ニュース
ホンダ車を進化させ続けてきたホンダアクセスの「Modulo」ブランドとは?
ホイール開発から「実効空力」を備えたエアロパーツまで30年の歴史を振り返る
2024年3月26日 13:24
ホンダ車用の純正アクセサリーを開発、販売するホンダアクセスでは、フロアマットなど幅広い層に向けた用品のほかにカスタマイズパーツブランドの「Modulo(モデューロ)」を展開している。
モデューロと言う名称の製品が生まれたのは1994年。最初の製品は当時、ホンダから発売されていたスポーティなセダン「ビガー」用のアルミホイールだった。
その後、幅広い車種を対象にエアロパーツやサスペンションキットなど製品ラインアップを増やしていき、記憶に新しいところでは、独自のもの作り思想を詰め込んだコンプリートカー「Modulo X」を作り出すまでになったのだ。
ホンダアクセスはモデューロブランドが30周年を迎えたことから、メディアを対象に「Modulo 30th Anniversay EXPO」を開催。モデューロの歴史を紹介する展示から、当時のモデューロパーツを装着した「S2000」「NSX」の試乗や、モデューロ独自の思想である実効空力の体験試乗、さらにモデューロの新作アルミホイールの先行試乗などの取材機会が設けられた。試乗パートはモータージャーナリストの岡本幸一郎氏によるレポートを別記事で掲載するので、本稿ではモデューロの歴史や新製品を紹介する。
モデューロの起源となるアルミホイール
モデューロ製品はホンダ車と一体開発することで、車両と同様の品質や信頼性、安全性を重視するホンダの開発思想に基づいたものとして1994年から開発と販売がスタート。
当初は一部の車種に向けてのアルミホイールのみ手掛けていたが、1996年になると状況に大きな変化が起きた。それまで規制が厳しかった車両法に大幅な規制緩和が行なわれたため、モデューロブランドもそれを機に発展していくこととなった。
まずは人気車であったプレリュード用にインチアップホイールやスポーツサスペンションを発売。いまでこそ純正用品にカスタマイズパーツがあるのは当たり前だが、当時は自動車メーカーが独自に手掛けるのは希少だった。
その後、スポーツサスペンションの設定車種を拡大。同時にアルミホイールのラインアップにブレーキ熱を放出しやすいデザインの採用や、軽量化によりサスペンションキットの性能を損なわないことを狙ったスポーツ性の高いモデルも追加された。
独自の視点で作られるモデューロのホイールの新作として展示されていたのが2024年春にマイナーチェンジするヴェゼル用の18インチアルミホイール「MS-050」だ。
MS-050もModulo Xシリーズ開発で培ってきたアルミホイールの設計思想を引き継ぐもので、特徴としてはアルミホイールもサスペンションとして機能するようリム部、スポーク部の剛性バランスが取られているところ。
タイヤが受ける荷重に応じてホイールが適切にしなることで、いかなる道路環境でもタイヤのトレッド面を路面に接地させることができる。そのため走行安定性が向上する。また、路面から受ける衝撃もタイヤ→ホイール→サスペンションという並びで処理するようになるから乗り心地のよさも向上するのだ。
車種ごとに乗り味を追求するモデューロのスポーツサスペンション
1996年の規制緩和からサスペンション開発にも着手していたが、1999年にサスペンションがモデューロブランドに仲間入り。特にこの時期に力を入れていたのがスポーツサスペンション。こちらもホンダ純正としてのクオリティを維持しつつ、走りの楽しさが増す作りとなり、軽自動車、ミニバンと設定車種を拡大していく。
モデューロのサスペンションは「曲がりの質を高めていくと乗り心地も一緒に高まる」という考えのもとで開発。これはスポーツモデルであろうとミニバンであろうと同じスタンスという。
こうした乗り味を実現するためのポイントとして挙げているのが「4つのタイヤをバランスよく接地させる」こと。ホンダアクセスではこれを「4輪で舵を切る感覚」と表現し、その思想は5代目プレリュード用のスポーツサスペンションが発売されたときから、完成車として発売されたModulo Xシリーズまで、基本となる部分は変わっていなそうだ。
モデューロのサスペンションは、車種ごとに実走行テストも行ないながら開発をするので、コンセプトは同じ方向性であっても例えばミニバンとスポーツモデルではセッティング内容はそれぞれで異なる。
スポーツサスペンションと聞くと、ノーマルより硬い乗り味を想像しがちだが、単純に硬い柔らかいの話でなく、クルマのボディ剛性やタイヤのたわみも考慮したバネレートや減衰力を設定。ショックアブソーバーがストロークする際の速度や特性(最初は大きく動いてその後は踏ん張るなど)も車種ごとに最適なものになるよう実走行で詰めていく。これによりどの車種でも4輪の接地バランスが最適になるよという。
見た目だけでなく空力まで意識したモデューロのエアロパーツ
サスペンションと同様に規制緩和以前もトランクスポイラーを発売していたが、1996年からはファッション性の向上を目的としたものではなく、空力性能向上を意識したエアロパーツの開発を始めている。
最初に製品化されたのは5代目プレリュード用で、これは「クルマをひとつの塊と捉え、全体の空力をバランスさせる」ことを狙った製品。なお、開発には風洞実験も用いるという本格的な作り込みを当時から行なっている。
1999年に登場した「S2000」は、ホンダが総力を入れて作りあげたクルマだけに、当初は純正アクセサリーでも、エアロパーツの設定はNGだったという。しかし、モデューロパーツの必要性を説いた結果、パーツ開発がスタート。難易度の高い開発を進めたことによりモデューロエアロパーツの新しい方向性が見えたそうだ。
それがハンドリングなどに対して明確な効果が体感できる「実効性のある空力効果」の存在で、ここで得たノウハウと成功の実績は、モデューロエアロパーツ最大の特徴となる「実効空力」という独自のエアロダイナミクス開発思想を作りあげるモノになった。
クルマの空力とは走路上に溜まる空気の層の中を進む際に、まわりに存在する空気をどうやって切り裂いて進むか、クルマが進む際にボディにまとわりつく(前から後ろへ流れる)空気をどう流すか(流れを乱す余計な渦を作らないとか、どう引き離すかなど)を制御するもの。
そして実効空力とは空気という抵抗物がボディに与える影響をエアロパーツの装着により整え、それを市街地の走行であっても運転しやすさや走行安定性向上に生かすもの。そのためにホンダアクセスは風洞実験にくわえ、テストコースを走り込みながらエアロパーツの造形を調整。狙いどおりの動きになるよう仕上げている。
2024年内に発売予定のシビック用テールゲートスポイラー
ホンダアクセスが東京オートサロン2023で展示した「シビックe:HEV SPORTS ACCESSORY CONCEPT」に装着されていたテールゲートスポイラー。TYPE Rではないシビックのボディに最適な形状・空力効果となるように現在開発が進められている。
現在のスポイラーはTYPE R用が原型なので、ウイングの厚みや翼端板の形状は、TYPE Rの空力にあわせた仕様。今後シビックのボディに合わせて、厚みや形状を最適化していくという。
キモになるのがウイングの下面に設けられている「鋸刃(シェブロン)形状」だ。羽の縦面に対して鋸の刃がリア向きに配置されていて、ここにできた山谷により羽の下面を流れる空気に流れが速いところを作り出す。するとその流れが羽を通る風自体を引っ張る効果を生むので、実効空力の考え方からフロントとのバランスを取りつつ、モデューロがシビックに対して与えたいと考えるレベルに調整している最中ということだ。
アルミホイールの剛性バランスを最適にすることでタイヤを使い切り、いかなる路面でもタイヤをバランスよく接地させることができるサスペンション、そしてリフトバランスを調整することでタイヤの接地荷重を適切にするエアロパーツという3つの要素を高い次元でバランスさせることで「操る楽しさ」をスポーツカーだけでなく幅広い車種で体験できるように仕上げているのがモデューロ。純正アクセサリーメーカーとしてはとてもユニークであるだけに、今後の展開にも注目していきたい。