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クボタ新春オンラインイベント、パワクロ/直進アシスト/匠刈りなど新常識となった製品開発ストーリーが語られる

2022年1月20日 開催

クボタの2022年新春オンラインイベント「GROUNDBREAKERS 日本農業の未来へ」が開催された

最初の農工用石油発動機を開発から100年を迎えたクボタ

 クボタが1月20日に開催した、2022年の新春オンラインイベント「GROUNDBREAKERS 日本農業の未来へ」では、クボタの製品開発への取り組みや、クボタ堺製造所での生産体制などについて紹介するセッションが用意された。

 製品開発については「農家の課題に寄り添い、新しい常識をつくる~クボタの開発ストーリー」と題したセッションにおいて、パワクロ、直進アシスト、匠刈りといった新しい常識になった商品などについて触れた。

 クボタは、1922年に農工用石油発動機を開発、製造した。これが同社にとって初の農業に関わる商品であり、今年はちょうど100年目の節目を迎えている。クボタはその後も、農業の機械化が食料の安定供給につながると考え、多くの商品を販売してきた。農家に寄り添い、使いやすく、役に立つ商品の開発を続けてきた結果、これが認められ、農業の新しい常識になった商品が数多く生まれている。

クボタが1922年に開発、製造した農工用石油発動機

 その1つが、傾斜地でも、湿田でも、トラクターで作業ができる「パワクロ」である。30年以上前のトラクターは四輪すべてがタイヤとなっているホイール仕様のみで、傾斜地では横滑りを起こし、等高線上を直進できなかった。また、傾斜地を登って作業する際には、機体後部が重くなり、後輪が埋まりやすく走行できないといった課題もあった。さらに湿田での走行には、後輪に重たいアタッチメントを取り付ける必要があり、2人がかりの重作業になっていた。

 最初に開発したのがおむすび型の三角形の後輪タイヤを採用したフルクローラ形トラクターであったが、ホイール形トラクターと大きく異なる操作感覚や、性能が劣るため、結果としてホイール形トラクターも保有しなくてはならないといった課題があった。特に牽引負荷が大きくなった際に、クローラユニット先端が浮き上がり、接地部分が一部になり、馬力があっても、十分なグリップ力や牽引力が発揮できないという課題の解決を図る必要があったのだ。その課題を解決したのが、パワークローラ(パワクロ)トラクターであった。

パワクロを搭載したトラクター

 製品化の鍵になったのは、揺動支点を下げるという発想だった。北海道クボタ美瑛営業所と、プロ農家の熊谷留夫氏がタッグを組んで研究機に改良を加え、揺動支点を下げることで、牽引抵抗が高まってもクローラユニットが浮き上がらないことを発見したのだ。これによって大きな牽引力を確保。クボタは、このアイデアをもとに商品開発を進めていき1997年に第1号のパワクロを発売。北海道ではパワクロの普及が進み、傾斜地でも作業ができるというトラクターの新たな常識を生み出した。

パワクロを実現した揺動支点を下げるという発想

 2つめが、未熟練者でもまっすぐに走行ができる直進アシストの「GS(Go Straight)」である。

 農作業では直進作業が多いが、農地で直進するには熟練の技術が必要であり、担い手農家では、限られた人に作業が集中するという負担が生まれていた。そこで最初に開発したのが田植機だ。ここでの開発目標は「誰でも簡単に、まっすぐ植えられること」であった。アルバイトでも少し指導するだけでまっすぐ植えられれば、人員確保がしやすくなり、農業の規模が拡大できるというわけだ。

GSを搭載した田植機
GSは簡単な操作も特徴である

 農家が導入しやすいように、安価なDGPS(Differential Global Positioning System=ディファレンシャルGPS)を搭載し、慣性計測装置を組み合わせたクボタ独自の制御技術を開発。時間が経過すると慣性計測装置の方位角に誤差が蓄積するという原理上の特性を解決するため、DGPSにより、誤差を予測して取り除く技術を採用。高精度なセンシングを実現したという。また、操作性にも配慮。一度走行して、始点Aと終点Bを登録し、基準線を作れば、あとはGSスイッチを押すだけで、基準線に対して自動的に平行に直進走行してくれる。GS搭載田植機は、2016年に発売して以降、累計1万台の出荷を達成している。

 また、GS機能は、トラクターにも採用。開発チームは、全国の農家をまわり、圃場に試作機を持ち込み、トラクター特有の幅広い条件下においても、誰でも、簡単に、安全にGS機能を利用できるようにした。GPSの場合、車速が遅いと位置情報を保つのが難しいが、様々な工夫により最低0.5km/hでも作業ができるようにしたという。

 GSは、農家が納得する精度、使いやすい操作性、導入しやすい価格を実現。不慣れな人でも農業機械を操作できるという新たな常識を生んだというわけだ。

トラクターにもGS機能を搭載

 3つめは、機械が考え、自動で効率よく収穫できる「匠刈り」である。

 農業の大規模化により、収穫期にはコンバインの運転時間が長くなり、オペレータへの肉体的負担が増加。ロボットによって、それを解決するといった狙いから開発がスタートしたものだ。

 圃場の状況を捉え、経験や勘を頼りにして、最も効率よく走行ルートを選択する熟練者の動きを研究。旋回回数と空走距離を削減し、最小旋回を繰り返す走行ルートを作成し、RTK(Real Time Kinematic)-GPSで誤差2~3cmで位置を特定して、数本先のラインへと旋回する際にも、刈り残しがない場所に計測して移動。また、収穫したもみの排出を計算しながら効率的な走行ルートを決めることもできる。

 最適なルートと最適な排出タイミングを常に考え、無駄のない効率的な刈取作業を実現しているというわけだ。

匠刈りを行なっている様子
匠刈りでは計測して効率的なルートを正しく走る

 最後が農業用ドローンである。

 機械化が進む農作業において、暑い時期の防除や除草は、水田農家にとって、最も辛い作業となっている。ドローンによって、誰もが適した時期に防除、除草ができるというわけだ。クボタは早い時期から農業用ドローンに着目。ドローン開発大手のDJIからOEM供給を受け、クボタの技術を連携させることで、2017年からクボタブランドのドローンの販売を開始した。

ドローンによる散布の様子

 液剤散布、粒剤散布に対応。除草剤や肥料などを、1haを約10分間で散布し、低価格で個人所有できるため、圃場ごとの最適なタイミングで防除ができる。重たい動力噴霧器を持ち、長時間歩くという作業から解放され、軽労化にもつながる。

 また、営農支援システムのKSASとの連携で、送信機に保存されたデータを、自動日誌作成機能で記録。作業軌跡再生機能ではアニメーションで散布実績を表示できるほか、今後はリモートセンシングによる生育状況の把握や、KSASレイヤーマップを活用した可変施肥の実現も可能にする考えだ。また、播種作業での活用なども検討していくという。

 クボタでは、2030年を目標に、スマート農機を開発し、人への負担が可能な限り軽減させた農業の実現や、クボタ農業情報プラットフォームの構築により、データ共有ができる環境を整えるほか、誰もが高品質で、高収量となる農業や、誰もが参入しやすい農業の実現に向けて、スマートビレッジ構想を掲げ、実証できる環境を整えていくことも示した。これらは農業の新たな常識への挑戦といえるものだ。

クボタが目指す農業情報プラットフォーム
未来の田植機(イメージ)
未来の自動運転トラクター(イメージ)

クボタ堺製造所の取り組みも紹介

クボタ堺製造所

 クボタ堺製造所の取り組みについては、「クボタ堺製造所見学!モノづくりの改善に迫る」と題したセッションで紹介された。

 トラクターやエンジンの製造を行なっている堺製造所は、同社のマザー工場に位置づけられており、1937年に操業を開始。自動車メーカー以外では、国内民間企業としては初めてベルトコンベアーシステムを導入したという。KPS(クボタ生産方式)に基づき、日々改善活動を続け、現在は年間で3万7000台のトラクターを生産し、世界各国に輸出している。

 立形ディーゼルエンジンの生産工程では、振りむかない、歩かない、手元化、誰がやっても同じ作業ができる仕組みを採用。作業環境の改善や手順の見直しなどにより、直接作業に関わらない動作を減らしている。たとえば部品を前方から供給し、40cm以内に作業ツールを配置。無人搬送車により、生産ラインに部品を供給しているといった例が挙げられる。

エンジンラインの様子
エンジンの組み立ての様子
完成したエンジンは無人搬送車で運ばれる

 クボタでは「作業の90%は無駄であり、価値のある作業は10%に留まっている。改善には終わりがなく、いまが最終形ではない。人が作業を行なう限りは、改善の要素は無限大である」としている。また、ポカヨケ装置により、規定されたすべてのボルトを締めると、使用していたツールが上昇し、次の工程に行くという仕組みを用意。正しく作業が完了できるようにしているという。

 トランスミッションの生産では、部品のピッキング工程を紹介。作業者は、以前は歩いて部品を集めていたが、現在は、無人搬送車に人が乗ったまま移動し、ランプがついた部品棚から部品を取り出す仕組みとなっている。取り出した部品の一部はその場で組みつけ作業を行ない、生産ラインでの工数を減らしている。また、組み立て工程では、作業に必要な工具が順番に降りてくる仕組みを採用。作業者が無理なく、自然な姿勢で作業ができる範囲を示す「ストライクゾーン」での作業を可能にしている。

トランスミッションラインの様子
ランプがついた棚から部品をピッキングする

 トラクターの運転席であるキャビンラインでは、完全1個流しの生産体制とし「岡持ち」と呼ぶ工具箱にツールを入れたり、取り付ける部品を整頓して並べ、探す手間をなくし、効率のいい取り付け作業が行なわれている。必要なものを、必要な時に、必要な数だけ作る「ジャスト・イン・タイム(JIT)」の考え方を採用。これに、必要な姿勢と必要な順番を組み合わせた新JITを目指しているという。

 最終的な商品に仕上げる艤装ラインでは、工場の上部分を使って搬送されたキャビンと、エンジン部をドッキング。その後、各種検査工程を経て、出荷されることになる。

キャビンラインの様子
艤装ラインの様子
検査工程を経て出荷される