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ミシュラン×SUPER GTインタビュー、今シーズンでGT500への供給を休止「最終年に有終の美を目指す」とモータースポーツダイレクター小田島広明氏
2023年7月25日 11:30
今シーズンでGT500クラスへの供給“休止”を発表しているミシュラン
フランスのタイヤメーカー「ミシュラン」は、1889年と日本でいえば明治時代にフランスで創業し、その後グローバルに成長して、2023年現在ではブリヂストン、グッドイヤーの2社と共にトップ3の1つを形成するタイヤメーカーだ。
ミシュランは早くからモータースポーツに熱心な企業としても知られ、F1には1980年代と2000年代の2回にわたって参戦し、チャンピオンを獲得するなどの結果も残している。また、ミシュランのお膝元ともいえるフランスの「ル・マン24時間レース」にも積極的に参戦しており、現在もコントロールタイヤとしてタイヤを供給しており、2023年の歴史に残る“フェラーリ VS トヨタ”という歴史的なレースも足下から支えている。
SUPER GTには全日本GT選手権の時代から参戦し続けていて、一時中断を挟んでここ15年は日産との強力なパートナーシップのもとでGT500クラスに参戦し、2011年、2012年、2014年、2015年と4度のGT500チャンピオンを獲得している。
しかし、すでに今シーズンをもってGT500へのタイヤ供給を休止する意向を明らかにしているとおり、GT500は最後のシーズンとなる。活動休止前の最後シーズンに向けて、ミシュランは昨年と変わらない23号車 MOTUL AUTECH Z(松田次生/ロニー・クインタレッリ組)、3号車 CRAFTSPORTS MOTUL Z(千代勝正/高星明誠組)の2台体制で臨んでいる。
GT300クラスに関しては、昨年同様7号車 Studie BMW M4(荒聖治/ブルーノ・スペングラー/柳田真孝組)へのタイヤ供給は続けられる。また、GT300に関しては来シーズン以降も供給するチーム数に制限は設けないとしている。
そこで今回は、ミシュランのSUPER GTの活動について、日本ミシュランタイヤ モータースポーツダイレクターの小田島広明氏にお話をうかがってみた。
サステナビリティを実現するという目標の中で優先順位の変更によりGT500活動の休止を発表
──ミシュランの2022年シーズンのSUPER GTを振り返っての自己採点は?
小田島氏:GT500に関しては課題にしていた部分を解決でき、競争における性能評価としてよかった。ただし、2回目の鈴鹿(第5戦)ではタイヤの発熱が予想以上になりオーバーヒートしてしまったなどの課題もあり、その分を割り引いて80点。
スポーツの側面として見ると、チャンピオンが同じ日産陣営でも12号車(本年の1号車)になってしまった要因を見ると、こちらは取りこぼしが多かったのに対して、12号車は確実に表彰台やポイント圏内で過ごせていたことが大きかったと考えている。われわれとしては新型「Nissan Z GT500」のデビューイヤーということで、Zの中で1番になることを狙っていたが、そこは残念だった。
GT300に関してはBMWとの取り組みの初年度で、コンパウンド選択などを学びながらの1年だった。優勝することもできたが、タイヤ自体の性能としてはまだまだ改善できる余地があると考えている。
──GT500へのタイヤ供給を本年の末をもって休止と発表された、それはなぜか教えてほしい。
小田島氏:ミシュランとしては、モータースポーツを究極の場でテクノロジーを検証する、実験する場と利用している。GT500では他社との対比、他社との競争の場として高いレベルの競争力をもたないといけないと考えて今まで参戦してきた。しかし、今後は技術的に目指す方向性として、サステナビリティの実現に高い比重を置いている。2030年までにリサイクル由来もしくは天然由来の素材をすべての製品で40%以上にして、2050年にはすべてをサステナブルにするという高い目標を掲げている。そうした中で、GT500の開発リソースの優先順位が変わってきたことが最大の要因だ。他社との対比をするスプリントレースのタイヤを開発する場としては依然としてGT500は有効なフィールドでそのバリューは変わらないが、ミシュランのモータースポーツ活動の場としてはWECやIMSAなどの取り組みも有効であるという結論になった。
なお、この時期に発表したのは現在のわれわれのサポートするチームが来年の体制を構築するのに時間が必要だと考えたからだ。
──今シーズンの最初の2レースを終えた段階での自己評価は?
小田島氏:GT500に関しては開幕戦(第1戦岡山)で1-2フィニッシュを実現し、第2戦もよい結果を残し、チャンピオンシップで1-2を維持しているという意味ではいいスタートを切れた。これからは取りこぼしがないように、1戦1戦大事に戦っていくことが大事だ。ただし、この時期からすると、サクセスウエイトで重たい車両になってきており、これから高温レンジになっていく中で、着実に結果を残していくことが大事だ。
GT300に関しては、1台でやっているのでタイヤ理由なのか、車両とのマッチングなのか、客観的な評価が難しいところだ。現状としては最適化を進めている状況で、確実にポイントを重ねていって最終戦にチャンピオンの可能性を残して臨めるようにしたい。
──今シーズンのタイヤの特徴や開発状況などに関して教えてほしい。
小田島氏:昨年の第3戦鈴鹿では想像よりも高温域でのレースになったが、われわれのタイヤはそこでも機能していて優勝できた。しかし、同じ技術を使った第5戦鈴鹿ではオーバーヒートになってしまうという課題があった。今シーズンはそれを解消することを目指し、高温域での熱対策を行なっており、それを投入している。
──今シーズンは持ち込みセットが1つ減っているが、その影響は?
小田島氏:マルチスペックのレースでは、持ち込みセットが1つ減ることは戦略の幅が狭くなってしまっている。現状どのタイヤメーカーもそうだと思うが、持ち込み本数が減ってタイヤのスペックが減っているだけになってしまっている。理想としてはオーバーラップができて性能が高いタイヤが実現でき、マルチスティントが可能になれば最高だが、GT500ではまだマルチスティントを確実に実現できているタイヤメーカーはないと思う。使い分けるか、精度を高めてもってくるか、どうしてもそのような差引を考えて、スペックを選ばなければならない。
──SUPER GTもカーボンニュートラル燃料の導入や、より長い距離を走れるタイヤの開発などサステナブルなモータースポーツへの取り組みを加速している。ミシュランのサステナブルなモータースポーツへの取り組みを教えてほしい。
小田島氏:ミシュランとしてはサステナブル・マテリアル(持続可能な素材)は、すべての製品に導入することを明らかにしており、レース用のタイヤも例外ではない。2030年までに40%、2050年には100%のタイヤでリサイクル+天然由来の材料を導入していく。モータースポーツではMotoE世界選手権(電動バイクレース)で平均40%、ル・マン24時間レースの水素自動車で63%をすでに実現しており、モータースポーツはそうした取り組みをリードしていくショールームとなる。
現状のSUPER GT向けには、競争があるので、そこまでの取り組みはできていないが、今後はどんなカテゴリーでもそうしたサステナブル・マテリアルを使わなければモビリティとして成立しなくなると考えている。また、そうした素材だけでなく、開発などにも積極的にシミュレーションのようなデジタル技術を導入し、試作品を減らして環境負荷の小さい製品開発を進めていくことも重要だと考えている。
──今シーズン末でGT500の活動は休止となるが、条件が整えば再びSUPER GTに戻ってくる可能性はあるか?
小田島氏:それはもちろんだ。だからこそ「休止」という言葉を使っている。今の自動車産業はものすごい勢いで変わっており、3年後、5年後のことを予測するのは難しく、ものすごい勢いで進化している。モータースポーツであるSUPER GTもそれは同様で、将来レギュレーションが変わってミシュランが目指している方向性と合致して、その時にミシュランのタイヤが欲しいというユーザーがいれば再開可能だ。
──今シーズンの目標を、GT500、GT300それぞれ教えてほしい。
小田島氏:GT500に関しては今シーズンでの参戦休止だが、開発は例年通り行なっており、100%のパフォーマンスを発揮して、Z勢のトップをとることはもちろんのこと、チャンピオン獲得を目指したい。GT300に関しては車両のアップデートも進んでおり、タイヤのチューニングも進んでいる。最終戦までチャンピオン争いに絡んでいきたいと考えている。
23号車の大クラッシュの影響は気になるが、3号車、23号車がランキング2位、3位を維持
第3戦鈴鹿では23号車 MOTUL AUTECH Zが、GT300の車両と絡んで大クラッシュとなり、レースは赤旗中断。結局その時点でトップを走っていた3号車 CRAFTSPORTS MOTUL Z(千代勝正/高星明誠組)が優勝とされたが、3号車は2回の義務であるピット作業を行なっていなかったとして結果に60秒が加算され、最終的には4位となった。この結果シリーズランキングは3号車が2位、23号車は3位で、第4戦の富士スピードウェイを迎える。第2戦時点でのランキング1-2からはやや後退した形になるが、それでもランキングトップから3号車が7点差、23号車が11点差と、まだまだ十分チャンピオンを狙える位置にいる。
GT300の7号車 Studie BMW M4(荒聖治/柳田真孝組)は、ブルーノ・スペングラー選手が別のレースに出場するため欠場となり、第3ドライバーの柳田真孝選手が荒聖治選手のパートナーとして参戦。早めにピット作業を終える変則ピットストップ作戦を成功させ、2度のピットストップを終えて赤旗の段階でトップを走っていたことで見事優勝となった。こちらも、ランキングトップから5点差のランキング4位に位置しており、チャンピオンが狙える順位につけている。
GT500の休止を発表したことで、長年のライバルであるブリヂストンとの戦いも本年でひとまず最後ということになるが、その意味でミシュランとブリヂストンとの死闘がその最終年にどうなっていくのか、それが今シーズンのSUPER GTの大きな競争軸の1つとなっていくだろう。