ニュース

日産、新型「エクストレイル」発表会 PDD入江慎一郎氏とCVE中村将一氏がデザインとメカニズムを解説

2022年7月20日 発表

日産が新型「エクストレイル」発表会を行なった

75万人の「エクストレイル」オーナーに改めて感謝

 日産自動車は7月20日、新型「エクストレイル(X-TRAIL)」の発表会を日産ホールにて実施した。発表会には日産自動車 代表執行役COO アシュワニ・グプタ氏、同執行役副社長 星野朝子氏、同PDD(プログラム・デザイン・ダイレクター)入江慎一郎氏、同CVE(チーフ・ビークル・エンジニアリング)中村将一氏が登壇。

 まずグプタ氏は、日産が掲げている長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」の中で、商品やサービスの提供を通じて、よりクリーンで安全で、インクルーシブな社会を実現することを掲げていて、「そのために日産は、ホームマーケットである日本で主要モデルの電動化を推進し、2010年の初代リーフの発売以来、アリア、軽EVのサクラなど、日産ならではの価値とワクワク感を届けてきた」とあいさつ。

日産自動車株式会社 代表執行役COO アシュワニ・グプタ氏

 また、電動化の柱の1つであるe-POWERについては、「100%エレクトリックモーター駆動によるレスポンスのよい走り、静粛性、スポーティな加速性能を有し、心地よいドライビングエクスペリエンスを提供している」と解説するとともに、ノート、オーラ、セレナ、キックスなどに搭載され、これまで日本で約70万台を販売してきた実績を紹介した。

 そして今回発売する新型エクストレイルは、「全グレードに『e-POWER』を採用しつつ、世界に先駆けて電動駆動4輪制御技術となる『e-4ORCE(イーフォース)』も搭載し、さらに可変圧縮比を実現する『VC(Variable Compression)ターボエンジン』の組み合わせという日産にしかできない独自のまったく新しいパワートレーンを世界初採用したモデルである」とグプタ氏はアピール。

 最後に「これまで、エクストレイルをお選びいただいた75万人の日本のお客さまに改めて感謝申し上げます。この新型エクストレイルも必ずご満足いただけると確信してます」とあいさつをしめくくった。

新型エクストレイルのアンベール登場シーン
新型エクストレイルのタフさに磨きをかけたモデル「X e-4ORCE エクストリーマーX」、ボディカラーはステルスグレー/スーパーブラック2トーン
X e-4ORCE エクストリーマーXは、前後バンパーにはアンダープロテクターを装着してタフさを表現している

タフさと上質さという相反する要素を融合させたデザイン

 続いてPDD(プログラム・デザイン・ダイレクター)の入江氏が登場し、新型エクストレイルのデザイン解説を行なった。特にこだわったポイントの1つとして、プレミアムさを際立たせるボディカラー「シェルブロンド」の採用をまずは紹介。そして、洗練されたVモーショングリルや、上下2分割のヘッドライトなど精悍なフロントマスクについても「上質なプレミアム感のあるデザインになっている」と解説した。このヘッドライトは、点灯時には上下が連なったように大きな塊として光るほか、上部分にあるウィンカーは流れるように点灯するシーケンシャルタイプが採用されている。

日産自動車株式会社 PDD(プログラム・デザイン・ダイレクター)入江慎一郎氏

 さらにフロントグリルについて入江氏は、「日本の伝統工芸『組木』からインスパイアされた」と紹介し、日本の風景に溶け込む上質なデザインに仕上げられている。また、リアコンビネーションランプについても同様に、日本の伝統工芸である「切子」のような細かいパターンでグラデーション加工が施されていて、「点灯時には奥行き感のある立体的でキラキラとした輝きを演出している」と入江氏。

日本の伝統工芸「組木」からインスパイアされたフロントグリルのデザイン。2色に塗り分けられているのは、御影石のように異なる表情を演出したもの

 インテリアについては「SUVでありながらも、ラウンジにいるかのようなプレミアム感あふれる上質な空間作りを心掛けてきた」と明かし、最大の特徴はブリッヂタイプのセンターコンソールで、精巧に施されたダブルステッチや電気信号式のシフトレバーによって、電動化モデルの雰囲気を感じられる内装に仕上げたとしている。一方、エクストレイルを象徴するもう1つの重要な要素「タフさ」のデザイン表現について入江氏は、「切削加工が施され、非常に骨太な金属感のあるスポークを採用した19インチアロイホイールである」と解説した。

ボディカラーについて解説する入江氏

 また、ボディカラーについては、初代エクストレイルを彷彿させる「タフさ」と「情熱」を感じる色として、日本史上初となる「カーディナルレッド」の採用を発表。そのほかにも、エクストレイルe-POWERが持つSUVとしてのタフな塊感をより強調するとともに、洗練された大人が所有するスタイリッシュな色合いとして「ステルスグレー」も設定するなど、7色のモノトーンカラーと5色のツートーンカラーの全12種類のカラーラインアップを取りそろえたという。

ステルスグレー/スーパーブラック2トーンの新型エクストレイル「X e-4ORCE エクストリーマーX」
X e-4ORCE エクストリーマーX専用デザインの19インチアルミホイール。台形を外側に向けることと、リムをブラックアウトすることでタイヤを大きく見せつつ、よりふんばり感のあるデザインとしている

 続けて入江氏は、フロントとリアに立体感のある彫刻のようなデザインを採用したことと、リアまわりのフェンダーの膨らみが生み出すワイド感とボリューム感が生み出すダイナミックなシルエットや、インテリアでも水平基調としたインストルメントパネルからタフさを感じられると説明。さらに防水シートにも日本の伝統工芸である「織物」のパターンを施すなど、日産デザインのキーワードである「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」を新型エクストレイルでも随所に採用。

新型エクストレイルのインテリア(写真はX e-4ORCE エクストリーマーX)
後席(写真はX e-4ORCE エクストリーマーX)
前席(写真はX e-4ORCE エクストリーマーX)

世界初のVCターボ e-POWERとe-4ORCEがキー技術

日産自動車株式会社 CVE(チーフ・ビークル・エンジニアリング)中村将一氏

 続いて登壇したCVE(チーフ・ビークル・エンジニアリング)の中村将一氏は、初代と2代目が本格SUVの走りと使い勝手のいい装備を持った「タフギア」として、さらに3代目ではプロパイロットなど最先端技術が融合したことなど、エクストレイルの歴史紹介からスタート。そして4代目を開発するにあたり、ユーザーニーズをヒアリングしたところ、「上質さ」を求めているユーザーがたくさんいると分かり、上質さを兼ね備えた本格SUVを目指して開発を進めてきたという。

エクストレイルの進化

 この上質さを兼ね備えた本格SUVを実現するためには2つのキー技術があり、1つ目は世界初の「VC(可変圧縮比)ターボを組み合わせたe-POWER」で、2つ目はリアに追加したモーターとシャシーを統合制御し、電動駆動4輪駆動制御を行なう「e-4ORCE」だと解説。

 VCターボ+e-POWERによって本格SUVの力強い加速と上質な静かさを両立させ、e-4ORCEによって雪道などでの本格SUVのオフロード走破性と、オンロードのおける上質で意のままの走りと乗り心地を実現できたという。

新型エクストレイル e-POWERのキー技術

 世界初となるVCターボe-POWERについて中村氏は、「新型では前後のモーターをパワーアップさせていて、それをサポートするためによりパワーの出るVCターボを組み合わせたことで、素早く力強く滑らかな加速を実現できた」と語り、また加速をよくすると一般邸には静かさが犠牲になると思われがちだが、その点について中村氏は、「トルクアップしたメリットを生かして低回転域では発電し、全開加速のような大きな力が必要なシーンでは、圧縮比を下げて大排気量エンジンと同じような大パワーを使って、低い車速では低い回転数、車速を上げるにしたがって高い回転数という制御を実現したことで、エンジンを感じさせない制御を実現した」という。その結果、全開加速時の会話のしやすさ指数は旧型よりも向上しているとアピールした。

 また、刷新したプラットフォームの高剛性および高性能サスペンションが振動を抑制してくれるほか、新たに見直した遮音材吸音材の材料に加え、穴や隙間を極限まで詰めたことで、車室内に入ってくる音を抑えることに成功したという。

世界初 VCターボ e-POWERの概要
圧倒的な静かさの要因

 e-4ORCEに関しては、「前後モーターとブレーキを統合して制御することによって、四輪の状況を細やかに素早く制御することができ、本格SUVとしての雪道やオフロードでの走破性に加えて、ワインディングでの意のままの走り、市街地でのフラットで滑らかな乗り心地を実現できた」と中村氏。

 続けて「新型エクストレイルは基本的に前輪駆動車なので、普段は前のタイヤで駆動します。コーナリングに入ってハンドルを切ってフロントタイヤが曲がったことを検知すると、即座に駆動力をリアに移していき、曲がりやすくする制御を行なう。さらに、コーナーの内側のタイヤはブレーキをかけながら、外側のタイヤは駆動力を与え、コマのように曲がる力を発生させ、まるで自分の運転が上手くなったかのようにコーナーを曲がることが可能になる」と、コーナリング時のe-4ORCEのメカニズムについて解説した。

いつもの運転も喜びに変えるe-4ORCE
e-4ORCEのはたらき

 室内空間については、センターディスプレイとメーターディスプレイともに12.3インチとクラス最大級のモニターを配置し、ヘッドアップディスプレイにも10.3インチの大型モニターを備え、中村氏は「運転中に必要な情報を瞬時に提供することができ、より洗練された先進的な室内空間を実現した」と紹介。

 また、シートに採用している新開発の人工皮革「テーラーフィット」については、表面の模様を人間の指紋に近づけたことで、「滑らかさをソフトレザー相当に改善できた」と中村氏はいい、新素材が上質な室内空間を演出する一助になったとしている。運転支援装備に関しては、今回新たにナビと連動して制限速度やカーブを予測してドライバーの運転操作を支援したり、ボタン操作1つで駐車操作を支援してくれるプロパイロットパーキングが装備されているとした。

 最後に中村氏は「まるで運転が上手くなったかのように曲がってくれる、日産自動車の総力を上げて開発した新型エクストレイルをぜひ試乗してほしい」と解説をしめくくった。

洗練された室内空間
クラストップの運転支援装備

新型エクストレイルの運転はワクワクが止まらない

 最後に登壇した執行役副社長の星野朝子氏は、「プレゼンを聞きながら初めて試乗したときのことを思い出し、ワクワクが止まらない」とあいさつ。

日産自動車株式会社 執行役副社長 星野朝子氏

 国内では今もSUVの人気が高まっているが、新型エクストレイルのコンセプトは「悪路さえ、悠々と」を掲げていて、日産の技術を駆使ししたことでオフロードでもオンロードでもどんな路面でも自信を持って走れる、他を圧倒するようなレベルの走りを提供できるクルマに仕上げられている。

 また、星野氏はe-4ORCEについて「私も最初は1万分の1秒で制御する4輪制御技術だとか、いろいろ聞いて『はあっ?』て思ったんですけど、やっぱり乗ってみて『なるほど、こういうことか!』と分かりました」と語った。

 そして世界の10ベストエンジンにも選出されたVCターボについても、「力強いのに静かで、第2世代のe-POWERとセットで本当に素晴らしいパフォーマンスを発揮している」と絶賛。さらに、「ナビリンク機能付きのプロパイロットで1度遠出してしまったら、二度と手放せないというユーザーが世界中にたくさんいる」と星野氏は紹介した。

質疑応答では価格の高騰やセダンモデルの今後を言及

 発表会のあとにメディア向けの質疑応答も行なわれ、新型エクストレイルの勝算や販売計画、初代からの価格の違い、セダンモデルの動向についてなど質問が寄せられた。

質疑応答の模様

──今のSUV市場で新型エクストレイルの競争力、強みはe-POWERだと思うが勝算は? 販売計画は?

星野氏:世界でもSUV市場はどんどん増えていて、セダンが減っているのが世界のトレンドなので、これからも力を入れていく。その中でも日本は日産として、電動化を進める旗振り役をやっているのが日本のマーケットなので、e-POWERモデルだけでいくか、ICE(内燃エンジン)モデルも出すかは議論にはなったが、電動化されても「タフギア」なエクストレイルを開発できたので、日本でも長期ビジョンで魅力を発揮できると考えている。販売台数については、今も日々状況が変わっているので申し上げにくいが、作れる限りたくさん作ります。

──上質とタフさは相反するテーマに見えるが、工夫した点は?

入江氏:確かに難しさもありましたが、そこに挑戦することのよろこびや、やりがいを感じながらチーム一丸となってデザインしてきました。また、相反する2つのテーマをデザインによってシンクロさせたことで、SUVカテゴリーの中で唯一無二のデザインとして誕生させられたのが、非常によかったと思います。このタフさと上質さを融合させたデザインがいたるところに施されているし、走りとシンクロしたパワフルなタフさ、静粛性とのリンクをぜひ体感してほしい。

──e-POWER+VCターボという新しい技術が盛り込まれているが、技術的に特に力を入れたポイントは?

中村氏:可変圧縮比のVCターボエンジンは強みでありながら同時にいろんなことができるため、いろんなことを正しくコントロールする必要があり、今までよりやることがたくさんあり、まとめ上げるのは苦労しました。また、ターボエンジンなので、どうしてもターボラグという遅れがでてしまうが、モーターは即時パワーを出してくるので、そのすり合わせに苦労しました。e-4ORCEも同じで、モーターが即反応してくれるのは嬉しいけれど、それも同時に制御しながら、いろんなことができるため、全てを上手くコントロールしながらすり合わせていく内容がたくさんあって非常に苦労しました。

──ここ数年、アリア、フェアレディZ、サクラ、エクストレイルと意欲的に新車を投入しているが、国内においてセダンがどうなっていくのか現時点での考えを聞きたい。

星野氏:セダンについては、やはり日産の技術から「これぞ日産のセダン」というものが作れたとき、皆さんの前に登場するかもしれないと思います。世界中でセダンのマーケットが縮小していて、日本では5%を切っているくらいですが、それでも日産の技術がセダンだからこそできる「日産のセダン」みたいなクルマができたとき、新しいセダンの世界が展開できると思います。

──どのような顧客層を狙って開発されたのか?

星野氏:今までエクストレイルは「タフギア」路線できたので、割と若い方も含めてターゲットしてきたが、今回のこの新型も、もちろんその活発で「アウトドアにガンガン行くぜ!」という人もターゲットし続けるが、同時にこの上質さをともって、e-4ORCEで老若男女問わずどんな道でも自信を持って運転できることから「日本のザ・SUV」に育ってくれればいいなと思っています。

──納期短縮に対する工夫があれば教えてほしい

中村氏:昨今の半導体供給が苦しいことは日産だけの課題ではないが、対策としてはいろんなソースから半導体を入手するとか、いろんな組み合わせに対応できるようにするとか、車両側も違うバリエーションに対応できるような仕組みを作っておくといった工夫をしてます。

──2000年に発売した初代は194万円と非常に魅力的な価格だったが、4代目となり時代も何も変わっているが347万9300円からとだいぶ値上がった。これはユーザー層も上げているという理解でよいか?

星野氏:エクストレイルというSUVブランドが20年かけて育ったこと、日産自動車にとっては電動化はやはりカーボンニュートラルを実現するために絶対にやらなくてはいけないミッションであること、自動運転技術も含めて安全技術がどんどん開発されていること、日産自動車としては「死亡事故ゼロ」も一緒に掲げているので、それを達成するためにもその技術を搭載したクルマを世界中に出していくということも強いミッションとして掲げています。そういう意味でこのエクストレイルには、その電動化と知能化っていうものを「ザ・SUV」として日本に導入するにあたり、日産の技術を全てまとったクルマにしました。