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ブリヂストン、第2世代の月面探査車用タイヤ説明会 鳥取砂丘で走行試験を初公開
2024年6月5日 12:41
- 2024年5月30日 公開
「国際宇宙探査ミッション」で使われるルナクルーザーが履くタイヤ
ブリヂストンは5月30日、第2世代の月面探査車用タイヤに関する記者説明会を鳥取県と共同で開催。鳥取砂丘の月面実証フィールド「ルナテラス」で第2世代のタイヤでの走行試験を報道陣に初公開した。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2019年3月に「国際宇宙探査シンポジウム 2019」を開催し、この中でトークセッション「チームジャパンで挑む月面探査」を行ない、トヨタ自動車とJAXAが月面での有人探査活動に必要なモビリティ「有人与圧ローバ」(愛称はルナクルーザー)の検討を加速させると発表。共同研究を2019年から開始している。
ルナクルーザーは月や火星の探査を目的とした「国際宇宙探査ミッション」で使われる車両。次世代のFCV(燃料電池車)技術を用いて1万kmの月面走行を目指していて、水素・酸素を満充填した際の走行可能距離は1000kmとしている。
このJAXAが主導する国際宇宙探査ミッションは“TEAM JAPAN”で挑戦することが掲げられており、ブリヂストンもこれに賛同。現在ルナクルーザー用のタイヤ開発が進められている。ブリヂストンとしては今回のプロジェクトを通じて月面という人類が活動する新たな「極限」の環境に挑戦し、モビリティの未来になくてはならない存在になることを目指すという。
月面探査車用タイヤにおける第1世代モデルでは骨格構造にコイルスプリングを採用し、砂漠で荷物を運ぶラクダのふっくらとした足裏から着想を得て、金属製の柔らかいフエルトをタイヤのトレッド部にあたる接地面に配置することで月面を覆う「レゴリス」と呼ばれるきめ細かい砂との間の摩擦力を高め、より優れた走破性を実現する独自の技術を採用した。
この技術を進化させた今回の第2世代では、これまでの研究開発を通じて分かってきた月面を走るモビリティに求められるより厳しい走破性と耐久性に対応するために新骨格構造を適用。新構造では、空気充填が要らない次世代タイヤ「エアフリー」で培ってきた技術を活かして新たに薄い金属製スポークを採用し、トレッド部を回転方向に分割した。これにより岩や砂に覆われ真空状態で激しい温度変化や放射線にさらされる極限の月面環境下でも、走破性と耐久性の高次元での両立を目指すという。
また、リアルとデジタル技術の進化により金属(ステンレス)製スポークの形状や厚みを構造シミュレーションで最適化し、しなやかに変形しながらも金属製スポークの局所的なひずみを最小化して耐久性を高めつつ、分割したトレッド部により接地面積を大きくしてタイヤを沈み込みにくくすることで走破性もさらに高めている。
創業100周年を迎える2031年に月面へ
今回の走行試験は鳥取砂丘の月面実証フィールド「ルナテラス」を中心に実施され、先んじて行なわれた説明会では鳥取県 産業未来創造課 課長補佐の井田広之氏、ブリヂストン グローバル直需戦略/新モビリティビジネス推進部長の太田正樹氏、ブリヂストン タイヤ研究第一部長の弓井慶太氏が登壇してプレゼンテーションを行なうとともに、鳥取県知事の平井伸治氏があいさつを行なった。
平井知事は鳥取砂丘について「かつて有島武郎がここにやってきて『浜坂の遠き砂丘の中にして さびしき我を見出でけるかも』と読まれ、それで鳥取砂丘と呼ばれるようになりました。実はこの歌がちょっとしたスキャンダルと一緒に大変有名になりまして、以来、観光地としても親しまれるようになってきたわけでありますが、この砂丘には10万年の歴史があります。10万年かかって徐々にこの砂丘が形成されてきました。皆さまもご覧いただくとお分かりいただきますように、馬の背という列があって、もう1列、砂丘の観光施設などの列があって、この砂丘の列というのは北西の風に垂直にできます。どんどんと砂が送り込まれてくる。これは鳥取空港との間に流れている千代川が上流から花崗岩を砕いてやってきて、これが日本海の荒波で削られ、それが砂丘の砂になっているわけです。ですからとっても細かい砂により10万年かけてできてきたという、これが特徴なのです」。
「石川啄木も有名な歌の中でやはり読み上げているわけであります。『いのちなき砂のかなしさよ さらさらと 握れば指のあひだより落つ』ということでありますが、そういう細かい砂は私たちが普段走る道路とは全く違うものなのです。実はレゴリスという月の砂、全部本当に細かいものでありまして、これと同じような砂を日本中探してもなかなかない。だから鳥取砂丘の砂に値打ちがある、こうしてだんだんと皆さまに注目していただくようになったわけであります。ブリヂストンさんは世界を代表するタイヤメーカーでいらっしゃいます。これまでも色々とタイヤの研究開発をやり、例えば雪の上を走る時だとか、いろいろな研究が実用生活に役に立ってきました。今、人類は月を目指し、あるいは火星を目指す、どんどんと地球外の天体へと出ていくことになります。そんな時にどういうような足まわりを用意するのかというのは、私たちが普通に走る道路では到底太刀打ちいかない」。
「今日は第2世代のタイヤをここで発表されるということになりました。これはエアフリーというブリヂストンさんが最近開発されて、これから実用化を目指す空気を入れないタイヤの技術。この構造と鳥取砂丘での研究開発が組み合わさりながら新しいタイヤが生まれ、人類が宇宙へ行くその足となります。皆さんにも実際に見ていただいて、その素晴らしさを感じていただければと思いますし、砂丘からこれが生まれてきたということをぜひ地元とも共有していただければありがたいなと思います」と説明した。
一方、ブリヂストン グローバル直需戦略/新モビリティビジネス推進部長の太田氏は「月面探査車用タイヤへの挑戦 -なぜ宇宙/月面を目指すのか?-」と題してプレゼンテーションを実施。石橋正二郎が1931年に福岡県久留米市に「ブリッヂストンタイヤ株式会社」を設立し、翌年にアジアに輸出を開始した時期を「Bridgestone 1.0」、北米への本格進出を目指して1988年にファイアストンを買収し、グローバル企業へと進化した時期を「Bridgestone 2.0」、そしてサステナブルなソリューションカンパニーを目指している2020年以降を「Bridgestone 3.0」と位置付けていることを説明するとともに、「創業から90年以上経ち、このBridgestone 3.0の間に2031年という創業100周年を迎えます。2031年と言えば、先日発表がありましたようにJAXAさん、トヨタさんが月面を目指している年でもあります。そういう意味でも、われわれとして月面プロジェクトが非常に重要な位置付けになる」と述べる。
また、今回の月面プロジェクトについては「われわれは『タイヤは生命を乗せている』という大原則をしっかり守り、これの責任と誇りをもってしっかり移動を支えていくことを考えております。これまでのブリヂストンの歴史の中で世界最高峰のモータースポーツに挑戦してきたように、われわれは極限の環境に自ら挑戦することによってさまざまな知見、技術、そして人材を培ってきました。それらが基本的な事業のベースとなっておりまして、この月面プロジェクト、さらに地球を超えて月面というより極限の環境を目指し、そこに情熱を持って取り組んでいく。それがまた次の世代のビジネスの基盤となることを目指してこの活動を始めております」と説明するとともに、「これまでの活動の中で培ってきたわれわれのコアコンピタンスであるゴム素材を極める、そして接地を極める。これらの技術を最大限に活用することで月面タイヤプロジェクトを成功させ、そしてこの過酷な環境の中でも安心、安全と、ダントツの走行性能を提供していくということを目指しております」とコメントした。
また、ブリヂストン タイヤ研究第一部長の弓井氏は月面探査車用タイヤの技術、ルナテラスでの走行試験について説明を行ない、タイヤにとって月面は極限の名にふさわしい場であるという。それは夜間は-170℃、日中は120度となり、寒暖差がおよそ300℃にも及ぶからであり、「ゴムというのは温度に対して非常に特性が変わりやすいという特徴を持っています。特に-170℃にもなるような極低温の環境においては、普通はしなやかなゴムもガラスのようにカチカチになってしまう、これがゴムの特徴です。そのような状態になりますと、実際使用してる時に例えば疲労であったりとか衝撃などの入力が入った際、簡単に割れてしまうという非常に大きな問題が発生します」と述べるとともに、月面は地球のおよそ200倍と言われる高密度な放射線に晒される環境で、ゴムやプラスチックなどの高分子材料は放射性の影響を強く受ける素材であり、長期間の使用によってボロボロになり、ゴムとして機能しなくなってしまうという。また、タイヤは空気を充填する必要があるが、月面には空気がないため空気が抜けてきたときに充填をどうするか、またパンクしたらどうするかという課題があった。さらにレゴリスと呼ばれる細かい砂に覆われている月面でスリップすると、身動きがとれない危険な状況に陥ってしまうという。
これらの要因から、ブリヂストンではタイヤをオール金属にすること、荷重を支える構造としてエアフリーを用いること、広い接地面積確保と摩擦力向上に向け、ラクダのふっくらとした足裏から着想を得て金属製の柔らかいフエルトをタイヤのトレッド部にあたる接地面に配置することを決めた。同時にデジタル技術を最大限活用し、シミュレーションを駆使して設計の最適化を進めているという。
今回第1世代モデルから第2世代モデルへと進化した理由については、「第1世代のタイヤ開発をしていた時は、まだまだ月面探査車のミッション定義が不明確なところがありました。実際どのような走行路面を走るのか、どのような走行条件になるかまだ不明確なところがあり、そこから開発が進み、だんだんと路面条件などがクリアになってきた。その結果、この第1世代ではコイルスプリング構造で色々検討してまいりましたが、想定していた要求性能に対して相当エピソードの厳しい方向に実は行ってしまったというのが大きなポイントになります」といい、非常に高いレベルで耐久性と重量をバランスできることに加え設計の自由度が高いスポーク構造にたどり着いた。
一方でブリヂストンはルナテラスでの実証実験を進めているが、これは地球上で月面を再現できる場所がないためとなるが、その中で鳥取砂丘にあるルナテラスの砂はレゴリスに近いものがあり、砂の上での走破性を高める摩擦力のメカニズムを理解するためルナテラスでの実証実験は非常に重要な位置付けになるという。弓井氏は「ルナテラスには広大な敷地があり、さまざまな環境での試験が可能になって、ここがバーチャルとリアルな環境をつなぐポイントになるという意味でルナテラスでの試験というのは非常にありがたい」と説明した。