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PS5版『グランツーリスモ7』のPS VR2対応について、プロデューサー山内一典氏に聞く

2023年3月24日 開催

「グランツーリスモ」シリーズ プロデューサーの山内一典氏に話をうかがった

 PS5版『グランツーリスモ7』は、2月21日のアップデート(1.29)で、PS VR2(PlayStation VR2)に完全対応した。PS VR2が持つ次世代機能が活用され、アイトラッキング機能を用いて視線方向を高解像度で描画する技術「フォビエートレンダリング」や音で空間を表現する3Dオーディオへの対応などにより、より没入感の高いゲームプレイを実現させている。

 記者も実際にPS VR2で『グランツーリスモ7』を体験してみたが、モニターを前にプレイするのとは次元の違う没入感を体験することができた。古い話で恐縮だが、2次元のレースゲームしか体験してこなかった時代に、セガが開発した3DCGによるレーシングゲーム『V.R. バーチャレーシング』を体験して以来の衝撃的な体験であった。

「グランツーリスモ」シリーズ プロデューサーの山内一典氏がCar Watchを含めたメディアインタビューに応え、PS VR2対応のアップデートリリース後の反響や、VR酔いに関して不安がある人に対してのアドバイスも聞けたので、ここにお伝えしたい。

PlayStation VR2に完全対応した『グランツーリスモ 7』で走ってみた

──PS VR2対応において苦労されたところなどがあれば聞かせてください

山内氏:GT7のPS VR2対応というのは、GT7の開発を始めた時からターゲットにしていました。『グランツーリスモSPORT』でPlayStation VRへ対応した時というのは、PS VRのハードウェア開発のタイミングと、『GT SPORT』の開発タイミングとは、必ずしもシンクロはしていなかったので、ある意味限定的な対応にとどまっていたわけです。けれども、GT7に関しては、当初からネイティブVRのタイトルとして開発されたっていう経緯があります。 結果として、GT7というのはネイティブな4K60pのタイトルになったわけですけれども、それは実はPS VR2への対応を進めていた結果、自動的にそうなったってところもあります。

──フレームレートをきちんと出すっていうのは大変でしたか?

山内氏:大変ですね、あのフレームレートを出すっていうのは2つの要素が必要で、1つはクオリティを落とさずにいかに軽いデータを作るのかっていう、これは主にアーティスト側の仕事です。で、あともう1つはいかにそれを高速にレンダリングする、これはエンジニア側の仕事ですけれども、それらが組み合わさって僕らは最適化って言ったり、オプティマイズって言ったりしますけれども、とにかくカリカリにオプティマイズチューニングしないと、あのVRって動きませんね。

──PS VR2対応でやり残した部分はありますか?

山内氏:えっと、PS VR2に関してはそれはないですね、割とやりきった感じがしています。 あの、VRって50年ぐらいの歴史があります。けれども、いつかVRできちんとしたレースゲームを作りたいっていうのは、当然うんと昔からあったわけですよね。ただ、それが現実にコンシューマーレベルに降りてくるのには、やっぱりかなり時間がかかりました。で、そこであのほぼフル対応と言えるようなGT7を作れたっていうのは、まあ、ある種の達成として誇っていいんじゃないかと思っていますね。

──リリース後の反響をどのように受けておりますか?

山内氏:このインタビューの前に、ヨーロッパやアメリカのメディアのインタビューを受けましたけれども、皆さんおっしゃるのは、やっぱり本当に最高のVR体験だっておっしゃってくださっていますね。で、YouTubeだとか、そういうものを見ていても、プレイヤーの皆さんが素直にワオッて驚いてくれているので、そこは本当によかったなと思いますね。

 VRへの対応って、ものすごく地味な作業なんですよ。あの、とにかくコツコツと軽いデータを作って、高速なレンダリングをして、さまざまな酔わないための手当てを積み上げてくみたいな。すごく地味で膨大な作業なんですね。だから、なにかリリースする時っていうのは、“どうだ!すごいのができたぞ”っていう感じでリリースしたわけではなくて、“すごく頑張りました”みたいな感じなんですね。ただ、結果的に、すごくそれが報われたというか、きちんと正しくVRに対応するというのは、こういうことだってことがプレイヤーの皆さんに伝わったのは、すごくよかったなと思いますね。

──VR酔いに対してはかなりの配慮をされたと思いますが、そもそもなぜVR酔いは発生するのでしょうか?

山内氏:VR酔いがなぜ発生するのか? ということなんですけれども、僕の理解では、人間の脳というのは、常に大体0.2秒とか0.4秒先のことを予想しながら動いています。つまり、僕らが今感じている今現在という瞬間は、脳がその0.4秒とか0.2秒先のことを予想した現実なんです。

 そうだから、予想をすることで僕らは普段の生活を支障なく送ることができるというか、常に何かが起きてからリアクションするのでは遅すぎることが多いんですね。やっぱり、人間の神経って、すごくスピードが遅いので、こう目から入ってきた情報を脳で処理して、それを例えば手に伝えるとかっていうことを真面目に測ると、やっぱり0.4秒とかかかっているんですよ。

 実際、僕らはその遅れを感じないで済んでいるということは、脳が未来を予測しているってことなんです。で、僕らが意識するよりも前に脳が指令を出しているから、僕らはほぼ同時にステアリングを切ったりしている、あの感覚になるわけです。

 けれども、酔いはなぜ起きるかというと、その脳の未来予測と、実際に起きた結果とのずれが生じた時に酔います。だから、どれぐらい、その脳が予測している通りのことを描画してあげるのか、フィードバックしてあげるのかってことが重要なんですね。

 その点については、すごく気を使っていて、例えば、左右にパンしたり、あるいは上下にチルトしたりする動きっていうのは、すごく酔いやすいですが、それを、人間が自分の意思でそうする分には何も問題がない。なぜかっていうと、それはもう脳が想像していますからね。未来予測していますから、だけど、例えばそれが突然、ガッと視界だけが動いたりすると、もうその瞬間にバっと0.5秒とかで酔っちゃうんですよ。だから、いかにそういう動きを避けるのかっていうのが、VRゲームを開発する上で必要なことです。

 で、レースゲームって基本前にしか進まないので、これはすごく酔いにくい特徴を持っています。なので、レースゲームはすごくVRには合っています。ドライバーのまわりがインテリアに囲まれていて、ある種の基準がそこで見える。それから、外側に景色が見えていて、かつクルマはその場でくるっと回ったりはしなくて、基本前に進みながらプレイヤーの意思で右に曲がったり、左に曲がったりしますよね。ですから、人間の脳が想像することと、ずれることがすごく少ないのです。

 ただ、パーフェクトだとは思っていなくて、人間の脳が要求するさまざまなフィードバック、例えば、ハイバンクのコースを走っていた時に、頭の位置はどこにあるのか、ものすごくハイバンクの時に、例えば頭の位置をちゃんと路面に合わせて傾ければ、視界としては平らな路面を走っているように見えますよね。

 で、ハイバンクの路面を走っている時に、頭を立てて走っていると、当然バンクは斜めに見えてくるわけです。で、そのあたりって実は好みの問題だったりするのですね。あるいは、そういう時、人間がどうするのかっていうのは、その人それぞれ違ったりします。

 ブレーキングして、ノーズダイブした時にどれくらい頭が動くのかとか、あるいは頭が動くと期待するのかということは、実は個人によって全然違う。レーシングドライバーと、普通の一般的なドライバーでは違うし、一般的なドライバーとクルマを運転したことない人とも違うのですね。なので、そういったあたりを、なるべくその中央値というか、誰にとっても酔いにくいところで作ったつもりではあります。

──VR酔いに対する配慮については分かりました。VR酔いしないためにドライバーとしてできることがあれば、アドバイスを下さい。

山内氏:はい、それはすごくシンプルなんですけど、真面目にドライビングするってことです。で、真面目にドライビングすると、視線は必ず消失点、クルマが向かう方向に目がいきます。で、その部分の絵というのは、結構安定しているので、よく言われる“ちゃんと遠くを見ろ”っていうことなんですけど、それに気を付けてもらえればと思います。

 初めてVRを体験すると運転しながらついついいろんなものを見ちゃいますよね。でも、実際にクルマを運転している時にそんなことはしないですし、時速200kmで走りながら内装を見まわしたりしないじゃないですか。だから、まずはきちんと本当に運転に集中すること、あそこでブレーキングだ、ブレーキングポイント過ぎた次は、あそこがエイペックス(コーナー内側の頂点)だっていうふうにして、走っていれば酔いづらいです。