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ジェイテクトの「高耐熱リチウムイオンキャパシタ」を採用した「リンクレスステアバイワイヤ」EPSシステム 自動運転を見据えたシステムの仕組みを解説
2022年8月22日 10:00
- 2022年7月6日 開催
ジェイテクトは7月6日、同社の自動運転技術に関する説明会を開催。完全自動運転の「レベル4」を見据えた「高耐熱リチウムイオンキャパシタ」を用いたEPS(電動パワーステアリング)のシステムについて紹介した。
最初にジェイテクト 自動車事業本部 事業統括部 事業企画室 新商品企画グループ グループ長 山本康晴氏が同社のステアリング開発ロードマップについて紹介。
ステアリングの電動化への取り組みとして、1988年に世界初のESPをスズキ「セルボ」に搭載し量産を開始したことから始まり、新たな価値として自動車の速度に応じてステアリングギヤ比を変化させることができる「E-VGR」を2002年に量産開始するなど、減速機の構造などを変化させつつカバーレンジを拡大。小さな軽自動車から徐々に大きなクルマに対応していった。
今後、リンクレスステアバイワイヤシステムや、バックアップ電源システムによって、さらに自由度を持たせたシステムの量産を進めていく予定としている。
また、これまで手足を使って行なっていた運転が、近い将来には運転に集中しなくても動かせるようになる世界が来ると予想。パワートレーンにおいても電動化が進み、物流や移動の利便性が向上する一方で、“運転する楽しみ”も継続していくとした。
これらを踏まえ、ジェイテクトはステアリングサプライヤーとして、これまでのよさを磨き上げつつ、リンクレスステアバイワイヤシステムなどを活用し、利便性と快適性を高めた「スマートステアリング」でインテリジェント化していく世界に貢献していくとした。
ジェイテクトにとっての機能安全「ISO26262」とは
続けて、ジェイテクト 自動車事業本部 技術企画部プロセス開発室SRグループ グループ長 井上裕康氏が機能安全となる「ISO26262」の概要を説明。
ISO26262は、2011年に発行された電気/電子に関する機能安全についての国際規格。自動車業界において統一した安全基準がなく、自動運転に対応していく世界安全基準が必要であるとして策定された。
機能安全の“機能”とは、EPSシステム、そこに内蔵されるコントローラー、それらを監視する安全装置の役割を意味しており、同社ではコントローラーの故障を検知してクルマとEPSシステムを安全状態にするなど、安全装置によって実現されている安全性のことを特に機能安全と呼んでいるとのこと。機能安全がどのように達成されているのかは、正しい開発プロセスが実践されることと、妥当な安全設計が適用されることの大きく2つあると紹介された。
この“妥当な安全設計”とは、“メーカーから要求されるリスクアセスメントの項目を満たせるかどうか”ということだといい、メーカーから安全目標とASIL(Automotive Safety Integrity Level)というリスクランクが設定され、それに向けて安全活動を行なっていくという。このASILは「故障をしたときに即時に危険がおよぶかどうか」「事故が生じた際にどのような危険につながるのか」「故障が生じた際にドライバーがどこまで制御できるか」の3つに大きく分けられ、これらをいかに安全な状態にするかというのが機能安全活動になるとのこと。
また、クルマに適用されている安全設計は「壊れないように設計する」「壊れても安全な状態にもっていく」「壊れた際にウォーニングをつけて使用者に知らせる」の3つが主なものだといい、「壊れても安全な状態にもっていく」という部分に該当するのが、同社が定めている「JFOPS」というものにつながっていくとした。
ジェイテクト独自の規格「JFOPS」
このJFOPSについては、ジェイテクト 自動車事業本部 先行システム開発部 第1開発室 室長 高橋俊博氏が説明。
JFOPSとは、冗長設計EPSシステムのことで、レベル3自動運転のEPSシステムは「システムが責任を持つため、必ず動き続けなければいけない」ということから、“すべての故障に対するアシストができる”という定義のもとに設定されている。EPSが停止するとステアリングが重くなり操作ができなくなってしまうため、それを避けられるようにアシスト継続性をいかに高めていくかという取り組みの中で設定され、0~4の5段階で定義される。それぞれ、故障時にはセルフステア(システムが勝手にステアリングを操作してしまう)を絶対に起こさないという前提の上で定義がされている。
EPS黎明期にはシステムを止める「JFOPS0」が多かったものの、車重の重いクルマへのEPSの搭載が進むにつれて、EPSシステムが停止してステアリングが重くて動かせないという状況が生じかねないことから、ハードウェアはそのままで、万が一どこかが故障したときに代替的に制御を行なうフェールオペレーションの考えを採用した「JFOPS2」を開発。その仕組みを取り入れたEPSは2009年にレクサス「RX」に初搭載され、特定のハードウェア故障は機能低下を伴うアシスト継続が行なえるようになった。ただし、大きな振動が発生し、操作が困難になってしまうなどの弊害があったため、それを改善するために、マイコンと電源の故障以外に関してはアシスト継続になる「JFOPS3」が開発され、2015年にトヨタ「アルファード」「ヴェルファイア」に搭載された。
さらに、すべてのシステムにおいて冗長性を持たせた「JFOPS4」を開発。マイコンや電源も2つのシステムを持つことで、万が一の故障においてシステムがダウンすることなくEPSによるアシストを継続可能となった。2020年からレクサス「LS」、トヨタ「MIRAI」、日産「アリア」などに搭載が始まっている。
このJFOPS4はメイン系統の演算結果をサブ系統にも伝達し、2系統で制御を行なう仕組み。メイン系統に故障が生じた場合は残存するサブ系統で制御を行ない、正常時には演算計算をしていなかったサブ系統のマイコンで制御を行なうという。これにより、自動運転レベル3にあたるような、システムに制御を任せる場面でにおいてJFOPS4の活用が見込まれるとしている。
今後は、レベル3並みの機能を持った「レベル2+」車両のような高レベル自動運転車両や、電動化に伴う車両重量の増加や従来はEPSの搭載ができなかったHeavy Duty車両などの重いクルマへのEPS搭載、故障した際にシステムでの制御を継続しなければならない機械的接続のないリンクレスステアバイワイヤへの適用など、JFOPS4のような冗長性度合いの高いシステムの採用が増えると推測されるとした。
シャフトのない「リンクレスステアバイワイヤ」が広げるクルマの可能性
リンクレスステアバイワイヤシステム「J-EPICS」については、ジェイテクト 自動車事業本部 先行システム開発部 第1開発室 第1開発グループ グループ長 泉谷圭亮氏が解説。
リンクレスステアバイワイヤシステムは、従来のEPSと異なりステアリングとタイヤの間に機械的な接続構造がないため、搭載性がよく、高出力のEPSにより大きな車種にも対応可能となり、これまでのEPSではできなかった新たな価値を提案できるという。
具体的にはステアリングギア比を自由に調整できるほか、操舵感と車両ダイナミクスを個別に適用できるため、車両のレスポンス向上に寄与。これにより、従来のEPSに比べて低速時の車両取りまわし性や車線変更時の車両応答性が向上するとした。
また、不要なロードノイズをカットし、必要なロードインフォメーションのみを伝達することで運転時のドライバーの疲労軽減に寄与。車室内へのエンジンノイズが軽減されることにより静粛性の向上も見込まれる。
さらに、ステアリングホイールの動きを自在に制御できるため、ADASの制御中にタイヤの角度が変わってもステアリングが動かなかったり、自動運転時にドライバーの操作介入を排除したりといったことも可能となる。これにより、ドライバーによる操舵で衝突に至るとADASや自動運転システムが判断した場合、システムによる操舵を優先させることで衝突回避も可能になるとした。
そのほかにも、異形ステアリングホイールやリトラクタブルコラム、格納式コラムなどへの対応も可能となり、運転空間の設計自由度が向上。これまでは同乗者に対して提供されてきた広い車内空間がドライバーに対しても提供可能となり、運転席空間が広がることによる移動の質の向上が見込めるとした。
ジェイテクトのリンクレスステアバイワイヤシステムは、現行製品の「C-EPS」と「DP-EPS」「RP-EPS」を組み合わせ、メインMCUとサブMCUを持つ冗長化したJFOPS4のシステムを構築。すべての1次故障時に残存系統で機能を継続可能としている。
なお、ジェイテクトではタイヤの転舵機能を電気信号によって行なうステアリングシステムのことを「J-EPICS」(JTEKT Electronics Performed Intelligent Control Steering)と総称。現在は操舵ユニットと転舵ユニット、それぞれに対するJFOPS4 MCUに、車両側の電源が失われたときのバックアップ電源といった構成を想定しており、これらすべてがジェイテクト製品で提案可能となっている。また、操舵ユニットについてはレバーやボタン、端末からの指示といったさまざまなケースが将来的に考えられるとして、転舵ユニットからの必要な路面情報は、従来のステアリングホイールだけでなく、車両統合制御ECUなどへの伝達も可能としているとした。
現在はリンクレスステアバイワイヤシステムの基盤技術の確立をすべく開発を進めており、2025年ごろ以降にはリトラクタブルコラムを実現し、運転者の快適性が向上した次世代コクピットを、2030年ごろ以降にはステアリングホイールレスを実現した次世代キャビンを目標としているとした。
「高耐熱リチウムイオンキャパシタ」のステアリングシステム用バックアップ電源への活用
ステアリングシステム用バックアップ電源となる高耐熱リチウムイオンキャパシタについては、ジェイテクト 蓄電デバイス事業部 蓄電デバイス開発室 室長 三尾巧美氏が説明。
JFOPSで移動の質を上げる高い自動運転を実現しようとすると、システムの安全性を非常に高く作り込まなければならないため、ジェイテクトではMCUを2系統化して全回路を冗長化することでアシスト継続を行なえるようにしているが、2系統用意されている車両電源が同時に故障するとアシストが停止することとなってしまうという。それを回避するため、同社製品の高耐熱リチウムイオンキャパシタを採用したステアリングシステム用のバックアップ電源を開発。車両側の電源を常に監視して、万が一の故障の場合は通常時に満充電にしておいたキャパシタの供給経路を変更し、ステアリングシステムへ電源を供給。安全に路肩へクルマを止められるようにするシステムが採用されている。
また、このバックアップ電源システムはステアリングだけでなく、ドアの解錠/施錠や電動ブレーキ、電動パーキングブレーキなど、ほかのバイワイヤ化したシステムへの展開も可能。さらに、ジェイテクトの高耐熱リチウムイオンキャパシタは従来のキャパシタに比べて蓄電量が多いため、これまで個別で搭載していたバックアップ電源システムを1つに統合することもできるとしている。
現在は日野自動車のダカールラリー参戦車両のハイブリッド主電源や、水素燃料電池ドローンの補助電源として採用。今後、短時間で充電が完了するストレージや、バックアップ電源、瞬間的な電力のピークカット、発電量が安定しない再生エネルギーの電力変動を滑らかにするなどの活用が見込まれている。