ニュース

アウディ×パワーエックス、「EVが当たり前の生活は本当に実現するのか?」持続可能な社会に向けたトークショー

2023年1月20日 実施

アウディブランド ディレクター マティアス・シェーパース氏とパワーエックス 取締役 兼 代表執行役社長 CEOの伊藤正裕氏によるトークショーが実施された

 アウディ ジャパンは1月20日、年頭記者会見「Audi New Year Press Confarence 2023」で、フリーアナウンサーの中田有紀氏をファシリテーターに迎え、「3つのキーワードから紐解く持続可能な社会とは?」をテーマにしたトークショーを行なった。登壇したのは、アウディブランド ディレクター マティアス・シェーパース氏と、充電に関する事業提携の基本合意書を締結したパワーエックス 取締役 兼 代表執行役社長 CEOの伊藤正裕氏。

 パワーエックスは「永遠にエネルギーに困らない地球」をビジョンに掲げ、大型の蓄電池を日本で製造販売する新興企業。現在も日本で最大規模となる大型蓄電池の工場を作っている真っ最中という。

パワーエックスの事業内容
パワーエックスの蓄電池
電気運搬船舶のイメージCG

 事業の柱は大きく3つあり、1つ目は太陽光発電所や風力発電所、大型工場や倉庫などに、ソーラーパネルが発電しない夜間や無風のときでも電力を使えるようにするための「蓄電池の販売」。2つ目は今年の夏から、まず東京都内10か所を目途に展開する予定という超急速かつ再生エネルギーを使った「EV(電気自動車)用の充電ステーション」の運用。3つ目が電気があまっているところから足りないところへ電気を運ぶ「電気運搬船舶」の開発と製造としている。

テーマは「3つのキーワードから紐解く持続可能な社会とは?」

ファシリテーターを務めたフリーアナウンサーの中田有紀氏

1つ目のキーワードは「BEV」

 1つ目のキーワードは「BEV」(バッテリ電気自動車)で、アウディとして2023年以降のサスティナビリティへの取り組みなどを聞かれたシェーパース氏は、「アウディに22年間勤めていて、もちろんエンジン(内燃機関)も大好きで捨てがたい気持ちもあるが、自分たちが楽しみたいからといって、子供たちの未来を犠牲にする訳にはいかない。そういった価値観に変わってきた。それと、まわりから動かされるのではなく、率先して動こうというのがアウディ全体の考え。すでに2033年には内燃エンジンの生産を停止すると宣言していて、当然最初は社内でもショックでしたし、サプライヤーに対しても同様、エンジニアに対しても、今まで培ってきたスキルが不要になる世界がやってくるから、われわれもそれに合わせなきゃいけない。そこに期限を設けただけのこと。さらに2026年以降に発表するモデルはすべてEVにすると決まってるので、今はまだやりたくないけど、いずれやらなければならないといった考えの人を後押しするメッセージにもなっているのかなと。これでアウディブランドの積極性と真剣度を感じていただけるかと思います」と紹介した。

アウディの掲げているロードマップ

 それを聞いたパワーエックスの伊藤氏は「2026年まであと3年ということで、ものすごいスピードで変わっていくんだなと感じましたが、考えてみればガラケーからスマホへの切り替えも速かった。より便利になるし、環境にもよくなるし、生活の中で何かを我慢せずに移行できるようになれば、一気に加速するのかなと思いますね」とコメント。

 また、「電動化に関して日本は世界と比べて、個人の考え方やインフラなど遅れを取っている?」という質問に対してシェーパース氏は「遅れているという言葉が合っているかは分かりませんが、台風や津波や砂漠化などわれわれが思っている以上に世界の環境は変化している。そして自動車業界も変化していて、日本はまだEVなのか?水素なのか?といった技術の議論をしているが、もうそんな時間は残されていないと感じている。アウディとしてはもうEVと決めた訳なので、あとは実行するのみ。でも自動車メーカーだけではできない。あくまでパズルの1ピースでしかないので、やはりみんなで変えていかなきゃいけなと思っています」と回答した。

アウディブランド ディレクター マティアス・シェーパース氏

 会場にずらりと並んだアウディのEVについての印象を聞かれた伊藤氏は、「もうどんな用途の車種でもあるんですね。すごくエキサイティングなクルマからラグジュアリーなクルマまで、すごいラインアップだなと思いました」とコメント。また、BEV全体についての印象については、「実は昨年12月に船系の仕事でノルウェーに行ったとき、そこでの移動はタクシーでしたが、すべてEVでした。極寒の世界でも当たり前のように普及していてすごいなと思いました。調べてみたら新車の8割がEVで急速充電器の数も圧倒的に多く、インフラ整備の重要性が分かりました。しかもノルウェーでは、公共駐車場や高速道路代が安くなったりするEV優遇制度があるらしく、国策として国のサポートも充実している。また、日本はまだEVの新車販売比率は1.5%ですが、ドイツは26%もありすごいなと思いますね」と実体験を紹介した。

ノルウェーのEV普及と充電設備
新車のEV比率

 そんな世界の状況についてシェーパース氏は、「EVが軸になることで商品も販売の仕方も変えていかなければならないし、新しい企業も参入してくる。これから新しい土俵で新しい相撲を取らなければいけないが、実は自動車メーカーはそんなにアドバンテージを持っていないと思っている。大きなチャンスがありワクワクもしますが、簡単な話ではない。でも、クルマ文化のドイツと同じように日本もすぐに変わると思います」と締めくくった。

2つ目のキーワードは「チャージング」

お互いの想いを語るシェーパース氏と伊藤氏

 利便性がまだ低いといわれる日本国内のチャージ環境についてシェーパース氏は「今自分がもっとも注目していることで、社内でもクルマのことよりチャージングの話をしているほうが多いくらい。チャージングステーションはEV普及のための最重要項目ですが、実は日本は充電施設の数は決して少なくないです。問題は急速充電器の定義があいまいなうえ、現状は全国7800か所のうち90%以上が50kW未満がメインとなっている点。容量が小さいため充電に時間がかかるし、並ばなければならなくなる。また、24時間営業している施設が半分程度しかないのもインフラとしては弱い。私はこれが大きな課題だととらえています」。

公共の急速充電設置の状況
アウディの急速充電ネットワーク強化プラン

「それに対してアウディでは、待っていても解決しないので積極的にディーラーとともに独自のネットワークを構築している。また、ポルシェと一緒にやっているプレミアムチャージアライアンスも合わせて拡張していきたい。50kWが150kWになれば単純に充電時間は3倍速くなるから時間のメリットは大きいです。また、バッテリはいわゆる満タン(満充電)にする必要はなく、10分だけチャージして、また足りなくなったらそこで充電すればいい。そうすれば並ぶリスクも減ります。そのためにも急速充電ネットワークの構築は必須なのと、上限も世界では800Vや1000Vがあるのに、日本は法規制で400Vが上限。チャデモも1000Vまで技術的には対応できているので、専門家と一緒に内閣府に掛け合って変えていけないかなと思っている」と解説する。

パワーエックス 取締役 兼 代表執行役社長 CEOの伊藤正裕氏

 伊藤氏は「日本ではまだ50kWですが、150kWも増えていて、規制緩和で200kWも見えてきている。200kWなら今の4倍速いですから、待ち時間も例えば60分なら15分、1時間30分なら22分とユーザビリティが全然違う。携帯電話と同様に3Gがきて、4Gがきて、5Gがきたように、スピードが上がってどんどん便利になっている。50kWや150kWみたいな数字だとピンとこない人でも、実際の生活で60分が15分になるとか聞くと実感が湧きますよね。特に日本ではマンションに住んでいる人にとっては、この超急速充電がかなり重要だと思います」とコメントした。

 続いて、政府がEVは充電のために高速道路を一時退出できるようにする制度緩和を検討しているという話題についてシェーパース氏は「これは大きいですよね。高速道路をいったん降りてディーラーで充電して戻れば、パーキングエリアの混雑緩和にもつながりますので大歓迎です。また、今のマンションや高層ビルは普通充電が多く、寝ている8時間くらいで満充電にするスタイルで、これだと充電設備を世帯分設置しなければ成立しない。やはりここにも急速充電を置けば可能性は広がりますよね。それと都市にはハブのような充電施設も作れば、今はどんどんEV自体の航続距離も伸びているので毎日充電する必要はありませんし、ガソリンスタンドのようにさっと利用できる施設があればいいのかなと思います」と展望を話した。

高速・大出力の急速充電器拡充が必要

 パワーエックスの伊藤氏は「ガソリン車は5分で給油できるので、EVも5分で充電できるようになれば、何も生活習慣を変えなくても乗れるはずです。技術は常に発展していて、どんどん充電時間が急速化しているので、いずれ5分、10分の継ぎ足し充電でEVに乗るようになるのは間違いないと思っています。また、バスやトラックのEVは急速充電じゃないと運用できないぐらい時間がかかってしまいます。規制が緩和されて上限が200kWになれば、もっとEVが乗りやすくなると思います。そこでパワーエックスでは、まずは今年の夏に東京都内10か所に急速充電ステーションを開設し、その後も大阪、名古屋、福岡など都市部のパーキングエリア、コンビニ、商業施設など、2030年までに国内7000か所を目指し、誰でも簡単に立ち寄って充電できる施設を作っていきます。いろんな登録や複雑な操作もなく、アプリで簡単に使えるものを考えています」とパワーエックスの事業計画を語った。

パワーエックスの2030年までの展望
さまざまな場所への設置を検討している

3つ目のキーワードは「グリーンエネルギー/再生可能エネルギー」

 地熱に関しては世界3位のポテンシャルを持つなど、グリーンエネルギーの宝庫である日本。そんな各地のグリーンエネルギーの視察や地域との交流を積極に行なっていたというシェーパース氏は「地熱が世界で3番目に多いなんてビックリしましたが、実際に地熱を使ってる割合はケニア以下で、活用するにはもっといろいろな技術が必要になる。でも、まずはカーボンニュートラル社会への議論が重要で、その次にやり方を考えればいいし、やり方は環境が異なるんだから各国で違って当たり前だと思う。アウディではドイツの工場で、作る工程ではすべて再生エネルギーを使用していて、2025年までにすべての工場をカーボンニュートラル化すると宣言している」と説明。

アウディは2025年までに全工場をカーボンニュートラル化させると宣言している

 続けて「クルマ用のライフサイクルで発生するCO2排出は、部品を製造しているサプライヤーが25%、車両を組み立てている工場が25%、そして利用中が50%と多い。真のサスティナビリティを掲げるのであれば、クルマを売りっぱなしでは話にならないのです。日本はまだまだ自然エネルギーの割合が少なく、全体の22%ほどしかない。決してわるい数字ではないが、スウェーデンやブラジル、カナダと比べても、先進国の中で見ても少ない。内訳としては太陽光が伸びていて、これは15年くらい前に積極的に太陽光技術に取り組んできた結果。とはいえ、10年後の2033年でも自然エネルギーの利用は4割弱しかない」とシェーパース氏は語る。

世界の電力消費に対する再生エネルギーの比率
日本の全発電電力量に占める再エネの比率
2030年の日本の全発電電力量に占める再エネの比率見込み

 パワーエックスの伊藤氏は「電気って見えないから、どこが発生源かを考えないんですよ。たぶん、これを考えていく時代になるんじゃないかなと思います。また、間もなく太陽光が一番安い電源になるんです。原子力よりも風力よりも安いから太陽光の電源を使う。これは経済合理性の観点で考えれば当たり前です。また、日本は2030年までに太陽光発電を今の2倍まで増やす計画ですが、当然昼間しか発電できないので、夜間はまだ火力発電に頼っている。なので夜間にEVを充電すると、再生エネルギーは12%しかないので、すぐ使い終わってしまう。そこでパワーエックスで蓄電池を作り、太陽光発電の電力をためて夜間もカバーしている。今後はもっと再生エネルギー率は増えていきますし、夜間の電力もクリーンになっていきます」と話した。

日本の電源構成と価格
再エネ利用率の課題
日本の再エネの対策

 最後にシェーパース氏は「自動車業界としてはもうあまり時間がないという感じがしている。環境はすごく早い速度で変化している。昨年ドイツへ帰省した際も12月31日で外気温が17℃もあった。昔はシャンパングラスを置いていたら凍ったのに……というくらい環境は変わっているんです。でも世界中で走っている自動車の大半はICE(内燃機関エンジン)で、いくらEVが売れているといってもインパクトはまだまだ小さい。なので業界を超えた提携や、もっと議論を交わしていく必要があると思います」とコメント。

 また、伊藤氏も最後に「今年からクリーンな電気を10分ずつ普通に充電できるようになるので、アウディのEVのような魅力的で楽しいクルマに普通に乗れるようになります。いろいろ考えなくても普通に楽しくて、すごい速いラグジュアリーなクルマに普通に乗りながら完全ゼロエミッションモビリティができるようになります。昔のように我慢とかエコとか頑張らなくてもできるぐらい技術が進歩したんだなと感じます」とトークショーを締めくくった。

[Audi] TVCM / 考え方を変えれば、未来は変わる。(Full Ver.) [アウディ ジャパン](60秒)