インタビュー
ボルボ・カー・ジャパン マーティン・パーソン社長に聞く 2023年の戦略は「BセグのSUV電気自動車で勝負」
2023年2月20日 14:44
「私はスウェーデン人なので、マスクなしでも全然大丈夫です」と笑いながらインタビューに応じてくれたのは、ボルボ・カー・ジャパンのマーティン・パーソン社長だ。1999年にボルボ日本法人のローカル採用で入社し、カスタマーサービスやマーケティングディレクターとして約10年勤務したのち、2008年にスウェーデンの本社採用となり、ロシアや中国での駐在など豊富なビジネス経験を経て、2020年から日本法人の社長を務めている。
そんなパーソン社長に、2025年には日本国内で1万台以上のEV(電気自動車)販売を目指すというボルボ・カー・ジャパンの、今年の取り組みや戦略ついて話を聞いてみた。
国別のBEVの販売台数を見ると日本は世界第6位
──まずは2022年のEVの販売実績と、2023年の販売戦略について聞かせてください。
パーソン社長:ボルボは、私が入社してからグローバルでの販売が40万台前後でアップ・ダウンを繰り返してきましたが、親会社が中国のジーリー(吉利汽車)になったころから新しい商品の導入(例えばXC90など)によって70万台近くまでアップして、すごく成功しました。ただ、昨年は半導体不足の影響があって、マイナス12%となっています。
そんな中でBEV(バッテリ電気自動車)はトータルで6万7000台を販売し、前年比で160%というものすごいアップを果たしています。比率的にも2022年は年間で11%だったのが、2022年12月だけだと20%、そして今年の1月は16%と段々とアップしているのです。
また、国別のBEVの販売台数を見ると、日本は中国、アメリカ、スウェーデン、イギリス、ドイツに続いて世界第6位。それら上位の国とは状況も違ってかなり差があるため、なかなか追い抜くのは難しいですが、イタリア、ベルギー、韓国、フランスなどに比べると日本のマーケットは本社に優遇されているようで、多くの新車を送ってもらいました。
一方、日本のプレミアムBEVマーケットで見ると、昨年は登録実績だとボルボは4位。われわれにBEVは「XC40 Recharge」「C40 Recharge」のたった2モデルしかありませんが、結構頑張っていいパフォーマンスが発揮できたと思っています。また、キーポイントはPHEVモデルを合わせた台数で、そこではボルボはもっと強くて3位。2位の他メーカーにあと100台という販売実績でした。そして今年1月のBEV販売台数は速報値で3位となっていて、とてもいいスタートを切れています。
──今年はボルボの国内初となるBEV専用のブランド発信拠点や、新しいBEVの導入計画があると聞いています。
パーソン社長:「ボルボスタジオ東京」を4月にオープンする予定です。ボルボブランドの3つのキーワードである「安全」「サステナビリティ」「パーソナル」に焦点を当てたBEV専用の施設で、既存のスタジオ青山をクローズして、広さもクオリティも2倍になります。場所は都内の外苑前交差点近くで、そこにはスーツ姿のセールスマンではなく、リラックスしたスタイルのブランドアンバサダーが常駐し、さまざまなデジタル体験だけでなく、急速充電設備もあってBEVのテストドライブもできます。投資額もかなりの金額になりましたが、本社を説得しました(笑)。
また新型BEVとしては、欧州ではすでに7人乗りBEVの「EX90」が公開されていてすごく好評で、さらにその次にBセグメントのSUVタイプのBEVが控えています。日本ではそのBセグSUVのBEVが今年夏の終わりころ発表予定で、EX90は2024年になりそうです。順番が逆になったのは、Bセグの小さなモデルのほうが日本でのポテンシャルが高いからです。今年はこれに集中して成功したいと思っていて、本社にもそう伝えてあります。値段も魅力的な設定ができるはずで、これからはこのセグメントが一気にGROW(育つ)するはずです。
──「所有」から「使用」へという新しいクルマの乗り方、サブスクの今後の計画は?
パーソン社長:ユーザーの選択肢を増やすという意味で、特に若い人はサブスクリプション(以下サブスク)に興味があるようです。彼らは「所有したくないけれども使用はしたい」と思っているのです。サブスクにはフレキシビリティが重要な点で、ボルボのサブスクは3か月前に提示すればノーペナルティでクルマを返すこと(解約)ができます。また、任意保険も含まれているのは意外と知られていないですが、他にはあまりない設定です。そして、白やシルバーなど下取り額を考えたボディカラーを選ぶ必要もない、緑色でもなんでも大丈夫。好きな色の新車にお乗りいただけます。半年しか使わないとか、転勤の恐れがあるという人でもOK。「Freedom to Choose(選択の自由)」です。
逆に長く使いたいならサブスクは決して安くはないので、リースのほうがいいと思います。また、当然ローンや購入という方法もボルボは選べます。
BEVのシェアは地方の方が割合が高い
──ボルボのサステナビリティに対する取り組みを教えてください。
パーソン社長:ボルボは2030年には100%BEVを販売すると公表していますが、それには当然背景があって、2040年にクライメートニュートラルな企業になるという目標を達成するためのものです。生産もロジスティクスも、というのはかなりアグレッシブでチャレンジングなことですが、例えば本国のトースランダ工場はすでに100%カーボンニュートラルになっています。さらに、新しいバッテリ工場をイェーテボリに造っていて、スウェーデンの新興バッテリメーカー「ノースボルト」とのジョイントベンチャーでやる形になっています。
その工場でできる新しいバッテリは、2026年に登場する新世代のBEVに合わせて年間50万台分を作る予定で、すべて再生可能エネルギーによって生産される予定です。言葉にするだけでなく、ゲームチェンジャーになるべくすでに動き出しているのです。また、日本でもボルボの92店舗で使う電気を再生可能エネルギーに変える予定です。
──日本にも中国や韓国から新しいBEVが入ってきてライバル多数となっていますが、そのあたりの感触は?
パーソン社長:それについては、とりあえずは「いいことだ」と思っています。つまりそれは「BEVのマーケットが拡大するから」という意味です。今のところ入ってきているそれらのブランドは、われわれのコンペティターではないと思っていますし、今後はそうなるかもしれませんが、台数自体が増えると充電のインフラが整備されるというメリットも考えられます。
また、インフラという観点では、フォルクスワーゲングループは自社でハイパワーな充電設備を整えていますが、われわれはボルボの名前が入った充電ネットワークを作る予定はありません。まずはディーラーで設備を整え、次はパブリックなもの、例えばエネオスさんやファミリーマートさんと手を組むといったことは考えています。欧州でもそうしたネットワークを独自でやる予定はなく、それがボルボの戦略です。
──遅れているという日本のBEVや充電環境を変えるものとは?
パーソン社長:日本人はパーソナリティとして“保守的”だと思いますが、BEVが走り出すと一気に変わるはずです。充電環境についても、iPhoneを毎日充電するというのは分かりますが、500kmも走るBEVを毎日フル充電する必要はありません。実は日本ではシェアベースで見ると地方のほうが割合が高くて、今は高松(香川県)が一番。松本(長野県)、岐阜(岐阜県)、大分(大分県)と続きます。ガソリン代が高かったり、スタンドが遠くにしかないといった要因が考えられます。
そして戸建てが多いので、バッテリにも優しいAC充電ができる環境も揃っているからなのでしょう。一方、マンションの多い東京などの大都市では現在はBEVを所有するには厳しい面がありますが、新築マンションに充電設備があったり、既存の施設に充電設備を取り付けて資産価値を上げたり、というビジネスチャンスに対応する会社も出てきています。さらに規制緩和もあって、高出力の充電設備も比較的簡単に取り付けられるようになってきました。
そしてBEVは値段が高いので、政府の補助、インセンティブは重要です。そこは他国のマーケットを見てもキーポイントになるところで、例えばノルウェーなんかは「BEVを買わないと損だ」という感じです。スウェーデンでもかなりの補助金が出ています。やはり「どっちが得か?」というおサイフの面は大事なポイントですね。