ニュース
住友ゴム、タイヤセンシングコア技術の自動車メーカー導入決定を山本悟社長が年末会見で明かす
2022年12月21日 12:11
- 2022年12月20日 実施
新たな中期計画の発表は2023年2月へ延期
住友ゴム工業は12月20日、年末社長会見を実施した。登壇した山本悟社長は、2022年を振り返り、新型コロナウイルスやウクライナ情勢が継続しているほか、「インフレ圧力が一層高まるなど、未だ先行きが不透明な状況で推移している」とコメント。
グループを取り巻く情勢については、「海上輸送コストは改善の兆しが見られるものの、半導体不足や原材料価格高騰の影響が継続している。さらに当社にとって最重要市場である北米や中国の市況が低迷したことで、市販用タイヤ需要が鈍化し、販売や利益に影響を受けた」と解説するとともに、今期の連結績予想を下方修正したことを謝罪した。そして、本来であれば新たな中期計画を発表するタイミングだったが、現状の業績を踏まえ「より本格的な構造改革を行なう必要があると判断し、来年2月の決算発表までの延期を決めた」と報告。
直近の対応としては、地域ごとの状況に応じた価格見直しや、高付加価値商品の拡販による構成改善。さらに、低採算サイズを中心にサイズを削減して、構成改善と生産効率向上を図るとともに、グローバルでのきめ細やかな生産アロケーションでコストの改善と、海上輸送コストを抑制することに加えて、好調な市場にタイムリーにタイヤを供給・販売することで改善を図り、来期はしっかりとした足場固めに取り組むと説明した。
現状の中期計画の進捗については、「高機能商品の開発・増販」「新たな価値の創出」「ESG経営の推進」と3つのバリュードライバーを軸に、2020年から開始している経営基盤強化プロジェクト「Be the Change」の活動をさらに強化していて、風土や組織のあり方に対する課題をあぶり出し、組織体質の構築と継続的に利益を創出する力をつける基盤強化を進めているという。
自動車メーカーへのセンシングコア技術導入が決定
タイヤ事業については、今年7月に中国市場でダンロップブランドから、市販用EV(電気自動車)タイヤ「e.SPORT MAX(イースポーツマックス)」を発売したことにふれるとともに、山本社長は「すでにBYDなど中華系EVメーカーの13モデルへの採用が決定している」と好調さをアピール。また、2023年には欧州市場向けにファルケンブランドから「e.ZIEX」を発売する予定で、競合が多いながらもビジネス拡大に期待を寄せているとした。
そして2030年までに売上高100億円規模への成長を目指しているセンシングコアビジネスの取り組みについては、ロードマップのステップ1となる空気圧温度管理サービスの実証実験を2020年からスタート。そこで得られたデータを解析をして、新たな価値の提供実現を確認したことで2021年から一般ユーザーに販売を開始。今年からステップ2のセンシングコア実証実験を始動させ、2024年の販売開始を目指して着実に進めていることを紹介した。
さらに、自動車メーカーや政府機関との実証実験を進めているなかで、「空気圧低下警報装置(DWS:Deflation Warning System)」「路面状態検知機能」「車輪脱落予兆検知機能」が、2024年に自動車メーカーへ新規導入されることが決定したと初めて明かした。導入メーカーは複数社あるとしたが、国内外を含めメーカー名については伏せられた。
また、こうしたセンシングコアビジネスの拡大を踏まえ、ビジネス化に向けた取り組みをグローバルで加速させるために、2022年1月に中国で立ち上げたソリューションビジネス専門組織に続き、2023年1月には欧州のDWSやタイヤパンク応急修理キット(IMS)のビジネスを運営しているグループ会社「ダンロップテック」内に、欧州自動車メーカーへのセンシングコア技術導入のための専門組織を立ち上げると述べた。この専門組織には日本からも技術者が加わり、日本と情報連携を密にして進めていくことが重要になるという。
タイヤ生産については、米国とブラジル工場の生産能力増強を進めているほか、高機能タイヤ生産のための設備能力置き換えや地産地消化を進めながら、アジアの工場から世界各地に供給保管できる需給体制を構築していくとした。
開発については、冬タイヤ開発拠点である北海道名寄市の内部タイヤテストコース内に「車外騒音試験路面」と「ウェットグリップ試験路」を有した全長1200mのコースが完成し、2023年春から運用すると紹介。内部タイヤテストコースを通年使用することで、増加する規格試験に対応し、安全性能と環境性能を備えたタイヤの開発を進めると説明。さらに商品力も向上していて、新車用タイヤとしての納入が拡大していることや、ドイツ自動車連盟の実施するタイヤ磨耗テストで高評価を獲得したと報告した。
研究開発については、日本電気との協業で「タイヤ設計AI」を開発し、体系化が困難な“匠のノウハウ”のAI化に成功。匠の思考プロセスを見える化することで、若手設計者の業務効率化だけではなく、技能伝承も可能にしたと説明。
このAIを活用して若手設計者をより高度な技術開発に集中させるとともに、将来は材料開発などと連携した「タイヤ開発AIプラットフォーム」を構築していくとした。また、トヨタ自動車のクラウド材料解析プラットフォームサービス「WAVEBASE(ウェブベース)」を活用し、ゴム材料解析時間の大幅な短縮や天然ゴム利用に関する研究の進展など、他企業や大学などの研究機関と共同で、先進的な研究に取り組んでいると紹介した。
企業で掲げているESG経営(Environment[環境]、Social[社会]、Governance[ガバナンス])については、福島県の白河工場に太陽光発電パネルや水素ボイラー設置を完了させるなど、製造時カーボンニュートラル対応の実現に向けた準備を着実に進めていることなどを紹介した。
2023年は3つの方針のもと足場固めに注力する
最後に山本社長は、日々変化する環境を踏まえつつ策定を進めている新中期計画では、収益力を高めるための企業変革を優先事項として進め、将来あるべき姿を実現するために必要な備えや種まきも並行して取り組むと説明。とにかく2023年は3つの方針を掲げて、しっかりとした足場固めに注力するとした。
具体的には第1の方針として、カーボンニュートラルに向けた取り組みや、CASEやMaaS革新といった変化に対応し、持続可能な事業を展開するためには大きな投資も必要となることから、当面は将来の飛躍に向けた変革を実行することで、高い収益力を実現する変革に注力。改善が遅れている買収拠点の課題解決を最優先に進めるとともに、選択と集中による全社的な採算性、効率性の改善もあわせて進めるという。
第2の方針は、これまでどおり市場ニーズに素早く的確に対応するため、各事業が独自の発想で技術開発を行ない、さまざまなイノベーションを生み出し、社会や市場に新たな価値を提供できるよう開発生産を加速させる。
第3の方針としては、世界中の拠点や部門が同じベクトルに向かって進み、全体最適で意思決定し、企業理念「Our Philosophy(アウア フィロソフィー)」を全社員共通の寄りどころとして、多様な力を結集し、1人ひとりが生き生きと働き、最大のパフォーマンスを生み出す職場で変化を乗り越えられる会社を目指すと締めくくった。