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GRヤリスやGRカローラを生み出す、トヨタ元町工場内の「GRファクトリー」

GRファクトリーで生産の進む進化型GRヤリス

「トヨタのスポーツカーを取り戻したい」、そのためのAGVライン

 2024年1月12日、東京オートサロン2024で世界初公開されたのが「進化型GRヤリス」。数多くのドライバーファーストの改良を行ない、エンジン出力はモータースポーツでの戦闘力向上を目指し、200kW(272PS)から224kW(304PS)へ、トルクを370Nm(37.7kgfm)から400Nm(40.8kgfm)へと向上。GRカローラと同等になった。トランスミッションは、6速MTのほか、新開発8速ATであるGAZOO Racing Direct Automatic Transmission(GR-DAT)を用意。2ペダル版を用意することで、多くの人にモータースポーツの楽しさを提供しようとしている。

 その進化型GRヤリスの生産が始まっているということで、生産現場を訪れる機会を得た。GRヤリスおよびGRカローラは、クラウンなどの生産で知られるトヨタ自動車 元町工場内のGRファクトリーで生産されており、スポーツカーを作り続けるための工夫が盛り込まれている。

 GRヤリスおよびGRカローラは、当初それほど売れるとは考えておらず、またモータースポーツにも使用できるスポーツカーならではの高精度組み立てを伴うことから、一般的なベルトコンベアなどのラインではなく、AGV(Automatic Guided Vehicle、自動搬送機)でラインが構成されている。

 アンダーホデー、メインボデー増し打ち、カーボンルーフ取り付けなどの工程を、AGVに乗せられたGRヤリスの原型なり、GRカローラの原型なりが走り回っているイメージになる。

 このようにAGVをメインにしてライン設計をすることで、需要の変動に対応し、ラインの稼働率を向上。GRヤリス、GRカローラはマスタードライバーでもある豊田章男会長の「トヨタのスポーツカーを取り戻したい」という強い思いのもとに誕生しており、どうしても数が少なくなりがちなスポーツカーという車種を、どんな状況でも作り続けることができるような工夫をこらし、フレキシブルな生産ラインを作り上げた。

 ただ、年間のホモロゲーション台数を見すえて作られたGRファクトリーだが、GRヤリスを発売したところ、想定を超えて受注が入り、GRカローラも含めて現在はフル生産状態でラインが動いている。その台数は、月産1300台ほど。必要な箇所は2重のラインとなっているなど複数ライン化を行なってボトルネックを減らしつつ、高精度なスポーツカー組み立てを行ないながら着々と生産されている。

フルに生産が行なわれている進化型GRヤリスとGRカローラ

検査工程で塗装の状態などがチェックされる進化型GRヤリス。ボディを見て分かるように貴重なロバンペラ仕様

 GRヤリス、GRカローラの生産工程は、大きく4つの工程に分かれている。ボデー工程でホワイトボディが組み立てられ、その後塗装工程へ移動。塗装工程でボディ塗装を終えたものを組立工程へ流し、各種部品を取り付けた後、検査工程へと向かう。

 生産の特徴は、工程内で行なわれる基本作業タイムがとにかく長いこと。一般的にトヨタ自動車の工場を見たときに、基本の作業タイムとなるタクトタイムは60秒~120秒で流れていることが多い。とくに2024年に入ってからは、さまざまな作業負荷の見直しも行なわれており、やや長めにして作業工程を見直している工場もある。

 GRファクトリーでは、このタクトタイムが15分となっており、通常の約7倍から15倍の時間をかけて生産作業が行なわれる。手作りといってもよいレベルで、精度をしっかり出しながら生産が行なわれる。

 たとえば、ボディを組み立てる際にスポット溶接が行なわれるが、ノーマルのヤリスが3700点のスポット溶接を行なうのに対して、初期型GRヤリスは3950点、進化型GRヤリスでは4500点に達している。もちろんこれは剛性向上を狙ってのもので、これまで得た知見を活かしてスポットの増し打ちが行なわれている。スポット溶接はよく知られているように、ある程度打点間隔がないとしっかりした溶接が行なえない。打てば打つほどよいというものでもなく、そこにはノウハウが必要となる。そんな知見が織り込まれての打点増になっている。

 また、このスポット溶接ラインでは、スポット溶接機の状態にも気を配っていたのが印象的。スポット溶接機の溶接を行なう先端部分をチップと呼ぶが、そのチップの状態を管理しており、常にきれいな状態で溶接するような工夫がされていた。スポット溶接での溶接箇所をナゲットと呼ぶが、要は適切なナゲットを作ろうとしていることになる。

 なお、GRカローラはノーマルのカローラが5300点に対し、5700点に増強。GRヤリスより大きな数値となっているのは、もちろんボディが大きいためだ。

 検査工程でラリーに使用することも前提としたクルマならではとして行なわれていたのが、凸凹道を少し走って初期のブレ取りを行ない、運転席、助手席、リアにウェイトを乗せてアライメントを調整していたこと。ライン上はアライメント調整に行くまでの部分が狭くなっており、ターンテーブルを使ってクルマを90度回転。製造時からステアリングを真っすぐにしたたまブレ取りを行なって、アライメント調整に入っていた。

 アライメント調整は、人がクルマの下に潜って行なうが(というより、地下に入って地上のクルマを見る)、右手と左手にそれぞれスパナを持って同時にターンバックル調整を行なっていた。どう見ても常人の技とは思えなかったのだが、やはり特別な技能を持つ職人が担当しているとのことだ。

 個人的に感動したのが、セバスチャン・オジエ選手が監修したオジエ仕様が1台と、カッレ・ロバンペラ選手が監修したロバンペラ仕様がAGVに乗ってラインを流れていたこと。とくに疑っていたわけではないが、「本当にあの限定仕様が生産されているのか!」とミョーな気持ちがあった。

 GRファクトリーは、現状フルに進化型GRヤリスおよびGRカローラを生産している。いまだに両車とも人気が高く、進化型GRヤリスを生産するにあたって若干増強は行なわれたものの、フル生産は続いていく。高精度かつフレキシブルなスポーツカー作り、世界最大級の量産車メーカーが取り組む新たな試みは大きなインパクトのあるものだった。