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横浜ゴムがタイヤ勉強会開催 重いクルマ用の新たな「HLC規格」やレースに投入している「サステナブルタイヤ」は何が違う?

2023年4月26日 実施

横浜ゴムがタイヤに関する勉強会を実施した

重たいクルマ向けの新たなHLC規格とは?

 横浜ゴムは4月26日、新橋から本社機能を移管した平塚製造所(神奈川県平塚市)にて、タイヤに関する勉強会を開催した。

 入社以来研究開発部に所属しているという横浜ゴム 研究開発本部 研究開発部 部長の桑島雅俊氏は、2016年に「CASE(Connected・Autonomous・Shared/Service・Electric)」という新たな考え方が出てきたのと同時に、タイヤに求められる課題も噴出したと振り返る。

横浜ゴム 本社・平塚製造所入口
本社機能移転に合わせて新たに建てられた社屋。社員食堂や会議室が入っている

 Connected・Autonomous・Shared/Service分野では主に、センサー技術による状態検知や、RFID(電子タグ)による個体管理などの課題が挙げられるが、Electricの分野ではモーターのみで走ることから「静粛性」、1充電で長い距離を移動したい「電費向上」、バッテリやモーター搭載による「車重増」と、そもそも課題の方向性がいくつもあり、近年は自動車メーカーから「HLC(High Load Capacity)規格タイヤ」の要求も増えてきたという。

HLC規格を解説する横浜ゴム株式会社 研究開発本部 研究開発部 部長 桑島雅俊氏

 続けて桑島氏は、BMWの「X1」を例に出し、内燃機関モデルの1575kgに対し、PHEVモデルは1930kgと355kg増、さらにバッテリEVモデルは2085kgでPHEVモデルから155kg増と、どんどん車重が増加してタイヤの負荷能力も増大している事例を紹介。そのほかにもPHEVモデルのBMW「XM」やポルシェ「カイエン」などは2.5tを超えるなど、自動車メーカーからはタイヤの負荷能力をもっと高めてほしいとの要求があるという。

自動車メーカーがタイヤに求める負荷能力はどんどん増大している

 理論的には、外径や断面幅(タイヤ寸法)を大きくして、内圧も高くすればタイヤ荷重は大きくできるが、車両サイズが決まっている以上スペースや空力の問題でタイヤサイズを大きくできなかったり、車両への入力で乗り心地がわるくなったりするなど安易に空気圧を増やせない制約もある。そこでタイヤサイズを変えずに負荷能力を増大する必要が出てくる。すでにXL(Extra Load)という負荷能力を高めた製品も存在するが、昨今の電動化モデルの重さには対応できておらず不十分だという。

 そこで欧州のタイヤ規格ETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation)は、2021年にXL(Extra Load)よりも負荷能力の高い新たなHLC(High Load Capacity)規格を設定。仮に245/40R19サイズのタイヤの場合、XL(Extra Load)と同じ空気圧でも、さらに75kgの耐負荷能力があるという。サイドウォールにはHLC規格の証としてサイズ表記の先頭に「HL」の文字が入る。

タイヤの負荷能力を理論的に考える方法
タイヤの負荷能力を増大させるには?
ロードインデックスについて
XL(Extra Load)について
新たなHLC規格とは?
サイドウォールにあるHLC規格の表示
タイヤのサイドウォールにあるサイズ表記の前に「HL」の文字が入る
荷重がかかった時の発熱量とひずみの比較イメージ(左:通常タイヤ、右:HLCタイヤ) HLCタイヤの方が発熱量とひずみが小さく、荷重耐久性が高い

 また、HLC規格に対する技術的な取り組みについて桑島氏は、「荷重増によってタイヤのたわみが大きくなることから、最大の課題は耐久性の悪化が挙げられる」と解説。また、転がり抵抗やタイヤ質量の増大などもあり、耐久性悪化の対策としては、構造の強化、ゴム部材の強化、形状の変更などが考えられる。横浜ゴムではこれまで、形状の最適化を行なう場合、実際に形状を変えたタイヤを作成して実験を繰り返していたが、それだと莫大な時間と労力と費用がかかるため、最近は精密シミュレーションを駆使し、最適解を導き出せるようになり、応力やひずみを小さくすれば耐久性も向上するという。

レースの現場で先行開発を進めているサステナブル素材を活用したタイヤ

 続いて、横浜ゴム 研究先行開発本部 タイヤ第二材料部 部長 尾ノ井秀一氏が登壇し、シリーズでタイヤを提供しているスーパーフォーミュラの「50年後でも持続成長が可能になるための施策」というコンセプトで企画された「SF Next 50プロジェクト」の一環として開発を進めている「サステナブルタイヤ」の説明を実施。

横浜ゴム株式会社 研究先行開発本部 タイヤ第二材料部 部長 尾ノ井秀一氏

 尾ノ井氏は、横浜ゴムがカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みとして、2030年に2013年比でCO2排出量を38%削減、2050年には100%削減を目標に掲げているほか、サーキュラーエコノミーの視点では、2025年までに再生可能/リサイクル原料の使用率を27%にすること、2030年までに30%以上、そして2050年にはサステナブル原料100%になることも目標として全社で取り組んでいると紹介。

 また、2022年にJRP(日本レースプロモーション)が立ち上げたスーパーフォーミュラ活性化に向けた新プロジェクト「SF NEXT50」のコンセプトに賛同し、サステナブル素材・リサイクル素材を採用したタイヤ開発でプロジェクトを後押ししている。

横浜ゴムのカーボンニュートラル実現へ向けた動き
SF NEXT50プロジェクト概要
枯渇性資源から再生可能資源への転換

 これまでタイヤは、原油や地下資源といった枯渇製資材を精製・合成して製造してきたが、これからは天然ゴムを主体としながらも、新たに「バイオマス資材」「循環性資源」を資源変換や精製・合成した再生可能資源の使用比率を高めていけるように開発を進めているという。

 スーパーフォーミュラでは、ドライ用のスリックタイヤと、ウェット用のパターン付きタイヤを供給しているが、キャップトレッド部、サイドウォール部、カーカスコンパウンドを再生可能原料に置き換えて開発作業を実施。再生可能原料には「天然ゴム」「籾殻シリカ」「ステアリン酸」「オレンジオイル」「バイオマスオイル」があり、リサイクル可能原料には「再生亜鉛華」「再生ゴム」がある。

 2023年は、シーズン途中からウェット用もサステナブル素材を活用したタイヤが投入される予定で、ドライとウェットを合わせた年間平均で再生可能/リサイクル原料使用率は29%ほどの達成見込み。今後もさまざまな原料を投入しながら年々使用率を高めるべく、開発を加速させている。

再生、リサイクル可能原料
横浜ゴムがスーパーフォーミュラに供給しているサステナブル素材を活用したモータースポーツタイヤ

 タイヤは従来、石油由来の「ナフサ」を原材料に加工工程を経てブタジエンゴムを生成してきたが、近年はバイオマスや廃プラスチックなど再生可能素材を加工したり、バイオマスをエタノールに変換し、そこからブタジエンやポリマーも作れるようになり、2022年にパイクスピークで総合優勝したマシンのタイヤも、バイオマス由来のブタジエンゴムを採用したスポーツタイヤを装着していたという。

2022年のパイクスピーク参戦車両に供給された「ADVAN A052」
バイオマス由来のブタジエンゴムは主にサイドウォールに使用している
タイヤの原材料
マスバランス(物資収支)方式
新たに開発中の「籾殻(もみがら)シリカ」
天然由来の原材料