ニュース

ホンダ、人と協調するマイクロモビリティ「サイコマ」「ワポチ」の一般向け実証開始 アグリサイエンスバレー常総で体験してみた

2024年1月31日 開催

ホンダが実証実験を続けているHonda CI(Cooperative Intelligence)を使う電動マイクロモビリティの「CiKoMA(サイコマ)」とマイクロモビリティロボットの「WaPOCHI(ワポチ)」の体験試乗が開始されることから発表会が行なわれた

 本田技研工業は、すべての人に「生活の可能性が広がる喜び」を提供することと、交通事故ゼロ社会の実現を目標に人の移動と暮らしの進化に向けて取り組んでいる。

 そうした取り組みの1つとして研究開発子会社である本田技術研究所では、人と分かり合えるホンダ独自のAI=協調人工知能「Honda CI(Cooperative Intelligence)」を活用したCIマイクロモビリティ技術を活用した「Honda CIマイクロモビリティ」を開発している。

 Honda CIマイクロモビリティは2030年ごろの実用化に向けて研究開発を進めている最中で、2022年11月からは茨城県常総市にて技術実証実験を行なっていた。

 そして2024年2月より実施されるのが、茨城県常総市の「アグリサイエンスバレー常総」を利用する人に、自律走行する搭乗型マイクロモビリティの「CiKoMa(サイコマ)」と、人の歩行にあわせて先導、追従をするマイロボット「WaPOCHI(ワポチ)」の2機種のマイクロモビリティを体験してもらう試みだ。

 そうした節目を前にホンダは、一般向けの試乗体験が開始される「アグリサイエンスバレー常総」にて発表会を行なった。

ホンダが開発を進める「Honda CIマイクロモビリティ」。クルマ型が「CiKoMa(サイコマ)」で、ロボット型が「WaPOCHI(ワポチ)

 発表会には本田技術研究所より開発に携わったメンバーがそれぞれの領域について発表した。

 最初に登壇したのは本田技術研究所 先進技術研究所 知能化領域エクゼクティブチーフエンジニアの安井祐司氏。安井氏はスライドを使用しつつ取り組みの概要を紹介した。

 安井氏によると、ホンダでは2023年に向け、「すべての人に生活の可能性が拡がる喜びを提供する」というビジョンを掲げている。

 この取り組みにおいては、人々の移動と暮らしを手助けしていくことを進めていて、そこで使われるのがホンダの技術を使う知能化モビリティ。いつでも、どこでも、どこへでも、人とモノの移動を「交通事故ゼロ」「ストレスフリー」で可能とし、「自由な移動の喜び」を実感できる社会のために開発をしているものだ。

株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 知能化領域エクゼクティブチーフエンジニア 安井祐司氏
ホンダの2023年ビジョン

 安井氏は知能化モビリティが実現する未来社会について、スライドをもとに説明をしたが、なかでもポイントとして挙げたのが「乗員がリスクを見落とすことによる事故が多い」という点だった。そしてその部分を補うためにAIによってまわりのリスクを認識し、ドライバーがリスクに気がついていなければ上手にサポートしていく技術の研究を進めているという。

ホンダの知能化モビリティが実現する未来社会をイメージした資料

 開発の課題として挙げられていたのが、自動運転に使われる高精度地図に頼るタイプでは走行の限界があるという点。

 地図(高精度で適時更新されたモノ)があることが自動運転の前提となると、地図がない場所は走れないし、地図が作られたあとに道路や周辺の環境が変わっても走れない。つまり地図ありきでは走行できるエリアが限定されてしまうということだ。しかし、それではホンダが求める「いつでも、どこでも、どこへでも、人とモノの移動を」の社会は実現できない。

 そこでホンダでは「高精度地図に頼らない環境認識」と「事故を起こさないための予知、予測技術」、さらに「他の交通参加者との互いに分かり合える協調行動ができる」知能化モビリティ「Honda CI」を開発。

知能化モビリティに求められるもの
Honda CIでは、人とロボットが信頼し合いながら一緒に行動できることを目指している

 2030年以降は高齢化社会が進むことで、さまざまな課題が出てくると予測されている。都市部のビジネスマンの行動を例に取ると、便利な移動手段として定着しているタクシーではドライバー不足の問題から利用しにくくなることが予想される。そこで最近整備が進んでいるのが特定小型原付自転車などのシェアリングサービスではあるが、これにはメリットもありつつ転倒しやすく、天気や気温に利用環境が大きく左右される。また荷物を運べないなどの欠点もある。

 もう1つ、高齢者は公共交通が充実している都市部での暮らしを希望することも多いが、都市部の公共交通期間の乗り換えでは横の移動に加えて地下やビル上などへの縦の移動があるため、足腰が弱った高齢者にとって実は便利でない状況でもあるなど、視点を絞っていくといろいろな課題が見えてくるのだ。

 そんな状況では「歩かないで済む」対策がよさそうに思えるが、データによると歩くことが多い高齢者であるほど病気になりにくかったり、痴呆症の発症も少ないなど興味深い事実が見えてきたので、やはり「歩くこと」は大事。でも現実的には、荷物があって歩くのが大変など、歩きたくても歩きにくい理由もあったりする。そこで見えてくるのが「荷物さえ何とかなればよいのではないか?」と言うこと。

Honda CIマイクロモビリティ開発の背景を紹介した資料
便利そうに見える都会でも視点を絞ると課題が見えてくる。こうした面は高齢化社会が進むとよりはっきり見えてきそうだ
これも興味深いデータ。平均寿命や健康寿命。それに歩くことが健康維持へ大きく貢献するなどが分かる。ただ、そうは言っても現在の状況では「荷物があるため歩くのが大変」など歩くことを選びにくい理由もあるのだ

 こうした背景を踏まえて開発されているのがHonda CIマイクロモビリティ。「いつでも・どこでも・どこへでも」人とモノの自由な移動を実現するために提案されているのが「サイコマ」と「ワポチ」である。

 サイコマは乗りたいところまで来てくれて、乗り込んだあとは行き先を指定してそこまで連れて行ってくれるだけでなく、行き先指定をせず、自動で走らせたあとに方向を指示すると言った利用方法もできるものだ。

 そしてもうひとつ「サイコマを自分で運転する」ということも可能としているのがとても興味深いところ。

 高齢者といっても運転することが好きな人もいて、身体能力的にも運転できる状態であることも多い。それだけに自分で運転したいという声もあるとの予想から、サイコマにはステアリングやアクセル、ブレーキペダル、ドライバーズシートが付いているので自分で運転することは可能だ。

 ただ、人が運転しているモードであってもHonda CIはしっかり機能しているので、状況に応じて警告したり運転操作に介入するなど「事故が起きないようHonda CIがしっかり守る」ということも行なうのだ。

 自動運転で乗ることができつつ、自分でも運転ができ、その際もCIが事故を起こさないように見張り、必要とあらば手助けするというクルマ。これこそ多くの人に受け入れられる未来のクルマの姿ではないだろうか。

 そして「ワポチ」は人の「歩きたい」という気持ちをサポートするもの。ワポチには荷物を積める機能があるので、なにかと重くなりがちな買い物袋など 運んでもらう事はもちろん、もう1つおもしろい利用法としてあるのが「人の歩きを先導する」ということだ。

 高齢者は足腰が弱くなっていることもあって、他の歩行者を避けるながら歩くことが苦手な傾向である。そこでワポチが利用者を先導するのだ。すると他の歩行者がこちらの状況に気づいてもらえるのでお互いがスムーズに歩くことができるようになるということ。こうした利用法は開発陣自らが用具を使い、足腰が弱った状態を再現した中で気がついたことであるだけに、便利というだけでなく「やさしさ」も感じられる機能である。

Honda CIマイクロモビリティの「サイコマ」と「ワポチ」の特徴
サイコマとワポチを支えるコア技術がこの2点
CIマイクロモビリティのシステム構成図
Honda CIマイクロモビリティの特徴である地図レス強調運転の解説
地図レス協調運転は街の作りや設備を自動運転仕様に大きく作り替えなくても自動運転ができるのが利点、地域を限定せずに広めていくことができるのだ。新都市型スマートシティについて「どれだけ実現できるのか」「地域格差は必ず生まれる」ということ懸念もあったが地図レス協調運転はその問題も解決するものでもあるようだ
茨城県常総市では2か所で実証実験が行なわれている
今回の発表会が行なわれたアグリサイエンスバレー常総での実証実験について
2024年2月よりアグリサイエンスバレー常総(道の駅 常総と併設)にて一般を対象とした試乗体験が開始される。こちらではリアルな意見をもらうことで足りない部分を補うことが目的なので、使い勝手のほか、機能への希望や要望など「たくさん伺いたい」とのことだった
最初は安全監視ドライバーが同乗。その後は安全監視ドライバー+遠隔監視付きの自動走行へと進み、最終的に遠隔監視のみの無人走行となるステップ
計画全体のロードマップ

サイコマの技術について

 続いて登壇したのはCiKoMa自動走行機能開発責任者の松永英樹氏。今回の発表会に展示されているのは4人乗りのモデルだが、ほかに1人乗りから数人乗りといったモデルの製作を予定している。なお、実証実験に使う車両はホンダが作った車体ではなく、既存の電動カートをベースにしているとのこと。カメラなどの機器の数や配置は今後まだまだ変更されるため、現段階で車体を決める必要がないというのが理由だ。

 サイコマはカメラとAI技術で高精度地図がなくても自動運転が可能であることが特徴。具体的にはカメラをベースに車道や交通参加者を認識すると同時に、同じくカメラにて歩道を含めた公開空地といわれる部分も認識し走ることができるようになっている。

 このようにカメラを軸とすることで、エリアを限定することなく走行できるということだ。

本田技術研究所 CiKoMa自動走行機能開発責任者の松永英樹氏
サイコマの車体は市販の電動カートを使った実験用。ホンダが作った車体ではない
運転席まわり。走行している実証実験車両とは作りが異なっている
カメラ位置などを色々と試すため、暫定の車体を使っているとのこと
バッテリはホンダモバイルパワーパックを4つ使用
カメラを軸に映像をAIが処理するサイコマ独自の技術
地図レス協調運転の技術概要

 サイコマは人間同士のようにコミュニケーションを取ることができる乗り物だ。例えば利用者がサイコマとつながる端末から呼び出しを行なうとそれを理解しユーザに対して確認の返答を行なう。そしてユーザから認証を受けると指定された場所に1回で自動で移動する。

 待ち合わせの場所ではユーザーがサイコマに対して手を振ることでサイコマはユーザーであることを認識して横付けするという具合である。走行中も同様にユーザーとのコミュニケーションが取れるので途中下車などの対応も可能だ。なお、サイコマは環境の認識もしているのでユーザーから「ここで駐めて」という依頼があっても、その場所が停車するに危ない場所であったりすると「ここは危ないのでもう少し先でいいですか」と聞いてくることも行なえるということだ。

カメラは人のジェスチャーも読み取る。そのコミュニケーションの例がこちら。命令を聞くだけでなく状況を読み取り提案も行なえる
歩行者を避けたりクルマとの交差にも対応できる
アグリサイエンスバレー常総で行なわれる一般を対象とした試乗体験のシナリオ

ワポチの技術について

 ワポチについては本田技術研究所 WaPOCHI開発責任者の小室美沙氏が解説をした。ワポチは歩行のサポートにフォーカスした電動マイクロモビリティロボットだ。

 開発では人の歩きをサポートするといったことについて調べたところ、人は無意識にうちに「荷物に行動を制限されている」ということが見えてきた。また、人が多いところでは歩行者同士がぶつかることもあり、これが高齢者や子どもが歩くことへの課題になることもあった。

本田技術研究所 WaPOCHI開発責任者の小室美沙氏
マイクロモビリティロボットのワポチ
ワポチの概要
顔のような部位には前、後ろ、左右にカメラがある
頭の上にディスプレイがあり、使用はここでボタン操作をしたあとに、頭の裏側にあるセンサーの手をかざして生体認証も行なう
カメラのほかに前後にライダーも装備する

 ワポチには「ユーザーを記憶する」機能があるの人混みの中でもスムーズに追従ができるので、ワポチに荷物を載せることでユーザーは手荷物から解放される。それに人混みの中でユーザーの前を走行する機能では、ユーザーの歩行スペースを守ることもできるのだ。

 ワポチには頭に見える部位に360度を認識できるカメラが搭載されていて、サイコマ同様にカメラによる環境の認識が使われている。

 追従機能、先行機能のどちらも周辺の歩行者の中から「どの人が利用者であるか」をカメラが記録した映像から ユーザーの特徴を記憶し、そしてその特徴を抽象化したデータを作っている。同時に順次行なっている観測点での位置情報とあわせることでユーザーを見失うことなく追従するという具合だ。

ユーザーを認識する技術について
しっかりと先行、追従するための技術。ユーザーの進行方向をリアルタイムに推定している
先導時の行動例
サイエンスバレー常総でのワポチの体験シナリオ

サイコマとワポチを体験

 発表会ではサイコマ、ワポチを体験する機会も用意されていたので、その体験した印象についても紹介しておこう。

 ともに自律走行ができるCIマイクロモビリティと聞いていたが、取材前はどんなものか内容や活用法がよく見えていなかったが、説明を聞いて実物を体験して感じたのが自動運転の現実味やロボットを使う未来が近いということだ。とくに自動運転については以前より各メーカーが開発をしていたり、自動運転のための街作りなどの取り組みも見てきたが、正直なところ大がかりすぎる印象もあって本当に普及するのかという疑問もあった。

 しかし、AIによる自律走行が可能な場所は自動運転をして、自律走行が難しいところは人がAIのサポートを受けながら運転するというやり方は実現性の高さを大いに感じた。また、ワポチについても人混みを走行できたりユーザーを認識できる機能は歩行のサポートだけでなく幅広い活用法があるものだ。

 サイエンスバレー常総ではそんな未来を体験する機会が設けられるので興味のある人は出かけてみて欲しい。

サイエンスバレー常総内に作られた実証実験用のコース
端末に話しかけることでサイコマとコミュニケーションが取れる。呼ぶときも端末への音声で行なう
利用者のジェスチャーを識別する
乗り込んだあとは車内のディスプレイにてコミュニケーションを取る
歩行者がいるときは停止して待つ
ディスプレイに注目。カメラやセンサーによってこのように認識されている
クルマとの交差もスムーズに行なう
看板を読み取ることでお店の前まで迎えに来ることもできた
こちらはワポチ。先導時はボディのLEDが目立つ色となりまわりの歩行者に注意を促す。追従時は落ち着いた青色に点灯
先導時、人が多くてもユーザーを見失うことはない
追従時。ユーザーの進行方向を想定しているので、前触れもなく進路を変えても追従する
一般を対象した試乗体験では先日のモビリティショーに出展された「CI-MEV」も使用される予定