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クボタ、洪水などから日常を取り戻すために働く「排水ポンプ車」とは
災害現場へ急行し、人力での設置と撤去を可能とした画期的な災害救援支援車両
2020年8月11日 16:36
2020年7月初旬に熊本県を中心に襲った災害レベルの大雨。7月下旬には山形県と秋田県など東北エリアでも同様に大雨による大きな被害が出ている。また、数年前から都心部などでも瞬間的に大量の雨が降るゲリラ豪雨が多発し、幹線道路のアンダーパスなどが冠水したというニュースもよく目にする。
国土交通省が発行している「水害レポート2019」によると、時間雨量50mm以上の年間発生回数は、1976年~1985年の10年間の平均回数は174回だが、2009年~2018年の10年間の平均回数は239回と約1.4倍も増加していて、気候変動の影響により、水害のさらなる頻発・激甚化が懸念されるという。
もちろん河川が氾濫して床上浸水を起こしている泥水も、ゲリラ豪雨によってマンホールを浮かび上がらせるほどの雨水も、いずれ時間とともに徐々に引いていくが、人命に関わる時はその大量の水をいち早く取り除かなければならない。
そんな時、人知れず裏で活躍しているのがクボタの「排水ポンプ車」だ。報道では床上浸水で泥まみれになった家や道路、冠水により沈んだ自動車などが被害の大きさを物語るうえでの映像としてよく流れるが、この排水ポンプ車が働いている姿が流されることは少ない。
普段の生活ではなかなか遭遇する機会のない「排水ポンプ車」とはいったいどんなクルマなのだろう。
排水ポンプの小型化により誕生した排水ポンプ車
クボタ広報室によると、1990年代から排水ポンプ車は製造していたが、当時のポンプは同等の排水性能だと軽くても約400kgもあり、設置するにはクレーン車が必要だったという。そのため、災害現場に持ち込んで稼働させるのは容易ではなかったし、大型になれば騒音も大きくなるため、仮に市街地に設置できたとしても、夜通しの作業などは難しかっただろうと推察する。
そこで、クボタでは今後のために使い勝手(軽量化による機動性)の向上を追求。2005年にポンプの小型化に成功し、30~35kgと人力による設置と撤去を可能とした。さらに、この小型ポンプと自家発電機を車両に搭載したことで、自立性・機動性にすぐれた排水ポンプ車を誕生させた。
2008年には、新たな吸水ノズルを開発し、コンクリートなど硬い地面であれば水深8cmまで排水可能とした。8cmはクルマのマフラーも浸らない水深となり、クルマの通行が可能となることで、救助活動や復旧活動の支援にもつながる。また、2010年頃から川の氾濫やゲリラ豪雨による幹線道路の冠水も増えはじめ、ニーズが多様化していったという。
吸水ノズルは水中に沈めて使うが、フィルターは装備しているものの、洪水や大雨による災害時は水中にさまざまな異物が漂っているため、それらも吸い込んで予想外のダメージを負う場合もあるという。
ベースとなる車体は日野自動車やいすゞ自動車が製造しているトラックで、そこにクボタの開発者が排水ポンプ機と自家発電機などを荷台に乗せられるように図面を引き、製造されている。もっとも大きいのが22tクラスの排水ポンプ車で、9980×2490×3180mm(全長×全幅×全高)、車重は約1万7300kg。水中モーターポンプ(φ200mm)を12台、300kVAの発電発動機を搭載し、25mプール(25m×10mで水深1m程度)を約10分で空にする能力があるという。他にも11tクラス。さらに普通免許でも運転ができる8tクラスも設定されている。基本的にはMT車だが、要望に合わせてAT車も制作しているという。
排水ポンプの電源にクルマの動力を使うことはなく、積載している自家発電機のみでまかなわれる。また、2つのポンプを直列に接続すると、高揚程の高さを2倍にできるので、場所によって並列、直列を使い分けて排水作業を行なうという。
国際支援にも協力要請が出る実力
クボタの排水ポンプ車は、全国各地の地方整備局に配備されていて、水害が発生すればすぐに駆けつける。2011年3月の東日本大震災のような大きな災害の際は、地域という枠を超え、全国から最大120台が集結し、緊急排水を行なうようになっている。
また、同じく2011年11月中旬には「50年に1度」と言われる大雨による洪水に見舞われていたタイの首都バンコクが水没。国土交通省とJICA(国際協力機構)とゼネコンとクボタの混成チームは日本政府の依頼を受け、国土交通省中部地区地方整備局が保有するクボタ製の排水ポンプ車10台と共に現地へ乗り込み、排水活動を行なっている。このときは住宅地や農地で排水支援活動を実施し、のべ32日間で東京ドーム6.5個分に相当する約810万m 3 を排水し、洪水からの復旧に貢献した。
排水ポンプ車の運用は基本的にクボタが行なうわけではなく、国土交通省が管轄している各地方整備局が行なっていて、これまで累計で300台近く導入されているが、ここ数年は局地的なゲリラ豪雨や災害レベルの大雨が全国各地で多発しているため、出動する出番が増えるのと同時に、国だけではなく自治体でも導入が推進され始め、2013年~2017年頃は年間10台未満程度だったが、2018年~2019年は15~20台程度、2020年は30台程度と導入台数は右肩上がりに増えているという。
2020年7月、排水ポンプ車を導入した2週間後に大雨に見舞われた福岡県久留米市
2017年~2019年にかけて3年連続で甚大な浸水被害に見舞われていた福岡県。特に2019年8月に久留米市で発生した陣屋川の浸水被害では、国の排水ポンプ車が出動し、浸水対策に大きく寄与した。県土整備部はそのことを踏まえ2020年6月18日に、九州の県として初めて「排水ポンプ車」を導入したと発表。6月27日に納車式を行ない、運用を開始した。
そして、運用開始からわずか2週間後の7月5日に大雨による災害が発生。翌6日に排水ポンプ車が出動し、町の復旧に貢献した。
実際に動いている排水ポンプ車や使用方法が、北陸地方整備局北陸技術事務所の作成した映像で確認できる。