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住友ゴム、独自サーキュラーエコノミー構想「TOWANOWA(トワノワ)」構想説明会 次世代オールシーズンタイヤ&EVタイヤの発表も予告

2023年3月8日 開催

住友ゴムの独自サーキュラーエコノミー構想である「TOWANOWA」構想のキービジュアル

新構想「TOWANOWA」で目指す方向を明確に定めた住友ゴム

 住友ゴム工業は3月8日、タイヤ事業における独自サーキュラーエコノミー構想である「TOWANOWA(トワノワ)」構想の説明会を実施した。

 登壇した住友ゴム工業 山本悟代表取締役社長は、「カーボンニュートラルへの急激なシフトや労働人権問題など社会課題への対応といった環境の変化に加え、CASEやMaaSの発展によりモビリティ社会でも急速な変革が起きているなかで、SDGsを推進しながら事業を通じて環境問題や社会課題の解決を目指し、持続可能な社会の実現に取り組んできました。本日はこれまでの取り組みをさらに発展させた、弊社独自のサーキュラーエコノミー型構想を発表します」とあいさつ。

独自サーキュラーエコノミー構想である「TOWANOWA(トワノワ)」構想を発表した住友ゴム工業株式会社 代表取締役社長 山本悟氏

 続けて、発表した「TOWANOWA構想」のネーミングについて、「地球環境とモビリティ社会に永遠(TOWA)の輪(WA)を生み出し、持続可能な未来の実現に貢献したいという意味を込めています」と説明。また、目指す姿については、「限りある資源を循環させて有効利用するとともに、センシングをはじめとした、弊社独自のビッグデータを活用して、お客さまに新たな価値を提供することで、次世代モビリティ社会をはじめとした持続可能で、安全安心快適な社会の実現に貢献すること」と語り、引き続き住友ゴムの取り組みに注目してほしいと訴えた。

TOWANOWAの役割

サステナブルの領域とビッグデータの連携で新たな価値を創出

 続いて、サーキュラーエコノミー推進部長 石野崇氏から、さらに掘り下げた「TOWANOWA」構想の説明が行なわれた。

 石野氏によるとTOWANOWAは、サーキュラーエコノミーの実現を目指す青色のサステナブルリング(下段)と、バリューチェーンの各プロセスで得られるデータを連携活用し、新たな価値を提供するオレンジ色のデータリンク(上段)で構成されていて、サステナブルリングでは、タイヤに関するものの流れを点線のように各プロセスでつなげて循環させ、資源の無駄を排除し、サーキュラーエコノミーを実現させる。データリングでは実線で示すように、バリューチェーン上の各プロセスから収集したビッグデータ、例えば原材料のデータやタイヤの使用データなどを連携させ、シミュレーション技術、AI技術をさらに進化させ、これらをタイヤ設計、材料開発、使用段階など、各プロセスで利用して新たな価値を創出し、持続可能な社会に安心と喜びの提供を目指すという。

住友ゴム工業株式会社 サステナビリティ経営推進本部 サーキュラーエコノミー推進部長 石野崇氏

 具体的な解説は、下段サステナブルリング上にある「企画・設計」「材料開発・調達」「生産・物流」「販売・使用」「回収・リサイクル」の、それぞれのカテゴリーごとに行なわれ、これまで積み上げてきたさまざまなデータと、サステナブルの領域で培ってきた技術をいかに融合させて結果を出していくかを紹介した。

企画・設計プロセス

 企画・設計プロセスでは、デジタル技術の1つタイヤライフシミュレーションによって新品時だけでなく、摩耗後の性能も高精度に予測してタイヤの生涯設計を進化させるとともに、軽量化、低燃費化による省資源技術と安全性を高める技術「スマートタイプコンセプト」をさらに追及して、具体的な目標としてタイヤ重量を20%軽量化し、転がり抵抗も30%低減した次世代EVタイヤを2027年に発表するとしている。

 軽量化については当然、部材であるゴムの厚みを薄くすることになるが、そのためには生産工程でより均一に混ぜて摩耗しにくくするなど、さらなる材料の改善によって少ない部材でのロングライフ化を目指すという。

企画・設計プロセスについて

材料開発・調達プロセス

 材料開発・調達プロセスでは、これまでにも高機能な材料設計と材料解析技術で性能変化の予測を実現しているが、今後は実験で得られたデータ解析をより高速化させるために、トヨタ自動車が事業化に取り組んでいるクラウドプラットフォーム「WAVEBASE」を活用して開発スピードの加速化を図るという。また、天然ゴム研究では、産学協業で開発を進め、天然ゴムの改質による性能向上と生産性向上を目指し、サステナブル原材料の採用比率を2030年には40%まで高め、2050年には100%を目指すとしている。

 ちなみに現状のサステナブル原材料の採用比率は約33%とのことで、2030年の40%は簡単ではないもののロードマップは描けているとしている。ただし、2050年の100%については技術進化のスピードにも左右されるため、現状ではまだ明確なロードマップは作れないという。

材料開発・調達プロセス

生産・物流プロセス

 生産・物流プロセスでは、デジタル技術を応用することで、生産前の開発段階での品質制度の向上や省エネルギー化、さらに需要予測を高度化することで無駄を省きつつ、シミュレーションの活用による開発効率化で省資源化を推進し、生産効率を向上させるほか、生産時に使用するエネルギーに関して、太陽光と水素を活用した取り組みを進めていて、2030年にはEV、帆船、ドローンなどの輸送方法の選別、地産地消のアロケーションの推進により輸送時のCO2排出量10%削減。国内輸送のモーダルシフト化率30%を目指すという。

 水素エネルギーの活用については、福島県にある白河工場の生産システムでの実証実験を2021年8月から開始していて、今年1月に水素ボイラーと太陽光の自然エネルギーを利用し、製造時カーボンニュートラルを達成したタイヤの生産に成功。今後は白河工場全体にこの技術を展開し、さらには国内工場、海外工場にも水素利用を拡大していくことを検討していると明かした。

生産・物流プロセス
クリーンエネルギーでのタイヤ生産

販売・使用プロセス

 販売・使用プロセスでは、すでに独自技術センシングコアで走行中の車両データを検知収集するほか、空気圧センサー、RFID(非接触無線タグ)などからもデータを収集して、安全走行に貢献するタイヤソリューションビジネスの構築を推進中。また、交換時期をお知らせするタイヤメンテナンスサービスをはじめ、スマートタイヤコンセプトの「アクティブトレッド技術」を搭載した安全性を高めたタイヤの提案や、センシングコア技術による車輪脱落の予兆検知など安全性の向上と省エネ、ロングライフの提案を行なうという。

販売・使用プロセス

 具体的にはアクティブトレッド技術を搭載した次世代オールシーズンタイヤを2024年に商品化予定といい、この開発中のタイヤについて山本社長は「つい先日、北海道のテストコースで乗ってきたけれど、ドライ、雨、雪、氷など、路面状況によって最適なグリップを発揮してくれるようになっていて、まだこれから仕上げる段階だが、とてもよいレベルまできている」と感想を述べていた。

開発中のアクティブトレッド技術を搭載した次世代オールシーズンタイヤで走った感想を述べる山本社長

 これまでアクティブトレッド技術の詳細は明かされていないが、オートモーティブシステム事業部長 兼 タイヤ技術本部長の松井氏によると、「温度や水分などによってその路面に適合した性能が表面に出てくるようなもので、環境でタイヤの特性が変わり、違いを誰にでも体感できるように開発を進めている」と現状を明かした。また、将来的にはEV用やスタッドレスタイヤへの適用も検討しているという。

センシングコアについて

 センシングコアについて石野氏は、「空気圧、荷重、路面状態、摩耗検知ができるソフトウェアである」と改めて紹介。また、追加センサーやバッテリ交換も不要なメンテナンスフリーが特徴で、すでに技術確立している4つの機能に加え、新しい機能を拡張していくことで、来るべきCASEの時代にさまざまな面で貢献できると見据え、ビジネス化を急ピッチで進めていると説明。

 今現在5番目の機能として公表されている「車輪脱落予兆機能」は、実際に大型トラックを生産・運用している自動車メーカーや企業への提案を行なっているほか、国によって規制が異なることを踏まえ、今年から日本・中国・欧米とそれぞれ独自で部署を設けて提案していると明かした。2030年にはいずれかの地域(または複数の地域)で、センシングコアの5つの機能を搭載したクルマが走る世界を目指すとしている。

 オートモーティブシステム事業部長 兼 タイヤ技術本部長の松井氏によると、センシングコアの機能はすべて一律に搭載されるものではなく、クライアントが選択したものを自由に組み込めるようになっていて、多くの機能を搭載すればそれだけコストも膨らむ。生産については最終的にセッティングが必要になるため、機能を多く搭載しても少なくてもあまり工数は変わらないそうだ。

住友ゴム工業株式会社 常務執行役員 オートモーティブシステム事業部長 兼 タイヤ技術本部長 松井博司氏

 また、詳細が伏せられている6番目、7番目の機能についてオートモーティブシステム事業部長 兼 タイヤ技術本部長の松井氏に聞いてみたところ、6番目はスポーツタイヤに搭載するような機能を検討しているとのことで、タイヤが一番グリップする状態(温度)が分かる技術。モータースポーツ界ではすでに温度センサーを使ってタイヤの状態をドライバーが確認することは行なっているが、温度センサーではなくセンシングコアの機能として、一般車向けに開発しているという。

 そして7番目の機能は、段差などで強い衝撃を受けた際、タイヤのサイドウォールに小さな亀裂が入ったことを検知できる機能を検討しているという。一気にパンクするような亀裂ではなく、表面のゴムは穴が開いておらず小さな気泡のような膨らみができるような状態を検知したいとしており、特に外側は目視で確認できるが内側(ボディ寄り)のサイドウォールは確認しにくいことから、この技術が生きてくるという。中でもEVは車重が重い傾向にあるので、タイヤが受ける衝撃も大きくなることから、こういった機能が求められるとのこと。

回収・リサイクルプロセス

 回収・リサイクルプロセスでは、センシングコア、タイヤ空気圧センサー、RFIDで得られるタイヤの個体情報やタイヤの使用履歴データを活用することで、リトレッド回数の向上や材料リサイクルの促進を実施。また、これらのデータを活用しつつ、良質なリトレッドタイヤの回収や廃タイヤの回収を推進するとしている。さらに、エンドオブライフタイヤ(End-of-Life Tires)を無駄にせず、次のタイヤの原材料として活用することで、廃棄物ゼロのサーキュラーエコノミー型の生産を実現する未来を目指す。

回収・リサイクルプロセス

 最後に石野氏は、「これからはサステナブルリングの出発点であるタイヤの商品設計段階から、タイヤがその役割を終えた後の資源循環まで考慮した、価値のあるタイヤを提供するとともに、データリングでは各プロセスで収集したデータをAI、ビッグデータ、シミュレーションに活用することで各プロセスを高度化し、地球環境に配慮したタイヤ作りを実現させ、今回発表した『TOWANOWA』構想により持続的な価値のある商品を提供ができるサーキュラーエコノミー型の未来を目指していく」と締めくくった。