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オールシーズンタイヤの乗り味とは? TOYO TIRESの「セルシアス」を実走とドライブシミュレーターで初体感してみた

TOYO TIRESのオールシーズンタイヤ「セルシアス」を装着したデモカー「RAV4」に試乗

乗り心地は夏タイヤと同じと言っても過言ではない

 TOYO TIREによると、ここ数年は冬季シーズンを迎えても降雪のあまりない都市圏では、スタッドレスタイヤへの履き替えを躊躇する傾向があるものの、異常気象から突然の大雪に見舞われる機会も増えていることから、夏タイヤでありながら雪道も安全に走行できる性能を一定程度担保された新しいタイヤカテゴリ「オールシーズンタイヤ」が注目されているという。

 しかし、その乗り味がどんなものなのか? まだ広く知れ渡っていないため、TOYO TIREでは多くの人に体感してもらえるように、独自開発したシミュレーターにオールシーズンタイヤを体感できるプログラムを新たに開発。

 今回はひと足先にジャーナリストやメディア向けに、雪道で冬タイヤ性能を確保するオールシーズンタイヤが、通常路面ではどのような履き心地、乗り心地、性能を発揮するのかを実際に体感できる企画を用意したというので、会場であるイオンモールつくばへ行った。

 まずは、TOYO TIRE 技術開発本部の奈須祐二氏がステアリングを握るデモカー「RAV4」に同乗。実際にオールシーズンタイヤ「セルシアス」を装着している。コースはイオンモールつくばの周辺の一般道で、約15分くらいのルート。実は筆者、恥ずかしながらオールシーズンタイヤに乗るのは初めてのこと。駐車場内を動き出してまず感じた印象は「超静か」。もちろん、駐車場内で路面が整っているからとも思ったけれど、一般道に出ても感想は同じ。ちょうど家のクルマは夏タイヤを履いているし、よく取材の足に使っている実家のクルマはスタッドレスタイヤを履いていることもあり、とても比較しやすかった。

TOYO TIRESのオールシーズンタイヤ「セルシアス」

 正直「今履いているのはオールシーズンタイヤですよ」と言われなければ夏タイヤだと思ってしまうほど静かなので、開発に携わる奈須氏に聞いてみると、「人間が不快に感じる100Hz~250Hzに関しては、かなり静かに仕上がっている」とのこと。ノイズにはタイヤのパターンから発生するパターンノイズと、振動に起因して発生するロードノイズがあり、セルシアスは左右非対称パターンを採用しているため、割と音を分散させやすくパターンノイズを低減できるという。さらに、ロードノイズに関しては構造のほうで低減させると、ダブルでノイズを抑え込んでいるという。

TOYO TIRE株式会社 技術開発本部 タイヤ評価開発部 タイヤ試験場 奈須祐二氏による解説付きの同乗体感走行となった

 奈須氏が言うには「パターンノイズ的には高周波と言われる500Hz以上も計測で低い数値だった」とのこと。また、セルシアスではサイプを少なくすることで、ブレーキをかけた制動時のノイズも低減させているという。さらに、ひび割れている路面を通過しても、路面の荒れている感触は感じるものの、ノイズとしてはほとんど感じなかった。

 大きな段差などを通過した際に受ける大入力も、スタッドレスタイヤのようにボディの揺れが残ることはなく、やはり夏タイヤに近い乗り心地。長い直線での車線変更も、静粛性と同じく言われなければ夏タイヤかと思うほどスムーズでロールなく安心感があった。奈須氏はタイヤの開発にあたり、「極限の性能領域ももちろんしっかり作り込んではいますが、大勢のユーザーが普段使う領域を一番大事なところとして開発している」という。また、ハイブリッド車やBEV(電気自動車)など、クルマ自体がどんどん静かになっている点にも触れ「タイヤのノイズ低減開発もとても大変になっている」と教えてくれた。

セルシアスのパターン図説

ドライブシミュレーターでもオールシーズンタイヤを体感

 さて、続いてはドライブシミュレーターを使っての体感。TOYO TIREは2019年のタイヤ安全啓発活動から、独自にソフト開発したドライブシミュレーターを導入していて、タイヤ空気圧の違いによる操縦安定性の比較や、水のたまった道路を走行する際にタイヤと路面の間に水が入り込み、タイヤが水の上を滑走することでハンドル操作やブレーキが利かなくなるハイドロプレーニング現象が発生した際の走行など、普段は想定をしていないシチュエーションを疑似体験させることで、タイヤの適正な取扱いに関心を持ってもらうよう啓発を行なっている。この日も「ドライブシミュレーター無料体験イベント」を実施していた。

 ドライブシミュレーターは本格的なもので、アクセルペダルやブレーキペダルの踏み込みや、ハンドル操作で運転席から見える景色や揺れを連動させて再現する揺動機構を搭載。今回新たに「夏タイヤ」「オールシーズンタイヤ」「スタッドレスタイヤ」の3種類の違いを体感できるプログラムを開発。この開発には先程デモカーをドライブした評価開発部の奈須氏も関わっているという。

TOYO TIREオリジナルのドライブシミュレーター
ステアリングにはボタンがたくさん付いているが今回は使用せず
ペダルはアクセルとブレーキの2つ
背面にあるダンパーによってステアリングを切ったときに姿勢変化などを再現している

 体感ステージは「雪上での制動距離の違い」「雪上での旋回性能の違い」「圧雪路における走行性能の違い」の3つ。それぞれのステージで「夏タイヤ」「オールシーズンタイヤ」「スタッドレスタイヤ」で順に走行する。まずステージ1の急制動。ちゃんと加速できるようにストレートは雪のない路面にしてあるという(本当に設定が細かい!)。アクセル全開(約60km/h)でブレーキポイントまで進み、同じ場所でブレーキを踏めるように隣にいるスタッフさんが「踏んでください」と言ってくれるので、いっきにブレーキ! ABSが作動している感じも伝わってくるのが驚き。夏タイヤは本当にまったく止まらない。「あらま~」と思っていると、やっとのことでストップ。続いてオールシーズンタイヤは、ブレーキング開始時からタイヤが雪をつかんでいるからか、夏タイヤよりかなり手前で停止できた。最後はスタッドレスタイヤ。さすがによく止まる。感覚的にはオールシーズンタイヤより車体半分~1台分くらい?

ステージ1は急制動。60km/hからのフルブレーキングで停止までの距離の違いを体験

 続いてステージ2は旋回性能。真っ直ぐ走って左に曲がるだけの「Jターン」レイアウト。初めてなのでそれほどスピードは出していないつもりだったけれど、夏タイヤでは舵がまったく効かずあれよあれよと外側に膨らみコースをはみ出して壁に衝突……。実車だったら笑えない完全な事故。シミュレーターでよかったです。オールシーズンタイヤでは、きちんと舵が効く! 多少外側に膨らんではしまうものの、ちゃんと曲がれました。スタッドレスタイヤでは、ほとんど外側に膨らむことなく曲がれました。わずか30km/h~35km/h程度でも雪道は油断できませんね。

 最後のステージ3は、一般道を模したカーブの多い山道を上っていくコース。アクセルを踏み込んで坂道を上っていきますが。夏タイヤは舵が効かないだけでなく、アクセルを踏み過ぎるとタイヤが空転する様子までも再現。結果、2つ目のカーブであえなくガードレールに接触。オールシーズンタイヤではステージ2でやったJターンと同様にスピードが出過ぎているとセンターラインを超えてしまいますが、少し減速してあげればきちんと曲がれました。スタッドレスタイヤは狙ったラインをしっかり走れて、やはりスキー場などへ行くならスタッドレスタイヤが無難だと再確認。また、ステージ3では雪道での坂道発進もメニューに盛り込まれていて、最後に体験できるのですが、夏タイヤはいきなり空転してしまい、前に進むどころかタイヤが空転しているせいでゆっくりと横方向に流れてしまいます。オールシーズンタイヤも一瞬空転しそうになりましたが、ていねいにアクセルを踏めば少しずつ上り始めました。スタッドレスタイヤは最初から普通にスタートでき、雪道での安心感はとても高かったです。

ステージ2はパイロンに沿って左コーナーを走り、旋回性能の違いを体感
ステージ3は一般道を模したコースで雪上ドライブと坂道発進で違いを体験

 という感じで、実際にデモカー同乗とシミュレーターで、オールシーズンタイヤを初体験してきました。普段街乗りしかせず、年に1~2回しかスタッドレスタイヤの出番がない場合は、履き替えや保管場所などもトータルで考えると、オールシーズンタイヤという選択肢もありかもしれませんね。

 さて、最後にこの日同じ場所で行なわれていた「ドライブシミュレーター無料体験イベント」にも参加させてもらいました。ここではオールシーズンタイヤの違いを体感するのではなく、タイヤの溝の深さや空気圧の違いによる挙動の違いを体感するプログラム。ステージ1では溝が約半分ほど摩耗したタイヤと、新品タイヤで雨の日の制動距離の違いを体感。溝の有無で止まるまでの距離がぜんぜん違う。

 ステージ2ではタイヤの空気圧が低い状態と正常な状態でのスラロームで、操縦安定性の違いを確認。自転車のタイヤの空気が抜けていると漕ぐのが重たくなるのと同じで、自動車のタイヤの空気も抜けていればステアリングは重くなるし、曲がるときもタイヤがよじれるので曲がり難い! 空気圧の大切さは自動車も自転車も同じです。

 ステージ3は摩耗したタイヤと正常なタイヤでハイドロプレーニング現象の体験。溝が少ないと直ぐにクルマは浮いた状態になり、ステアリングが効かなくなります。雨水を排水するための溝ですから、溝が深いほどハイドロプレーニング現象は発生しにくくなると体感できました。毎日乗る前のタイヤの溝は確認しないといけませんね。

 最後のステージ4は、摩耗したタイヤと新品タイヤで雨の峠道でのコーナリングの違いを体験。摩耗したタイヤだと、グリップしないし、止まらないし、危険すぎることを実感。しかも、最後にバーストしてもっと操舵が効かなくなることも再現。実車だったら大事故です。

 この「ドライブシミュレーター無料体験イベント」は年内は終わってしまいましたが、2022年も開催するとのことなので、みなさんもぜひ参加してみてください。

ステージ1は急制動。摩耗したタイヤだと止まるまでに距離が必要になります!
ステージ2はスラローム。空気圧が低いとステアリングは重いし、クルマは曲がらないし危険!
ステージ3はハイドロプレーニング現象の体感。タイヤが浮いた状態になりハンドル操作が効きません!
右前のタイヤがバースト! ステアリングの反応は鈍くなりあわや壁に激突寸前。貴重な経験でした
オールシーズンタイヤ初体験でしたが、家のクルマも次はオールシーズンタイヤもありと思った次第です