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日産、「サステナビリティセミナー2022」開催 科学と金融機関と企業が考えるCO2排出ゼロへの行動とは?
2022年8月3日 10:24
- 2022年8月2日 開催
日産自動車は8月2日、オンラインにて「日産サステナビリティセミナー2022」を開催した。セミナーでは、ESG(環境・社会性・ガバナンス)のエキスパートであり日産のCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)でもある田川丈二氏が、サステナビリティを推進する日産の最新の取り組みや21項目のマテリアリティ(重要課題)を説明したほか、サステナビリティに関する長年の課題や急速に変化する課題に対するグローバルなベストプラクティスについて、専門家を交えてパネルディスカッションが行なわれた。
田川氏は、「日産はステークホルダーの皆さまから信頼される、真に持続可能な企業となることを目指しています。サステナビリティは日産の事業運営の中核をなしており、サステナビリティレポート2022で報告した取り組みの進捗と成果は、イノベーションとサステナビリティが融合することで、長期的な価値創造が推進されていることを示しています。日産は今回新たに特定した主要課題への取り組みをさらに強化していきます」と述べている。
パネルディスカッションでは、オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO/経済産業省大臣官房臨時専門アドバイザーの羽生田慶介氏が進行役を務め、JPモルガン・アセット・マネジメント インベストメント・スチュワードシップ統括責任者の近江静子氏、東京大学未来ビジョン研究センター教授/国立環境研究所上級主席研究員の江守正多氏、そして田川氏の3名がパネリストとして参加。
1つ目のテーマは「温暖化危機の回避は間に合うのか?」で、かなり前から温暖化の危機については問題提起されているものの、実際のところ現状はどうなっているのか? タイムリミットはあるのか? それに間に合うのか? といったクエスチョンに対して江守氏はまず、1950年~2100年までの期間に、温暖化対策をまったくしていない場合と、対策を実施して+2℃程度に抑えられた場合の気温変化シミュレーションを動画を紹介。
何も対策をしないと2100年には世界平均で約5℃上昇、もちろん平均なので場所によっては5℃以上の温度上昇が考えられるという。また、仮に1.5℃~2℃の上昇範囲に抑えられたとしても、記録的な暑さ、大雨や洪水、強力な台風の発生、海面上昇、生態系のダメージなど、さまざまな災害が予測されるほか、「干ばつの増加による食糧危機など、実際にCO2を発生していない途上国のほうで、人権侵害ともいえるレベルの深刻な被害が発生してしまうことが大きな問題となっている」と江守氏は語る。
ちなみに今は、産業革命後すでに1.1℃ほど平均気温が上昇していて、それで世界各地で災害が発生していることを考えると、1.5℃~2℃の上昇になればより大きな災害が発生すると予測されるという。
また江守氏は「現状では氷山が溶け続ける温度やアマゾンのジャングルが枯れ続けてしまう温度が何度なのかははっきり判明していないが、温暖化が進めば進むほどそれに近づくことは間違いない。それを止めるために、今世紀半ばまでにCO2排出ゼロやメタンなどの温室効果ガスの削減が決められているが、少しでも早いほうがいい」と、科学的な前提条件を解説した。
続いて、CO2排出ゼロなど変化していかなければならない企業の現状について、金融機関はどう動いているのか問われた近江氏は、「変化には大きな資金が必要で、2050年にカーボンニュートラルを実現させるには、これから100兆~150兆ドルの資金が必要だと試算が出ていて、これを可能にするには各企業の描くロードマップが重要で、それを経営計画にしっかり織り込んで経営計画を説明・実行することが重要」と解説。同時に金融機関側も資金提供をするにあたり、今よりももっと進化していく必要があるという。
また、「もっと具体的なスピード感をもった取り組みが必要で、これが解決しないと日本企業全体の競争力低下につながりかねない。2030年に向けた、またそれ以降のロードマップに関しても、投資家に明確に提示している企業がない。今後はそういったロードマップを明確にしないと企業価値の判断がしにくくなってくる」と、日本企業全体の課題を語った。
進行役の羽生田氏から「自動車メーカーとしてEV(電気自動車)を作る以外のやるべきことは何か? 危機感はあるか?」と聞かれた田川氏は、「2010年にEVを発売したが、EVを作って売るだけでは不十分だと理解していて、ライフサイクル全体でCO2を減らす必要があり、今はEVのバッテリを蓄電池として使う方法、また再生可能エネルギーを使って充電するといったエコシステムを構築する取り組みも始めている。危機感はかなり共有できていると感じていて、もっと予算を取り、すべてのライフサイクルで貢献できる活動を進めていく必要があると感じている」と回答。
また江守氏は、企業の変化は進んでいるものの、個人の変化が追い付いていないと感じているとのことで、「今の子供たちは学校でSDGsを学んでいるので、自然とカーボンニュートラルに対する考え方が身に付いていくと思うが、今の大人世代1人ひとりを教育していたら間に合わない。それでも社会を変えていかなければならない。自動車業界では2035年以降、電動車しか新車販売をしてはいけないというルールがあるが、2035年時点でハイブリッドカーを販売していたら、とても2050年にゼロエミッションカーしか走っていない世界なんて難しいと思う。やはり国民がもっと早い段階からゼロエミッションカーしかダメだろうといった声をあげて、社会を変化させていく必要があると感じている。そういう動きがもっと出てきて欲しい」と述べている。
2つ目のテーマは「今後どのような新たな連携が求められるのか?」で、進行役の羽生田氏から日産の取り組みを聞かれた田川氏は、これまで180以上の全国の地方自治体と災害連携協定を結び、停電時などにEVから給電するといった事例を説明。また、過疎化の進むエリアでオンデマンドのモビリティサービスの実証実験を行なっていることを紹介した。
また、進行役の羽生田氏は「今回は気候変動の対策がテーマで集まっていただきましたが、話を進めていくと人権侵害や生物多様性など、他の課題とも密接に関わっていることが分かった。それを同時に解決していくことも重要なんだろう」と感想を述べ、加えて「数年前に同じようなテーマでディスカッションした際は、気候変動対策や社会課題解決はやればやるほどコストがかかるので、企業だから社会貢献活動はやるけれど利益もださなければいけないといった考え方もあり、なかなかかみ合わないことがあった。でも今日は科学、金融機関、企業と3人の危機感などがそろっていて、好循環する前向きな気持ちになれた。また、来年か再来年に同じディスカッションをしたい」とまとめた。