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豊田自動織機、国内排出ガス認証の不正行為に関する記者会見 「現場に任せきりな風土になっていた」と伊藤浩一社長

2024年1月29日 実施

国内排出ガス認証の不正行為に関する記者会見を実施した株式会社豊田自動織機 取締役社長 伊藤浩一氏

 豊田自動織機は1月29日、現行機種のフォークリフトおよび建設機械用エンジンの排出ガス性能に関する国内認証における法規違反に関する記者会見を実施。取締役社長 伊藤浩一氏と経営役員 原茎太郎氏は冒頭、深く頭を下げて関係各所に対する謝罪を行なった。

 伊藤社長は、2023年年3月にフォークリフト用エンジン3機種、建設機械用エンジン1機種の国内排出ガス認証に関する法規違反が判明し、対象機種の出荷停止を決定したことに加え、今回の特別調査委員会の調査の結果、新たにフォークリフト用エンジン6機種、建設機械用エンジン1機種、また一部の自動車用エンジンでの違反行為が明らかになったことを報告した。

冒頭で謝罪を行なった株式会社豊田自動織機 経営役員 原茎太郎氏(左)と取締役社長 伊藤浩一氏(右)

 エンジン事業担当の原氏は、フォークリフトや建設機械といった産車(産業車両)用エンジンでは、排出ガス認証を取得する際、実測値と異なる数値を使用したり、試験中に部品などの交換を実施。量産品と異なる制御ソフトの使用。複数の測定力の値の選択などの違反内容を報告すると同時に、旧型機種の排出ガス性能については今後確認すると説明した。また、自動車用ディーゼルエンジン3機種では、社内の出力試験の際、燃料噴射量を調整し、出力やトルクカーブについて見栄えのよいデータにするといった行為など、違反内容の詳細を説明。

株式会社豊田自動織機 経営役員 原茎太郎氏

 責任および処分について伊藤社長は、2023年3月に公表した関係役員の報酬辞退をすでに実施しているが、今回の調査結果を踏まえ、今後追加処分などを決定したら改めて報告するほか、現在連結業績に与える影響も精査していて、今後開示すべき事項が生じた場合には速やかに開示するとした。

 特別調査委員会から“受託体質が根付いているのが原因の1つ”と指摘されたことについて聞かれた伊藤社長は、「今まではフォークリフトと自動車と、エンジン事業における開発部門は大きく分かれていた。自動車用のエンジンはしっかりとトヨタから法規に関する指示もあり、それに従って対応していたが、フォークリフト用エンジンに関しては、人数も少なく、そこに十分な人を当てられなかったにも関わらず、組織を縦割りにしていた関係から、自動車用エンジンでのノウハウややり方を伝授できていなかった。今は製品軸の組織を変えて、自動車用も産業車両用も同じハードの開発人員を1つの組織としてそろえ、横のつながりを作って問題解消に向けた取り組みを始めています」と報告。

不正行為が行なわれたエンジンの概要および主な不正行為の内容

 また、コンプライアンス意識の欠如については、「今回の調査報告書を見ると、やはり開発日程や生産や価格などとコンプライアンスのどちらが優先か? というような選択を迫られた場合に、何の迷いもなくコンプライアンス優先という文化が根付いているのが普通だと思うのですが、ここがしっかりと定着する仕組みや枠組みや教育ができていなかった」と陳謝した。

 自動車用エンジンでの不正行為に関するトヨタ自動車とのコミュニケーション不足について聞かれた伊藤社長は、「試験のやり方あるいはデータの取り扱い方に関して、一部の担当者が“大体こんなやり方でやってきたんだよ”と引き継いできてしまった。現場に任せっきりにしてしまい管理職の上位層にそういったことが届かない職場になっていた。そういう風土になってしまったのが一番大きな原因だと思っております」と回答した。

 自動車用ディーゼルエンジンのECU(コンピュータ)を書き換えたことについて原氏は、「当時のうちのエンジンベンチ(出力測定器)が、試験に必要なモード運転ができないから、本来であれば設備を必要なモード運転ができるように改修するのが当然だけれど、そこを安易にエンジンのECUソフトの方を変更して対応してしまった。そこが一番われわれとして反省すべき点で、それも法規違反の認識なくやってしまったのが反省すべき点であると思っております」と述べた。

特別調査委員会の報告

 外部有識者からなる特別調査委員会は、井上宏委員長、島本誠委員、松山遙委員が登壇して説明を実施。

 井上委員長によると、2023年3月17日に法規違反が判明したのち、調査は端緒となったフォークリフト用エンジンの認証関係から始め、その認証試験、特に劣化耐久試験に関連する不正行為が中心であったため、すでに生産終了となったエンジンについても、劣化耐久試験が必須となった2006年の第二次規制以降のものについては調査したと説明した。

特別調査委員会 井上宏委員長(弁護士、公認不正検査士、元福岡高等検察庁検事長)

 また、産車(産業車両)用エンジンについては、認証を取得した後の量産段階に入った後に行なわれる量産の抜き取り検査での不正と、開発段階・認証試験以外の場面における不正行為を複数発見したほか、自動車用エンジンでも、諸元表に記載される最高出力値の測定に際しての不正行為が認められたと解説。

 違反が起きた原因については、「劣化耐久試験は数か月という長期間を要することになり、終盤で規制がクリアできないなどの問題が生じ、試験をやり直すと量産開始日程が大幅に遅れるなどの困難な状況に直面する中で、測定データの書き換えなどの不正行為が行なわれた」と説明。続けて、トヨタ自動車からの受託生産していた自動車用エンジンについては、「出力測定試験の際に、諸現値を確実にクリアするとともに、他の回転数の領域でも予定の出力値から大きく外れることがないようにするため、試験に用いるエンジンの状態を踏まえて、ECUソフトの燃料噴射量に関する制御パラメータの変更を行ない、燃料噴射量を若干量増減変更して、ばらつきを調整していた」と報告した。

青色で表記している産車用エンジンが不正の発覚したエンジン

 これら一連の不正行為の要因について井上委員長は、開発スケジュールのプレッシャーのもとで不正行為に走った担当者、あるいはこれを承認した管理職のコンプライアンス意識の欠如を指摘しつつも、「日程に無理があることや測定データが思わしくないことなどが、担当者から管理職管理職から部長ら幹部にエスカレーションされなかったこと。さらには管理職や部長職が現場の問題を把握してこれを解決するために自ら行動する姿勢を示していなかったために、上に上げても無駄であるという雰囲気が蔓延してしまったことなど、真の原因はより組織的、構造的な問題にあると考えられる」とまとめた。

 それらを踏まえつつ、受託体質からの脱却と産車軽視の払拭を図るためには、制度体制面での整備とともに、経営層から末端の従業員にいたるまでの意識の改革を前提としつつ、経営層が産車エンジンの規制や開発の現実を正しく認識するとともに、管理職や従業員に対し、責任を持った開発製造を行なうための意識や誇りを育てていくための指導を継続することを特に求めたと言う。

特別調査委員会 島本誠委員(ヤマハ発動機株式会社 顧問)

 また、規制強化や社会の意識の変化などを正しくリスクとして把握できるよう、リスク感度を高めるとともに、全社的なリスクの把握管理の仕組みの整備。事業部制の枠組みのもとで出来上がった別な力関係を解消するとともに、よりよいエンジンをともに作り上げるという意識のもと、全社最適の観点で、産車エンジン事業のあり方などを検討できる枠組みや整備を経営層の責任において早急に検討実行すべきと、「コンプライアンス文化の醸成」「不正行為の防止および早期発見に資する仕組みの整備」「経営陣における意識・行動の改革」と3つの柱とする再発防止に向けた提言を行なったと締めくくった。

 質疑応答で「自動車用エンジンにける不正は、トヨタ自動車のプレッシャーが大きかったからでは?」と問われた井上委員長は、「ヒアリングの中では、あまりその出力カーブがぶれているとトヨタ自動車に何か言われると嫌だなというようなことを懸念したという説明ありましたが、何かいわゆるそのプレッシャーがかかったというような供述証拠は得られておりません」と回答。

 また、島本委員は「プレッシャーはトヨタ自動車からのではなく、フォークリフトの開発や製造において、L&Fカンパニーという豊田自動織機さんの中の非常に力の強いカンパニー組織からのプレッシャー、もしくは役員上司からの日程のプレッシャーは強かったということがあるかと思います」と補足した。

 不正が始まった時期についての質問に対しては、「産車用エンジンの違反のほとんどが劣化耐久試験に関わるものなので、これは2007年に劣化耐久試験が義務化されたころから不正が始まったと考えられます」と井上委員長。

 さらに、豊田自動織機の品質管理担当者が今回の違反についてどのように述べているのかを問われた井上委員長は、「品質保証担当ではないが、幹部や役員級からヒアリングした中では、品質保証については、2020~2021年以降からかなりテコ入れをしているが、それまで品質管理・品質保証が弱かったことは認めざるを得ないと聞いています」と回答。

特別調査委員会 松山遙委員(弁護士)

 松山委員は「産車用エンジン開発は自動車エンジン開発よりも簡単なんだという産車軽視の思い込みがかなり大きく影響していたと思います。自動車用エンジンはトヨタ自動車がしっかりと見ているので、きちんと指示を受けてまわしていたけれど、産車用エンジンについては自前できちんと法規認証を勉強しなければいけなかったのに、基本的にエンジン事業部は自動車用エンジンを中心にまわっていて、産車用は簡単なものであるという思い込みから、自分できちんと対応しなければならない劣化耐久試験とか、そういった意識が非常に弱く、その結果こういった形での不正が十何年にもわたって続いてしまったと理解しております」と補足した。