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クボタ、自動運転農機の開発者による技術解説が行なわれた「テック・フロントライン」レポート
日本農業の課題とこれからを考えるオンラインイベント「GROUNDBREAKERS―日本農業の未来へ―」開催
2021年1月18日 14:45
- 2021年1月14日 開催
クボタは1月14日、オンラインイベント「GROUNDBREAKERS―日本農業の未来へ―」を開催した。
同社では、毎年1月に京都市内の京都パルスプラザで取引先や個人投資家、学生などを対象としたプライベートイベント「新春のつどい」を開催しており、最新のトラクターなどをはじめとした農業ソリューション、水環境ソリューション、環境ソリューションなどを一堂に展示。顧客とのコミュニケーションの場にも位置付けていた。
今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で「新春のつどい」を中止する一方、完全オンラインイベントとして「GROUNDBREAKERSー日本農業の未来へー」を開催。大阪市のクボタ本社から農業関係者の役に立つコンテンツを配信。参加申込人数は7000人に達した。
イベントでは、自動運転農機開発者インタビューや農業経営者の取り組み事例、農業界のイノベーターによる座談会などのコンテンツを用意。また、参加者同士がメッセージをやりとりできる環境も用意した。
同社ではイベントを開催する意義について「クボタの日本農業への想いを届けるとともに、農業関係者たちが集い、日本農業の課題とこれからをともに考える機会を創出することを狙っている」とした。
日本の農家に育ててもらった企業として、課題の解決に貢献したい
オンラインイベントの冒頭に挨拶したクボタの北尾裕一社長は、「2020年は新型コロナウイルスの流行により、社会活動や経済活動が停滞し、日本全体が大きく揺らいだ。そのような状況でも、日本全体で食料が不足することがなかったのは農作業を止めることなく、食料を生産し続けた農家の努力によるものである。多くの人が、食料を生み出す農家の重要性を再認識した。日本の農業にフォーカスし、農業に熱い想いを抱く農家とつながり、情報を提供し、日本の農業について考える機会として今回のイベントを企画した。イベントタイトルのGROUNDBREAKERSは、先駆者の意味を持つ。大地を耕し、食を育む農家や農業は転換点にあるが、ビジョンを描き、創意工夫をして、課題解決に挑戦する農家、未来を担っていく学生や農業関連業界の人たちは、まさにGROUNDBREAKERSである。農業を未来の形を作っていくGROUNDBREAKERSに寄り添い、課題を解決するソリューションを提供し、日本の農業を支える人たちを応援したい。クボタも農業界のGROUNDBREAKERSとして、イノベーションを起こし、未来を切り開く最前線をお客さまとともに走っていきたい」とした。
また、北尾社長自身が若い社員時代に、北海道・中標津の牧場で1か月間実習し、牛に蹴られながら搾乳したり、牛舎やサイロの掃除をした経験から、農業機械は壊れず、必要な時にきちんと動く品質と耐久性が第一であることを実感し、自らが大型トラクターの開発、設計エンジニアとして働く上での原点になっていることに触れ、「MDトラクターの開発を任されたとき、品質には徹底的にこだわった。マニュアルシフトが主流だった時代に、変速時のショックを低減して疲労軽減し、作業精度の向上に貢献したいと考え、8段自動変速が可能なパワーシフトのトランスミッションを開発した」などと、自らの経験にも触れた。
さらに、北尾社長は、「日本の農業は、農業従事者の高齢化や離農、耕作放棄地の拡大など、さまざまな課題に直面している。日本の農家に育ててもらった企業として、こうした課題の解決に貢献したい。クボタは1890年の創業当時、流行していた伝染病から人々を守るため、水道管の開発に挑戦し、国産初の水道用鋳鉄管の製造に成功した。それ以来、食料、水、環境の分野での課題解決に取り組んできた。解決すべき課題はたくさんある。人々の生活基盤を支え、命を支えるプラットフォーマーとして、新たなイノベーションを生み出し、より多くの社会貢献を果たしたい。農業機械に留まらず、農家に寄り添い、農業に関わる課題を解決する農業トータルソリューション提供企業を目指す」と述べた。
自動運転農機の開発者による「テック・フロントライン」
今回のイベントでは、自動運転農機の開発者による「テック・フロントライン」が行なわれ、クボタ システム先端技術研究所 システム開発第一部の阪口和央氏をはじめ、アグリロボトラクタの「MR1000A」、アグリロボ田植機の「NW8SA」、アグリロボコンバインの「DR6130A」などの研究開発チームの開発者たちが、稲作の自動運転一貫体系を実現した同社の自動運転技術について語った。
クボタ システム先端技術研究所システム開発第一部の阪口和央氏は、自動運転の実現のためには「位置測位」「ルート生成」「車両の制御」「安全確保」の4つの技術が必要とし、「GPSなどを活用して位置測位をした上で、目的の作業をするためのルート生成が必要になる。これにより、走らせるべきラインと自分の位置が分かるが、それに合わせて車両を制御することで、目的にあわせて走行ができる。そして、無人で走行させるためには安全確保が重要になる。ロボット、無人化、自動化の技術は、オールクボタの技術を結集することで成立することができる」と切り出した。
1つめの位置測位ではGPSを活用し、目標位置と機械が走行しているラインが、どれぐらいずれているかを計算し、IMUにより機械の位置ずれや傾きを認識。目標ラインに合わせて修正を指示して自動運転を行なうという。だが、農機の場合には傾きを認識することが極めて重要な要素であることを強調する。
「アスファルトの上を自動車が走行するのと違い、トラクターは後ろに作業機が付き、コンバインでは前に刈り取り機が付く。それらの作業機が決められた位置に合わせて動かないと、正しい作業ができない」。つまり、傾斜補正が行なわれないとトラクターの車体が傾いて、車体についているGPSの位置がずれた場合、目標ラインがずれたと認識することになる。そのため、位置を合わせるためにトラクターが移動するが、その結果、作業機も同時に移動することになり、作業したいエリアと実際の作業エリアがずれてしまうという状況になる。傾いてGPSの位置がずれても、作業機は作業したいエリアを走れるようにIMUが制御してトラクターが正確な位置を算出し、走行しなくてはならない。そこが一般の自動車の自動運転制御との大きな違いだ。
「農機が走るフィールドは雨が降るとぬかるみ、でこぼこがあったり、畝が立てられていたりといったさまざまな状況にある。農機の自動運転では、いま車両がどう傾いているかを知ることが大切。これにより、トラクターを運転する熟練オペレータが傾いても補正して、まっすぐ走行するのと同じ運転技術を自動運転で再現することができる」という。
2つめのルート生成は、まずは圃場を自ら運転1周まわることで、自動的にマップを作ることから始まる。いわば周囲刈りをするだけで、マップを作ることが可能というわけだ。
たとえば田植機では、ボタンを押して走行すればマップが完成するようにしており、植付け装置部の上昇、下降で測位を開始したり、停止したりする。やり直したい場合にも、最後に下降させた部分が圃場の端と機械が判断して修正できるようにしており、いずれも簡単な操作でマップ作成が可能だ。
また、作業機の違いよって異なる値付けの幅についても最適な位置を計算し、田植機が走るべきルートを生成することができるとしており、「ルート生成を実現するために、開発現場ではシミュレータやエミュレータを活用し、PCの仮想空間で目的のルートを正しく生成できるかを確認。そして試験場で検証し、その後に実際のフィールドに持ち込んで確認作業を行なった。開発速度を上げるためには、仮想空間での事前確認が重要であった」という。
また、圃場の中にある水口を自動的に避けることもできる。ここではマップ作成時の走行で、水口を避けるためにハンドルを切ったのか、運転者の操作ミスでハンドルを切ってしまったり、ぶれてしまったりしたのかということを判断する技術も開発しているとのことで、「マップ作成の際に認識する連続点の角度の違いで判断している。人が意識してハンドルを切ったときと、操作ミスでハンドルを切ってしまった場合との差を閾値として設定し、意図した操作とミスによる操作を見分けている。これは難しい技術であったが、農家の協力を得て、稲を植えては抜いてといった作業を何度も繰り返して完成させた」という。
一方、コンバインでは「匠刈り」と呼ぶ機能を搭載しているが、これは常に最適なルートを選択しながら収穫を行なうことができるのが特徴だ。阪口氏は「最適な経路を選択しながら収穫を進めることができる。また、収穫してタンクに籾が溜まると、排出する作業も必要であるが、タンクの重量を測りながら走行し、満タンになるタイミングを計算。それを予測して籾を排出し、再び排出地点から最適な経路の生成を行ない、作業を開始する。農機が常に考えながら作業をしている」という。
また、圃場の形を理解するため、刈り幅をもとにきれいに割り切れる場所に転回して、最新の場所から刈り取り作業を行なうことも可能になるという。また、作物が風でなびいていると、それに合わせて斜めに刈ってしまうということもあるが、自動運転ではそうした課題も解決できる。「これはプロの農家でも難しい。ロボットならではの機能」とした。
3つめの車両の制御では、土の上のでこぼこ、ぬかるみの状況でも目的の精度を出しながらコントロールすることを実現している。
たとえば、農機についているゴム製キャタピラであるクローラーは、土の影響を受けやすく、滑ることが多い。左に旋回する場合にも、柔らかい土と硬い土では曲がり方が変わり、指示した角度通りに曲がるための制御が必要だ。とくに転回の終わりがぶれやすいため、場合によっては後進もしながら位置のずれを自動で修正。さらに、コンバインでは籾をタンクに1t搭載した場合と空っぽの状態というように、状況が違っても正しく走行し、転回することができるようにしている。「重い場合には大きく転回するように制御している。どんな圃場でも、どんな条件でもうまく走れるようにしている」という。
ここでは、外周で水口を避ける植え付けを行なうために、内周植え付けエリアでは重複した植え付けを行なわないように、2条分の植え付けを行なわず、外周で膨れ上がった場合にそこをカバーして植え付けるといった細かい制御も行なう。これは人の操作ではできない機能の1つだ。
4つめの安全確保は、センサーやソナーを活用することで実現している。アグリロボトラクタのMR1000Aでは、障害物を検知するレーザースキャナーやソナーを左右に設置。レーザースキャナーでは、前方に赤外線を当て、障害物からの跳ね返りを受け取り、それを検知して停止するという仕組みだ。合わせてレーザースキャナーはトラクターの側方の障害物も検知できるとしており、「大型トラクターは車速が速い。それでも止まれるように前方に安全センサーを配置し、より遠くを見られるようにした。だが、反応をよくしてしまうと障害物ではないものを障害物と誤認識してしまう場合もある。それを解決するためにレーザーの設定を最適化。光を出す部分と受ける部分に工夫を凝らし、砂ぼこりは障害物と判断しないようにした。また、砂ぼこりや霧の中に人がいた場合には、しっかり止まることができる」と特徴を紹介した。
クボタの自動運転の機能について、同社の開発者たちは「農家の人が乗ったらびっくりするものを実現している。こんなすごい機械なんだと驚いてもらえる」としながらも、「だが、これで終わりではなく、もっといい機械を作りたい。5年後、10年後にはもっと大きな驚きを与えることができる」とする。そして、「自己満足せずに、役に立つ製品を作ることに取り組む。お客さまの声を聞いて、進化させたい」とも語る。
クボタ システム先端技術研究所の阪口氏は、「世の中にないもの、人に役立つものを作りたい。クボタだからできるものを世の中に出していきたい。やることはまだたくさんある」と、今後の自動運転の進化に意気込みをみせた。
2021年の新製品などについても発表
また、2021年の新製品などについても発表した。クボタでは、営農支援システム「KSAS」を経営栽培管理のプラットフォームとして、稲作を中心としたスマート農業一貫体系を実現。それを構成する製品やサービスを用意している。
アグリロボ(Agri Robo)シリーズは、耕うん、田植え、収穫などの作業を、機械自らが行なう自動運転機能を備えた農業機械だ。生産性向上、人材確保といった課題を解決することができる農機と位置付けている。圃場を1周することで、自動運転用のマップを作成すれば、マップに従って機械が効率的な作業を自動で行なう。そのために誤差が2~3cmという精度を実現する「RTK-GPS」を採用。位置情報を特定するための通信方式は、クボタが提供する三脚タイプの基地局のほか、自治体などが設置する基地局、スマホを利用するインターネット方式を選ぶことができる。
2019年12月発売のトラクターのMR1000Aは耕うん、代掻き、肥料散布、粗耕起の作業を数cmの誤差という高い精度で、無人での自動運転を実現。2020年10月に発売したNW8SAでは、圃場1枚のすべてを自動運転で植えつけする全面匠植を実現。自動運転による匠刈り機能を搭載したコンバインのDR6130Aや、2021年4月に発売予定のWRH1200A2では、匠刈り機能とともに、直進キープ機能を搭載することを紹介した。
GSシリーズは、「Go Straight」から命名したことからも分かるように、直進作業や長時間作業による人への負担を減らすことができるのが特徴だ。基準線を設定し、GS機能をONにするだけで、基準線に沿って並行走行を可能にする。ハンドル操作が不要で直線での作業ができるため、農業機械に慣れていない人でも高い精度で作業ができる。簡易なGPSを使用しているために特別な基地局の準備などは不要だ。
NB21GSは2019年1月に発売。簡単な操作が特徴で、搭載したカラー液晶モニターにより、直進アシストの操作なども画面を通じて分かりやすく説明することができるのが特徴だ。2020年1月に発売したSlugger GSは、28~60馬力までの品揃えとともに、パワクロやキャビンタイプなどによる幅広いラインアップを用意。操作が簡単なガイダンス機能を搭載しており、稲作から畑作まで対応可能だ。2018年9月の発売以来、6000台の販売実績があるディーゼル田植機のNW-GSは、3キープ1アシストによるICT機能を搭載。株間キープと施肥量キープで車輪のスリップを補正。直進キープと条間アシスト機能で、不慣れな人でも、楽に、きれいに田植え作業ができる。熟練オペレータからも、直進に関わる操作やストレスがなく、体への負担が少ないという評価があるという。
中間管理作業の軽量化を実現する製品としては、水田への給水、排水をスマホやPCでモニタリングしながら、遠隔操作や自動で制御する圃場水管理システム「WATARAS」のほか、2020年5月に発売した農業用ドローンの「T20K」を紹介。16Lの大容量タンクと、6mの散布幅、約10分のフライトで1.5haに散布できる効率性の高さを訴求した。障害物レーダーも進化させているほか、KSASとの連携による自動での作業日誌作成や散布作業の進捗管理などもできるという。また、必要な施肥を必要な場所に、必要な量だけ高精度に散布する可変施肥ハイクリブームも紹介した。
野菜作を支援する製品としては、20数年ぶりにフルチェンジし、2021年3月に発売する超砕土成型ロータリーや、2021年4月に発売予定の逆転ロータリを紹介。同時作業による省力化、効率化を実現するという。また、乗用全自動野菜移植機のSKP-200では、業界最速となる秒速0.55メートルの作業速度で高精度に植つけが可能であり、2021年8月に発売予定のえだまめコンバインのEDC1100では、えだまめの引き抜き、搬送、脱きょう、選別、収納を1台で行なえるという。
そのほか、2021年1月に発売するトラクターとして、従来モデルから約2割の低価格を実現したSL33Limted、コンパクトな車体に15馬力エンジンを搭載したJB15X SPを紹介。2020年10月発売のMR70 Specialは、現行モデルの機能はそのままにLED作業灯やBluetooth対応オーディオを標準装備している。2021年1月発売の田植機としては、10条植えが可能なモデルで、業界で初めて直進キープ機能を搭載したNW10Sと、シンプルで、低価格を実現したWP Special IIを紹介。中山間地域の軽量、コンパクトな4条植えのPASWEL PW4もフルモデルチェンジした。
コンバインのフラグシップモデルであるDR-SXは、2021年11月に発売予定であり、アンローダ先端カメラにより、籾排出時の作業性を向上した。また、2021年6月の色彩選別機のKG-S110Xは、6インチ籾摺り機対応の製品で、独自の3つのカメラによるカメムシ被害、未熟米の同時選別が可能になる。除雪機のスノースラロームは、静音性を向上させるとともに、黄色のLEDライトにより、広く遠くまで照射できるという。
なお、同社では「クボタバーチャル展示会 農フェス!2021新春」を1月15日から開催しており、自動運転農機やドローン、新商品情報を紹介するほか、ユーザーの活用事例や開発者のインタビュー、クボタ農機オリジナルグッズが買えるオンラインショップなどのコンテンツを用意している。