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トヨタと東和不動産、クルマ愛にあふれる「富士モータースポーツフォレスト」開発発表 クルマオフ会のお勧めスポットとなるのか?
2022年4月7日 10:12
トヨタ自動車とトヨタグループの東和不動産は4月6日、トヨタ自動車本社内で合同記者会見を開催し、富士スピードウェイ一帯で行なっている開発事業の名称を「富士モータースポーツフォレスト」とすることを発表した。記者会見には、東和不動産 取締役社長 山村知秀氏、トヨタ自動車 Lexus International Co./GAZOO Racing Company President 佐藤恒治氏の2名が登壇。プロジェクトの概要について説明した。
また、この会見と同時に東和不動産は社名を4月27日付けでトヨタ不動産に変更することを発表。山村社長からは社名変更への思いも語られた。
記者会見は、佐藤プレジデントの富士モータースポーツフォレスト開発にかける熱いスピーチから始まった。
トヨタ自動車 佐藤プレジデント オープニングスピーチ
富士モータースポーツフォレストは富士スピードウェイを中心として新たに開発される体験型の複合施設です。そのコンセプトは大人の遊び場・社交場です。クルマやモータースポーツを愛するすべての人々が、そこに集い、そして語り合って、童心に返って楽しむことができる笑顔あふれる場所でありたいと考えています。
元来、モータースポーツはエクストリームなスポーツであります。高度な運転テクニックを持つアスリートであるドライバーと、クルマを知り尽くしたエンジニア、メカニックが一緒になって戦う高度なチームスポーツであります。
エンジン音、オイルの匂い、まさに五感で感じるワクドキはもちろん、そこには多くの人々の強い情熱があり、挑戦があります。だからこそファンと一体となって、夢や感動を共有することができるのだと思います。また、クルマとクルマ、人と人との真剣勝負を青空の下で家族や友人とともに楽しみ、心にうるおいを与えてくれる、そんな存在でもあると思います。
そして近年、モータースポーツは技術開発の最前線の現場としても改めて注目されています。昨年からスーパー耐久レースにモリゾウこと社長の豊田が自らステアリングを握り、水素を燃料としたクルマで参戦し、カーボンニュートラルに向けた未来の選択肢を増やす挑戦をしています。WEC(世界耐久選手権)やWRC(世界ラリー選手権)といった世界レベルのレースでも、カーボンニュートラル燃料の開発が行なわれています。
モータースポーツはその黎明期から変わらずに、もっといいクルマづくりの現場であり、例えるならば未来の選択肢を生み出す「畑」のような、そんな存在であると思います。
仲間とともに汗をかき、愛情をもって育てることで、新しい技術が生まれ、その技術が未来のモビリティを作っていきます。
そんなかけがえのないモータースポーツをサステイナブルなものにしたい。その強い思いから「富士モータースポーツフォレスト」の構想は生まれました。
フォレストは大きく3つの要素で構成されています。富士スピードウェイ、リラックスができる施設、ガレージです。
富士スピードウェイではサーキット内の敷地を活用し、レース開催日以外にもマッドバギーの試乗や多様なドライビングレッスンなど、これまでにない新しい体験できるようなアイデアをいろいろと検討しています。
レーシングドライバーもそれらの議論に参加しており、ドッグランやキャンプをしながらのレース観戦など新しいモータースポーツとのふれあい方も提案してまいります。
リラックスができる施設としては、ホテル、ミュージアム、温浴施設など建設予定です。
ミュージアムには多くの自動車メーカーからご協力をいただき、モータースポーツにゆかりの深い多様なクルマを歴史とともにご覧いただけます。
レーシングチームが集うガレージでは、レーシングカーを開発するシーンをすごく間近に見ることができます。エンジニア、メカニックと直接ふれあえるようなオープンな環境で、未来のクルマづくりを感じることができるようにしたいと思っています。
フォレストは富士山のふもと、静岡県小山町に位置しています。周辺には温泉やゴルフ場、アウトレットモールなどたくさんの観光資源に恵まれています。
さらには、未来のモビリティの実験場であるウーブンシティからも近く、今後隣接地に小山パーキングエリア(スマートインター)が整備されるなど一帯をゾーンで考えれば、まだまだ大きな可能性を秘めていると思います。
この大変魅力的な地において地域のみなさまとともに、「モータースポーツを起点とした街づくり」にチャレンジをしていきたいのです。
東和不動産からトヨタ不動産へ社名変更
この「モータースポーツを起点とした街づくり」にともに取り組んでいくパートナーとして紹介されたのが、東和不動産の山村社長。山村社長は、東和不動産という社名を4月27日にトヨタ不動産に変更することを発表。その理由としては、トヨタグループの一員であることを明確にするとともに、トヨタという名前が入ることによる信頼性の向上などを挙げた。
会社ロゴも、トヨタロゴをベースとしたものとなり、明確にトヨタグループであることが分かりやすくなる。東和不動産がトヨタグループであることは名古屋地区では知られた話だが(名古屋駅前のミッドランドスクエアなどのビル賃貸)、全国的にはあまり知られておらず、海外まで視野に入れれば謎のトヨタ自動車関連会社であった。
今回の富士モータースポーツフォレストは、東和不動産初の開発デベロッパー事業になり、社名変更は今後開発事業に積極展開していくことなどもあったのかもしれない。実際、山村社長は「事業の幅を広げていこうという今だからこそ社名を前向きに変えていこうという結論に至った」と語っており、強みである街づくりを活かして東京においてもお台場・パレットタウンの跡地の開発を手がけていくという。
この東和不動産が富士モータースポーツフォレストにデベロッパーとして開発していくのは、ホテルや温浴施設のある「富士スピードウェイホテル」、ミュージアムである「富士モータースポーツミュージアム」、そしてプロレーシングチームのガレージなど。
富士スピードウェイホテルと富士モータースポーツミュージアムは、2022年秋から順次開業をしていき、富士スピードウェイ開業60周年となる2026年を見すえているとした。富士スピードウェイ近辺にできる小山パーキングエリア兼小山スマートインターは、新東名高速 新秦野IC~新御殿場ICと同時開通と言われている。NEXCO中日本はこの区間について「2023年度の開通は困難な状況」との見通しを発表しており、最速でも2024年度(2024年4月~2025年3月)となることから、新東名の開通が富士モータースポーツフォレストの大きなトピックとなるのは間違いない。
山村氏は入込について「現状年間70万人ほどの人に来てもらっており、富士モータースポーツフォレストの整備によって年間100万人以上にしたい」との見通しを語った。
この富士モータースポーツフォレスト開発の強い原動力となっているのが、トヨタ自動車社長であり東和不動産会長であり、モリゾウ選手としてラリーやレースに参戦している豊田章男氏。豊田社長もこの富士モータースポーツフォレスト開発発表にあたりメッセージをよせている。
豊田章男氏(トヨタ自動車社長・東和不動産会長)メッセージ
1966年5月3日、初めて富士スピードウェイで日本グランプリ決勝レースが行なわれた日です。56年前のその日、ちょうど10歳の誕生日を迎えた私は父に連れられ、富士のパドックにいました。エンジンの爆音やファンの歓声は、なんだか興奮するプレゼントだったということをよく覚えています。クルマを前にした“おじさんたち”は、ものすごく真剣だったり、でも、とても楽しそうだったり、そんなことも思い出されます。こんな原体験が私を“クルマ大好きおじさん”“モータースポーツ大好きおじさん”のモリゾウに育ててくれたのだと思います。
「こんな原体験を、今の子供たちにもしてほしい……」富士モータースポーツフォレストには、そんな想いを詰め込もうとしています。そして、モータースポーツの現場で働く人が、もっとイキイキと働けるような場所にしていきたい……、同じ思いをもったレーシングチームが、この地に集まれるようにしていきたい……、フォレストに込めた思いを挙げればキリがありませんが、モータースポーツを楽しむ人も、モータースポーツで働く人も、大人も子供も、この富士の地に来たい!と思ってもらえるような場所にしてまいります。
自動車産業の発展にモータースポーツは不可欠です。そのためにもモータースポーツの未来に向けた種を、たくさん、この地に撒いていきます。それぞれの成長スピードはバラバラですが、多くの人に楽しんでいただける素敵な森になるよう大切に育てていければと思っております。
クルマのオフ会のお勧めスポットとなるのか? 普通の人をどれだけ呼び込めるかがポイントに
この富士モータースポーツにこの秋開業する「富士スピードウェイホテル」の運営は「アンバウンド コレクション by Hyatt」としてハイアットグループが行なう。このことからも分かるように、これまでこの地区になかったアッパークラスのホテルを用意することで、特別な旅の時間を国内や国外へ向けて訴求しようとしていることが分かる。
山村社長が語るように、年間70万人の入り込み数とすると、その1/7はゴールデンウィークのSUPER GTでの10万人(豊田少年が見た、日本グランプリ、グラチャンと続く伝統のGTレース)にあたるなど、イベント時には多くの人が入っているが、それ以外は結構少ないことになる。
富士モータースポーツフォレストが長期的に成功していくためには、イベント時以外にどれだけ多くの人が来てくれるエリアになるかがポイントになるだろう。
そのような施設の代表として用意されているのが富士モータースポーツミュージアムやレーシングガレージなどだ。これらの施設であれば、たとえレースが行なわれていなくても、たとえ雨の日でも楽しむことができ、安心して旅の目的地になり得るポイントだ。
実際、トヨタがモリコロパーク(愛知県長久手市)の近くで運営するトヨタ博物館は普通の人がクルマのオフ会などに使うことが多く、クルマ好きの自主的なイベントスポットになっている。さらにクルマの博物館としての機能、クルマの資料も豊富なことから、クルマ好きを生み出しているポイントでもある。
富士スピードウェイ、富士モータースポーツミュージアム、富士スピードウェイホテルなど国際的にもトップクラスの施設がそろう富士モータースポーツフォレストであれば、モータースポーツだけでなく普通のクルマ好きまでも視野に入れることで、関東エリア最高のオフ会お勧めポイントとなるかもしれない。
また、「モータースポーツを起点とした街づくり」が行なわれる富士モータースポーツフォレストのすぐ側には、トヨタが開発を進める自動運転の街「ウーブンシティ」ができあがることになっている。そのほか、自動運転の研究を行なうと同時に、ル・マン24時間レース参戦車両を開発する東富士研究所も存在する。これらの連携構想について佐藤プレジデントに聞いてみた。
佐藤プレジデントは、「ご指摘のとおり、この地域は長くわれわれの研究所が存在しています。近年はウーブンシティの建設・設立に動いております。ウーブンシティは、人中心の街、実証実験の街、未完成の街ということで、人を中心にモビリティのあり方を考えていくということが行なわれています。自動運転に対するいろいろなインフラや実証実験を含めた取り組みがなされています。そういった取り組みをしていく上においても、われわれはやはり『クルマ屋』として、自動車会社として、クルマそのものに対する探求を忘れてはいけないと思っています。それはまさにモータースポーツの現場で繰り広げられる、人とクルマが一体となって対話をする。それが極限の状態で繰り広げらる。モータースポーツという世界において、クルマと人のあり方を研究し、そしてモビリティのあり方を考えていく。それらが複合的に進んでいくということが、これからのモビリティ社会をよりよいものにしていくために、よい環境作りになるのでないかと思っています」と、自動運転の街と同時にマニュアル運転の聖地である富士モータースポーツモータースポーツフォレストを開発する意義について語ってくれた。
豊田章男氏の強い思いを反映し、子供や家族連れを強く視野に入れた富士モータースポーツフォレスト。2022年秋から順次開業という、この地区の発展を楽しみに待ちたい。