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オンボード映像やチーム無線も楽しめる、スーパーフォーミュラの新サービス「SFgo」を使ってみた

新サービス「SFgo」を使って、開幕戦を優勝したリアム・ローソン選手のオンボード映像を見ているところ。左側にテレメトリデータが表示される

スーパーフォーミュラの新サービス「SFgo」

 スーパーフォーミュラのプロモーターであるJRP(日本レースプロモーション)は、2023年シーズンより新しいサービスとして「SFgo」を開始している。そこで、スーパーフォーミュラの開幕戦、第2戦で実際にSFgoを使ってみて分かった楽しさなどをレビューしていく。

 モータースポーツは「自動車」という道具を使うスポーツだが、野球やサッカーのような同じ道具を使うスポーツとは異なり、自動車のパワーユニット、サスペンション、ブレーキ、タイヤ……といったさまざまなコンポーネントなど結果を左右する要素がたくさんあることだ。

スマートフォンのSFgoアプリで見ているところ

 例えばタイヤ。マシンを路面に接地させている唯一のコンポーネントだが、特にレーシングタイヤでは「作動温度レンジ」があり、タイヤの温度をそのレンジに入るように発熱させないと、本来の性能を発揮させることができない。

 レーシングカーの性能を左右するパラメータが多数存在するため、ドライバーがマシンのパフォーマンスを引き出すためには、それらを上手にコントロールする必要があるのだ。

 とはいえ、現代のレーシングカーや市販車にはそういった自動車の各種パラメータを数値化するためのセンサーが備わっており、現在の車両の状況をある程度は把握できる。パワーユニットの油温や水温、ハイブリッド車ならバッテリ電力の残りなども把握できるし、タイヤの空気圧や温度などの数値をモニタリングできる装置もある。

 ドライバーのマシン操作も同様だ。現代の車両はアクセルやブレーキが電子的に制御されており、アクセルを踏んでいる量(アクセル開度)などは数値化されモニタリングできる。多くのレースではそのデータをリアルタイムで確認していて、レース中にパソコンが並んだ画面をエンジニアが監視しているシーンがテレビに映ったりするが、エンジニアはそうしたテレメトリの値を常時監視して、例えばタイヤの温度が低ければドライバーに「もっとタイヤを温めてほしい」と無線で伝えている。

「その数値を自分も見られたら、もっと楽しいのになぁ……」というのはレースを見慣れてきたファンなら一度は思うことだろう。そんなファンの気持ちに応えるように、多くのモータースポーツでは「ライブタイミング」と呼ばれるサーキットの周回数やセクタタイムなどを公開している場合があり、F1の公式アプリのようにタイヤの履歴などが詳しく見られたりと、見えるデータを増やしている例も少なくない。

 今回JRPが正式サービスを開始した新サービス「SFgo」は、データの見える化を一歩先に進めるもので、アクセルやブレーキの開度、ステアリングの切れ角、燃料の残量、タイヤの温度、OTS(オーバーテイクシステム)の残量など、これまで公開されていなかった車両データをリアルタイムに確認できるほか、ドライバーのオンボード映像も視聴できるのだ。

 通常のレース中継ではトップのマシンやバトル中のマシンが映されることが多いが、そこに自分の応援しているドライバーが含まれるとは限らない。しかし、このSFgoでは走行しているドライバーの中から1人を選んで情報を表示できるため、独自の視点でのレース観戦が可能になる。ファンもエンジニアやドライバーと同じような情報を得られる、そうした魔法のツールがSFgoなのだ。

SFgoはスマホ/タブレットでも、PCのWebブラウザ経由でも利用でき、1つのIDで2つのデバイスで楽しめる

スマホとPCのWebブラウザでの見え方の違い。画面が広いPCのWebブラウザでは動画が2つ(オンボードとレース中継映像)表示されるなどの違いがある

 SFgoを利用するには2つの方法がある。1つはアプリをインストールして利用する方法だ。iOS版(iPhone/iPad)とAndroid版が用意されており、手持ちスマホやタブレットなどで利用できる。

 もう1つはWeb版で、ChromeやSafari、EdgeなどのWebブラウザを利用して「スーパーフォーミュラのWebサイト」からアクセスできる。こちらはスマホやタブレットだけでなくPCなどより幅広いプラットフォームで利用することが可能だ。

 会員登録するだけで無料で利用できるが、すべての機能を利用するには有料会員になる必要がある。無料会員では「無料動画の視聴」「お気に入り選手/チーム 最新情報」という2つの機能のみで、前述した車両情報などをライブで確認したい場合には有料会員になる必要がある。月額プランは1480円、年間プランは33%割引が入り1万1880円(月額990円相当)となっている。

SFgoの有料会員と無料会員の違い

機能無料会員有料会員
無料動画の視聴
お気に入り選手/チーム 最新情報
有料会員限定動画の視聴
フリー走行 ライブ/見逃し配信
予選 ライブ/見逃し配信
決勝 ライブ/見逃し配信
オンボード映像の視聴
ハイライト
テレメトリーデータ
ライブタイミング
高精度GPS
チーム無線音声

 支払いはクレジットカードのみで、現状ではスマホのアカウントを利用したApps StoreやGoogle Play Store経由での支払いには対応していない。登録もアプリ内では完結せず、Webブラウザ経由で行なう必要がある。

 また、SFgoは1つのアカウントで同時に2台まで視聴できるようになっている。このため、例えばPCの大きな画面で中継映像をみながら、スマホで応援しているドライバーのオンボード映像やマシンデータなどを見ながらレースを楽しむという使い方も可能だ。上級者になればJ-SPORTSオンデマンドを契約して視聴しながら、SFgoで2人のドライバーのオンボード映像やデータを見る、そういう使い方も可能だろう。

 決勝レース限定になるが、本年のスーパーフォーミュラはABEMA(旧ABEMA TV)でライブ配信も行なわれるので、インターネットライブ配信を見ながらSFgoを楽しむ、そんな利用シーンも想定できる。

 ただ、いずれにせよSFgoは、配信サーバーからデータ量の大きな動画が送られてくる形のサービスになるため、インターネット回線の速度には注意を払う必要がある。光回線のように回線速度が高速な固定回線であれば心配する必要はないが、自宅の回線がセルラー(携帯電話)回線だけという場合には注意が必要だ。その場合には、複数の回線を用意するなり、5GやWiMAX2+のような高速でデータ容量に制限がないセルラー回線を用意する必要があるだろう。

 また、サーキットでレースをリアルに見ながらの場合には、ユーザーの集中による回線の速度低下にも注意する必要がある。最近通信キャリア各社は高速で低遅延の5G回線の導入を進めており、鈴鹿サーキットや富士スピードウェイなどでは各所で5G回線が使えるようになっている(通信キャリアにより対応状況は異なる)。5Gで高速になったといっても、ユーザーが同じ基地局に集中した場合には、速度低下が発生する可能性もあるので、その場合にはサーキットではあまり使われていないような別の回線を用意するなどの手段を講じておく必要がある。

 なお、今回SFgoをレビューするにあたり、富士スピードウェイのメディアルームで、UQ WiMAXが提供しているWiMAX2+というワイヤレスのWi-Fiルーターを利用して通信していたが、2つのSFgo画面を開いていても特にコマ落ちするなどの不具合を感じずに利用できた。

実際のライブからは10~20秒程度遅れる。テレビ放送と組み合わせて見るときには要注意

筆者の視聴環境。左右タブレットの左側にライブタイミング、右側にSFgoを表示させている。そして中央のPCでは中継(JーSPORTS)を自宅にあるBS放送を受信して遠隔地から視聴できるHDDレコーダーにVPNで接続して視聴した。なお撮影しているiPhoneでも手元用にSFgoを表示している。中央のテレビ中継の画面ではすでにフォーメーションラップがスタートしてポールの野尻選手が1コーナーにいるが、左側のSFgoではまだ動き出していないことがこの画面でも分かる。このようにSFgoでは若干の遅延がある。

 実際に利用してみて分かったことは、SFgoに配信される映像やデータにはライブと比較し10秒~20秒程度の遅延が発生しているということだ。そもそもこうした遅延はテレビ中継でも発生しており、スーパーフォーミュラではないがF1などでも衛星回線を通じて映像が送られてくるため、その分の遅延がある。テレビ放送とライブタイミングとを、一緒に見ているとライブタイミングの方が先にスタートしたりゴールしたりということを体感したことがあるユーザーも少なくないだろう。

 SFgoのように動画のストリーミングを行なう場合には、カメラが捉えた映像を一度サーバーで配信できる形式に変換して送り出すことが必要になり、仕組み上どうしてもそうした遅延は避けられない。ストリーミングの場合は前述の通りサーバーでの作業が必要になるため、30秒などやや長めの遅延も少なくない。そのため、SFgoの10秒~20秒程度という遅延であれば優秀な部類と言える。

 ただどうしても遅延はあるので、例えばJ-SPORTSのBS中継でレースを見ながらSFgoを利用したい場合には、遅延があることを理解した上で利用する必要がある。

 なお、SFgoはライブでなくても楽しめる。録画されたデータを楽しむ限り、遅延は関係ないので、ライブで遅延が気になるという場合には、レースはテレビ放送とライブタイミングで楽しみ、その後SFgoで復習するという使い方もありだろう。

SFgoで見える情報
どのドライバーを見るかは一覧から選べる
レース中継も見られる
選択したドライバー以外のドライバーの位置もバードビューで確認できる
バードビューのWeb版、やはり広い画面で見るとより見やすい

 それを理解した上で、SFgoを使うとレースを立体的に楽しめる。SFgoの画面を起動すると、参戦しているドライバーを名前で選び、そのドライバーのオンボード映像とテレメトリデータを視聴しながら見られる。

 正直これはかなり楽しい。ドライバーがどれだけアクセルを開けているのか、ブレーキはどう踏んでいるのかなどが表示される。ドライバーになった気持ちで、1コーナーのここでアクセルを踏んでいるのだなどが分かる。また、タイヤの温度も表示されるので、ピットイン後にタイヤが温まっていない状態などをひと目で理解できるようになる。

 OTS残量も表示されるので、SFgoアプリを利用することでバトルしているドライバーのOTS残量を確認して、「前を走っているドライバーのOTSは残り少ないから、後方のドライバーが有利!」などということを楽しめる。

 選択したドライバーのオンボード映像を楽しめるのもSFgoのユニークな点だ。これまであれば、中継映像はトップの方の車両しか映してくれず、応援しているドライバーが上位を走っていないとき何が起こっているのかを確認する術がなかった。しかし、SFgoであれば、それをライブ(に近い状況)で楽しめるし、レース後にピットストップに何秒かかっていたのかなどをSFgoで確認する、そうした使い方もできるようになる。

実は非常に面白いチーム無線、チームとドライバーのやりとりを聞ける

携帯電話のマークを押すと過去の無線も含めて聞ける

 もう1つのユニークな機能はチームとドライバーの無線交信を楽しめることだ。この無線は、ライブで視聴している場合には随時入ってくるが、ドライバーを切り替えた場合には、過去の無線を聞き直すということも可能だ。第2戦の終盤、トップを走っている野尻選手がチームに無線で「タイヤにバイブレーションが出ている」ということを伝えたのだが、そういう無線も聞き直せる。

 この無線はサーキットでも放送されていたが、その後さらに野尻選手が「バイブレーション出ていることは、XX(聞き取れない)してないのかな?」とチームに話している内容や、チーム側が「場内放送で流れていた」と返信する内容もSFgoアプリで確認できた。また、2位を走っていた坪井翔選手の無線を聞くと、チーム内の連絡で野尻選手の無線を聞いて「タイヤからバイブレーションが出ている」という連絡をするなどのやりとりをしていることが確認できる。

 これまでは放送されていない生々しいやりとりもSFgoを利用するとレース後にも確認できる。ファンであれば、非常に楽しめるコンテンツだと思うので、ぜひレース後に振り返るときなどに活用したい機能だ。

このようにドライバーがピットにいるときなども確認できる
第1戦で福住仁嶺選手がもらい事故に巻き込まれた時の様子。後ほど録画を見直すこともできるので、中継に映っていなかった場面でもそこを見直して何が起こっていたのかを確認できる

 さらに、このSFgoを利用するメリットとして、SFgoのユーザーはキャプチャした静止画と30秒以内の動画をSNSにアップロードすることが許可されているという点も強調しておきたい。言うまでもなく、テレビ放送の映像はテレビ局に著作権があり、それをキャプチャしてSNSにアップロードするなどは著作権法違反になる場合がある。しかし、SFgoの場合は運営しているJRPから静止画と30秒以内の動画であればOKと「よくある質問」に明確に書かれているので安心してSNSに投稿できる点もメリットと言えるだろう。

 数々の機能やサービスを含めれば、SFgoの有料プランを契約するメリットは小さくないと思う。シーズンが4月~10月の6か月間であることを考えると、1年ではなく6か月を契約して解約するというのももちろんアリで、その場合は8800円となる。公式テストも含めて楽しむと考えると、1年のプランを契約して1万1880円というコストは、内容を考えれば十分安いと言える。スーパーフォーミュラをより楽しみたいという熱心なファンであれば、契約してスーパーフォーミュラをより立体的に楽しむのはありだと感じた。

 スーパーフォーミュラは、4月22日~23日の今週末に第3戦が鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催される。サーキットで観戦を予定している人も、自宅観戦を予定している人も、SFgoの導入をぜひ検討してみてはいかがだろうか。より深くスーパーフォーミュラを楽しめるようになることは請け合いだ。