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スバル、衝突安全性能や走行性能の品質向上に向け「オラクル クラウド インフラストラクチャ(OCI)」導入

2022年5月18日 発表

衝突解析シミュレーションの様子(実際のものとは異なる)

 スバルは5月18日、衝突安全性能や走行性能に関する品質向上のための大規模シミュレーションの実行環境に、日本オラクルのクラウドサービスである「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」を導入したと発表した。2022年5月から稼働を開始。シミュレーションにかかる計算時間を約20%短縮し、開発効率の向上とコストの最適化につなげていくという。

 衝突解析や流体解析を行ない、3Dを活用して可視化する車両設計シミュレーションを、高性能なOCIで実行。従来はオンプレミス環境で実行していたものをクラウド環境へと移行することで、場所や電力などの物理環境要件に制約がなくなるほか、保守費などのIT管理運用コストの最適化など、オンプレミスによるコンピューティング環境の課題を解消し、エンジニアは複雑で大規模なシミュレーションを実行するために、必要な計算能力を常に利用できるようになる。

 今回のOCIへの移行により、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)シミュレーションを向上させ、車内音の品質を向上したり、衝突解析における計算のばらつきを解消したり、最適な構造計算を可能にすることで性能品質の安定化を図ることができるという。

 日本オラクル 事業戦略統括 事業開発本部 シニアマネージャーの近藤暁太氏は、「OCIを活用することで、オンプレミス環境以上の性能が実現できるだけでなく、クラウドの利点を活かして必要なときにリソースを迅速に拡張でき、計算能力を高めたり、容量不足などで発生していた障害リスクを回避できたりする。また、OCIではRDMA(Remote Direct Memory Access)クラスター・ネットワークを備えたベアメタルによるHPCコンピューティングを、パブリッククラウドで初めて提供しており、2ms未満のレイテンシ(通信の遅延時間)と100Gbpsの帯域幅を実現しており、パフォーマンスを確実に高めることができるのが特徴。シミュレーションに求められるHPC(High Performance Computing:高性能コンピューティング)ワークロードの実行に適している」と述べている。また、「OCIではコスト削減においても大きなメリットを提供でき、オンプレミスや他のクラウドサービスに比べても、高いコストパフォーマンスを発揮できる」とも述べた。

日本オラクル株式会社 事業戦略統括 事業開発本部 シニアマネージャーの近藤暁太氏

 OCIでは、AltairをはじめとするHPC向けの各種アプリケーションやフレームワークをサポートしており、このエコシステムを利用することで、オンプレミス環境で実行するよりも高いコストパフォーマンスでアプリケーションを利用できる。

 スバルでは、OCIにAltair PBS Professionalのクラウドバースティング機能を組み合わせて活用することで、計算時に必要なノードだけを起動し、計算が終了したらノードを削除。使用するコンピューティングリソースの柔軟な運用と、コストの最適化を図っているという。

 自動車産業においては、CAEやHPCにおけるクラウド活用の動きが加速。設計および開発効率の向上の一環として、クラウドを活用する動きが見られている。実際、自動車メーカーがエンジニアリング領域にオラクルのOCIを採用するケースが増加しており、海外の大手自動車メーカーでの採用実績のほか、日本では日産自動車が流体力学や構造力学のシミュレーション、3D可視化環境をOCIに移行。デンソーテクノは流体騒音解析を活用した内部キャビンコンポーネントの設計にOCIを採用し、15日以上かかっていた計算を3日以内に短縮している。

 スバルでは、新車の開発において同社が提供価値として掲げる「安心と愉しさ」を支える技術の向上や、次世代技術への柔軟な対応に取り組んできたほか、オンプレミスのHPCを活用して設計効率や開発効率の向上、アジリティの向上にも取り組んできた経緯がある。これにより、ドライバーの「安心」を支える衝突安全性能と、「愉しさ」を支える優れた走行性能の品質向上において、膨大で複雑なシミュレーションやテストを実行してきた。今回のスバルでのOCIの採用は、オンプレミスで稼働していた最大数万コアにおよぶ大規模なHPCワークロードを移行させるものになる。

 スバルでは2021年12月に初めてOCIを採用。アルゴグラフィクスの支援により、OCI上での環境構築への取り組みや、オンプレミスのHPC環境からの移行を実施してきた。この際に注目しておきたいのは、検討当初に日本オラクルが提供するOracle Cloud Lift Servicesを通じたPoC(Proof of Concept:概念実証)を行ない、クラウド移行の課題や懸念事項を実機環境を活用して確認し、事前に課題を解消した点である。

 日本オラクルの近藤シニアマネージャーは「日本オラクルには、これまでの採用実績をもとに、クラウドとHPCの両方のノウハウを持ったエンジニアが在籍し、同時に米本社のエンジニアとの連携も可能になっている。そうした人材により、Oracle Cloud Lift Servicesを提供できる環境が整っている。知見を持ったエンジニアがオンプレミスで稼働していたアプリケーションをOCI上に移行させても安定的に稼働し、高いコストパフォーマンスを実現できることを検証した上で、本格導入が決定した」という。また、Oracle Cloud Lift Servicesにより、スバルのエンジニアを対象にOCIに関するスキル習得支援も行なったという。

 スバル 技術管理部 情報管理課の竹熊義広氏は、「スバルが目指す『安心と愉しさ』を支える技術をより進化させるため、より優れた衝突安全性能や走行性能を追求する膨大なシミュレーションを迅速に行なうことが重要になっている。より高度化し、増大するシミュレーション需要の課題に対応しながら、コスト削減を実現するためOCIのHPCを採用した。OCIの活用によってスバルの設計効率の向上、開発効率向上に寄与し、新たな技術に対応していくための柔軟性とアジリティを実現できる」としている。

 また、日本オラクルの三澤智光社長は、「安全性や性能などの高い品質を追求する自動車業界のエンジニアリング分野では、高度な計算を迅速に行なうために強力なHPCを最適なコストで利用できる環境が求められている。OCIのHPCは、要求が厳しいHPCワークロードにおいて、高い性能と弾力性を、低コストで利用できる。スバルのような大規模なシミュレーション環境を必要とする企業に最適であり、OCIがスバルのさらなる技術革新に貢献できる」と述べた。