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ジェイテクト、容積半減を実現するイーアクスル用超小型デフ「JUCD」説明会 トルセンLSDの技術を使い差動制限機能も併せ持つ

2022年8月31日 開催

イーアクスル用超小型デフ「JUCD」

 ジェイテクトは8月31日、バッテリEVなどに搭載されるイーアクスル(eAxle)向けのコンパクトなデフ「JUCD(JTEKT Ultra Compact Diff )」の説明会を開催した。同じデフ強度なら一般的なベベルギヤ式のデフよりも容積が半減するとし、イーアクスルの小型化や高出力密度化させ、結果的にBEVの航続距離向上などに貢献するという。

BEVの航続距離向上や、走行時の安心安全性能に貢献するデフ

 イーアクスルはクルマの電動駆動システムの要として、インバーター、モーター、減速機、デフを一体化したもの。純電気自動車やハイブリッド車だけでなく、通常のエンジン車の4WD化にあたって後輪をモーターで駆動する電気式4WDにも利用されている。また、デフは4輪車には不可欠な装置で、走行中の左右の回転差を吸収しながらトルク伝達を行なう差動装置となる。

 今回開発した超小型デフJUCDは、ジェイテクトがナンバーワン&オンリーワン商品としている「トルセンLSD」のType-Dの差動ギヤ構造と、新たな歯車設計技術・加工技術を足したものとなる。

 主にEV向けとなるイーアクスルを構成するデフの部分を小型化したものとなり、同じデフの強度ならば一般的なベベルギヤ式のデフよりもデフ装置内部の容積がほぼ半減するという。

一般的なベベルギヤ式デフ(左)と超小型デフJUCD(右)

 デフの小型化は、イーアクスルの小型化、高密度化に貢献し、イーアクスルが小型化するとクルマ全体のスペース効率が上がり、EVにおいてはバッテリ搭載性が改善され、航続距離向上に貢献する可能性がある。

 さらに、今回開発のJUCDはトルセンLSDの構造をもとにしているため、緩やかな差動制限特性があり、滑りやすい路面での発進や登坂、旋回時の安定性、直進性の向上などもLSDに似た効果もあり、結果として電費向上や安心安全性能の向上、ドライバーの疲労軽減などの効果が期待されるとしている。

イーアクスルの小型・高出力密度化ニーズは高まる

 発表会では、自動車事業本部 駆動CE室室長の西地誠氏がクルマの電動化傾向や技術動向から説明した。それによるとBEVは2029年にシェア34%で最大カテゴリーになるとともに4WDの比率が高まり、4WD車は前後に同様の出力のイーアクスルを配置することが多くなり、イーアクスル単体の駆動出力は100~200kWが主力レンジになるとした。

株式会社ジェイテクト 自動車事業本部 駆動CE室 室長 西地誠氏

 BEVの駆動バッテリ容量は毎年、容量が増えていく特徴があり、2WDに比べて4WD車のバッテリ容量は2割ほど多くなる。そこで、高い4WD比率と搭載バッテリの拡大傾向は、イーアクスルの小型化、高出力密度化にニーズが高まると予想しているという。

 さらに、各国でイーアクスルの小型化の高い開発目標が掲げられており、日本の経済産業省も2030年に3kW/kgという目標を掲げている。現在のイーアクスルからすれば、半分程度まで小型化が求められているとした。

JUCDは一般的なベベルギヤ式と比べトルク密度は倍

 続いて、JUCDと一般的なベベルギヤ式デフとの比較として、差動ギヤ機能部の容積と、デフの強度トルクの関係を説明した。デフ強度が同等ならば容積は半減し、同等搭載性(容積)ならばデフ強度は倍増する。

デフの強度と容積の関係

 ギヤ構造の違いとしては、ピニオン/プラネットギヤと出力用サイドギヤとの差動ギヤ構造を一新、ヘリカルギヤ化し噛み合い率を向上させ、大径での噛み合い歯幅の増加、出力軸径も増加させ、ピニオン/プラネットギヤ(PG)と出力用サイドギヤの噛み合い数を1.5倍から3倍に増加させた。その結果、デフ強度を大幅に向上させ、高トルク密度化を実現した。

 さらに、JUCDは各ギヤの噛み合い部の負荷や、ピニオン/プラネットギヤ支持部摺動面の負荷が低いことで、高耐久性を確保したとしている。

ベベルギヤ式デフとJUCDのスペックの差の例
一般的なベベルギヤ式デフ
JUCDのギヤ

 シリーズ展開としては、イーアクスルの主力レンジである100~200kW級をカバーし、デフ外径を84mmから116mmまで用意。通常、プラネットギヤセットは3組だが、大径のものには4組と5組の組み合わせを用意し、高い強度のデフを揃えた。

 JUCDはトルセンLSDのType-Dの複合プラネットギヤを含む差動ギヤ構造をもとにしているため、マイルドな差動制限特性があることは、滑りやすい路面での発進や登坂がしやすく、通常ならタイヤスリップ抑制制御で摩擦ブレーキが動作するが、それを抑えられる。

 結果として電費向上や、スリップの軽減で安心安全性能の向上が図られる。同様に旋回時も挙動安定のため摩擦ブレーキの介入を抑えられる。

超小型デフJUCD

 さらに、直進定常走行においても、直進安定性が高まり、ステアリングの微調整操作が軽減され、ドライバーの披露低減や乗り心地向上につながるとしている。

JUCDはジェイテクトの基本理念を実現するもの

 自動車事業本部 副本部長の牧泰希氏は現在のジェイテクトの状況を説明。2021年11月、高性能歯車の試作品を超短期で提供するギヤイノベーションセンターを刈谷工場内に開所したことや、現在、オンリーワンだとする3D歯面修正の設計加工技術を基盤として、自動車業界以外に、産業ロボット業界など多くの問い合わせが来るようになったことなどを紹介した。

株式会社ジェイテクト 自動車事業本部 副本部長 牧泰希氏

 その上で、JUCDはジェイテクトの活動の新たな成果だと位置づけた。牧氏は「オンリーワン」を強調、オンリーワンとされるトルセンLSDの技術に加えて、新たな歯車設計技術・加工技術を足したものとし、ジェイテクトの強みを生かした、歯車技術を通じて貢献するという会社理念につながるものだと説明した。