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ブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザック VRX3」は、ブリザック33年の歴史で最大の性能向上実現

性能に定評のあるスタッドレスタイヤ「ブリザック VRX2」から20%の氷上性能向上を果たした「ブリザック VRX3」。スケートリンクで各種の乗り比べを行なった

 ブリヂストンが2021年シーズンに向けて新たに発売した新型スタッドレスタイヤが「BLIZZAK(ブリザック) VRX3」になる。ブリヂストンのスタッドレスタイヤは独自に開発した発泡ゴムを採用することで、アイス路面における高い氷上性能を獲得。発泡ゴムの進化や新たなトレッドパターンを採用しながら性能を向上してきた。

 Car Watch誌上でも「ブリザック REVO2」以降、ブリヂストンの最新スタッドレスタイヤのレビューなどをお届けしてきたが、約4年ごとに新しい技術を投入し、確実に氷上性能を上げてくる開発力は驚くべきものがある。もちろん、性能が上がらない限り新製品として市場投入されないため当たり前でもあるのだが、その当たり前を1988年の初代ブリザック PM-10/20以来33年間続けてきていることになる。

ブリザック VRX2

https://car.watch.impress.co.jp/docs/review/1083426.html

 これまで世代ごとの進化では、約10%以上の氷上性能向上を実現してきたブリザックだが、VRX2からVRX3にかけては氷上ブレーキ性能を20%向上してきた。ブリヂストン自身はこれを二世代分(約8年)の進化とうたっており、新次元のブリザックと表現。

 タイヤの性能低下も抑制されており、VRX3を4年使っても、新品のVRX2以上の性能を持つとしている。もちろんこれはシミュレーションによるもので過走行などの場合は異なると思うが、ブリヂストンの自信の表われであるのは間違いない。具体的な数値では、VRX2比で17%向上としている。

 そんなブリザック VRX3をアイススケート場の氷上で体験する機会があった。一般的にこのような試乗会の場合、VRX2とVRX3を比較というのが定番だが、今回の試乗会では、「非発泡ゴム(夏タイヤのゴム)と最新発泡ゴム(VRX3のゴム)を三輪車で比較」「スリックタイヤとブリザック VRX3をVRX3のゴムで比較」「初代ブリザック PM-20(手彫りパターンと当時のゴムを再現)とブリザック VRX3を比較」というものだった。

 1つはゴムの比較、もう1つはパターンの比較、最後は33年の進化を比較という意図と思われる。

ブリザックの進化
世代ごとに進化するブリヂストンのスタッドレス。VRX2からVRX3へは二世代分の進化を果たしている
33年でとくに進化したのが氷上ブレーキ性能。最大のユーザーニーズに応え続けた結果とも言える

三輪車で非発泡ゴム(夏タイヤのゴム)と最新発泡ゴム(VRX3のゴム)を比較

最初の乗り比べは、非発泡ゴム(夏タイヤのゴム)と最新発泡ゴム(VRX3のゴム)を装着した三輪車で。夏タイヤのゴムで氷上に乗り出すのは危険極まりないことを体感

 三輪車での比較は、非発泡ゴム(夏タイヤのゴム)と最新発泡ゴム(VRX3のゴム)の乗り比べとなっていた。まずは非発泡ゴム(夏タイヤのゴム)の三輪車で氷上へと向かう。どちらもパターンのないスリックタイヤ、ましてや夏タイヤのゴムのため「どうせ進まないだろう」と思っていたが、じわじわ進めば氷上のためか意外と速度が乗るのに驚いた。しかしながら一度でも空転させてしまうと最悪の状況に。おそらくゴムと氷上の間に熱がかかり、水膜ができてツルツルとなってしまう。

 また、うまくスピードを乗せても、ブレーキをかけるともうダメ。ゴムと氷の摩擦によって水ができるためか、ツーッと空走してしまう。ものすごく。こんなテストをクルマでやったら、クルマをつぶしてしまうのは明らかだ。

 一方、最新発泡ゴム(VRX3のゴム)のスリックタイヤを装着した三輪車はすいすいスピードが乗る。ブレーキをかけてもブレーキをかけたという実感があり、夏タイヤのゴムのような空走感がない。しっかり制動力が発揮されているという感じだ。

 VRX3の発泡ゴムはフレキシブル発泡ゴムと名付けられていて、親水コーティングが施されたVRXのアクティブ発泡ゴムから、楕円形断面の発泡を実現するなど進化している。発泡ゴムの効果として、水を吸い込む、そして柔らかさを維持するというのがあるが、いずれも氷上性能、雪上性能向上につながっている。

ブリヂストンスタッドレスのウリでもある発泡ゴム。VRX3ではフレキシブル発泡ゴムへと進化
夏タイヤとの比較。発泡ゴムにより、除水や柔らかさを実現している

 また、ブリヂストンの特許公報などを読み込むと、発泡ゴムの製造方法が記されている。タイヤは構造物とゴムを最後に加熱する加硫工程を経て成型される。発泡ゴムはゴムの中に発泡剤を入れて作られており、最後の加硫工程で発泡剤由来の気泡が形成される。その数は、VRX3で1本あたり10億個とされており、10億の発泡剤が組み入れられていることになる。

 この発泡剤に加硫後親水コーティングが残るような工夫をすることでVRXのアクティブ発泡ゴムを実現でき、楕円形の発泡剤を組み込むことでVRX3の楕円形の発泡が形成されるわけだ。

発泡ゴムについて
発泡ゴムの特徴
発泡ゴムの進化

 と横道にそれたが、この夏タイヤゴムとVRX3発泡ゴムを乗り比べでの結論は、冬の雪道などをちょっとでも走る可能性があるのなら、「絶対にスタッドレスタイヤを装着すべき」だ。VRX3のゴムとの比較以前に、夏タイヤはおそろしいほど止まらない。スリップしまくりで進まないなら救われる余地もあるが、夏タイヤでもある程度進んでしまうことがおそろしい。進んだ結果は止まらないので、事故につながる可能性しかない。人身事故などを考えると、VRX3に限らずスタッドレスタイヤは必ず装備すべきで、そうでないならクルマで出かけないという決断しかない。もちろんチェーンなどの装備で乗り切るというのもありだが、カーブを曲がったら積雪や凍結は普通にある話なので、雪が気になるドライブはスタッドレスを基本として、万が一のためにチェーンを装備するというのをお勧めしたい。

非発泡ゴムと発泡ゴムの三輪車での乗り比べのほか、RCカーでのグリップ体感デモも実施。実車での非発泡ゴムの試乗がなかったのは、それほど夏タイヤゴムでの氷上走行は危険だということ

スリックタイヤとブリザック VRX3をVRX3のゴムで比較

同じ最新発泡ゴムながら、パターン違いを体感
VRX3のトレッドパターン。接地性能に優れ、フラットな乗り心地を持っていた。抜群の氷上性能を誇る
パターンの変遷。ゴツゴツ系から大量のサイプをフラットに配置という流れに見える。接地面積が増えているのも見て取れる
パターンの成分変化。2013年のVRXと2017年のVRX2では剛性を上げてエッジ成分が下がったことが分かる。VRXで技術的ジャンプを行ない、VRX2で剛性を確保する方向へと変化。その集大成がVRX3になっている

 スリックタイヤとブリザック VRX3をVRX3のゴムで比較は、パターンのあるなしの比較になる。こちらはどちらもVRX3のフレキシブル発泡ゴムを使っているためか、プリウスでの比較となっていた。

 発泡ゴムなど吸水性能の高いゴムであれば、氷上では接地面積の大きいほうが性能がよくなる。つまり溝の少ないほうがよい。一方、雪上では溝面積の大きいほうが雪中剪断力などトラクション性能が出る。また、氷上でも前後方向のエッジ成分を増やすことで、ひっかき効果を増やすことができ、それらを総合的に考慮してスタッドレスタイヤのパターンは設計されている。

 今回はスケートリンクという人工的な氷上、フラットな路面となるのでスリックタイヤでもプリウスはしっかり加速する。途中、アクセルを離すとプリウスは回生ブレーキに移行するが、その際の減速感も出ていた。ただ、VRX3のパターンありタイヤ(要するに市販品ですね)と比べると、旋回時の最高速はやや低く、単純なブレーキでも数メートルの差は出る。パターンありのほうが、氷上で高い性能を示してくれた。

 これは、パターンがあるほうが接地面積が減っているにもかかわらず氷上性能が出ており、うまくパターン設計されていることを示している。とくにVRX3はこれまでのVRX2と比べてもフラットなパターン設計となっており、氷上での性能向上は見た目から圧倒的だ。パターン設計についても、「タイヤ表面の水を溝へ素早く流し、逆流を防ぐ」という新しい思想が入っており、水の逆流を防ぐ「L字ブロック」、サイプを貫通させない「端止めサイプ」など新パターンを見て取れる。

 縦方向の溝をリブ、横方向の溝をラグと呼ぶが、リブに水の逆流を防ぐために設けられた「L字ブロック」は、雪を縦方向に挟む動作をするようにも見え、氷上性能を20%向上しながら、雪上性能はVRX2と同等としているポイントなのかもしれない。単に横方向の解析だけでなく、周方向の動的解析が進化している証しなのだろうか。雪道での試乗機会があったら、確認してみたいところだ。

パターン設計要素と氷雪上性能。背反要素をまとめ上げる技術が要求される

「初代ブリザック PM-20(手彫りパターンと当時のゴムを再現)とブリザック VRX3を比較」

ブリザック PM-20装着車との走行比較も実施。フラットなアイススケートリンクでもゴツゴツとした手応えを感じるのは懐かしい
手彫り途中のPM-20。まさに職人技
初代ブリザックと、最新ブリザックの比較。同じ発泡ゴムという技術だが、ずいぶん違っているのが分かる。トレッドパターンは、見てのとおり技術レベルが数段進化している

 初代ブリザック PM-20(手彫りパターンと当時のゴムを再現)とブリザック VRX3を比較は、ブリヂストンの用意したお楽しみ試乗となる。1988年に発売された発泡ゴム初採用の初代ブリザック PM-20を再現したタイヤと、33年後に発売された最新のブリザック VRX3を乗り比べるというもの。

 初代ブリザックではPM-10とPM-20があり、10は80タイヤ、20は70と65タイヤ向けとなっていた。同じ技術が用いられており、発泡ゴムを当時はマルチセルコンパウンドとも呼んでいた。

 これは当時のタイヤを引っ張り出してきたものではなく、マルチセルコンパウンドの成分を再現してスリックタイヤで製造。それに手彫りでPM-20のパターンを刻んだものとなる。パターンは昔のスタッドレスらしくゴツゴツしたもので、雪中剪断力がいかにも高そうなもの。現代のブロックの倒れ込みを防ぐ3Dサイプとは異なり、サイプの数も少なくシンプルだ。ブリヂストンの呼び名は「専用ラメラスパタン」。ラメラスとは専用の薄いヒダを表わすラメラの複数形で、専用の薄いヒダを用いて成型されたとのこと。このヒダはサイプを成型する際に埋め込まれる薄い金属板を指していることになる。最新のVRX3ではサイプは3Dかつジグザグになっており、より複雑な金属板が多数埋め込まれて成型されていることになる。

 実際にこのレプリカPM-20を装着したプリウスに乗ってみたが、VRX3よりも明らかに性能は落ちるものの、独特のゴツゴツ感のある乗り心地は懐かしく感じる部分があった。ゴツゴツ感によるグリップ感の変動があり、それがグリップ力の向上と錯覚する部分がある。氷上だとタイヤにおまかせの部分が大きくVRX3に劣るのだが、雪上だとこのグリップ変動をうまく使えばなんとなく気持ちよく走れそうな気がする部分だ。

 当然そんなこともないのだが、意外と走ることができてしまったため、そんなことを思ってしまったのも事実。この発泡ゴムの登場からブリヂストンスタッドレスの快進撃が始まり、今の高いブランドイメージにつながっている。

発泡ゴム発売にあたっての苦労
PM-20の技術情報
PM-20のカタログ、RCOTが懐かしい。ブリザックの由来は、ブリザード(BLIZZARD)とザッケ(ZACKE)であると書かれている。自分はザックについて雪がザクザクと思い込んでいたので、ちょっとショックを受けた

最新のブリザック VRX3は、最高の性能を持つブリザック

 ブリザック VRX3の比較試乗を紹介してきたが、とくに印象的だったのは三輪車によるスリック夏タイヤと、スリックブリザック VRX3の比較試乗。夏タイヤが結構進むちょっとした驚きと、まったく止まらない絶望的な恐怖感は格別だった。その後、乗り換えたVRX3の発泡ゴムであればしっかり制動力が出るのにはほっとした。

 気象庁の1か月予報も12月9日に発表されたが、今シーズンは全国的にほぼ平年並みの降雪量を予想しており、すでに雪の便りも多い。緊急事態宣言も明けどこかに出かける機会も増えていると思われるが、雪の可能性のある地域へ出かけるなら安全・安心装備としてスタッドレスタイヤは必須だ。ブリザック VRX3は、定評のあるVRX2から20%の氷上性能向上もあり、安心装備として、スタッドレスタイヤのベンチマークとして購入を検討してほしい製品と言える。