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横浜ゴム、「アドバン スポーツ V105には多く配合」などタイヤのシリカ配合について説明

シリカでタイヤを作ると緑がかった色になる

 横浜ゴムは12月17日、同社の平塚製造所において報道関係者向けのタイヤ技術勉強会を開催。シリカ配合やスポンジ装着タイヤについて説明した。

 シリカについては、温度が低くても硬くなりにくい特性からスタッドレスタイヤでの活用が有名だが、横浜ゴムでは夏タイヤに先にシリカを入れ、夏冬のどちらのタイヤにもシリカを使ってタイヤの転がりやすさを高めるなど、タイヤの性能向上に不可欠な材料としている。

シリカをたくさん使いたい

横浜ゴム株式会社 研究先行開発本部 材料機能研究室長 網野直也氏

 説明を行なったのは横浜ゴム 研究先行開発本部 材料機能研究室長の網野直也氏。タイヤで使われているゴムの特徴について説明した。

 ゴムの3大特徴として「柔らかい」「大きく変形」「変形しても元に戻る」という点を挙げ、大きく変形する特徴は鎖状の分子から生まれ、強さは架橋点などが影響する。

 タイヤに使うゴムは大きく分けて天然ゴムと合成ゴムがあり、強度や発熱性、グリップ性、摩耗特性、空気の通過などの要素によって適材適所に使われていると説明。天然ゴムは大型車用などに使われ、乗用車用タイヤでは合成ゴムが多く、トレッド部にはグリップ力や加工性からスタレン-ブタジエンゴム(SBR)や摩耗しにくいブタジエンゴム(BR)、タイヤの内側で空気を遮断するところにブチルゴム(IIR)などを使い分けているとした。

ゴムの3大特徴
ゴムが変形して元に戻る理由
タイヤに使う天然ゴムの特性
タイヤに使う合成ゴムの特性
タイヤが黒いのはカーボンブラックを配合しているから
シリカの利用とシリカ配合タイヤの特徴

 合成ゴムの色は黒ではないが、カーボンブラックを混ぜることでタイヤが黒くなる。カーボンブラックは色を黒くする以外に、ゴム分子の架橋点として働き、タイヤの強度を飛躍的に向上させるという

 そしてシリカについても説明。シリカは白い粉で、ゴムを補強して「ホワイトカーボン」とも呼ばれるもの。配合量を増やすとタイヤの性能はどんどん向上していくが、網野氏は「そんな簡単な話ではない」とも説明する。

合成ゴム(左)と天然ゴム(右)

ゴムと基本的に結合しないのがシリカ

 シリカの配合量が多くするとゴムの変形回復が速くなり、タイヤが転がりやすくなってウェットグリップも高まる。シリカの配合量を増やすと性能のよいエコタイヤが登場する。

 しかし、シリカはそのままではゴムと結合せず、「シランカップリング剤」を使って強制的に結合している。配合比率を上げることは簡単ではなく、シランカップリング剤自体の技術開発のほか、混合の際の温度管理など高度な混合制御技術が必要だという。

親油性のゴムと親水性のシリカを混合するのは難しい
シリカの混合技術

 また、シリカも粒子の塊が細かく分散しているほどエネルギーロスがなくなる。さらに、いかに小さなシリカ粒子を開発するかということが、ウェットグリップや転がり性能の高いタイヤを生み出すために大事だという。

 ゴムの配合方法は料理と同じように「レシピ」と呼ばれ、料理で同じ材料や同じ道具を使っても同じ味にはならないように、高性能なタイヤを作るためにシリカを混合する技術が横浜ゴムのノウハウだとした。

電気を通すためのひと加工

タイヤの電気抵抗

 一方、シリカは電気を通しにくい。これにより、タイヤに求められる性能のうち、車体に溜まった静電気を地面に放出するという点が損なわれてしまう。電気を通す特性は可燃物への引火、電磁波ノイズによる電子機器への悪影響を防ぐ目的もあり、自動車メーカーなどからも求められる性能となっている。

シリカとカーボンブラックのテスト試料
カーボンブラックでは電気が通り、わずかな電流で点灯する赤色LEDが点灯
シリカではLEDが点灯せず
シリカ配合タイヤでは電気を通すためのアース(導電スリット)を配置している

 そこで、シリカを配合したタイヤにはアースとなるゴムを中央部に混ぜ込み、静電気を地面に放出する役割を持たせている。アース部分を中央に置く場合には、タイヤを成形する行程で型枠にゴムを射出するところに工夫が必要となっている。

 横浜ゴムではシリカを配合するにあたり、製造ラインにアースを配置できる設備を用意している。これは、逆に言えばアースを配置できるタイヤの製造設備がないと、シリカを配合したタイヤができないことになる。シリカ配合のタイヤがないメーカーや銘柄は、製造設備がシリカ未配合の理由の1つになるという。

タイヤのカットモデル。中央部に縦に種類の異なるゴムが1本の線として通っている。この部分がアース

当面はシリカは増える傾向

 横浜ゴムでは夏タイヤから先にシリカを投入していて、冬タイヤのシリカは少なめだったが、最新のスタッドレスタイヤ「アイスガード 6」では夏タイヤと同じ量のシリカを配合しているという。また、フラグシップタイヤとなる「アドバン スポーツ V105」ではシリカの配合が「かなり多い部類」だとしている。

 今後もシリカの配合は増えるとの見通しで、シリカを100%に近づけたタイヤも技術的には実現可能。その場合、タイヤの色が緑がかったグレーになってしまう。タイヤは黒という一般的な認識もあり、カーボンブラックを配合して黒くする可能性もあるとしている。

 また、シリカの比率を上げることによるデメリットはほとんどなく、あるとすればシリカを結合させる際の問題、アースの設置といった製造面の問題があり、コスト面ではゴムと比べてシリカが高価だということはないが、結合のために利用するシランカップリング剤が高価になるとした。

カーボンブラック(左)とシリカ(右)