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ホンダ車を進化させ続けてきたホンダアクセスの「Modulo」ブランドとは?

ホイール開発から「実効空力」を備えたエアロパーツまで30年の歴史を振り返る

ゴールドの2ピースホイールがモデューロとして初めて発売されたアルミホイール。ホンダの3代目ビガー用だった。黒いホイールはモデューロ独自の思想で開発されたS660 Modulo X用のMR-R01

 ホンダ車用の純正アクセサリーを開発、販売するホンダアクセスでは、フロアマットなど幅広い層に向けた用品のほかにカスタマイズパーツブランドの「Modulo(モデューロ)」を展開している。

 モデューロと言う名称の製品が生まれたのは1994年。最初の製品は当時、ホンダから発売されていたスポーティなセダン「ビガー」用のアルミホイールだった。

 その後、幅広い車種を対象にエアロパーツやサスペンションキットなど製品ラインアップを増やしていき、記憶に新しいところでは、独自のもの作り思想を詰め込んだコンプリートカー「Modulo X」を作り出すまでになったのだ。

2020年から2022年3月まで発売されていたS660 Modulo X。写真は最終モデルのS660 Modulo X Version Z

 ホンダアクセスはモデューロブランドが30周年を迎えたことから、メディアを対象に「Modulo 30th Anniversay EXPO」を開催。モデューロの歴史を紹介する展示から、当時のモデューロパーツを装着した「S2000」「NSX」の試乗や、モデューロ独自の思想である実効空力の体験試乗、さらにモデューロの新作アルミホイールの先行試乗などの取材機会が設けられた。試乗パートはモータージャーナリストの岡本幸一郎氏によるレポートを別記事で掲載するので、本稿ではモデューロの歴史や新製品を紹介する。

2024年にモデューロブランドが30周年を迎えたことから、ホンダアクセスは「Modulo 30th Anniversary EXPO」をモビリティリゾートもてぎにて開催した
当時の純正アクセサリーカタログ。これは初代ステップワゴンのもの。現在とは規制も違うのでパーツのラインアップはバラエティに富んでいる。見ていて面白い
モデューロ製品の30年に渡る歴史を紹介する資料。弾みが付いたのは1996年にあった車両法の規制緩和だった。資料には懐かしいクルマの写真も

モデューロの起源となるアルミホイール

 モデューロ製品はホンダ車と一体開発することで、車両と同様の品質や信頼性、安全性を重視するホンダの開発思想に基づいたものとして1994年から開発と販売がスタート。

 当初は一部の車種に向けてのアルミホイールのみ手掛けていたが、1996年になると状況に大きな変化が起きた。それまで規制が厳しかった車両法に大幅な規制緩和が行なわれたため、モデューロブランドもそれを機に発展していくこととなった。

 まずは人気車であったプレリュード用にインチアップホイールやスポーツサスペンションを発売。いまでこそ純正用品にカスタマイズパーツがあるのは当たり前だが、当時は自動車メーカーが独自に手掛けるのは希少だった。

 その後、スポーツサスペンションの設定車種を拡大。同時にアルミホイールのラインアップにブレーキ熱を放出しやすいデザインの採用や、軽量化によりサスペンションキットの性能を損なわないことを狙ったスポーツ性の高いモデルも追加された。

モデューロブランドのアルミホイールは当時ラインアップされていた「ビガー」用に発売。つまりこれがホンダ純正アクセサリーのアルミホール第1号となる
会場には現物も展示されていた。デザインや設計はホンダアクセスが手掛けているオリジナル品。2ピース構造となっている。当時は純正ホイールが鉄製ばかりだったこともあり、アルミに材質置換するだけでも十分なカスタマイズ要素だったという
カスタマイズブームとなった1990年代になると、ホンダアクセスはさまざまな車種に多種多様なアルミホイールを設定した
S660Modulo Xの開発で誕生した「MR-R01」はアルミホイール設計において新たな着目点から作られたモデル。高剛性ではなく剛性バランスを最適化してホイールの「しなり」を活用し、4輪の接地感を高めるという性能が盛り込まれた
S660 Modulo X用に専用開発されたMR-R01

 独自の視点で作られるモデューロのホイールの新作として展示されていたのが2024年春にマイナーチェンジするヴェゼル用の18インチアルミホイール「MS-050」だ。

 MS-050もModulo Xシリーズ開発で培ってきたアルミホイールの設計思想を引き継ぐもので、特徴としてはアルミホイールもサスペンションとして機能するようリム部、スポーク部の剛性バランスが取られているところ。

 タイヤが受ける荷重に応じてホイールが適切にしなることで、いかなる道路環境でもタイヤのトレッド面を路面に接地させることができる。そのため走行安定性が向上する。また、路面から受ける衝撃もタイヤ→ホイール→サスペンションという並びで処理するようになるから乗り心地のよさも向上するのだ。

マイナーチェンジするヴェゼル用の18インチアルミホイール「MS-050」。5角形のセンターホールや切削の入れ方が特徴的
荷重を支えつつ“しなる”という独自の思想で開発。動くのはスポーク面だけでなく、内側先端までのリム全部。しかもただしなるだけでなく、タイヤの接地面を適切にしつつしなるのがポイント。最適にしならせるためリム部はできるかぎり凹凸をなくし、なめらかな形状になっている
タイヤハウス内に入った空気はホイール裏面にも入り込み、それがホイールを内側から揺らすような影響を及ぼすこともあると言う。そこでMS-050は内側に入ってきた空気を効果的に外へ放出できるスポーク面のデザイン

車種ごとに乗り味を追求するモデューロのスポーツサスペンション

 1996年の規制緩和からサスペンション開発にも着手していたが、1999年にサスペンションがモデューロブランドに仲間入り。特にこの時期に力を入れていたのがスポーツサスペンション。こちらもホンダ純正としてのクオリティを維持しつつ、走りの楽しさが増す作りとなり、軽自動車、ミニバンと設定車種を拡大していく。

1999年、モデューロブランドにエアロパーツとスポーツサスペンションキットが追加された

 モデューロのサスペンションは「曲がりの質を高めていくと乗り心地も一緒に高まる」という考えのもとで開発。これはスポーツモデルであろうとミニバンであろうと同じスタンスという。

 こうした乗り味を実現するためのポイントとして挙げているのが「4つのタイヤをバランスよく接地させる」こと。ホンダアクセスではこれを「4輪で舵を切る感覚」と表現し、その思想は5代目プレリュード用のスポーツサスペンションが発売されたときから、完成車として発売されたModulo Xシリーズまで、基本となる部分は変わっていなそうだ。

1996年には5代目のプレリュード用スポーツサスペンションを発売。左側が実物。ローダウンさせたうえでスポーティさと乗り心地がいいという特性。これは後に展開したModulo Xシリーズの開発思想に引き継がれている

 モデューロのサスペンションは、車種ごとに実走行テストも行ないながら開発をするので、コンセプトは同じ方向性であっても例えばミニバンとスポーツモデルではセッティング内容はそれぞれで異なる。

 スポーツサスペンションと聞くと、ノーマルより硬い乗り味を想像しがちだが、単純に硬い柔らかいの話でなく、クルマのボディ剛性やタイヤのたわみも考慮したバネレートや減衰力を設定。ショックアブソーバーがストロークする際の速度や特性(最初は大きく動いてその後は踏ん張るなど)も車種ごとに最適なものになるよう実走行で詰めていく。これによりどの車種でも4輪の接地バランスが最適になるよという。

ショックアブソーバーの内部パーツ。特殊な構造ではないが内部のシムやベースバルブなどを開発し、動きの特性に大きく影響するダンパーオイルも車種によって変えている

見た目だけでなく空力まで意識したモデューロのエアロパーツ

 サスペンションと同様に規制緩和以前もトランクスポイラーを発売していたが、1996年からはファッション性の向上を目的としたものではなく、空力性能向上を意識したエアロパーツの開発を始めている。

 最初に製品化されたのは5代目プレリュード用で、これは「クルマをひとつの塊と捉え、全体の空力をバランスさせる」ことを狙った製品。なお、開発には風洞実験も用いるという本格的な作り込みを当時から行なっている。

規制緩和以降に登場した5代目プレリュードには、ホンダアクセスとして初めて「空力」を意識したエアロパーツが設定された。この頃はまだモデューロのブランドではない
5代目プレリュードの模型。フロントスポイラーのほか、ボンネット後端にも空力パーツを追加。トランクスポイラーはハイタイプになっていた

 1999年に登場した「S2000」は、ホンダが総力を入れて作りあげたクルマだけに、当初は純正アクセサリーでも、エアロパーツの設定はNGだったという。しかし、モデューロパーツの必要性を説いた結果、パーツ開発がスタート。難易度の高い開発を進めたことによりモデューロエアロパーツの新しい方向性が見えたそうだ。

 それがハンドリングなどに対して明確な効果が体感できる「実効性のある空力効果」の存在で、ここで得たノウハウと成功の実績は、モデューロエアロパーツ最大の特徴となる「実効空力」という独自のエアロダイナミクス開発思想を作りあげるモノになった。

S2000という優れたクルマのエアロパーツを開発することを通じて、「実効空力」という新しい視点が見えてきた

 クルマの空力とは走路上に溜まる空気の層の中を進む際に、まわりに存在する空気をどうやって切り裂いて進むか、クルマが進む際にボディにまとわりつく(前から後ろへ流れる)空気をどう流すか(流れを乱す余計な渦を作らないとか、どう引き離すかなど)を制御するもの。

 そして実効空力とは空気という抵抗物がボディに与える影響をエアロパーツの装着により整え、それを市街地の走行であっても運転しやすさや走行安定性向上に生かすもの。そのためにホンダアクセスは風洞実験にくわえ、テストコースを走り込みながらエアロパーツの造形を調整。狙いどおりの動きになるよう仕上げている。

実効空力を採用したエアロパーツは前後のリフトバランスがエアロパーツによって整えられる。FDシビック用から製品化されたそうだ
Modulo Xの開発によって実効空力の技術はさらに進化したという。そして得た技術は純正アクセサリーのエアロパーツにフィードバックされている
モデューロはクルマの運転する人が「楽しさ」を感じることを追求してきたという
モデューロが求める乗り味を生むために必要な3つのレシピ
モデューロの一環した乗り味の要素

2024年内に発売予定のシビック用テールゲートスポイラー

 ホンダアクセスが東京オートサロン2023で展示した「シビックe:HEV SPORTS ACCESSORY CONCEPT」に装着されていたテールゲートスポイラー。TYPE Rではないシビックのボディに最適な形状・空力効果となるように現在開発が進められている。

東京オートサロン2023に展示した「シビックe:HEV SPORTS ACCESSORY CONCEPT」
装着されているのが開発途中のテールゲートスポイラーだ

 現在のスポイラーはTYPE R用が原型なので、ウイングの厚みや翼端板の形状は、TYPE Rの空力にあわせた仕様。今後シビックのボディに合わせて、厚みや形状を最適化していくという。

 キモになるのがウイングの下面に設けられている「鋸刃(シェブロン)形状」だ。羽の縦面に対して鋸の刃がリア向きに配置されていて、ここにできた山谷により羽の下面を流れる空気に流れが速いところを作り出す。するとその流れが羽を通る風自体を引っ張る効果を生むので、実効空力の考え方からフロントとのバランスを取りつつ、モデューロがシビックに対して与えたいと考えるレベルに調整している最中ということだ。

試作品はシビックTYPE R用がベースとなっているため。スタンダードなシビック向けにウイングの厚みや翼端板形状が変更される予定
ウイングの下面には鋸の刃のような形状が見える。これがポイント
ギザギザを作ることで空気の流速が速い部分を作れる。その空気の流れを利用してテールゲートスポイラーの空力効果を向上させる狙い

 アルミホイールの剛性バランスを最適にすることでタイヤを使い切り、いかなる路面でもタイヤをバランスよく接地させることができるサスペンション、そしてリフトバランスを調整することでタイヤの接地荷重を適切にするエアロパーツという3つの要素を高い次元でバランスさせることで「操る楽しさ」をスポーツカーだけでなく幅広い車種で体験できるように仕上げているのがモデューロ。純正アクセサリーメーカーとしてはとてもユニークであるだけに、今後の展開にも注目していきたい。

モータージャーナリスト岡本幸一郎氏による「新作ホイール」や「実効空力」などの体感試乗レポートは、後日別記事でお伝えするのでお楽しみに