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ミシュランがSUPER GTに挑む理由を聞く、サステナビリティに貢献するタイヤ開発の方向性とは?
2024年8月3日 08:05
2024年のSUPER GTはタイヤが関わる大きなルール変更が実施された
日本最高峰のツーリングカーレースであるSUPER GTは、自動車メーカーやレーシングチームの戦いと同時に、タイヤメーカーが性能を競い合う場でもあり、レースごとにタイヤは進化し続けている。
そんなSUPER GTでは、現在「SUPER GT Green Project 2030」という環境対策を掲げ、サステナブルな時代に向けてタイヤの使用本数を減らすことを目的とした「タイヤの持ち込みセット数削減」を推進しているのだ。
これによりタイヤメーカーがサーキットに持ち込めるタイヤ本数は、競技車1台あたり「ドライタイヤが4セット(1セット=4本)」「ウェットタイヤが5セット」までに制限され、決勝レースの走行距離が300kmを超える場合は、大会ごとの走行距離に応じて持ち込みセット数が変更される。
なお、2023年度から当該シーズンの前戦までで優勝できていないタイヤメーカーは、ドライタイヤの持ち込みセット数が1セット追加できるほか、2024年は予選の進め方も改定があり、ドライバーを変えての2回の予選(Q1、Q2)が行なわれるのは変わらないが、今シーズンはQ1とQ2、そして決勝スタートは同じタイヤを使用しなければいけないルールになり、各チームの戦略がさらに重要になった。
Car Watchでは毎年、SUPER GTに参戦するタイヤメーカーにインタビューすることで、そのシーズンにおけるタイヤがどんな方向性のものかを紹介しているが、予選フォーマットの変更や持ち込みセット数削減などタイヤについての見どころが多い今シーズンだけに、各メーカーの担当者からどんな話が聞けるのか楽しみである。
ミシュランの2024年シーズン参戦状況
2024年シーズンからは3台のGT300クラスマシンにのみタイヤを供給しているミシュラン。第1戦の岡山国際サーキットの300kmレースでは7号車 Studie BMW M4が3位を獲得。第2戦富士スピードウェイの3時間レースでは45号車 PONOS FERRARI296が9位となっている。また、取材日に開催された第3戦鈴鹿サーキットでは45号車が6位に入賞した
モータースポーツダイレクター 小田島広明氏に聞く
──2023年シーズンの総括をお聞かせください。
小田島氏:2023年が最後となったGT500クラスでは、4人のドライバーに対して、温度やサーキットに関係なく、それぞれがタイヤを機能させることができるような適切な製品を供給したことから、最終戦までチャンピオン争いに加われました。そんなことから技術的にもあらゆる状況でタイヤとしては機能したというふうに捉えていますので、技術の面では満足できたシーズンでした。ただ、本音としてはGT500への供給休止の年だっただけにチャンピオンを獲りたかったですね。
──2024年シーズンの新たなタイヤルールについてお聞かせください。
小田島氏:SUPER GT Green Project 2030では目標を達成するためにいろいろな面で環境負荷を減らしていく取り組みが始まっています。このなかにあるタイヤの使用本数を減らすという項目は、それだけ1つのセットに求められる使用距離が伸びることになります。つまり従来より長持ちをするタイヤにしていくのですが、たんに長く使えるということではなくて、高い次元で性能を維持できるようなタイヤを開発することを各タイヤメーカーに求めたものとわれわれも理解しています。そしてその点はミシュランとしてもサステナビリティへの貢献という方向性は一致しています。ですので、2024年のタイヤに関するレギュレーションに関してはわれわれは賛同しています。
タイヤのグリップは走れば低下しますが、そのようなタイヤで2回目の予選を走るということについては、 このルールは技術サイドとしてはチャレンジングな内容と捉えています。2回の予選を走ったときに、いかにタイムの変化が少ないか、両方ともきちんと予選に準じたタイムが記録できるか。そして昨年同様、予選で使用したタイヤで決勝のスタートをするという状況では性能の安定性が非常に重要となります。
ただそこはわれわれミシュランが開発のコンセプトとして掲げる「性能を製品の最後までいかに持続させられるか」ということに合致するものなので、2024年用のタイヤだからといって何かを大きく変えることはないです。レースはピーク時のグリップだけよくても、後半にペースが落ちてしまっては、レースを速く走ることはできません。誰よりも先にゴールにたどり着くためにタイヤを開発しているので、今年のタイヤに関するルールはわれわれのタイヤ開発の方向性をより促すものです。
──2024年シーズンのタイヤはどんなものでしょう?
小田島氏:今シーズンはGT500の速度抑制を狙って、最低地上高の変更が行なわれました。そしてGT500のペースが低下することに合わせて、GT300にもなんらかの補正が必要ということになりました。そこで行なわれたのが特別BOPというかたちでウエイトが載ることになったのですが、その決定タイミングは冬場の開発テストが終了したあとでした。
シーズン前のタイヤ開発は、それぞれのサーキットに対して想定される温度域はこれくらいで、こうやって使おうといったことを決めるもので、そのあとに工場で生産を始めるのですが、特別BOPは工場へ生産依頼をかけたあとに決まったものなので、レースで使う時点では重量アップ分のタイヤの負荷が変わってしまっていたのです。
本来狙っていた温度域や構造的な負荷などいろいろな影響があります。そのため当初想定していたスペックのタイヤとは異なる(具体的には少し硬めの)タイヤを使用するといった補正をしながら臨んでいるという状況です。ここで、特別BOPに合わせたタイヤを急いで作って持ち込めばいい、と思う方もいると思いますが、設計、材料調達、そして製造と、非常に時間がかかるものです。そもそも車重が増えた状況で開発用のテストもしていないので製造もできないのです。
SUPER GTはタイヤに関してオープンコンペティションで、開催レースに合わせたタイヤを作ることができる場ですので、当初想定していた条件から外れることの影響は大きいです。なお、SUPER GTは耐久レースではありますが、世界的な耐久レースという枠組みで見るとどちらかというとスプリント寄りです。
今回の3時間レースでは2回ピットがある3スティントでいくならば、1スティントごとのスプリントレースとなりますので、耐久レースのタイヤといえどその作り込みはより狭いところを狙ったものになります。
──2024年シーズンの目標は?
小田島氏:われわれとしては汎用性があって性能が安定するタイヤを供給することが目標です。冬のテスト結果では、そこが大きなアドバンテージと予想していたのですが、ちょっとそこがズレてしまっています。そのため現状がどうかの評価はまだできていません。ウェットタイヤに関しては、こちらもブラッシュアップを行ない昨年までの優位性をさらに高めています。
──GT500とGT300ではタイヤの作り方はどう違うのでしょうか?
小田島氏:GT500もGT300もタイヤはフランスの工場で製造されています。そしてGT500のときは単純にレースタイヤとしてのことではなく、新しい素材や製造工場で使う機械の研究開発など、ミシュラングループとして 最新の材料や製造法など何でもやっていいという状況でした。
それに対してGT300では同じコンセプトではやれません。課題がちょっと違うのです。例えばGT300で鍛えたタイヤをほかのGTカーが走るカテゴリーで転用できるようにするとか、存在の意義が違うのです。そうしたことから安易に作ることもできません。
また、GT500用タイヤに比べるとかけられるリソースの制限があります。話は少し戻りますが、今回のレギュレーションで重量が増えました。これは速度を抑制するための手段ではありますが、安全面で考えると疑問が残ります。 車重が増えるとエネルギーが大きくなるのでその分リスクが増えるのではないでしょうか。
──SUPER GTへタイヤを供給する理由は?
小田島氏:GT500のタイヤも手掛けていたときとは使えるリソースや目的は若干変わりましたが、ライバルであるタイヤメーカーに対してわれわれのプロダクトがどの位置にいるかを評価するという意味でSUPER GTは参加するに値するレースです。また、GT300用のタイヤはほかのカテゴリーにも転用できる技術を考えていかなければならないだけに、設計の面でも得るものがありますね。
──タイヤの性能を生かすにはどんなことが必要なのでしょうか?
小田島氏:タイヤマネージメントという言葉があるように、ドライバーがすべてアクセル全開で走ればそれでいいというわけではありません。レース用タイヤは性能を発揮させるためにタイヤの表面温度を適正な温度にまで上げる必要がありますが、フロントタイヤは操舵、リアは駆動というように、役割の違う前後のタイヤを同時に適正な状態に持っていくには、ドライバーは相応の走らせ方をする必要があります。
また、タイヤが摩耗していくプロセスもスリップアングルが付くものと駆動がかかっているのでは違ってきますので、ドライバーはそれらのマネージメントも行なっています。フロントとリアが適正な状態であれば周回を重ねてもラップタイムはあまり低下しません。しかし、どちらかが傷んでくればラップタイムは落ちます。なので“いかにうまく扱うか”が重要になります。そのためドライバーのタイヤ管理能力はレースの強さに非常に大きく関わっています。
さらに、ドライバーだけでなくマシンもタイヤを適切に使えるようなセットアップを行なっています。市販車と比べてレーシングカーはこうした細かいセットアップの変更を短時間で行なえるようになっているので、その特徴はこういったところで使えます。ただ、レースでは必ずしも理想の走行ラインを走れるわけではないので、タイヤ側には多少ラインを変えてもタイムの低下が最小限にすむというような性能も求められています。