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富士24時間、液体水素カローラは異形楕円タンク搭載で航続距離1.5倍に 富士の周回数は12周→20周→30周へ

手前が2023年の円柱形液体水素燃料タンク、奥が2024年の異形楕円形液体水素燃料タンク。容量は約1.5倍となった

容量が1.5倍になった液体水素燃料タンク

 スーパー耐久富士24時間レースが5月24日~26日の3日間にわたって富士スピードウェイで開催される。このスーパー耐久で大きな話題となっているのが液体水素カローラ。ガソリンではなく、水素を直接燃焼させて走るクルマで、HICE(Hydrogen Internal Combustion Engine)ともH2ICEとも表記される水素内燃機関車になる。

 この水素を燃やして走るカローラのデビューは、ちょうど3年前の富士24時間レース。2021年4月23日に当時社長であった豊田章男氏と、GAZOO Racing Company Presidentであった佐藤恒治氏がオンライン会見を行ない、水素エンジン車による世界初のレース挑戦を発表した。当初は、FCEV(燃料電池自動車)「MIRAI」の高圧水素タンクで走っていた水素カローラは、2023年シーズンに液体水素で走る液体水素カローラへと進化。航続距離を1.7倍に伸ばした。

体積エネルギー密度

圧縮気体水素(35MPa):767Wh/L
圧縮気体水素(70MPa):1290Wh/L
液体水素(LH2):2330Wh/L
石油系(ガソリンなど):約9600Wh/L
リチウムイオンバッテリ系:約700~600Wh/L

質量エネルギー密度

圧縮気体水素(35MPa):39,400Wh/kg
圧縮気体水素(70MPa):39,400Wh/kg
液体水素(LH2):39,400Wh/kg(気体にして使用するため、圧縮気体と同じ)
石油系(ガソリンなど):約12,800Wh/kg
リチウムイオンバッテリ系:約250Wh/kg

(参考文献:GSユアサ 再生可能エネルギーの大規模導入に対応するためのエネルギー貯蔵・輸送技術[PDF]

 水素は質量エネルギー密度に優れた燃料で、その特性もありロケット燃料に使われているのはよく知られているところ。しかしながら体積エネルギー密度に劣っており、自動車などの小型モビリティでは使いづらい燃料となる。そのため気体水素では圧縮作業により体積を圧縮、70MPaの高圧水素タンクによって自動車での使用を実現している。

 常温では気体の水素を-253℃にすることで液体水素化すれば、体積が800分の1となって体積エネルギー密度を大幅に向上させることができる。そのため、液体水素カローラでは液体水素を燃料として使うことで、航続距離を高圧気体水素の富士スピードウェイ12周から20周へと延ばすことに成功した。

 伸びが800倍となっていないのは、70MPaまで圧縮した高圧水素も搭載性を改善しているため。物理特性的に1.7倍の改善となる。

2023年の液体水素燃料タンク
2024年の液体水素燃料タンク

 この液体水素タンク、しかも自動車のような小型モビリティに用いるタンクについては世界初の試みとなるため、専用の法律などはなかった。そのため液体水素カローラでは、これまでの法律に従った円柱形の真空二重槽構造のタンクを使用している。

 その容量は150Lで、水素量は10kg。航続距離は前述のように富士スピードウェイ20周の約90kmになる。

 今回トヨタは、2023年の実績をもとに各所と協議。富士24時間では、静岡県の認定という形で異形楕円タンクを投入した。

 楕円柱であれば円柱よりもクルマへの搭載性は高く、容量を220L、水素量を15kgと1.5倍に増大。水素量の増大は航続距離に直結し、1.5倍の航続距離である富士スピードウェイ30周、約135kmを実現した。これにより24時間レースのピットイン回数を減らすことができ、当然ながら戦闘力向上につながる。

 未知の技術チャレンジの分野では、法律の特別な緩和が新しい技術の確立につながることもある。富士24時間レースで液体水素タンクの知見が蓄積されることが、さらなる改良、適切な法律の整備につながることを期待したい。