナビを使っている場面においては、地図表示や地図の操作、ルート検索の速度は重要で、その動作が速くなるということは大きな価値がある。その差も、デモ機を少し触っただけでも従来製品とは全く別モノに感じられるほどの違いがある。

 その実現には、処理能力を高めたプロセッサをはじめとする「ハードウェア」と「ソフトウェア」を全く新しくする「プラットフォーム」の刷新が行なわれている。

 この新プラットフォームは今回発表の7機種すべてに搭載されており、パネルサイズや仕様の違いはあるものの、新たにHD解像度の液晶を採用した9型、7型でも新しいプラットフォームによる「HD美次元マップ」の採用や動作速度の恩恵は同じ。また、10型は2020年モデルからHD解像度の有機ELパネルを採用しているが、今回の新しいプラットフォームの採用で、HD解像度のパネルに見合った高精細地図や高速動作を得たことになる。

 そこで今回、パナソニック オートモーティブ社 市販・用品ビジネスユニット長 Android商品開発センター副所長の荻島亮一氏および商品企画部商品企画2課 課長の坂本佳隆氏に、今回の2021年モデルの新プラットフォームの採用のほか、2020年モデルから採用の10型の有機EL画面、さらに今後の発展性などを聞いてみた。

新しいCPUを採用し、ソフトウエアすべてをイチから練り直す

──まず、今回の「HD美次元マップ」などを支えるプラットフォームの刷新についてですが、触ってみて、速くなったことに驚きました。

荻島氏:すべてが変わりましたので、私たちもだいぶ違うな、というのを実感しています。

パナソニック株式会社 オートモーティブ社 市販・用品ビジネスユニット長 Android商品開発センター副所長 荻島亮一氏

──とはいえ、言葉で説明すると「動作が速くなりました」のひと言で終わってしまう点もありますが、どのようなプラットフォームに刷新したのか、そして、なぜ今刷新したのでしょうか。

荻島氏:なぜこんなに速くなったかというと、中に入ってるCPUをより高速なものに、スマートフォンにも使っているようなものに変えました。従来のものは安定したものではあるんですが、古いものでしたので、それを新しいチップに載せ替えました。

 カーナビが登場してすでに20年は経つので、ナビ技術も安定してるところではあるのですが、今回、もう一回ナビのソフトウェア、エンジンを含めて、そこをイチから練り直して、新しいCPUに最適化しました。

 プラットフォームの刷新は、ナビの描画量がHD化で4~5倍になるので、そこをストレスなく動かすのを実現するには、新しいプラットフォームにしないとダメだったということです。

 地図は従来と同じゼンリンの地図を使っているのですが、建物の形状やポリゴンもあわせて高精細なものにしています。画素数も大きく変えていますので、さわってもスクロールしてもグリグリ動かせる。さらに、地図の縮尺変更や、角度を倒してみてもひっかかるところがない、というのが大きな特徴です。

 今までのものは、ちょっとしたひっかかりがあり、少しストレスがあるんです。新製品ではそういうことを全く感じさせません。地図もそうですし、ルート検索、施設検索も非常に速い。全てにおいてストレスのない快適度を目指していたのが今回のプラットフォームです。

 画質面では10型はHDのパネルを去年から使っていたのですが、ナビはHDではなかったので、1年遅れになりましたが刷新しました。それ以外にも、AV機能やスマホとの連携機能もあります。久々に、新製品の発表会で「大きく変わりました」といえるものになっています。

クルマへの装着例。クルマはトヨタ「RAV4」

──OSも変わってきているのでしょうか。荻島さんの部署名に「Android」と入っています。

荻島氏:はい、私の部署名はAndroidとなっていますので、私の口からはどんなOSを使っているのか言いづらいんですが……、非公表にしてます。どんなSoC(システムオンチップ)を使っているのかは想像できると思います。

 OSは全く違うものになっています。新型コロナウイルスの影響のあるなかで、開発陣が非常に苦労して仕上げているものになります。可能なところは在宅で行ないましたが、モノは会社にしかないということもありますので、会議は在宅でも、実際の測定は出社するなどして開発しました。

【パナソニック】AV一体型カーナビステーション「ストラーダ」2021年モデルを体感(40秒)

構想は3年前から、今後の拡張性や新しいメディアへの対応を考慮したものに

──新プラットフォームの開発に着手されたのはいつごろでしょうか。

荻島氏:プラットフォームを変えようと着手したのは2年前、地図や液晶が高精細になっていくなかで性能の限界が見えていました。従来のものをチューニングで最適化してなんとかしていましたが、それでは高精細の地図描画というのが難しかったというのがあります。そこで今回は思い切って変えました。開発としては、既存ナビの更新作業などがあるなかで、並行して開発するのが大変でした。

坂本氏:構想からだと3年くらい前からで、実際、開発としてはプラットフォームの部分だったり、実際の商品のカタチを作っていくというのを2年くらい前からやっています。

 大画面になったり、高精細になっていたり、描画性能や基本性能の進化は当然あるのですが、Wi-Fiの採用であったりと今後の機能進化を想像すると、これまでのプラットフォームの限界を2~3年前から感じていたということです。

新CPU採用による高速動作と、演算速度向上による効果
新しい高精細地図は「HD美次元マップ」

──新プラットフォームの採用はだいぶ先を見てのものでしょうか。

荻島氏:先を見ることもありますが、1回作るとそう簡単には変えることはできないので、今後の拡張性や新しいメディアへの対応性を含めて考えています。そうしないと、また、開発の手間がかかってしまいますので、かなり慎重に選びました。

 去年発表できればよかったのですが、コロナで開発効率が下がったというのも若干あります。コロナが原因でこの時期になったというわけではないですが、開発は工夫しないといけない状況でした。今はWebで会議をするなど在宅を活かしたり、今まで出張していたところが出張せずにできるようにもしています。

──Wi-Fiが初めて入りました。次はここを発展させていくのでしょうか。

坂本氏:まだどうしようかという段階です。以前は音声認識はスマートフォンアプリの連携で使っていましたが、今回はアプリを車載器側に取り込み、スマホはテザリングで通信機として使うようにしました。そういったカタチを想定していくと、次は地図更新や、地図だけでなく、なんらかの交通情報などのコンテンツの拡張があり得るんじゃないでしょうか。

 ただ、全部取り込めばいいかというとそうでもなく、車載器の交通情報なら今はVICSで得られる情報で十分足りているわけです。提供価値とのバランスをとりながら、やっていきたいと思います。

荻島氏:Wi-Fiは通信速度が上がりますので、Bluetoothに比べたらできることは格段に広がります。仕組みは乗った、ということなので、今後はどんなサービスをするのか、より機能が付加できるのかなと考えていますので、ご期待ください。

パナソニック株式会社 オートモーティブ社 商品企画部商品企画2課 課長 坂本佳隆氏

2020年モデルから採用の有機ELは順調な滑り出し、2021年モデルは同じスペック品を採用

──2020年にはじめて有機ELパネルを採用して1年経ちましたが、これまでの手応えはいかがでしょうか。

荻島氏:有機ELのデバイス自体に関しては特に大きなトラブルはなく、品質を保っていると考えています。車載向けは初めて出したということもありますが、家庭向けではたくさん出している弊社のテレビ部門と話をする中で、注意すべきところは注意していましたので大丈夫です。

 今年のモデルの有機ELパネルのスペック自体は、去年と同じものになります。10インチは完成度が高いかなと思っていますので、あとは具体的な計画はないのですが、ほかのサイズに展開するのかというのも含めて、デバイスメーカーとは考えています。

2020年の10型から採用を開始したHD有機ELパネル
メニューデザインも含めて、内部ソフトウェアも一新している。新モデルは右

──9型や7型の有機ELを期待してもいいでしょうか。

荻島氏:コストの問題もあります。想定売価を見ていただくと7型(想定販売価格8~9万円前後)や9型(同14万円前後)は、10型(20万円~22万円前後)と大きな開きがあり、その中で有機ELパネルは、コスト的に部材の中で占めるウエイトがかなりあります。そのまま7型などに持っていくと値段が変わってしまうこともあり、価格を含めて検討するところかなと思っています。

 ただし、今回は液晶でも高精細化を実現しました。7インチでもHD解像度の液晶だと見栄えは違って見えると言われています。

──7型から10型まで、プラットフォームや操作性などは同じということでいいでしょうか。7型は2本指の操作性が少し違うような気がしました。

坂本氏:7型でも使い方としては10型で採用したもの全部できるのですが、10型や9型の静電容量式に対して、7型は抵抗膜式なので、2点タッチは少し強く押すように操作します。爪などでやるとうまくいきます。

 また、HD化する中で7型もHDになりました。有機ELではないですが、液晶でも視野角などのスペックが向上しています。

7型の新旧比較。上が2021年モデルで、液晶のままだが解像度を高めた別パネルを採用している
フローティングの9型の新旧比較。7型と同様に液晶のまま解像度を上げている

パナソニック、高速CPUと解像度2.4倍の地図でフルモデルチェンジした新型「ストラーダ」2021年モデル 大画面10V型など全モデル「HD美次元マップ」採用

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1357685.html

スマホやタブレットのような操作性を実現したが、カーナビ“らしさ”は提供していく

──フローティング構造ですが、1DINを採用するなど形状の変化があると取り付けられる車種も増えるのではないでしょうか。

荻島氏:光学ドライブのデッキがあってナビもあると、どうしても2DINサイズになってしまいます。デッキがない1DINという需要があれば作るかもしれません。今は2DINの需要が多くあります。

 以前は画面だけを載せ、本体は別に搭載する「オンダッシュ」というタイプがあり、DIN開口のない輸入車など、そういう需要もあるかもしれませんが、需要の数という面ではあまり多くないのかなと思っています。

 ただし、今後はクルマ側の開口サイズが変わっていくこともあります。DINサイズが前提ではなくなってくるかもしれません。今はDINのないクルマは少ないですが、今後増えてくると考えると、いろんな載せ方があっていいのかなと考えています。クルマの搭載制限を考慮しながら、車載器らしいというところを守って製品を作っていきたいと思います。

坂本氏:車載器として提供している商品は、過酷な環境下で搭載し続けるなど、車載器たる品質などを保証しています。クルマ側の取り付けや、状態が変わっていくところを踏まえたときには、車載器らしさみたいなところを提供するというのは1つの強みだと考えています。

 ここで言う車載器らしさとは、全部がスマホやタブレットみたいに使えたとして、果たしてクルマの運転中に便利なのか? という問題があります。便利なところはあるが、ドライバーからは使いづらいこともある。クルマに乗っていると、スマホとは違う、クルマならではの使い方があるはずなので、そこは守っていきたいところです。

スマホのようにメニューバーを画面の上側に変更したり、スマホのような操作を実現する一方で、操作ボタンを画面に配置するなどカーナビ“らしい”操作性は維持している

音質面での進化もあり! 音響専用パーツを新たに採用

──今回、HD地図など動作速度などが前面に出ていますが、音質という点で変わったところはどのようなところでしょうか。

坂本氏:ベースの回路、部品、見直しを毎年行なっていまして、今年も車載での音響専用部品を新たに使っています。オペアンプ、DSP、フィルムコンデンサーなどです。

高音質化も実施している

──音質への要望もあるのでしょうか。

坂本氏:音を聞くシーンが減ってるなか、クルマは音に集中できる空間で、音楽を聞くことが多い場所だと思っています。上位モデルを購入される方ほど画質にもこだわるし、音質もこだわる。そこで、上位モデルにはふさわしいパーツを採用していくことになります。

高音質オペアンプは写真のとおり「MUSES8820」を新たに搭載している

 そして、採用している「音の匠」とは、私たちが考えるいい音を簡単に聞いていただける環境を提供するというコンセプトです。原音に近い「匠」マスターサウンドと、従来の会話重視の「和」に加えて「極」は去年は高音強調でしたが、今年は音の広がりとか、変化点を分かりやすく感じていただくために「サラウンド」仕様にしました。

 パナソニックのホーム製品で使われている要素を取り込んで、サラウンド機能、その上で「ミキサーズラボ」のチューニングをもう一段回加えての音作りにしています。

D/Aコンバーターは「BB」印でおなじみのバー・ブラウンのもの

荻島氏:画面がきれいということを強調していますが、今は家庭などで大きな音で聞くというのが難しいですし、そういう意味では、クルマの中が音量を上げていい音を聞けるという貴重な空間になるのではないかと思います。普段はBluetoothイヤホンでしか聞いてない人もいるなかで、クルマの中の音質はまだまだ求められています。

 クルマのスピーカーはノーマルの純正スピーカーでもイコライジングの少しの調整で、ちょっとしたことでも変わるなということを体感しておりまして、ノーマルスピーカーの性能を引き出し尽くすという感じで、ミキサーズラボさんとチューニングをしています。もちろん、ハイレゾにするにはツィーターも変える必要があるかもしれません。

「音の匠」として3つのチューニングを採用。2021年モデルの「極」はサラウンド

2021年のモデルの進化はあまりにも大きい

──2020年、コロナの影響でカーナビの販売が落ち込みましたが、今回の新製品でそれを取り戻せる進化を果たしています。

荻島氏:今、ボトルネックになっているのは部材のほうです。そこがなければ、今回の大きな進歩で、需要に関しては取り戻せるのかなと思います。

 ただし、部材は努力でなんとかなりますが、外部環境に依存するところはなるべく影響を少なくするようにしています。(減産が予想される)新車販売に連動するところは引き続き、注視していきたいです。既販車(すでに持っている車で、カーナビの買い替えなどを示す)に関しては、2021年モデルのストラーダは買い替えをしたいなというものになっています。

──さて、今回、速度や画面など大きく進化しました。毎年モデルを発表していますが、次はどうなりますでしょうか。

荻島氏:今年の進化があまりにも大きいということもありますが、来年もご期待に添えるものを発表したいと思っています。

──ありがとうございました。