人とくるまのテクノロジー展 2019

農業にも活用されるHKSのIoTコネクティッドサービス

チューニングパーツメーカーのもうひとつの顔が最先端パーツの開発

2019年5月22日~24日開催

入場無料

HKSブースで展示されるIoT製品

 自動車技術会が主催する自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2019 横浜」が5月22日、神奈川県のパシフィコ横浜・展示ホールで開幕した。会期は5月24日まで。登録が必要だが入場は無料。

 HKSというと多くの人が思い浮かべるのがターボキットやサスペンションキットなどのチューニングパーツメーカーの姿だろうが、実は以前からLPGバイフューエルシステムの開発や機械加工技術などを通じて、自動車メーカーと取り引きを行うパーツサプライヤーとしての顔も持っていて、人とクルマのテクノロジー展にも2014年からブース出展している。

HKSブース。ブース番号は351番

 そのHKSが近年力を入れているのが「IoTコネクティッドサービス」の技術だ。IoTとは、センサーと通信機能を持ったパーツ(もの)がインターネットを通じて情報を交換し機能する技術のことだが、タービンやエンジンパーツを作ってきたHKSが、なぜそれらとはまったく異なる技術のIoTに力を入れはじめたのかが不思議に思うところでもある。そこでまずはHKSがIoTをはじめた経緯から説明しよう。

HKSが力を入れているIoTコネクティッドサービスの展示品

 HKSが発売しているチューニングパーツのなかには、車両の故障診断コネクターであるOBD IIから信号を取りそれをBluetoothでスマートフォンに飛ばし、アプリ上で追加メーターのようにそれらの数値を表示するものがある。この商品を発売したことで業界内に「HKSは通信を使った製品も作る」ということが広まったのだが、それを見たある企業から、OBD II経由ではなく、基盤に軸の動きを測るセンサーを載せてそのデータをBluetooth経由でスマートフォンに飛ばし、安全運転の度合い(運転のスムーズさ)を評価できる機器を開発してくれないか、という依頼が来たという。これをきっかけに通信技術を専門に開発する部署が立ち上がったのだ。

 クルマの動きを測って通信で飛ばす機器を製造できる企業はほかにもあるのだが、多くの場合は発注側が詳細な仕様書を用意して、製造側はそれに沿ったモノを作る。しかし安全運転の度合いを評価するには「運転内容によるGの出方から、タイヤ、サスの特性的なことまで理解していることが必要なのだ。

 一般的な企業でこれらのデータを仕様書が作れるくらい検証して集めるのは困難なので、チューニングやモータースポーツを通じてそれらのノウハウも経験のあるHKSが存在感を示してきたのだった。この方法を採れるのはHKSの強みであり、発注側の要望から大まかな仕様を想定してテストモデルを製作。それを使ってもらい意見を聞きながら相手が求めている性能に仕上げるというきめ細かい開発スタイルを確立させている。

 今回展示している「HBAS(エッチバス)-100」と「HBAS-200」はともに標準仕様で4G&GPSモジュールを内蔵している。また、HBAS-100に至っては防水仕様になっているので屋外への設置も可能で、HBAS-200は緊急時に通報できるeコールシステムを搭載している。

 これらはHKSのIoTコネクティッドサービスの基本の装置であり、これらを使うと各種のセンサーや機器がIoTデバイスになるのだ。なお、HBAS機器にはオプションでOBD IIとCAN通信に対応させたり、アナログで10chの入力を追加するなど、ニーズに合わせて機能を上げる用意もある。

HBAS-100。防水仕様なので屋外でも使用でき、変わったところでは農家がビニールハウス内の栽培管理にHBAS-100を使っている
HBAS-200。こちらは屋内用。筐体センターの丸い部分が緊急時のeコール用ボタンになる

 使用例も伺った。カーシェエリングや倉庫などで使用されるフォークリフトなど幅広く使われるが、変わったところでは農家がビニールハウス栽培時に作物を植えた土の各所に水分や土の状態を測るセンサーを付け、その計測値をHBAS-100を介してタブレット等に飛ばすことで作物の適切な管理を行うというものもあるそうだ。HKSの技術が農業で生かされているのだ。

360度記録できるドライブレコーダーも展示

 ほかにも通信機能付き360度ドライブレコーダー「HBAS-DR1」なども展示されていた。360度の映像が記録できるので従来のドライブレコーダー同様に前方、側方の状況が記録できるだけでなく、事故の前のドライバーの状況も記録も可能だ。それだけにドライバーに非がないような事故(確認を行っていた等)では、事故の状況と合わせてドライバーの対応を証明できるものでもある。

 また、社有車へ導入すれば、ドライバーの危険な「ながら運転」を監視することもできるが、記録されていることがわかっていればドライバーも安全運転に気を配るようになるという抑止効果も期待できるだろう。

「HBAS-DR1」は360度カメラのほか、顔認証、HDR光補正、防水、振動に強い、クラウドサーバーとの双方向通信が可能といった機能がある。構成は超小型カメラ部とバッテリー&表示部の2部となっている。

通信機能付き360度ドライブレコーダーの「HBAS-DR1」。360度カメラのほか、顔認証、HDR光補正、防水、振動に強い、クラウドサーバーとの双方向通信が可能
HBAS-DR1のオプションアダプター。入力チャンネルなど増すことでユーザーの要件にあわせていける

SUPER GTでも用いられるカム技術やマグネシウム製ピストンも

 日本に5台ほどしかないというドイツのEMAG社製「3次元カム研削盤」という工作機械で削ったカムシャフトのサンプル。現状のカムシャフトはカム山のバルブを押す面(ロッカーアーム等含む)の形状が平らなので、カム山に対して垂直方向にしかバルブが配置できなかった。そのためカムとバルブの位置関係には一定の決まりができるので、燃焼室や水まわりなどはそれに沿った設計となっていた。

EMAG製「3次元カム研削盤」で削ったカムシャフトのサンプル

 この「3次元カム研削盤」を使うと、カム山のバルブを押す面を3次元形状で削ることが可能になるのでカム山に対してバルブを斜めにも配置することができるようになる。するとバルブの配置や燃焼室形状を含めて、シリンダーヘッドの設計の自由度が高まるのでこれまでにない効率を実現するエンジンの製作が可能となる。すなわち「3次元カム研削盤」は内燃機が進化していくためには必要な工作機械と言えるものである。

 ちなみにSUPER GTのGT500マシンのエンジンでは3次元カム研削盤で削ったカムシャフトを使うことで、放射状にバルブを配置する技術が使われているという。

EMAG製「3次元カム研削盤」の解説ボード。バルブが斜めに配置できることにも触れている。日本では持っているところが少ない機械
HKSらしいものも展示してあった。これはRB26DETT用のマグネシウムピストンで実際に使用したもの。燃えやすい材質であるマグネシウムに特殊なコーティングを施すことで、現在、500ps以上のエンジンに対応できるようになっている
これはチタンコンロッド。同じくRB26DETT用。同程度の強度を持つチューニング用コンロッドと比較して30%ほど軽量となっている。マグネシウムピストンとあわせてエンジンパーツを大幅に軽量化することで、これまでにないレスポンスが実現する。これらは試作品だが製品化を期待したいモノである
こちらはトラック用のCNGエンジンに後付けの可変バルブタイミング機構(RB26DETT用のV-CAMと同じ)を付けて、CNGエンジンの低速トルクを稼ぐというもの
開発中のピストンは圧縮比が17と超高圧縮設定。この圧縮で高回転を維持するとノッキングは出るが、トラックは一定回転数をキープして乗るので、その常用域で最適な圧縮比を求めた結果、こうなったとのこと。発想の転換により生み出されたモノと言える
縦型ターボの展示。いまのエンジンでは触媒を速く暖めることが必須。そこで開発しているのが縦配置のターボチャージャー。ターボを縦に置くとシャフトの潤滑がネックになるので、新設計ベアリングとシャフト、シールリングがポイントになる
縦型ターボの解説ボード
排気の力で発電するターボジェネレーター。F1のMGU-Hのようなものだ。例えばハイブリッドのスポーツカーでサーキットを走るとき、バッテリーの持ちからコースの一部しかモーターのアシストが使えなかったりするが、これを使うと別系統で充電できるのでモーターアシストが使える時間を延ばすことも可能になる

深田昌之