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ソニー・ホンダモビリティ 川西社長、アフィーラはスマホと同様の変革がモビリティに起きることを予測したデザイン

CES2023で世界初公開されたソニー・ホンダモビリティの新型EVブランド「アフィーラ」のプロトタイプ車

CES2023で新型EVブランド「アフィーラ」発表

 1月4日(現地時間)、アメリカ ネバダ州ラスベガスで開催された「CES2023」のソニープレスカンファレンスで、ソニーとホンダが共同で手がける新型EVのプロトタイプが世界初公開された。この新型EVはソニーとホンダの合弁会社ソニー・ホンダモビリティの設立記者会見で「See you in Las Vegas on January 4, 2023」と登場が予告されていたもの。新型EVのプロトタイプとともに、「AFEELA(アフィーラ)」と新型EVのブランドも発表された。

 このアフィーラについて、ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役 会長兼 CEO 水野泰秀氏がプレゼンテーション。新型EVや新ブランドとともにAutonomy(進化する自律性)、Augmentation(身体・時空間の拡張)、Affinity(人の協調、社会との共生)の3つのブランドフィロソフィーが紹介された。

 大きな反響を持って迎えられたこの新型EVについて、ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役 社長兼COO 川西泉氏に、プロトタイプ世界初公開後、話をうかがった。

ソニー・ホンダモビリティ株式会社 代表取締役 社長兼COO 川西泉氏

モビリティのデザインもシンプルでクリーンなものになっていく

──世界初公開、お疲れさまでした。最初に、発表となった「AFEELA(アフィーラ)」というブランド名の由来を教えてください。

川西社長:アフィーラはFEEL(感じる)が中央にあります。モビリティに対する感じ方は人それぞれだと思うのですが、モビリティが進化する過程でインテリジェンス化が進むと予測すると、モビリティ側も人間を感じるというか認識するというか、そういう要素も出てくると思います。人とモビリティの関係を見直す、そういうタイミングに来ているのかなと思うのです。

 その双方向のインタラクティブな関係性、コミュニケーションというのをフィールというところで表現しています。

 両脇にAを付けているのは、今回3つのAを持つコンセプト、Autonomy(進化する自律性)、Augmentation(身体・時空間の拡張)、Affinity(人の協調、社会との共生)を掲げています。それを掛け合わせて、アフィーラというブランドで表現しています。

──両脇に2つだと、あと1つは。

川西社長:A フィール Aと読むと、Aは人だと。フィールで何かを感じる。その並びで1つの言葉として考えると、Aを2つ両サイドに置きました。最終的にAffinityというところは人と社会の共生になりますので、大きなテーマとしてひとくくりで抱えたAであるということになります。

──今回の発表で印象的だったのは、ブランド名だけの発表で車名が発表されませんでした。なぜブランド名の発表だけで、車名は発表されなかったのでしょうか?

川西社長:最終的にそれ(車名)をどうするのか、今後ラインアップも含めていくとそれは必要になるのかなと考えています。車名に対しては時期尚早というか、これからまだ時間もありますので社内でもよく議論した上で決めていけばよいのかなと思います。ただ、そんなに奇をてらったことにはならないと思います。

 アフィーラというブランドネームを起点として、車種の区別がつくような形にはしていきます。そこはもう少し時間をおいて考えればよいと思います。

──世界初公開されたアフィーラ プロトタイプの外観は、非常にシンプルでスリークなものでした。川西社長がソニーとして2020年のCESで発表した「VISION-S(ビジョン エス)」はもっとマッシブでした。アフィーラ プロトタイプのデザインは、この方向性なのでしょうか? 45のセンサーを取り付けることから、センサーのテストのためにシンプルにしたようにも見えますが。

川西社長:VISION-Sはソニーの活動としてやってきていたので、あの当時(2020年発表)のタイミングとしては、ソニーとしてモビリティの活動をするにあたって1つのデザインを考えたときに、単純にかっこいいとか、スポーティだとか、そういうところがあったほうが受け入れられやすいだろうなというデザインを想定し、そういう形にしました。

 その延長線上にあるデザインでは、今回ソニー・ホンダモビリティでホンダさんと一緒に協業する中で考えていたので、延長線上にあると説明がつかないのです。やはり、そこはリセットしたいなと。

 改めてモビリティをどう考えるのかというと、人とモビリティの関係を見直すタイミングに差し掛かっている。そのときのモビリティの姿を想定したときに、よりモビリティが高度な知性を持って人と接する、人と寄り添うようなものになっていく。2020年のときには、モバイル・トゥ・モビリティという話をさせていただいた。

 つまり、モバイルというスマートフォンの登場によって起きたメガトレンドは人のライフスタイルを変えた。そういう大きな変化点があります。

 それがモビリティでも起きるのではないか、そのときに求められるものはインテリジェンスと考えるならば、スマートフォンってすごく洗練されたと思うんですよ、携帯電話としては。

 それまでのメカ的な要素の強い折りたたみだったりとか、10キーが付いていたりとか。(携帯電話は)いわゆるメカ的な要素で差異化していたと思うのです。デザイン的にも。

 それがスマートフォンになったことによって、すごくシンプルでクリーンになってきた。大きなディスプレイとバッテリとカメラが付いて、コードレス。そこに集約されてきたと思うのです。

 携帯電話がスマートフォンに変わったときのような変化点、それまでのメカ的な要素からすごくシンプルなものになってきた。そういうトレンドがあったと思うのです。

 これが、先ほどのモバイル・トゥ・モビリティで考えると、モビリティにもそういうことが起きると考えるならば、モビリティのデザインもシンプルでクリーンなものになっていくというところをより強く打ち出したものです。

──プロトタイプだから、とてもクリーンに見えるのでしょうか?

川西社長:それはプロトタイプというか、自分たちの方向性を考えてモビリティの進化がそういう方向に向かうのではないかなと。

 今のクルマはどうしても、いろいろあるじゃないですか。先ほど言った携帯電話的な考え方、洗練されて究極の高機能なマシンになることを考えると、デザインは何なのかと考えると、そういうデザインを選んでいくほうがいいのかなと。

 逆に、既存のOEM(自動車メーカー)は思い切ってムダなものをそぎ落としてくという決断は怖いところもあると思うのです。逆にそういうところを思い切って追求していって、どこにユニーク性を出すのか。エクステリアのデザインに対してユニーク性を出すのかというと、表現するアプローチの仕方を変えたい。そのためにメディアバーを付けました。

──メディアバーとは?

川西社長:(フロントとリアのエクステリアに付いてる)ディスプレイですね。

 つまり外見の形、メカ的な形ではなくて情報発信という形で人に訴えられるような、そういう表現手法を採ることでユニーク性を出したい。そのような考え方になります。

フロントのメディアバー

リアのメディアバー

──メディアバーを使って、ソフトウェア的に表現したいということなんですね。本当にソフトウェアで定義されているクルマなのですね。

川西社長:ええ、それを外見上でも訴えたかったことがあります。

──現状、プロトタイプとして登場しているのですが、世界初公開されものは市販車に近いということですね。

川西社長:ある程度そういう要素や概念を取り込んで設計はしていますので、そんなにまったく違ったものにはならないと思います。

──ソフトウェア的に表現されるクルマということであれば、アルファ版、ベータ版、RC版、製品版で、今回のプロトタイプはどのあたりに位置するクルマなのでしょうか?

川西社長:ソフト的には、そうですね。よく聞かれるのですが、いわゆるコンセプトモックではありません。走らせることが可能です。では、量産の手前まできているのかというと、そう言い切れる状態ではない。コンセプトモデルと量産プロトタイプの中間くらいのところと考えていただけるといいのかなと。

──プロトタイプ車にはコードネームとか愛称はあるのですか?

川西社長:アフィーラというブランド名はあります。

広報さん:今回は、プロトタイプです。

──はい、プロトタイプで。では、SoCの部分を聞きたいと思います。今回のCESでは、日本での発表に続き800TOPSという処理能力が訴求されました。この800TOPSという能力は現在の基準で見ても相当優れた処理能力になります。川西社長はこの能力をどこに活かしていこうと考えていますか?

川西社長:ADASですね。ここのパフォーマンスに関しては、いわゆるディープラーニングを走らせるためのSoCの演算性能と、メモリもそれなりに大きなものを積む予定です。そういうところのスペックは将来にわたって進化できるような能力を担保したかった。

 それとは別にインフォテイメント側も(SoCを)載せています。

──OSも複数載るという理解でよいですか?

川西社長:複数載せています、AndroidとQNXです。Androidはインフォテイメント側のディスプレイに用いています。クラスタ側はQNXです。

──電子プラットフォームとしては、クアルコムと協業し「Snapdragon Digital Chassis」を採用されました。川西社長はこれまでモバイル、aiboとクアルコムのSnapdragonによる開発を行なってこられました。一方、協業するホンダも、2022年のCESでSnapdragon Digital Chassisをホンダとして採用することが発表されています。今回のSnapdragon Digital Chassisは、ソニー側からの提案ですか? それともホンダ側からの提案ですか? 選ばれた理由なども教えてください。

川西社長:(クアルコムとは)付き合い長いですからね。SoCの選定は悩ましいのですが、だからといって選択肢が広いわけではないのです。一般的なトレンドでいうと、欧米系は汎用的なSoCを選択するパターンが多いです。NVIDIAだったりクアルコムだったりとか。一方、エッジ向けではSoCについては自社開発する方向性がトレンドです。どちらがよいのかなというのは、自分の中ではまだ迷いが残っているところもあるのですが。

 ただ、自社開発するということは車載用のSoCを自前で作るということなので、今の段階でそこに振るのはいろいろな意味で知見が足りていないのかなと思います。逆に、汎用的なSoCを使うことのメリットのほうが、自分たちのこれまでの知見から考えてもやりやすい部分はありますし、それなりのスペックが維持できます。そっち側に、今回の方向性としては持っていきました。

──川西社長は、これまでプレイステーションポータブル、交通系ICカードなどでも採用されているFeliCa、モバイル、aiboと、人とふれあうことの多い製品を開発されてきました。クルマとなると、シートやステアリングなどさらに人とふれあう部分が増えていきます。そのようなふれあいの多い製品となるクルマで、どのようなことを行なっていきたいですか?

川西社長:最初に申し上げたように、人とモビリティの関係を見直すいいタイミングに来ていると思っています。これまでのクルマは、移動するツールであり、運転する楽しみもあります。これからは、移動するツールというところから、移動空間の楽しみ方、過ごし方というところに少し着目をし、そこを伸ばしていきたいと考えています。

 どういうことかというと、人に寄り添うものだと考えたときに、より知性を高度化していく。そういったモビリティを目指す方向に、ソニー・ホンダとしては振っていきたいなと。

 つまり、これまでの走行性能を競い合うようなモビリティの方向性、それはもちろん大切なのですし、安全性も大切です。その上で、そこではないところに自分たちのユニーク性を持ちたいということです。

──走りの部分はホンダが担当することになりますか?

川西社長:はい、十分な知見をお持ちなので。

──CES2023で新ブランドの発表と、新型EVのプロトタイプを世界初公開しました。次のステップはどこを見ているのでしょうか?

川西社長:イベントのために仕事をしているわけではないので(笑)。公道を含めた走行可能な車両にしていくことが次のステップになります。これは普通にどなたもやられることなので。

 車体としての作り込みも必要ですし、ADASの完成度を高めていくことも必要です。

──ADASの話が出ましたが、レベル3自動運転の実装も変わらずという理解でよいでしょうか?

川西社長:そうですね、そこは変わらずに。レベル2+とレベル3、このあたりを両方追っていきたいなと思っています。