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世界初公開された新型クラウンセダン日本仕様、黒いクラウンは美しく空力考慮したクルマだった

世界初公開された新型クラウンセダン日本仕様(プロトタイプ)

世界初公開された新型クラウンセダン日本仕様

 9月2日~3日の2日間にわたってスーパー耐久第5戦もてぎがモビリティリゾートもてぎで開催された。このもてぎ戦のイベント広場に一般展示されたのが、未発売の新型クラウンセダン日本仕様(プロトタイプ)。グローバル対応の左ハンドル仕様(プロトタイプ)が富士24時間レースで世界初公開されたが、いずれもスーパー耐久での展示となっていたのが興味深い。

 今回初公開された新型クラウンセダンは、ボディカラーがガンメタリック系からブラックに。深みのあるブラック塗装であることからプレシャスブラック系であると思われ、空の映り込みも美しく、ショーファーカーや公用車としても使われる伝統的なクラウンのイメージを継承するカラーだ。

空の映り込みも美しいブラックのボディカラー

 新型クラウンセダンは、ハイブリッド仕様と水素を燃料とする燃料電池を用いるFCEV仕様が用意されているが、今回展示されていたのは富士24時間レースと同様にFCEV仕様。公用車としても使われることの多いクラウンセダンでは、FCEVを前面に打ち出していくことでカーボンニュートラル時代に備えていくものと思われる。

 内装などは左ハンドル仕様と基本的に変わらないとのことだが、外観はしっかり作り込まれており、市販仕様と言ってもよいほど。改めて各部を見てみると、空力的な配慮が多数なされていることに気がつく。

お魚フィンを昇華したライトまわりのデザイン

セダンらしい迫力のあるフロントグリルまわり。ヘッドライト部の左右への張り出しも分かる
やや広角気味に撮影しているが、伸びやかなサイドのボディライン

 これは最近のトヨタデザインにも言えることだが、エッジを活かしたデザインになっていること。ただつるりとしたデザインではなく、全体的な空力パッケージに対して、エッジとなる部分を特に前後左右に設けている。

 新型クラウンセダンで言えば、ヘッドライトまわりとテープランプまわりにその意匠が強く表われており、デザイン上の特徴となっているほか、空力的な貢献も果たしているように思われる。

 トヨタ車に詳しい人であれば、現在のトヨタ車には通称「お魚フィン」とよばれるエアロスタビライジングフィンがいくつも付いているをご存じのことだろう。これはトヨタがF1の空力開発で得た知見を市販車両(トヨタ用語では「号口(ごうぐち)車両」)に持ち込んだもので、ボディ表面に突起を付けることで空気の渦流れを発生させ、空気のボディからの剥離(境界層剥離)を抑制する。空気抵抗上は不利となる乱流発生の原因とはなるが、あえて渦流を作り出すことで大幅な剥離(乱流の大発生)を防いでいる。

 航空機の主翼前縁にある突起も同様の役目のもので、一般にはヴォルテックスジェネレータ(Vortex generator)と呼ばれる装置で、空気の流れを面に添わせて流しやすくなる。F1マシンのフロアパネル上部に多数の小さい板が並んでいるのも同様の効果であるし、効果があることから使用を抑制するレギュレーションもあったりする。

 トヨタはそのヴォルテックスジェネレータの形状を流線型とすることで、空気抵抗を低減。さらに突起を大きくしたくないとの意思が働いているのか、やや潰し気味の形状となっている。その見た目がお魚(魚は水の抵抗を小さくするため、流線型に進化している)に近いことから、トヨタ社内の通称はお魚フィン。

 このお魚フィンは、新型クラウンセダンのAピラー付け根に1匹見ることができ、ボンネット面、Aピラー付け根から剥離しようとする空気流をウィンドウ面に導き、さらにドアミラーに付けられた凹みからくる流れで抑え込みを図っていると思われる。空気の剥離を抑制できれば、空気抵抗も減るほか、とくにここで問題となる風切り音(空気の剥離する音)も防ぐことができ、クルマの動的質感も向上する。定番のお魚ポイントとも言える。

 つまり、ヴォルテックスを生み出せばよいわけで、新型クラウンセダンはヴォルテックスジェネレータが後付けではなく、デザインに昇華されている部分を見て取ることができる。

 それが顕著に表われているのが、前述のヘッドライトまわりとテープランプまわり。ヘッドライトまわりではエッジの効いたヘッドライトユニットがボディの面から飛び出し、ヴォルテックスジェネレータの役割を果たしているように見える。

 リアはもっと顕著で、ターンランプの部分が盛り上がりヴォルテックスジェネレータの役割が明確に。新型クラウンクロスオーバーでは、リアコンビネーション前にお魚が2匹いたので、新型クラウンセダンでは機能とデザインの融合が図られたことになる。

リアコンビネーションランプ部。ターンランプのところが盛り上がっているのが分かる。これはサイド部も同様で、ヴォルテックスジェネレータの役割を果たしていると思われる

 ボディの空気制御という面では、フロントホイールハウス直後に加飾された謎アイテムも見どころだ。「FCEV」エンブレム直後に謎のジグザクが刻まれた加飾アイテムを設置。その形状は、新型GRカローラでも採用されたジグザグが刻まれたアルミテープそっくりで、静電気の放電による層流生成を狙ったものか、ジグザグ面によるヴォルテックスジェネレートを狙ったものか判別に悩むところ。「FCEV」エンブレム直後にあることから、「FCEV」エンブレムで発生する乱流を整える(空気抵抗的にも、風切り音抑制的にも)役割にも見えるが、果たして正解は?

 さらに、新意匠のアルミホイールをよく見ると、渦巻きスポークが翼形状に近すぎる気もする。スポークの回転方向と、スポークの飛び出し形状を考えると、これは空気流をフロントディスクブレーキ部に引き込む役割を果たしているように見える。つまり、フロントタイヤやフロントホイールハウスで発生する乱流をできるだけボディに流さないようにしている。

FCEVエンブレム直後のジグザグパターン。果たしてこれはどのような効果を狙ってのものだろうか。周囲は凹部となっていることから空気流の吸い込み効果もあるのかもしれない
新意匠のアルミホイール。空力効果を持っているように見える。こちらも正式発表されてからのお楽しみか

 これにより確かにボディ側面の気流は整えられるが、問題はそれだけの空気がフロントホイールハウスに入っていくのかということ。空気を入れるためには、その箇所が負圧になっていることが望ましく、フロントホイールハウスを負圧にするためには、ボディ底面の空気流が高速に流れる必要がある。

 新型クラウンセダンのFCEVは、FCEVのためマフラーなどの排気系もなく、ボディ底面、つまりシャシー下面を内燃機関に比べ工夫しやすい。単にフロントホイールからがんがん空気を入れてしまうと、フロント部のリフトにもつながり、動的質感が下がることも予想される。

 その結論はとなると、相当に工夫されたシャシー下面になっていることが予想される。市販車であるため、さすがにそこで強力なダウンフォースを発生とはならないだろうが、シャシー下面の空気をスムーズに流すことで、高速走行時の安定感などを狙っているのではないだろうか。

 これらさまざまな工夫は、いずれも正式発表されてからのお楽しみとなるが、スーパー耐久のもてぎ戦で世界初公開された新型クラウンセダン(プロトタイプ)は仕上がりの質感もよく、大きな注目を集めていた。