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ボルボのサーキュラーエコノミー戦略について、本国責任者オウェイン・グリフィス氏が語る

2023年9月15日 開催

サーキュラーエコノミー部門責任者 オウェイン・グリフィス氏とボルボの新型EV「EX30」

 ボルボ・カー・ジャパンは、本国スウェーデン本社から来日したボルボ・カーズ サーキュラーエコノミー部門責任者であるオウェイン・グリフィス氏から、ボルボのサーキュラーエコノミーへの取り組みについて紹介する、報道関係者に向け説明会を開催した。

 説明会の中でグリフィス氏からは、今後はリサイクル材料の比率を上げていくことや、使用済みのクルマを回収し、その後のリサイクルの仕組みを変化させる必要があることなどが説明された。

使用済のクルマをリサイクルし、再び製品に組み込んでいく

 サーキュラーエコノミーとは日本語に訳せば「循環型経済」。原材料が製品になり、その製品が利用されて利用済みとなり、リサイクルして再び製品になり、さらに利用される循環している様子を言う。サーキュラーエコノミーの反対がリサイクルされず廃棄物となって循環しないリニアエコノミー(線型経済)とされている。

サーキュラーエコノミーとボルボの2025年までの目標

 ボルボではサーキュラーエコノミーへの取り組みとして、2030年までに完全なEV(電気自動車)メーカーになり、2040年までにClimate Neutral(気候中立)になる。これを実現するために、1台あたりのライフサイクルCO2総排出量を40%削減することなどに取り組んでいる。

ボルボが取り組む気候変動対策

 そして、発表したばかりの新型EV「EX30」では、ボルボ史上、最も低いカーボンフットプリントを実現させ、リサイクル材料の使用率も17%へと上昇させるという結果を出している。

ボルボ EX30のサステナビリティにおける変化

 今回、来日したオウェイン・グリフィス氏は、ボルボのサーキュラーエコノミー部門責任者。CEO直属のサステナビリティ責任者を上司に持ち、CEOに近い立場で任務を遂行している。このことからも、ボルボにとってサーキュラーエコノミーは重要なことになる。

 グリフィス氏は2021年入社。以前よりコンサルタントとしてサーキュラーエコノミー戦略を主導してきており、ボルボにおいてもボルボ車のライフサイクル全体が循環型に最適化させるため、クルマに関するリソースをいかに循環させ、効果的に活用するか、ということが仕事となる。循環経済においてはビジネス性を考え、ビジネスとして成立するということをしなければならないという。

2030年に完全EVメーカーになるが、次は材料のリサイクル

 グリフィス氏はまず、課題として原材料をあげている。現在、CO2排出量のインパクトの99%はサプライチェーンの上流および下流で発生しているという。

クルマのライフライクル全体のCO2排出量はサプライチェーンの上下で99%

 そこで、循環型の原則とプロセスを採用することで、CO2を大幅に削減していくことになる。

循環型の原則とプロセスを採用し、CO2を削減する

 たとえば、最近発表したバッテリEV「EX30」は、ボルボ車のなかでもっともカーボンフットプリントが低いクルマで17%がリサイクル材料を使用している。サステナビリティという面でも最も先進的で、アルミのリサイクル材料が25%、鉄が17%、プラスチック材料が17%となっている。

 今後の目標として2025年には平均で25%のリサイクル材料を使うようにし、2030年にはさらにそれを高めていきたいという。電気自動車としての走行用バッテリについてもリサイクル材料の使用をリチウム6%、コバルト16%、ニッケル6%というレベルにしていく必要がある。

循環型経済による、ボルボ車の変化

 そして、それを達成するためには、業界として廃棄になっていた寿命を迎えたクルマの扱いを変えていき、循環経済に即したものにしていく必要があるという。

「もったいない」からリマニュファクチャリングへ

 現在の寿命を終えたクルマの流れとして、正規にリサイクルされる流れでも材料は再生材としてグレードが低くなり、建築材料に使うなどしている。そして、非正規の流れで捨てられてしまえば、どこかに行ってしまう。グリフィス氏はこれらの価値が失われている現状を日本語の「もったいない」という言葉で指摘している。

現在、自動車のバリューチェーンは循環せず、多くの廃棄物が出ている

 そこで、グリフィス氏はパーツを回収して再利用するプロジェクトも行なっている。材料を分別して、クルマを解体したあと、もういちどボルボ車に使えるようにする取り組みを進めている。

サーキュラー・ループ・プロジェクトでは再利用のための部品回収と、クローズドループのための材料回収の可能性を調査

 また、グリフィス氏はその一方で、プライマリマテリアル、新規の原料がリサイクルよりも安く入手できることもある現状について、価格の付け方が公正になっていないと指摘する。

 それは、新規の原料を使うということは、環境に影響を与えたり、汚染したりということでもある。しかし、その環境に与えてしまった影響に対するコストは新規の材料の価格に反映されておらず、汚染しっぱなしということになるという。そういった点からも、リマニュファクチャリングは重要だという。

パーツのリマニュファクチャリングを進め、走行用バッテリも対象に

 一方、循環経済を実現するには、違う形でモビリティを提供していくことも考えないといけないとしている。現在、ボルボが行なっているのは廃棄物の売買、MaaSの提供、そしてコンポーネントのリマニュファクチャリングとなる。

 特にグリフィス氏はリマニュファクチャリングの可能性が大きいとし、すでにICEエンジンのクルマでは何十年も前から多くのパーツのリマニュファクチャリングが行なわれて、すでに確立したものになっている。

 そして、これらからリマニュファクチャリングの対象となっていくのが車載のコンピュータなどの電子部品や、モーターやエアコンなどの電装品。調査したところ、新規の部品よりもリマニュファクチャリングのほうがよい、ということが分かってきたため、どう実現できるか考えているところという。

再利用の銅を使ったワイヤーハーネスを使っても問題はない

 また、2030年にボルボがEVメーカーになるにあたって走行用バッテリパックについても同様にリマニュファクチャリングを進めている。走行用バッテリパックの場合、バッテリが故障や寿命を迎えたように見えても、内部の電池セルそのものではなく周辺の電子部品の故障ということも多いのだという。

 バッテリパックのリマニュファクチャリング品では、新品に近い性能に戻して供給することも可能となる。バッテリパック内の電子部品の故障に対しても、該当の電子部品にアクセスしやすく、交換しやすくするような検討もしている。

 そのためには、バッテリの状態をトラッキングして、予測しながらメンテナンスをしていくような取り組みも開始している。これには、バッテリの製造からリサイクルまでトラッキングする欧州の「バッテリパスポート」とも関連し、ユーザーはいつでもバッテリの健康状態を知ることができるようになる。

 そして、バッテリのリサイクルや廃棄にもさまざまな規制がある。特に、使用済みとなった場合、海外にリサイクル原料として輸出することは規制が厳しい。そのため、バッテリのリサイクルの問題を大きくしないためにもバッテリの故障率は低く抑えることを考えているという。

使用済車の回収を進め、その後の処理も今までと違ったものにする

 クルマのコンポーネントのリマニュファクチャリングが進んだとしても、どうしても出てくるのがELV(使用済み自動車)ということになり、その対策も求められる。

 そのためには、より多くの販売車両を回収するということと、回収したあと、今までと違った先進的なやり方で処分や処理をする必要がある。それは、リサイクルしやすい設計としている比較的新しいクルマでしかできていない。

 カーボンフットプリントで最先端を行く「EX30」は、これから5年10年と生産が続き、道路上ではずっと先までボルボEX30は走っている。今から15年先になっても、走っているEX30は多いことになる。

 ところが、ELVの問題はすでに販売されたクルマにも当てはまる。グリフィス氏はこれからのクルマへの対応のほか、2000年くらいに作ったクルマまでさかのぼり、ELVの対応をしていかないといけないと指摘している。