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台湾貿易センター、台湾のEV産業の今とODM企業ウィストロンの世界EV市場における展望
2021年11月2日 05:00
- 2021年10月18日 実施
コロナ禍でも経済をしっかりと成長させていた台湾
日本と台湾間の貿易拡大および経済協力の促進と、両国における経済・社会のさらなる発展を目指すため、1972年に設立された「台湾貿易センター(TAITRA)」は、日本でいう日本貿易振興機構(JETRO)に相当する組織。その台湾貿易センターが10月18日に、国内企業や自動車メディアを対象に「台湾EV産業最新動向」のほか、スマートフォンやPCの部品製造で急成長を遂げている台湾企業ウィストロンの「台湾の世界EV市場参入における商機と展望」を紹介するセミナーを開催した。
まず台湾貿易センター東京事務所の陳英顕所長が登壇し、「コロナ禍のためオンラインのイベントは何度かやってきたが、多数の企業から顔を会わせてのリアルイベントも開催してほしいとの要望があり、今回のセミナーを発案した。しかし、まだ安全できる状況ではないため少人数での開催となった。また、カーボンニュートラルの実現のためにEV産業は外せないジャンルであると同時に、台湾企業にとって大きなチャンスだと感じている。まだまだ日本の自動車メーカーとの関わりは少ないが、多数の自動車メーカーにサプライチェーンとして製品を収めている企業が多くあり、台湾の企業が参加するEVのBtoBイベント「E-MOBILITY TIWAN」も開催され、さまざまな最新情報が集まっているのでぜひ1度見てほしい」とあいさつした。
なお、このE-MOBILITY TIWANは、11月20日まで特設サイトがオープンされていて、動画などを無料で視聴することが可能となっている。
続いて、台湾のEV産業に関する最新動向が、同じく陳所長より紹介された。陳所長はまず、この日の午前中に台湾を代表する企業の1社である鴻海(ほんはい)が、自動車2種、バス1種の計3種類のEVを発表したことを紹介。これは鴻海が2020年にオープンプラットフォームを発表して、世界中の企業に対しこのプラットフォームの活用を呼び掛けていたことに対する成果の発表だったと解説。鴻海は決してクルマ自体を販売するのではなく、あくまでサプライチェーンに徹して、自動車の販売はパートナーの自動車メーカーに任せるスタンスだという。これまで台湾は携帯電話やPCなどの産業で発展してきたが、今はEVや医療分野もどんどん拡大していると説明した。
また、台湾の経済成長率についても言及。2021年1月~6月は8.3%の成長で、過去20年でもっとも成長しているとアピール。しかも、コロナ禍であった2020年度も3.1%と、世界中が落ち込んでいる時期でも成長していたとし、とても勢いがあるアピールとした。ジャンル別では、電子部品(半導体)が29%、金属が41%、プラスチックが44%、その他ケミカルが41%、石油関連が47%など多くの分野がしっかりと成長していると紹介した。
本題のEVについては、2016年から右肩上がりで世界での販売台数が伸びていることに触れ、今後も毎年50%ぐらいの成長率があると見ているという。また、世界中がカーボンニュートラルに向けてガソリン車の販売禁止時期の目標を掲げているが、台湾は2035年までに二輪車、2040年までに四輪車の販売を禁止すると定められていると説明。「世界的に見て、この『2035年』が自動車産業にとっての大きな転換期になる」と陳所長は語った。
EVの市場規模については、2020年の全販売台数約324万台のうち、日本は約3万台と依然として低く、トップは133万台を超える中国、続いてドイツ、アメリカ、フランス、イギリスと続き、このトップ5で全体の75%を占めているという。また、どの国も政府の支援があり、自国の自動車メーカーをサポートしていると説明した。
現状ではテスラがEV業界の先頭を走っている認識だが、今後は世界各国のスタートアップ企業やアップルなどICT(情報通信技術)大手企業も参入し、現状の自動車メーカーと多様な発展を遂げていくだろうと予測。陳所長は「サプライチェーンの仕組みにも変化が訪れ始めていて、昔ながらの自動車メーカーを頂点にした、ティア1、ティア2、ティア3といったピラミッド的モデルから、現テスラのように技術は自社で把握しつつ、部品をオープンに買い付けられるような仕組みも出てきている。これは携帯電話のサプライチェーン構造に近く、よりスピーディに物事が進められるため、今後も増えるだろう」と話した。
続けて台湾国内の自動車産業の現状については、島国のため完成車の販売は横ばいで、部品の販売も2020年はコロナの影響で下落。しかし車載用電子部品については車両の電子化により急成長を遂げていて、2020年は2590億NTドルの生産高を記録。「とても強みのある分野で今後の成長が期待できる」と陳所長は語る。今後は周辺探知や自動ブレーキ、車線維持といったセキュリティシステムや、モーターなどの電動化システムが伸びていくと予測しているという。さらに、カーナビのGARMIN、タイヤ空気圧センサー、カーテン、ダイオードなど、世界規模で大きなシェアを獲得している企業がすでに多数あることも紹介した。
加えて、ここ数年はIT企業がEV産業へ新規参入を果たすだけでなく、すぐに黒字化させている企業が多いという。これまで台湾はエンジン(内燃機関)は製造してこなかったが、モーターの製造は積極的に行ない、すでに大型バスや商用車の製造を始めているという。テスラに関しては約30社の台湾企業が部品を納めていて、今後は先進安全(ADAS)の分野にも注力。2025年には5000億~6000億NTドル規模になると予想されるとしている。
スマホ、PCでの知見を活かしEV産業で飛躍しているウィストロン
続いて同セミナーに参加していたウィストロンの代表取締役社長 郭子杰(アンディ・コウ)氏が登壇。ウィストロンという名称を聞いてもピンとこない人もいるかもしれないが、前身はAcerコンピュータという会社で、台湾初のパソコンのブランド「Acer(エイサー)」を立ち上げた企業。そのAcerコンピュータから2001年に設計・製造・サービス部門が独立してウィストロンを立ち上げたという。そして、わずか2年で台湾市場で上場を成し得ている。現在は25か国に拠点を持ち、約8万人の従業員を抱え、2020年の売上は約3兆円にもなる大企業。「世に出回っている携帯(スマホ)やパソコンの中に、かなり高い確率でウィストロンの製品が使われている」とアンディ氏はコメント。
現在ウィストロンの主力事業は「ウィストロン テクノロジ」「ウィストロン スマートデバイス」の2つに分けられ、PCやサーバーなどグローバルに支えるサービスに加え、スマホやキーボード、クラウドサービス、自動車の車載システムなどが挙げられる。拠点は台湾、中国を軸にアメリカ、メキシコ、ブラジル、インド、ベトナム、チェコ、トルコなどに加え、日本では千葉県(習志野市)に構えている。また、車載関連部品は主にアジアで手掛けているという。
車載関連事業の詳細については、ウィストロン 日本車載事業推進室CTO(最高技術責任者)の斎藤栄氏が解説。斎藤氏は日本企業の技術系出身で、今はウィストロンの車載パーツを日本の自動車メーカーなどにつなぐパイプ役として動いているという。
ウィストロンは、これまでPCで培ってきた技術を応用して車載事業を展開中。とはいえ、歴史は浅く2010年にパイオニアやクラリオンのカーナビやディスプレイオーディオからスタートし、その後はカメラで撮影した映像をモニターなどに映しだす商品に加え、通信モジュールなどへ拡大。現在はADAS関連、ECUなどさらに幅広く手掛けている。特に液晶ディスプレイを得意分野としていて、2021年7月にはJDI(ジャパンディスプレイ)の車載ディスプレイのモジュール製造会社であったKOE(Kaohsiung Opto Electronic)を譲り受け、これによりディスプレイ製造の全工程を自社でまかなえるようになった。
また、2017年からは中国の自動車メーカーにティア1というスタンスで、T-Box(テレマティクスボックス)やADAS関連ユニットなど、自動車の核となる部品の供給も開始しているといい、レベル2の自動運転に使用するようなパーツや、AI音声アシスタント・ロボットなども供給しているという。
ドメイン型コントローラーに使用するプラットフォームに関しては、これまでスマホやPCで培ってきた実績のあるNVIDIAの「Drive CX2」、KTMの「MT2712」、Qualcommの「SA8155P」などをメインに使用してきたが、今後は安価で機能が満載という点でNXPの「i.MX8QM」での開発を進めていくという。製造は主に中国(昆山)の工場で行なっているが、中国よりも労務費が3分の1で済むことや、市場としても魅力があることから、現在はインドの工場の拡張を行なっている。
さらに、ウィストロンでは台湾政府と共同でITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)の実証実験にも取り組んでいて、すでに台中市ではイベントに合わせて無人の自動運転バスを走らせた実績を持つ。それに加え、セルラーV2X(C-V2X:Cellular Vehicle to Everything)ネットワークシステムも構築して、定められたフィールド内で乗り物とインフラをリンクさせるテストも開始。携帯の通信網であるLte(Long Term Evolution)をはじめ2021年8月には5G回線での実験もスタートさせたという。今後はバスの自動運転だけにとどまらず、次世代交通システムとして台中市全体を管理する構想も動き出しているといい、斎藤氏は「これらの取り組みのために中華通信(Chunghwa Telecom)と5Gクラウド業界における合弁会社の設立も決まっている」と明かす。その他にも国立交通大学の教授を迎え入れ、認識関係のAIの開発も始めているという。
また、台湾ならではの事例として、大量のバイクと自転車を避けて自動運転を成立させるための開発に注力していて、ディープラーニングなどを活用しながら開発を行なっているという。台湾のようなバイクと自転車の多い地域での開発が成功すれば、日本などでは簡単に実装できると予測している。また、自動車が搭載しているカメラの認識力の活用として、路面の穴や段差といった傷んだ箇所をAIが正確に把握して、日本でいう国土交通省のような部門に連携して道路の素早い補修にも役立てているという。
このように、鴻海をはじめウィストロンなど、台湾のIT企業が続々とODM(Original Design Manufacturing)としてEV産業への参画が加速している。もちろんこれは台湾の企業に限った話ではないが、自動車メーカーはプラットフォームの共通化による製造コストの削減をはじめ、カーボンニュートラルの実現や安定的な生産能力の確保も求められながら、オリジナリティも出さなくてはいけないという、新たな競争力が求められる時代が始まっている。