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橋本洋平の新型「シビック TYPE R」ファーストチェック 開発責任者・柿沼秀樹氏に直撃インタビュー

2022年7月21日 発表

モータージャーナリストの橋本洋平氏が開発責任者・柿沼秀樹氏に新型シビック TYPE Rについて聞いた

 1992年に登場した「NSX-R」に端を発したホンダのタイプRの歴史は、その後インテグラやシビックへと拡大。いつの時代もどのクルマも、「レーシングカーが持つ速さと圧倒的なドライビングプレジャー」を狙うモデルに変わりはなかった。だが、個人的には先代「シビック TYPE R」が登場した時に潮目が変化したと感じた。なぜなら、電子制御ダンパーを採用することで減衰力の調整をスイッチ1つで行なうことを可能とし、結果的に乗り心地という新たなキーワードを手にしたからだ。他を圧倒するタイムを記録しながら、その一方で日常域も成立させてしまったのだ。NSX-Rはサーキットではピタリと走るが、公道では路面の荒れをそのまま展開する飛び跳ねるような乗り心地だったことを考えるとこれは驚きだ。シビックをベースにしていることもあるが、歴代最高の販売台数である4万7200台を記録したのも頷ける。

 その後継モデルがいよいよ9月に登場する。現行シビックベースとしたそれは、基本的には先代のビッグマイナーチェンジ版。プラットフォームは共通であるし、エンジンも基本コンポーネントは変わらない。だが、それがネガでないことはベースモデルでも確認済みである。ボディを磨き上げることをはじめ、ウイークポイントを1つひとつ消し去って進化したことは間違いないだろう。

 だが、一方で速さという点ではどう進化できるのかは疑問だ。エンジン、ブレーキ共に熱に弱かったこと、さらにはホイールベースの延長もまた個人的には心配だ。今回はその疑問をシビック TYPE Rの開発責任者である柿沼秀樹氏に伺ってみた。

クルマとドライバーが1つになれる、アドレナリンが出るクルマに仕上がった

新型シビック TYPE Rではバンパー&グリル開口部にエアロダイナミクスを取り入れた立体的デザインが与えられるとともに、ホイールハウス内の圧力を軽減して空気をスムーズにサイドへ流すフロントフェンダーダクト、リアタイヤ前の空気の流れを主流方向へ向けるサイドシルスポイラーといった空力パーツが与えられた

――新型を拝見して驚いたポイントは、タイヤサイズを先代の20インチからダウンして19インチとしたことでした。その狙いはなんでしょう?

柿沼氏:退化しているかと心配になりますよね?(笑)。以前は245/30R20、今回は265/30R19にしました。幅は広げて外径は大きくしないように、そしてインチダウンしてタイヤのハイトを稼ぎエアボリュームを稼いだという感じです。これにより特性の自由度が上がります。

 これができたのは、クルマ側がタイヤの幅を広くできるレイアウトを作れたということにつながります。先代はオーバーフェンダーを装着していましたが、特にリアは後付けなので、オーバーフェンダーの裏にはノーマルフェンダーの縁が残っていたため、結果としてタイヤの一番外側からフェンダーの外側までのスパンを小さくすることができなかったんです。

 新型では一体型フェンダーにして、フェンダートリムを完全につまんでヘミングする(爪を綺麗に折り込む)ことで、タイヤをギリギリまで外まで出すことが可能になり、太いタイヤを装着することができたんです。これはフロント側も同様ですね。

 ただ、それだけではインチダウンしたことが見た目にネガとなるため、ホイールに対してリバースリム構造を与えることで、ホイールの中の面積を拡大し、奥までスッキリと見えるように心がけました。インチダウンしたように見せないことが大切だったんですよ。

――ブレーキのサイズはどうなりましたか?

柿沼氏:先代のマイナーチェンジ後から使用している2ピースローターを採用しています。パッドについては新たに開発をし直しています。

足下はマットブラック仕上げの専用19インチアルミホイールにミシュラン「パイロットスポーツ 4S」(265/30ZR19)の組み合わせに。先代の「シビック TYPE R リミテッドエディション」で培った軽量・高剛性の機能デザインをベースに、ホイールサイズのワイド化によってより立体的なデザインへと進化。リバースリム構造を採用することですっきりとした見た目に

――ブレーキの熱にも苦労されていましたが、先代はパワーユニットも熱との戦いでしたね。新型はどうですか?

柿沼氏:ご覧の通りですよ!(笑)。開口部をとにかく大きくしました。先代も少しでも大きくとマイナーチェンジで広げましたが、今回は最初からデザインに落とし込んで、アッパーグリルもロアグリルもギリギリいっぱいまで広げました。ちょっと開けすぎたので中は落としているくらいなんですよ。

――ボンネットの開口部の方向が変化しましたね。

柿沼氏:グリルから冷却機器やタービンに当て、熱風となったものを抜く方向へと進化させました。冷却形に変更はありません。まだスペックは言えませんがエンジンも進化させているので、それに対応した冷却になっています。

新型シビック TYPE R専用のフード、フロントバンパー&アンダーカバー、サイドシルスポイラー、リアスポイラー、リアディフューザーなどを採用したことで、先代モデルを上まわるダウンフォースをドラッグの低減とともに実現したという

――なるほど、だからブレーキパッドやタイヤを変更する必要があったんですね。ところで、今回はホイールベースが延長されましたよね? 少し心配なのですが。

柿沼氏:シチュエーションによるんじゃないでしょうか。鈴鹿では先代のファイナルモデルであるLimited Edition(リミテッド・エディション)のタイムをすでに破っています。

 ホイールベースは延長されましたが、一方でトレッドも広げているんです。さらにまだ詳しくは言えませんが、クルマも低くなっているんです。車両運動性能としては引き上げられる方向にあるんです。ホイールベースの延長だけで終わっていたらウイークポイントにもなりますが、今回はそうではないんです。

――なるほど、ホイールベースとトレッドの比率としては先代に近いところにあるよ、ということですね。

柿沼氏:ホイールベース、トレッド、重心高のダウンによって、鈴鹿では安心感も信頼感もかなり高くなりました。

ホイールベースが延長された新型シビック TYPE R

――パワーステアリングの分解能がベースモデルでは6倍に引き上げられたと伺いました。TYPE Rも同様ですよね?

柿沼氏:もちろんこのクルマも同じです。それを利用し、TYPE Rではもう少しよくしてありますが、詳細は後日(笑)。でも、今ハッキリといえることは信じ切って走れるし、結果として面白さも増していると思います。ヒヤヒヤと攻めるようなものではなく、クルマとドライバーが1つになれる、アドレナリンが出るクルマに仕上がったと思います。正式発表までしばらくお待ちくださいね。

――早く鈴鹿で乗りたいですね(笑)。期待しています。ありがとうございました!

赤と黒のコントラストで気持ちを高揚させてくれるインテリア。どのような走りを見せてくれるのか、試乗が楽しみ!