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SUPER GT挑戦を目指すネクセンタイヤのブランド戦略について森田浩一CTOに聞く
2023年3月3日 00:00
SUPER GT挑戦も見据えたモータースポーツ活動を展開するネクセンタイヤ
ネクセンタイヤ(NEXEN TIRE Corporation)は、2000年の社名変更により誕生したグローバルに展開するタイヤブランド。誕生から23年というタイヤブランドとしては新興ブランドという認識のもと、ブランド価値向上を目指した活動に取り組んでいる。
ネクセンタイヤのブランド価値向上を目指して取り組んでいる活動としては、自動車メーカーの新車装着タイヤの獲得、モータースポーツ活動、欧州のマガジンテストでの評価向上などがあるという。そういったネクセンタイヤのブランド戦略について、ネクセンタイヤのCTO(最高技術責任者)でネクセン中央技術研究所所長の森田浩一氏に話を聞く機会を得たので、ここに伝えていきたい。
まず、森田氏から説明されたのは自動車メーカーの新車装着タイヤに採用されるための取り組みで、ネクセンタイヤではポルシェ、フォルクスワーゲン、三菱自動車のほか世界17の自動車メーカーに新車装着タイヤとして採用されていることが紹介された。
ネクセンタイヤは2000年の社名変更により誕生したブランドではあるが、その前身となる会社の創業は古く、フンアゴム工業として1942年に設立、1956年に韓国内最初の自動車タイヤを生産開始した。その後、1987年にミシュランタイヤ・コリアを設立し、技術提携による生産を開始するなど、現在もタイヤの製造技術については技術提携していたミシュランの影響があり、その流れを汲んでいるという。
ミシュランの流れを受け継いだタイヤ製造技術で特徴となるのが原材料となるゴムを練るミキシングの技術で、ネクセンタイヤの工場では現在でもタンデムミキサー(Tandem Mixer)が使用されている。現代のタイヤ開発において、ウェットグリップ性能はシリカの配合量によってその性能が決まるといい、このタンデムミキサーを使うことで、より多くのシリカを混ぜ合わせることができるという。
森田氏からは具体的な「シリカ」の配合量を示す数字が示され、コンベンショナルなミキサーが80phr配合できるのに対して、タンデムミキサーでは130phrと、より多くのシリカを入れられるという。森田氏は「シリカが多ければ多いほどウエットブレーキ性能はよくなるんです。これはおもしろいことに理由はよく分かってないのですが、シリカを入れると性能はよくなるので、OEタイヤのウエットブレーキ競争に勝とうと思ったらシリカをたくさん入れる競争になるのです」と明かした。
ミキシングの技術に加えて、ネクセンタイヤの生産工場では、「トレッド」「サイドウォール」「カーカス」「ベルト」「ビード」といったタイヤを構成する部材を組み上げる工程が自動化されている。従来型の生産工場ではこの工程は人の手による作業で仕上げられていたのだが、自動化を図ることでユニフォミティの高い製品をバラツキなく作り上げることができるようになった。
森田氏は「全自動化されたタイヤ成形機でユニフォミティがよくて、ミキサーの設備でウエット性能もいい。なおかつ特殊材料は、韓国の優秀なポリマーメーカーが供給してくれる。ネクセンはとにかくOEを突破するためだったら、なんでもありだということで、戦略材料の使い方もこんな贅沢な配合が許されるのかというのが、私がここに入社した時の正直な感想です」と話した。
自動車メーカーの新車装着タイヤ獲得に取り組む理由
取材に伺ったネクセン中央研究所(THE NEXEN univer CITY)は、本社機能も備える研究施設で、韓国の首都ソウルに設置されている。優秀な人材を集めるためなのだろうか、施設内はオフィススペースや研究施設のほか、スタッフが自由に使えるオープンスペースが用意され、“univer CITY”と名乗るように大学のキャンパスのような雰囲気が印象的。
森田氏は「転がり抵抗とウエットブレーキ性能の競争だけだったら、どこのタイヤメーカーでも性能を向上できるんだと思いますが、ハンドリングの領域となるとそう簡単ではないのです。自動車メーカーが言っていることを理解して製品開発ができる、そのインターフェースを揃えているタイヤメーカーは限られてきます」と、そのインターフェースとはハンドリングの領域までタイヤ開発を行なえる人材を確保することが必要ということで、先進的で魅力的なオフィスを用意することには、優秀な人材を確保したいという狙いもあるという。
森田氏は「ヨーロッパのニュルとかアウトバーンを走って、こういうところがこう変だったって言われた時に、それを技術の要素にアナログデジタル変換じゃないですけど、価値観を変換していって、なおかつそこに改善のための基礎技術を入れなければOEタイヤはできないのです。今のネクセンタイヤ会長はそれを体感的に分かっていて、きちんと人材や設備に投資をして、そのパスフローが成立する体制というのを10年前に用意しました。そして最初にアタックしたのがポルシェなんですね」と説明した。
森田氏は「今のところOEタイヤは非常にうまくいっていて、ポルシェが最初でしたがフォルクスワーゲンの『ポロ』『ゴルフ』『パサート』『T-ROC』も全部OEを獲得できてますし、それ以外ではBMW。実はネクセンタイヤ、最近はBMWに好かれているのです」と、各自動車メーカーにネクセンタイヤの実力を認められていることを強調した。
森田氏は「何はともあれ、OEにアプローチしてそれを突破していくにはやはり一定の技術、開発能力とテスト能力が必要で、こういったものをしっかりやっていくためには技術者のクオリティと情熱が必要なのです。ポルシェのOEタイヤがあるということの意味は、ドライバーズインプレッションを技術に適切に落とすことができる経験値があるという意味になります」と明かした。
SUPER GT GT300クラスへの挑戦を見据えたモータースポーツ活動
新車装着タイヤの採用で、ネクセンタイヤが着実に自動車メーカーからその実力を認められていることが分かった。そういった地道な取り組みに続く華やかな世界にあるモータースポーツ活動への取り組みについて、森田氏に聞いてみたところ、日本で開催されているSUPER GT参戦を見据えてモータースポーツ活動を続けていることが明かされた。
森田氏は、もともとは日本のブリヂストン出身。2004年にブリヂストンのモータースポーツ配合開発課長に就任し、念願のF1タイヤ開発を担当することになる。2005年の成績、1勝15敗の責任を取らされる形で更迭された過去を持つが、「もう1回モータースポーツをやりたいんですよ」とその思いを話す。
現在、ネクセンタイヤは、ハンコック、クムホ、ネクセンといった3つタイヤメーカーがガチンコ対決する韓国のトップカテゴリーレース「スーパーレース・チャンピオンシップ(SUPERRACE CHAMPIONSHIP)」や、ブリヂストン、ダンロップがタイヤ供給する日本の「GR86/BRZ Cup」プロフェッショナルシリーズにも参戦している。
森田氏は「今年からレースタイヤをタイヤ研究部の所属にしたので、最新の構造トレンドとか、そういうのをここに入れていくと、今年はちょっとおもしろいことが起きるかなと思ってます」との見通しを話した。
そして、将来的には日本で開催されるSUPER GT GT300クラスへ挑戦を目指すといい、森田氏は「私たちもまだまだ組織が小さいので、とにかくまずはちゃんといい成績を残そうというところで、韓国のレースについては、今年はシリーズチャンピオンがターゲットです。そうやって修行して韓国内で実績を残せた時に、日本のSUPER GTを目指します。やはり、SUPER GTへ出ることで日本の自動車メーカーへも強くアピールすることができるので、GT300のチームと組んで話題作りができないかなと思っています」との意気込みを述べた。
【お詫びと訂正】記事初出時の「THE NEXEN univer CITY」の表記に誤りがありました、お詫びして訂正させていただきます。