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JDI、曲面の「34型車載統合コックピットディスプレイ」公開 自動車メーカーと実装に向けた協議中
2022年6月23日 06:00
- 2022年6月22日 発表
ジャパンディスプレイ(以下JDI)は6月22日、東京都内で「METAGROWTH 2026 技術説明会」を開催し、同社が開発している新技術やそれを利用したアプリケーション(応用例)などを紹介した。
JDIは、ディスプレイパネルを製造・提供しており、今回は自動車向けとなる「34型車載統合コックピットディスプレイ」「スイッチャブルプライバシーディスプレイ」などを展示。すでに自動車メーカーなどに提案が行なわれており、車載統合コックピットディスプレイに関しては採用を決めている自動車メーカーもあるとして、今後、実際の仕様策定などに向けて話し合いが行なわれているとした。
他社が持っていないような技術を開発し、それを投入していくことで社会貢献を目指すのが新生JDIとキャロンCEO
ジャパンディスプレイ 代表執行役会長 CEO スコット・キャロン氏は、同社の開発方針などに関して詳しく説明した。「JDIの全体戦略は3本の柱で構成されている。1つ目は世界初や世界一となるテクノロジー、2つ目は革新的な技術開発により飛躍的な成長を目指す、そして最後に環境に配慮したテクノロジーにより持続可能な経営を行なうことだ」と述べ、3つの柱を実現するために開発・研究に多大な投資を行なっており、企業が社会に貢献するための「説明責任」として今回のイベントを開催したと強調した。
キャロン氏は「他の企業が同じ技術を提供しているのに後から同じ技術を提供しても社会貢献にはならない。他社が提供できないような技術を開発してこそ会社の存在意義がある。液晶はもともと日本の企業が作った技術で、それを未来に向けて発展させていき、日本や世界が発展することに貢献していくことが重要だと考えている」と述べ、JDIが開発している次世代OLED(有機EL)となる「eLEAP」、さらにはOLEDや液晶モジュールのバックプレーンの技術として同社が新たに導入するHMO(High Mobility Oxide)などの基本的な技術の研究を行ない、それをIPライセンスとして競合を含むパネルメーカーに提供していくオープン戦略など、新しいビジネス戦略でJDIは成長を目指すとした。
従来OLEDに比較して2倍の輝度、3倍の寿命を実現したeLEAPを自動車向けにも採用を呼びかける
ジャパンディスプレイ 執行役員 AutoTech事業部長 福永誠一氏は、同社の自動車向けディスプレイ戦略に関して説明した。
同社のパネルビジネスは、以前は「スマートフォン一本足打法」と言われるような、スマホ向け製品の比率が高いという収益構造になっていた。しかし、すでにスマホ向けのパネルはコモディティ化しており、パネルメーカーにとっては収益性があまり高くない商品になってしまっているため、JDIにとって収益性が悪化する最大の要因となってきた。
JDIはそのようなスマートフォン一本足打法から脱却するため、製造するパネルの種類の多角化を目指しており、その中でも最も成長と高収益が期待されているのが自動車向けのパネルなのだ。JDIの福永氏は「会計年度2022年度には連結売上の40%が自動車になると予想している。自動車は年平均成長率(2018年~2030年)では1.2%程度だが、1台に搭載する枚数は増え続けており、枚数ベースの成長率は4%、面積ベースでは8%を超えると予想されている」と述べ、自動車向けのパネルが今後も高い成長率を実現すると強調した。
そうした自動車向けの製品に向けて福永氏は「従来のメーターパネルなどをデジタルにするというのがトレンドだったが、EV化の進展などでインテリアの強化としてディスプレイパネルを採用するという動きが進んでいる」と述べ、同社が開発している次世代OLEDとなるeLEAPなどを製品として投入し、さらにプライバシーディスプレイ機能などの付加価値を提供していくことで、他社と差別化していくとした。
eLEAPはJDIが開発した次世代のOLEDパネルで、新しい技術や製造方法を採用することで、従来のOLEDに比べて明るさ(輝度)に振れば2倍の明るさを、従来と同じ明るさで寿命に振れば寿命が3倍になるという特徴があるという。また、小型から100型までのさまざまなサイズに対応可能であるほか、OLEDの弱点だった焼き付きもないというメリットがあり、製造時に洗浄が必要になる蒸着用マスクを使う必要がないため、最大で年間15万tのCO2削減が可能になるなど、カーボンニュートラルの実現にも貢献できるとした。
JDIはすでにこのeLEAPの原理検証(原理が実際に動作するかの検証)が終わっており、プロトラインでの試作を本格化して、今年中にはサンプル出荷を開始し、2023年中には量産を開始したい意向だと説明した。
福永氏はJDIのeLEAPを利用したパネルのプレミアムカーへの採用を自動車メーカーに働きかけ、デジタルミラーなど小型や曲面などのデザイン性が要求される部分にも採用を呼びかけていきたいと説明した。
34型車載統合コックピットディスプレイやスイッチャブルプライバシーディスプレイなどを展示
ジャパンディスプレイ AutoTech事業部 副事業部長 野村充生氏は、そうしたJDIのパネルを利用した具体的なアプリケーション(応用例)について説明した。
野村氏が最初に説明したのは同社が「スイッチャブルプライバシー技術」と呼ぶ技術で、助手席の同乗者がYouTubeなどの動画を助手席側のパネルで見ている時に、安全性の観点からドライバーには運転中に見えないようにするものとなる。クルマが走り出した時には自動的にプライバシーモードに切り替わってドライバーは見えないようになり、クルマが停止した(ないしはパーキングブレーキが有効になっている)時には自動的にパブリックモードになって見えるようになる、といった使い方が想定される。
通常ではこうしたプライバシーモードはバックライトを制御することで実現させているが、JDIの場合は別途、「スイッチャブルプライバシーパネルと呼ばれるパネルを挟み込むことで実現するため、どんなバックライトでも対応可能だ」と野村氏は説明した。また、このスイッチャブルプライバシー技術を大型のパネルの一部にだけ搭載するという使い方も可能だという。これにより、運転席から助手席まで1枚のパネルでサポートする大型ディスプレイでも助手席側だけにプライバシーモードを実装することが可能になる。
また、「JDIはHUD(ヘッドアップディスプレイ)市場で最大の市場シェアを持っている」(野村氏)そうだが、HUDに関しても今後はAR機能や3D機能を持たせたものなどを開発中で、自動車メーカーなどとも相談しながら開発を進めていきたいとした。
また、今回JDIは展示会場において34型の車載統合コックピットディスプレイを展示した。これは6.8型のインセルタッチパネル、14型のメータークラスター、12.6型のインセルタッチパネルのIVI用パネルを一体型としたもので、それぞれが曲面ディスプレイになっている。すでに自動車メーカーとの契約が済んでおり、今後どのような形で実現していくかまさに協議している段階だとJDIは説明した。