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トヨタとJERA、電動車の使用済みバッテリを使い切る「大容量スイープ蓄電システム」の内部公開

2022年11月9日 発表

JERA四日市火力発電所構内に設置している「大容量スイープ蓄電システム」

 トヨタ自動車とJERAは11月9日、JERA四日市火力発電所構内に設置した、電動車の使用済みバッテリを再利用する「大容量スイープ蓄電システム」を報道関係者に公開した。

 同システムは電動車の駆動用バッテリを再利用した大容量の蓄電システムで、10月27日より運転開始しているもの。今後、中部電力パワーグリッドの配電系統に接続して、系統用蓄電池としての充放電運転を行なっていく予定。

 JERA四日市火力発電所構内で行なわれた同システムの見学会では、JERA 技術経営戦略部長 坂充貴氏、トヨタ自動車 新事業企画部 エネルギー事業室 バッテリー事業グループ 主任の三木宏紀氏らが登壇して、同システムの概要を説明した。

株式会社JERA 技術経営戦略部長 坂充貴氏

 JERAの坂氏からは、両社が車載電池をリユースする大規模蓄電システムの開発・運用に取り組む背景について説明があり、蓄電池は再生可能エネルギーの導入拡大に必要な調整力として今後需要が拡大が見込まれるとともに、使用済の電動車用バッテリから電池の材料となるコバルトやリチウムなどを回収して蓄電池として有効活用することが求められるといったクリーン電力の安定供給と資源循環を進めるために行なっている背景が語られた。

 両社は、これまでに2018年度〜2019年度にニッケル水素電池による小規模実証、2020年度にリチウムイオン電池による小規模実証、2021年度にニッケル水素電池、リチウムイオン電池の小規模ハイブリッド実証を行なっており、2022年度については、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、異種電池による大規模ハイブリッド運用を開始する運びとなった。また、資源循環にあたっては、高純度・高回収率、低CO2が実現可能な非焙焼式でのリサイクルプロセスも開発中であることが明かされた。

 今回公開された「大容量スイープ蓄電システム」は、JERA四日市火力発電所に構築されたもので、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、バッテリEV、燃料電池車といった電動車で使用された駆動用バッテリを再利用。小型のコンテナを4つ並べて作られた倉庫が計3つ、車両にして400台分の使用済みバッテリが倉庫内に並べられていた。

 施設の規模は485kW/1260kWhといい、今後、中部電力パワーグリッドの配電系統に接続して、系統用蓄電池としての充放電運転を行なっていく予定。将来的には2020年代半ばに供給電力量約10万kWhの導入を目指すとしている。

倉庫内に並べられた使用済みの電動車用バッテリ。車両1台分の搭載バッテリを1つの単位に、電池の状態を管理していく

 これら蓄電システムで蓄えた電力について、坂氏は「通常のスポット市場へも電力として供給できますし、調整市場でも取引できます。再生可能エネルギーの横に設置してパッケージで提供する、分散型というようなモデルケースもあり、いろんな使い方ができる。そういったものを順次系統に繋げながら、技術的に確認していこうというのが今回の取り組みです」と説明した。

使用済みバッテリーを使い切る「大容量スイープ蓄電システム」

トヨタ自動車株式会社 新事業企画部 エネルギー事業室 バッテリー事業グループ 主任の三木宏紀氏

 トヨタが開発した大容量スイープ蓄電システムは、性能や容量の差が大きい使用済みの車載電池を扱うことが可能となるスイープ機能を搭載したことで、電池の劣化状態を問わず、かつ異種電池が混合した状態でも容量を使い切ることを可能にしたという。会場では、スイープ蓄電システムの動作原理を説明するデモ機が用意され実際にデモも行なわれた。

スイープ蓄電システムの動作原理を説明するデモ機
デモ機は10台分の使用済み駆動用バッテリで構成されたシステム。容量不足となった電池は、システムが運転中であっても、1台分のスイッチをOFFにすることで電池交換を可能にしている
電力変換装置を使用しないでも直流電力と交流電力を生成できる

 スイープ蓄電システムの特徴について、トヨタの三木氏は「われわれのシステムは、電池のセル、もしくはモジュールパック前に安価な低圧MOSという半導体スイッチをつけ、それによって電池を使う、使わないといった、ON/OFFの機能を設定しております」と、電池毎に安価な低圧MOSを用いた電池ON/OFF切替回路を設定したこと、接続数を変え任意の電圧生成と電池ダイレクトの直交流変換を実現させたことなどが紹介された。

 そのメリットとしては、電力変換装置(コンバーター・パワーコンディショナー)が不要で、すべての中古電池を選別せず・種類不揃いのまま使えること、また、システム運転を止めずに個別解列・電池交換が可能ということが説明された。

スイープ機能を実現する基盤

 電動車両用の駆動用バッテリは、走行中にも充電と放電を繰り返すなど短いサイクルでの充放電性能が求められる。一方、おおよそ1日単位といった緩やかなサイクルで充放電をくりかえすスイープ蓄電システムでは、駆動用バッテリとしては使用済みとなったバッテリでも十分に使える性能であるという。その電池寿命を示す一例としては、電動車両で約15年使用された駆動用バッテリにおいても、同システムに組み込むことでさらに15年程度使用することができるという。最終的に使用済みバッテリはリサイクルされることになるが、今あるカタチでその電池容量を使い切ろうという、資源の有効利用につながる取り組みであると感じた。