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世界に500台だけのアルファ ロメオ「ジュリア GTA/GTAm」について、開発責任者に聞く
2021年12月3日 16:55
- 2021年12月1日 開催
アルファ ロメオ(FCAジャパン)は12月1日、高性能スポーツサルーン「ジュリア クアドリフォリオ」をベースにさらなる高性能化を図った限定車「ジュリア GTA」「ジュリア GTAm」の開発責任者に報道関係者がインタビューするオンラインラウンドテーブルを開催した。
ジュリア GTAとジュリア GTAmは4月26日~5月9日の2週間限定で受注生産を受け付けたモデルで、価格はジュリア GTAが2064万円、ジュリア GTAmが2198万円。世界限定500台が用意され、日本からの発注は世界で最も多い84台になったという。
両モデルは1965年に発表され、エンジンの出力と大幅な軽量化によって世界各地のレースイベントで数多くの勝利を手にした「ジュリア スプリント GTA」をモチーフとして採用。GTAのAは「アレッジェリータ」(イタリア語で軽量化)意味を意味しており、両モデルでもボンネットやルーフをカーボンファイバー製にしたほか、フロントバンパー、フロントフェンダー、ルーフ、リアディフューザーにもカーボンを使用。さらにGTAmではドアウィンドウとリアウィンドウをガラスからポリカーボネート樹脂素材に変更して大幅な軽量化を実現しており、ベース車からGTAで約50kg、GTAmで約100kgの軽量化を果たしている。
さらに外観では、ザウバーが開発した「ザウバーエアロキット」を装備してエアロダイナミクスを最適化。足まわりにも専用のスプリングやショックアブソーバー、ブッシュ類を採用して車高を下げ、前後のトレッド幅を50mm拡幅して高速走行時の車両安定性を高めている。
このほか両モデルの詳細は関連記事「アルファ ロメオ、『ジュリア GTA/GTAm』2週間限定の軽量&ハイパワーな受注生産モデル」を参照していただきたい。
イタリアにあるアルファ ロメオのオフィスと参加者をオンラインでつないで行なわれたラウンドテーブルには、アルファ ロメオのプロダクト総責任者を務めるダニエル・グッザファーメ氏、アルファ ロメオのハイパフォーマンスモデルの総責任者を務めるドメニコ・バニャスコ氏の2人が回答者として参加。参加した報道関係者が事前に送った質問内容の代読は現地のグローバル広報マネジャー マルコ・ポンティーダ氏が担当している。
フロア下の整流にF1由来のエアロダイナミクスを採用
――今回のGTA/GTAmで設定した開発目標はどんなものでしたか?
グッザファーメ氏:今回のモデルは1965年型の“オリジナルGTA”のトリビュートカーになっています。そこで、できる限りオリジナルGTAのコンセプトを忠実に再現するような形で開発したというのが第1です。まずは軽量化、2つめにエンジンやドライビングの性能、そして空力性能ですね。
――エクステリアデザインやエアロダイナミクスの詳細について教えてください。機能性とフォルムをどのようなバランスにしているのでしょうか。
バニャスコ氏:GTA/GTAmのどちらもテクノロジーとスタイリングを融合させたクルマになっています。まずはフロントからですが、アルファ ロメオのシンボルとなるグリルやエアインテークが強調されるスタイリングになっており、以前のモデルである「75」からもインスピレーションを受けたスタイリングになっています。リアウイングは優れたエアロダイナミクスを発揮して、1970年代の「ジュリア」をイメージしたデザインです。
――ザウバーエンジニアリングからエアロダイナミクスの開発で専門的なアドバイスを受けたと聞いています。具体的にはどのようなアドバイスがあったのでしょうか。
バニャスコ氏:やはりエクステリアデザインではF1の影響を大きく受けており、これによって優れた空力性能を発揮しています。いくつかの例を挙げると、フロントにあるエアロウィングレットやサイドフリック、さらにリアにある角度の調整可能なウイングなどです。すべてF1で実際に導入されている技術になります。
そしてクルマのサイド部分で空気を整流することも非常に効果的ですが、F1では車両のフロア下を流れる空気を整流することが重要視されています。そこでアンダーボディエアロフィンを導入して、リアデフを効果的に冷却できるように空気の整流を行なっています。さらにリアウイングは4つのポジションで調節可能としており、フロントアクティブスプリッターは前後2つの位置に調節して長さを変更でき、F1同様に非常に優れた空力性能を発揮できるようにしています。
――空力性能で設計を行なう際の目標、ダウンフォースやドラッグなどの関係などを教えてください。
バニャスコ氏:なるべく空気を整流して、タービュランスが起こさないようにすることが重要なポイントです。リアも同じく重要で、ベース車(ジュリア クアドリフォリオ)と比較して、GTAに関してはドラッグが1.5倍、GTAmでは約3.0倍になっています。
――F1ドライバー(キミ・ライコネン選手)からのフィードバックは有効的に利用されていますか? 具体例はありますか?
バニャスコ氏:まず、F1ドライバーからのフィードバックは非常に参考になりました。とくにエアロダイナミクスの関するところで効果的な指摘を受けていて、車両後方で空気の流れを整流することがまずは重要なポイント。そしてF1同様にアンダーフロアにフィンを設置して、空気を整流することが重要だと分かりました。
ザウバーからアドバイスを受けて設計を行なった例になるのは、リアウイングを調節可能にした部分が挙げられます。イタリアにあるモンツァのような高速サーキットではそれほどダウンフォースを必要としないので、リアウイングは低い位置に設定して後輪のグリップ力を駆動力としてしっかりと加速に使うことができます。
また、ワインディングが多いモンテカルロのようなトラックではダウンフォースが求められるので、フロントスプリッターを前方に展開し、リアウイングも最大の角度を付けて十分なダウンフォースを得ることができます。これによってモンテカルロでも最適な設定になるのです。
電動化はアルファ ロメオの高性能モデルにもメリットがある
――2025年までにアルファ ロメオでも全車種で電動化した派生モデルを出すと明言されていますが、GTA/GTAmのような高性能モデルは今後どのようになるのでしょうか。
グッザファーメ氏:GTA/GTAmのような頂点に位置する高性能モデルは今後も必ずアルファ ロメオの中心的な存在になります。今後の電動化が進むことは間違いありませんが、それに加えて高性能モデルでは電動化のメリットがあると考えています。1つは軽量化できるからです。電動化は高性能モデルなどでもアルファ ロメオが大切にしてきたスピリットに忠実に展開していけるので、電動化も問題なく進めていけると考えています。
――GTA/GTAmはサーキット走行用にチューニングされているのですか? また、ベース車から具体的にどのような点が変更されているのでしょうか。
バニャスコ氏:まずはサスペンションのセッティングですが、もちろんベース車でも非常に優れていましたが、GTA/GTAmでは軽量化されたスプリングを組み合わせ、特定のチューニングを施した電子制御式のアクティブサスペンションを採用しています。
フロントとリアのトレッド幅が広がっていることもポイントで、これに合わせてショックアブソーバーやステアリングなどを新たにキャリブレーションしてます。トルクベクタリングとリアデフも専用チューニングです。また、GTA/GTAmでは4種類の走行モードを用意しており、「ノーマル」「ハイエフィシエンシー」「ダイナミック」「レース」というモードが提供されます。
路面とのコンタクトも大切な部分で、このクルマは世界でも唯一のシングルナットホイールを採用したセダンとなっています。最先端のロッキングシステムを採用した新しい20インチホイールは軽量化されたもので、タイヤはミシュランと共同開発した「パイロット スポーツ カップ 2 コネクト」を採用しています。
チャートにもあるように、ベース車と比較してラップタイム、前後左右のGなどすべてにおいて優れていることがダイアグラムで示されています。ラップタイムの詳細では、すべてのアルファ ロメオモデルのテストを行なっているバロッコで、GTA/GTAmはベース車よりもかなり速いラップタイムだと分かります。それ以外でも、ナルド・サーキットで優れたラップタイムを記録しています。
――搭載しているV型6気筒 2.9リッターツインターボエンジンは、ベース車と同じくフェラーリのマラネロ工場で生産されていると聞きましたが、生産工程などに違いはあるのでしょうか?
グッザファーメ氏:まず、ベース車のクアドリフォリオもスタンダードモデルということではなく、世界的に見ても最も優れたセダンの1台だとわれわれは確信しています。しかし、エンジンについてはベース車も、そしてGTA/GTAmもマラネロ工場で製作しているわけではありません。マラネロ工場のエンジニアから助けを受けていますが、エンジンの生産は行なっていません。
エンジンの製作工程ですが、GTA/GTAmは500台限定のモデルということで、1基ずつフェラーリのエンジニアによって検定されています。フェラーリの車両に搭載されるエンジン同様に非常に特殊なスペシャルなエンジンとして、すべて最終的に検定されているのです。
軽量化に加えて前後重量配分をほぼ完全な50:50に
――開発では軽量化の目標が設定されていたのでしょうか? 目標があったなら、ベース車と比較してどれだけの軽量化を目指していたのでしょうか。
グッザファーメ氏:まず、ベース車からの軽量化は当初から目標としていました。一覧にあるようにボディ部品でカーボン製品を多用しており、フロントのバンパーとフェンダー、リアのホイールアーチとディフューザー、ザウバーエンジニアリングが手がけた空力付与物などがカーボン製です。さらにGTAmではリアウィンドウなどをポリカーボネート製にしています。
インテリアに関しては、コンポジット材のリアドアパネルを採用し、シートはサベルト製のカーボンファイバーシェルです。GTAmではリアシートを削除してヘルメットホルダーに置き換えており、ドアハンドルとしてベルトループを使っています。ブレーキシステムも軽量化のためにブレンボ製のカーボン&セラミックブレーキを採用し、すでに説明しているように足まわりのスプリングも軽量化されたものです。エキゾーストにはアクラポビッチ製のチタンマフラーを導入しています。
――プリプレグCFRPやレクサン樹脂(ポリカーボネート)といった軽量素材を使っていると聞いていますが、ほかにも軽量化で採用した素材は何かありますか?
グッザファーメ氏:チタンのエキゾーストを採用しており、軽量化されたスプリングも軽量化に寄与しています。また、車両のリアを軽量化することは比較的簡単ですが、逆にフロントは軽量化がなかなか難しいところです。今回はF1の技術を導入して、例えばカーボン製のバンパーやフェンダー、ボンネットなどの採用で、前後重量配分をほぼ完全に50:50の重量バランスとしています。
――GTA/GTAmではCFRPを多く採用していますが、500台を生産するクルマにCFRPを使うのは難しくなかったですか? コストの観点ではどのような困難があったでしょうか。
バニャスコ氏:カーボンを使うということは、まず時間がかかることです。カーボンの層を手作業で重ねていく工程があり、ここで多くの時間を要します。また、技術も必要で、カーボンのレイヤーを重ねた後、加圧されたオーブンで加熱する工程もあります。小さいカーボンファイバーの部品であれば、コストは高くなるものの、われわれが持っている技術で作ることは比較的簡単です。しかし、今回のGTA/GTAmで採用しているような大型のカーボンパーツはコストが高く、時間もかかるところに難しさがありました。
GTA/GTAmはサーキット専用ではなく、公道でも運転が楽しめるクルマ
――エンジン出力を30PS高めるためにどのようチューニングを行なったのでしょうか。
バニャスコ氏:これに関してはチューニングというレベルではなく、エンジン内部でも数多くの変更点があり、これによって6500rpmで540PSの最高出力、2500rpmで600Nmの最大トルクを発生しています。
主な変更点としては新規設計のコンロッド、気筒あたり2個のオイルジェット追加、新開発オイルクーラーの設置、ターボチャージャーの加給回転数拡大、新しいECUマッピング、アクラポビッチのチタンエキゾーストの採用などがあります。さらにエンジンルーム内で冷却性能を確保したことで、ベース車と比較してラジエータの熱交換効率が10%向上しているのです。
――自動車業界では内燃機関を廃止する方針のメーカーもあります。今後を考えると、今回のGTA/GTAmに搭載されているものがアルファ ロメオにとっても最後でベストのエンジンになるのではないでしょうか。今後のサプライズは期待できますか?
グッザファーメ氏:まず、今後も内燃機関はなくならないと考えています。これまでもアルファ ロメオが新たに登場させたエンジンは必ずそれまでより優れたエンジンになっています。将来的な情報をここで開示することはできませんが、サプライズは必ずあると考えていただいていいと思います。
――このモデルはサーキット走行を中心に設計しているかと思いますが、一方で公道走行も楽しいクルマだとアルファ ロメオではアピールしています。この両立をどのように実現しているのでしょうか。
バニャスコ氏:先ほどからお伝えしているように、GTA/GTAmは1965年のGTAトリビュートカーとなるモデルです。われわれのエンジニアリングチームには当初から「同じコンセプトに忠実でなければならない」と伝えていました。つまり、決してサーキット走行専用ではなく、公道でも普通に運転が楽しめて、例えば自宅からサーキットまで自走してレースを行ない、終わったら乗って帰れるようなクルマを目指したわけです。
エンジニアリングチームはこの目標に対して素晴らしいクルマを作り上げてくれたと考えています。タイヤ、サスペンション、ブッシュ類もそうですが、あくまで日常的な運転ができるクルマでありながら、サーキット走行も優れていることを目指していました。完璧に実現してくれて、エンジニアリングチーム以外にもテストドライバーに感謝しなければならないと思います。
――以前のGTAをベースとして今回のGTA/GTAmで採用しているものはあるのでしょうか。
グッザファーメ氏:今回のプロジェクト開始時に、弊社の自動車博物館で丸2日過ごして、当時のGTAについてすべての要素を再確認しました。そして全体的な形状について、フロントグリルやリアウイングなど数多くの要素でオリジナルからインスピレーションを受けています。軽量化についてもそうです。また、例えばロゴマークについて、ボディを塗装した上から貼り付けるのではなく、上から塗装を被せることで劣化しないよう気を遣っているなど、GTAのスピリットを非常に大事にして、それをスポイルしないよう重視しています。
インテリアも同様でオリジナルから多くのインスピレーションを受けており、それを現代の技術により、シートやステアリングで再現しています。ホモロゲーションに関する部分もあり、そのほかにエンジンルームの冷却もそうで、多く要素でオリジナルからインスピレーションを受けています。
――GTAmレースを開催する予定はありますか?
バニャスコ氏:現在は企業レベルのモータースポーツ活動はF1に注力しています。GTA/GTAmについては、オーナーズクラブとのコラボでレースを共催する可能性を検討しています。