ニュース

ソニー・ホンダの新型EV「アフィーラ」は、最高のモビリティソフトウェア開発環境 SDVの未来を作る川西泉社長

新型EV「アフィーラ」と、ソニー・ホンダモビリティ株式会社 代表取締役 社長 兼 COO 川西泉氏

日本で一般公開されるアフィーラ

 ソニー・ホンダモビリティの新型EV「アフィーラ」がいよいよジャパンモビリティショー 2023で日本初の一般公開となる。ソニーとホンダが協業して新たなバッテリEVを作り出すということで高い注目を集めてきたソニー・ホンダモビリティ。アフィーラは、ブランドであり車名ではないと発表されており、ソニーとして発表したバッテリEV「VISION-S」と比べると、シンプルな面で構成されている。

 今回、日本で初公開するにあたって、ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役 社長 兼 COOの川西泉氏が新たに用意したのが、ソフトウェア開発者向けにモビリティ開発環境のオープン化(AFEELA共創プログラム:仮称)を図ることだ。

アフィーラは、最高のソフトウェア開発環境と語る川西社長。AFEELA共創プログラムも発表

 クルマの電動化などにより、現在クルマはSDV(Software Defined Vehicle、ソフトウェア・デファインド・ビークル)として定義されつつある。SDVという概念自体、どこまでをソフトウェア化するかなど人や会社によってイメージが異なっており、ややふわふわしたものになる。それだけに、どこまではソフトウェアで定義し、どこまでハードウェアをコントロールするかなど、人や会社の思想が強く反映される部分でもある。

外観ばかりが語られることの多いアフィーラ、その本質は最高のソフトウェア開発環境

 では、川西社長はSDVとしてのアフィーラを、どのように位置付けようとしているのだろう。川西社長は、今回このAFEELA共創プログラムを用意し、多くのソフトウェア技術者にモビリティの開発をしていただきたいという。

「あまり何かこう営業目的で、ビジネスオポチュニティで、ビジネス対応を想定しながらというよりは、草の根的に技術というか、技術に興味を持っている方のほうが、ソフトウエアの技術開発のトレンドからは自然だと思うのです。(アメリカ)西海岸だと、みながそうやってごちゃごちゃ作りながら始まっている。そういう形で進めていきたいと思っています。そういう感覚で中を触ってもらえるとよいと思います」(川西社長)と語るように、AFEELA共創プログラムに入ることで、アフィーラの情報をできるだけ開示して、モビリティのアプリケーションを作ってみていただきたいという。

 これには、川西氏の経歴が関係している。よく知られているように、川西氏はソニーのプレイステーション事業でソフトウェア開発を担当し、数々のクリエイターを育ててきた。

 また、ポータブルゲーム機であるPSPも担当。PSPはよく知られているように、その当時のポータブルゲーム機としては飛び抜けた性能を持っており、メディアエンジンなどさまざまな機能を統合したSoC(System on a Chip)を搭載。まるで現在のクルマ向けSoCのような多機能さであった。

 2010年にはソニー プロフェッショナル・ソリューション事業本部でFeliCa事業部長を担当。交通系ICカードの心臓部であるFeliCaによって、電子決済の革命も起こした。その後、ソニーの重職を歴任し、2015年にはソニーモバイルコミュニケーションズ取締役エグゼクティブバイスプレジデントとして商品開発全般を担当するProduct Business Groupを率いた。つまり、スマートフォンの開発を行なってきた。そして2018年には、ソニー AIロボティクスビジネスグループ長として新型の「aibo」を担当。ソニー・ホンダモビリティの社長になる直前までソニー常務としてAIロボティクスビジネスに携わってきた人になる。

 つまり、バリバリのモバイルハードウェア技術者であり、そのハードウェアで動く新たなソフトウェアクリエイターを育ててきた人になる。

 と、ここまで紹介すると、ソフトウェア技術にかかわる人であれば、川西社長の狙いが腹落ちする部分もあるだろう。SDVに変革するこの時代、川西社長はモビリティソフトウェアクリエイターを育てたいと思っている。

 そのために必要なのが開発キットだ。モビリティの場合、移動するにあたって大量のデータを生成し、そのデータをうまく使うことで新たなサービスを作り出すことができるかもしれない。アプリを開発できるスマートフォンというハードウェアがあったことで、ライフスタイルが大きく変わったように、モビリティアプリを開発できるアフィーラ(AFEELA共創プログラム)を用意することで、SDVに変わるクルマの世界をリードしようとしている。

 では、川西氏はどこまでのデータを開放しようとしているのだろうか? この点について聞いてみると、「CANバスを流れるデータは、できるだけ開放したいですよね」と語る。これはクルマメーカーからすると常識外の発想で、クルマメーカーはなるべくCANバスを流れるデータはクローズしたいと思っている。

 今回のソニー・ホンダモビリティの協業において、走る・曲がる・止まるといったクルマの走りに関わる部分はホンダが担当しており、ここはおそらくホンダとのせめぎ合いになるものと思われる。どうやって安全にCANバスを開放するのかも見どころではあるだろう。

 SDVの差別化として川西社長は、最高のハードウェアを提供することだという。

「ソフトを作る上でなにがボトルネックになるかというと、コストだったり、ハードの性能だったりします。そこでつまずいてしまうとやりたいことができないんですよ、やっぱり。プレステもそうなのですが、最初から専門性の高いものを導入しておくことがとても重要です。最初にコストありきで、安いハードウェアにしてしまうとやりたいことはできないですよ。それは進化しないと言うことです。今後OTA(Over The Air)でアップデートしますと言っているのであれば、その何年か先まで耐えうるだけのハードウェアにすることが一番大事です。そこの設計ポリシーをちゃんと踏み切れるかどうかは重要で、そこのアーキテクチャを最初に考えておくことです」(川西社長)。

 そのために、クアルコムと協業してSnapdragon Digital Chassisを採用。最大800TOPSの演算性能を持つECUを搭載する。クアルコムが選ばれた背景には、川西氏の経歴でスマートフォンやaiboにクアルコムによる開発を行なってきたため。CES2023での発表会には、クアルコム社長 兼 CEOのクリスチアーノ・アーモン氏が登壇するなど、なかのよさを見せていた。

 また、室内のグラフィックス表示には3Dエンジンを用いるが、これもプレイステーション時代から付き合いのあるUnreal Engineを採用。アフィーラというブランドは、川西氏のキャリアが注ぎ込まれた、ソフトウェアオリエンテッドなものであることが分かる。

 記者自身は、かつては自作PC雑誌の編集者として、その前は損保会社のSEとして(一応、第二種情報処理は取得している)ソフトウェアやハードウェアの発展は見てきたが、ここ数年のクルマの変革は驚くべきものがある。

 その中でも、川西氏のビジョンは飛び切りソフトウェア開発者よりで、エモーショナルな外観や走る・曲がる・止まるで語られてきたクルマの世界から見ると、まったく異なる角度からクルマを捉えていると思われる。

 ちなみに、AFEELA共創プログラムをこのタイミングで発表したのは、2026年春の北米でのデリバリーを考えてのことだというが、日本のソフトウェア開発者へのエールという意味もあるのではないだろうか?

 ジャパンモビリティショーでは、実際にこのアフィーラを見ることができる。「アフィーラを使ってどんなモビリティソフトウェアを作ってみたいか」。そのような視点でアフィーラを見ると、外観表示デバイスの位置や内装表示デバイス位置など、意外と開発しやすそうなことが分かる。そんな視点で多数のSDVが展示されるモビリティショーを訪ねるのもありだろう。