ニュース
クボタ創業130年、未来の自動運転トラクター「X tractor」公開
業界初の自動運転田植機、開発中の電動トラクターや小型建機を初公開した2020 クボタ新春のつどい開催
2020年1月17日 17:40
- 2020年1月15日~16日 開催
農業機械メーカーのクボタは1月15日~16日の2日間、京都市伏見区の京都パルスプラザにおいて「2020 クボタ新春のつどい」を開催。業界初の自動運転田植機、開発中の電動トラクターや小型建機を初公開したほか、未来の完全無人トラクターのコンセプトモデル「X tractor(クロス トラクタ)」を展示した。
同イベントは、同社の販売代理店をはじめとする全国の取引先のほか、株主やアナリスト、メディア、学生などを対象に毎年開催しているもので、会期中には約5000人が来場。2020年は、同社の事業領域である農業(食料)、水、環境分野の各種ソリューションを、「見る、聞く、さわる、味わう」という観点で体験できる内容としていたのが特徴。同社の最新製品や技術などに注目が集まっていた。
また、同社は2020年に創業130年を迎えるとともに、2020年1月1日付けで北尾裕一新社長による体制がスタート。会場には、130thアニバーサリーゾーンやクボタヒストリーゾーンも設置し、節目を意識した展示も行なわれていた。
ちなみに同社は、2018年10月~12月にTBS 日曜劇場で放映されたドラマ「下町ロケット」に全面協力し、劇中に登場する農業機械メーカー「佃製作所」向けに農業機械を提供。シナリオ制作や機械操作などのドラマ演出における技術監修に参画した経緯がある。
ドラマ内では、無人のトラクターが畑を耕すシーンが見られたが、この技術はすでに実用化されており、この機能を同社のトラクターなどに搭載している。今回のイベントではこうした技術を搭載したトラクターなどを展示する一方、さらにその先の技術や製品を見せていた。
アグリロボシリーズに業界初の自動運転田植機
今回の展示会で大きな注目を集めていたのが、業界初となる自動運転田植機である「アグリロボ田植機 NW8SA」である。農林水産省では、農機の自動化/無人化のレベルを、ハンドル操作の一部を自動化する「オートステア」による「レベル1」、有人監視での自動化/無人化を図る「レベル2」、遠隔監視での無人運転などができる「レベル3」の3段階に分けており、今回のアグリロボ田植機 NW8SAは、レベル2にあたる。価格は無人仕様で625万円(税別)。
同社ではトラクター、コンバインにおいてすでに自動運転を実現しており、今回の田植機の追加により、稲作の主要な3種類の農機において自動運転を可能にする環境が整うことになる。これらの機械は「アグリロボシリーズ」と呼ばれている。
もともと田植の作業は、田植機を操作するオペレーターと、苗を補給する補助者が1対1、あるいは1対2という体制が一般的だが、自動運転化することで高い操作技術が求められるオペレーターを不要としたり、通常機と無人機を同時に作業させる場合も、補助者が無人機の監視者を兼ねたりできる。トラクターでは自動運転化しても監視者が1人必要であるため、作業の効率化はできても省人化にはつながりにくいのに比べて、田植機では省人化の効果が発揮しやすい。
アグリロボ田植機 NW8SAでは、最初に農地の最外周を有人で走行してマップを作成。これに従って、田植機が走る走行経路を自動計算し、無人で田植作業を行なう。超音波ソナーを前方、側方、後方の8か所に設置。侵入者や障害物を検知すると自動で停止する。
また、同社独自の営農支援システム「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」との連携により、農地のどこにどれだけの肥料が必要であるのかを可視化する施肥マップを作成し、これと田植機を連携させることで最適な量を施肥できるようになる。
さらに、同社が提供する「MY農機」を利用することで、機械の位置情報や稼働情報履歴、部品交換のタイミングなどをスマートフォンで確認でき、データを活用した盗難時の対策や要望保守への利用が可能になる。
「脱ディーゼル化」を捉えて開発中の電動トラクターや電動小型建機
また、今回展示した電動トラクターと電動小型建機は、いずれも開発中のものだ。トラクターについては2020年からモニター実験をフランスで開始。今後、各種実験や評価試験を重ねて早期の製品化を目指すことになる。
電動化への取り組みは、欧州を中心に「脱ディーゼル化」の動きが加速していることを捉えたもので、現地ニーズの抽出などを行なった上で、それを反映し、今後の製品化を目指す。
なお、電動トラクターでは、公園内の除草や運搬作業などでの利用を想定。電動小型建機では一般の工事用途に加えて、排出ガス対策や極低騒音が必要な工事現場での利用を想定しているという。また、電動トラクターと電動小型建機の電動部分の主要コンポーネントを共通化することで、開発期間の短縮とコスト削減を図るなど、設計、開発面での工夫も凝らしている。
完全無人の自動運転トラクター「X tractor」
一方、新たに公開したコンセプトトラクターのX tractorは、AI(人工知能)や電動化技術などが備わった完全無人の自動運転トラクターで、同社が2020年の130周年という節目に合わせて提案したものだ。
同社では、1970年に開催された大阪万博のクボタ館で、優れた機能性や快適な居住性、容易な操作性などを実現するために、当時の技術を結集した「夢のトラクタ」を展示。今回のX tractorはこれと同様に、50年ぶりに新たな「夢のトラクタ」を描いたものともいえる。「完全無人」「完全電動」「車高可変4輪クローラ」という3つの特徴を持ち、人が乗らないことを前提とした無人仕様のレイアウトと電動化技術により、新たなトラクターとしてのスタイリングを可能にしたという。
AIが天候や生育状況などのデータから適切な農作業を判断し、適時に実行に移すことで、人が運転することなく完全無人の超省力化を実現。農作業時にトラクターが獲得した農地の環境データなどを他の作業を担う機械にも自動で共有して、一貫管理した効率性の高い農作業を実現する。
また、リチウム電池とソーラーバッテリーを併用することで、すべての電力を自然エネルギーで賄うことができる。完全電動で排出ガスを一切出さないため、環境負荷低減にも貢献する。
4輪クローラーにより、湿田や不整地でも安定した無人作業を行なうことが可能であり、4輪のクローラーが変形し、車高を最適な位置に調整するといった特徴も持つ。例えば、牽引力が必要な作業では車高を低くすることで重心を下げて地面との接地面を大きくし、作物をまたぐような管理作業では、車高を高くして地面からの距離を長く取るといったことができる。さらに、インホイールモーターを採用すること前後左右のクローラーの回転数を任意に変化させて小旋回を可能とし、さまざまな農地で無人作業ができるようにするという。
耕うん、代かき、肥料散布、粗耕起などの作業内容に合わせてさまざまなインプルメンツ(作業機械)を自動で装着して、自動で作業を行なうことができ、トラクターはインターネットを通じて常にアップデートされ、最新のデータを活用したり最新の機能を利用できたりできる。
クボタ 研究開発本部長 佐々木真治取締役専務執行役員は、「X tractorで提案したものは、すべての技術を一度に実現するというものではなく、徐々に製品に組み込んでいくことになる」とし、実用化できる技術から同社の製品に順次採用していく考えを示した。