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トヨタ×出光、バッテリEV用全固体電池の量産実現に向けた共同記者会見 「全固体電池の性能と耐久性を両立できるめどがついた」とトヨタ佐藤恒治社長

2023年10月12日 発表

共同記者会見終了後に笑顔で握手を交わしたトヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 佐藤恒治氏(左)と出光興産株式会社 代表取締役社長 木藤俊一氏(右)

高出力、航続距離の拡大、充電時間短縮を可能にする全固体電池

 トヨタ自動車と出光興産は10月12日、バッテリEV用全固体電池の量産実現に向けた協業開始の発表に合わせて記者会見を実施した。登壇したのはトヨタ自動車 代表取締役社長 佐藤恒治氏と、出光興産 代表取締役社長 木藤俊一氏の両名。

 はじめに佐藤社長から協業に関する説明が行なわれた。佐藤社長によると今回の協業は、固体電解質の量産技術開発やサプライチェーン構築に共同で進めることと、2027年~2028年にバッテリEVで実用化して、その後の量産を目指すという大きな2つの枠組みがあるという。

トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 佐藤恒治氏

 また、現在トヨタはマルチパスウェイの考え方から、現行のバッテリEV用電池をはじめ、バイポーラ型の次世代電池など特性に応じて最適な電池の開発を進めているものの、より高出力&ロングレンジ(航続距離の伸長)が要求される未来を見据え、佐藤社長は「現在の液系電池の先にある選択肢として開発しているのが全固体電池です」と説明。

 全固体電池のメリットは、電解質が固体のため電気を伝えるイオンが素早く動けることから、充電時間の短縮や航続距離の拡大、高出力化が可能になる点と、温度影響を受けにくく、高温・高電圧にも強く安定性が高い点が挙げられるという。ハイパワーが求められるスポーツタイプや、急速充電の多様が求められる商用車まで、さまざまな車両にメリットがあると考えられている。

今回の協業の合意内容
電池の多様なソリューション
全固体電池のメリット

 ただし佐藤社長は、「全固体電池は充放電を繰り返すと正極負極と固体電解質の間に亀裂が発生し、電池性能が劣化してしまうのが長年の技術課題となっている」と明かす。そこで2013年から、全固体電池の要素技術をいち早く開発していた出光興産との共同研究を開始。出光興産が持つ“柔軟性と密着性が高く、割れにくい固体電解質の技術”を生かし、トライ&エラーを繰り返しながら両者の材料技術を融合させることで、割れにくく高い性能を発揮する材料開発に成功したという。さらに、この新しい固体電解質とトヨタグループの正極・負極材、電子化技術を組み合わせることで、全固体電池の性能と耐久性を両立できるめどがついたという。

全固体電池の課題
出光興産とは2013年から共同研究を続けている

 また佐藤社長は“量産化”も重点テーマであると言及。まずは固体電解質の品質やコストを両社で作り込み、出光のパイロット設備を使った量産化の検証と安定的な原料調達スキームの構築を取り組むとしている。さらに市場導入を着実にするために、技術・調達・物流・生産技術のメンバーなど数十名規模でタスクフォースを立ち上げ、両社で活動を推進すると説明した。

出光興産株式会社 代表取締役社長 木藤俊一氏

 続いて出光興産の木藤社長より、今回のキーとなる「硫化物系固体電解質」を、なぜ出光が手掛けているのかの説明が行なわれた。この硫化物系固体電解質は、石油製品の品質を向上させる製造過程で副次的に発生する「硫黄成分」が原料。しかし出光は、硫黄成分の有用性を1990年代半ばに見い出し、長年にわたって培った研究力と技術力で固体電解質を生み出すことに成功したという。そして木藤社長は、「固体電解質はバッテリEVがかかえる航続距離への不安や、充電時間の長さといった課題を解決できる最有力素材である」と説明する。

固定電解質は石油製品の品質向上の製造過程でできる硫黄成分が原料となっている
出光は1990年代に硫化リチウムの製造技術を確立させた

 固体電解質事業への取り組みは、出光興産が中期経営計画で掲げているカーボンニュートラル社会の実現に向けた社会実装の主力メニューの1つで、木藤社長は、「地球環境の未来を見据えると同時に、必要とされる素材とエネルギーを安定供給することで、人々の生活を支えることが使命である」と述べた。

 続けて「人々の暮らしを守りながら、脱炭素を推進していくことは、個々の企業単位の努力で実現できるものではありません。トヨタ自動車と出光興産が技術を持ち寄り、全固体電池の実用化を実現する。さらには、この協業で得られた技術を世界の標準として展開することは、日本の技術力の高さを世界に示すことにもなる。クルマの未来を変えていくことは、エネルギーの未来も変えていくことでもあり、エネルギーとモビリティの未来を変えることこそが、地球環境を守り、持続可能な社会の実現に大きく貢献できる。その信念と覚悟を持って取り組んでまいります」と締めくくった。

まずは全固体電池を世の中に届けるのが目標

 続いて質疑応答では、トヨタ自動車 CN(カーボンニュートラル)先行開発センター長 海田啓司氏と、出光興産 専務執行役員 中本肇氏も加わり対応した。

 特許といった知的財産について問われると、出光興産の中本氏はグラフを提示して、「硫化物系固体電解質や硫化リチウムの分野に関しては、両社でかなりの特許を出願していて優位性があると思っている。ただし、まだ全固体電池を積んだ車両はデモカーしかなく、一般に販売できている訳ではないので、まずはそこを目指したい。特許の領域に関しては両社で話し合いながら進めていく」と回答。

出光興産株式会社 専務執行役員 中本肇氏

 また、海田氏は「具体的には成分系の特許はトヨタが持っていて、作るための技術やノウハウは出光さんが持っている。とはいえ、環境技術は広く使われてこそ意味があるので、しっかり世の中に役立つようにしていきたい」と補足した。

硫化物系固体電解質や硫化リチウムの特許出願数

 全固体電池の量産を実現させると他メーカーに対してどんなアドバンテージが得られるかと問われた佐藤社長は、「全固体電池の技術は電池の多様な商品力を構築する重要な要素ではありますが、ユーザーが購入するクルマの価値は、電池単体や航続距離、充電時間だけで決まるものではないと考えています。付加価値をどのように付与していくかやエネルギーマネジメントなど、総合的に商品力を高めていくことが大切だと思っています」と回答。また、量産化のボリュームについては、「2027-2028年の実用化を目指しているものの、電池をはじめ生産技術は採算ベースに乗せる量的規模を作っていく前のステップが非常に重要になるので、ファーストステップはまず、世の中にお届けするということを主眼に置いて、その後、量産化を進めていくためのステップに入っていくという2段階になっていくかと思います」と回答、まずは量よりも世の中に出すことが重要と説いた。

 続いて、出光は将来的にリチウムの資源供給も手掛けるのかと聞かれた中本氏は、「出光のマテリアルフローには、オーストラリアのリチウム鉱山でとれる水酸化リチウムと、国内に7か所ある製油所でとれる硫黄成分があり、それらをミックスして中間原料の硫化リチウムを製造。そこに複数の成分を加えることで今回トヨタさまと一緒に利用する固体電解質ができあがります。また、固体電解質のパイロットプラントを2027年に稼働予定ですが、現状で水酸化リチウムをどうするかはまだ意思決定はしていない」とした。

トヨタ自動車 CN(カーボンニュートラル)先行開発センター長 海田啓司氏

 全固体電池のコスト面に聞かれた佐藤社長は「コストは量との関係があり、普及を目指すにはそれなりのボリュームがないと厳しいが、まずは世の中に出すこと。ただ、目標としては液系電池の車両と同等の価格帯を目指していくべきだとは思っています」と回答。また海田氏も「液系電池もまだまだ高額なのが現状だし、全固体電池が量産されても液系電池は残りますし、より低価格にできるよう努力は必要になる。ゆくゆくは進化し続ける液系電池と全固体電池との競争になると考えている。現状で全固体電池が高額なのは、新しい素材だったり、それを作る技術や工程などにもコストがかかる、かといってニーズがないのに工場だけを一気に大きくすることも現実的には難しい。なので今回1社ではなく材料の部分に関して出光さんと一緒にやることでブレイクスルーを起こしたいという意思表明をした次第です」と思いを述べた。