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KDDIのモータースポーツ応援活動とは? ファン獲得や通信環境を強化する新たな取り組み

SUPER GT 第2戦 富士で見事今シーズン初優勝を遂げた36号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔/宮田莉朋組、BS)が、富士山をバックに富士スピードウェイを駆け抜ける

 SUPER GT第2戦「2023 AUTOBACS SUPER GT Round2 FUJIMAKI GROUP FUJI GT 450km RACE」(以下、第2戦富士)が、5月3日~4日の2日間にわたり静岡県駿東郡小山町の富士スピードウェイにて、2日間でのべ8万200人の観客を集めて開催された。

 5月4日に行なわれた決勝レースでは、GT500クラスで36号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔/宮田莉朋組、BS)が6番グリッドからスタートすると、1度目のピットストップまでにトップに立ち、2度目のピットストップでもトップの座を維持してそのまま優勝。36号車の優勝は、チャンピオンを獲得した2021年の最終戦富士以来となる。

 その36号車のメインスポンサーは、「au」ブランドの携帯電話事業で知られるKDDI。SUPER GTなどモータースポーツに対する応援活動や、新たなファン獲得、サーキットでの通信環境の改善など、さまざまな取り組みに関して聞いてみた。

1974年に創設されたレーシングチームのTOM'S、SUPER GTでは5度のドライバーチャンピオンに輝く名門チーム

36号車はTOM'Sチームのエースナンバー、1985年にル・マン24時間に初挑戦したときの車両(トムス・トヨタ85C)もカーナンバー36を利用している

 SUPER GTは、その前身となる「全日本GT選手権」を入れると1994年から約30年の歴史を誇り、今でも最も人気がある国内自動車レースシリーズと言ってよい。自動車メーカー(トヨタ、日産、ホンダ)が用意したワークス車両を利用して争うクラスGT500と、FIA-GT3などの市販されているレーシングカーや、プライベートレーシングチームが制作したワンオフのレーシングカーが参戦するGT300という2つのクラスが用意されている。

 TOM'S(トムス)は、1995年からずっと参戦しているチームの1つで、1997年、2006年、2009年、2017年、そして直近では2021年にドライバー選手権でチャンピオンを獲得している名門チームだ。

 そのTOM'Sは半世紀近く前の1974年に、舘信秀氏と大岩湛矣氏の2人により設立され、現在も同社の取締役会長の舘氏がトヨタのワークスドライバーだったという関係もあり、一貫してトヨタのレーシングカーを走らせるレーシングチームとして存在している。例えば、トヨタが1985年に初めてル・マン24時間レースに参戦したときには、TOM'Sが車両を童夢と協力して作成し、トヨタがエンジンを供給して参戦したことはよく知られている。その後、車両はトヨタ自身が設計して製造するように変わったが、1993年までTOM'Sがレーシングチームとしてトヨタのワークスカーをル・マンで走らせ続けていた。

 その後、TOM'Sは日本のレーシングチームとして、SUPER GTやスーパーフォーミュラなどにトヨタのレーシングカーやトヨタのエンジンを搭載したフォーミュラーカーを走らせるチームとなり、現在でもそれは続いている。

3つの通信会社が合併して誕生したKDDI、それ以来SUPER GTやF1などのスポンサー活動を熱心に行なってきた

2004年型トヨタF1「TF104」のフロントウイングにはKDDIのロゴが入る

 TOM'SのSUPER GT活動を、メインスポンサーとして2016年からサポートしているのがKDDIだ。KDDIは2000年に通信系3社が合併してできた企業だが、源流である「DDI(第二電電)」は1985年に行なわれた通信自由化(かつて国内の通信事業は、その後民営化に伴いNTTとなった日本電信電話公社の独占事業となっていて、1985年に行なわれた電気通信事業法の改正施行で初めて民間企業の参入が可能になった)に伴い設立された企業で、それ以来日本の通信事業の革新を担ってきた企業の1つ。

 2000年にそのDDI、国際電話事業を行なっていたKDD(国際電信電話)、携帯電話事業を行なっていたIDO(日本移動通信)が合併してできたのがKDDIで、それ以来インターネットや携帯電話通信などの総合的な通信サービスを提供する企業として発展してきた。その中核事業となるのが「au」ブランドの携帯電話事業で、総務省が定期的に発表している「電気通信サービスの契約数およびシェアに関する四半期データの公表」の最新版(2022年度第3四半期)では、KDDI自身が提供するサービスで27%、MVNOと呼ばれる他社ブランドのサービス提供も含めると30.4%のシェアを持ち、日本の携帯電話事業では第2位のサービス事業者となっている。

 KDDIはモータースポーツへのスポンサード活動に熱心な企業の1つとして知られているが、もちろんその背景には、KDDIの主要株主の1つ(第3位の持ち株比率)がトヨタ自動車であることとは無関係ではないと考えられることは指摘しておく必要がある。なぜトヨタがKDDIの主要株主なのかと言えば、それにはKDDIがDDI、KDD、IDOという3社が合併してできた会社であることが影響している。この3社のうちIDOはトヨタの子会社で、そのIDOがKDDIに合流した結果、トヨタがKDDIの主要株主の1つになったというのが歴史的な背景になる。

 そのためKDDIがスポンサーをしてきたモータースポーツのチームは、いずれもトヨタ系のチームになる。SUPER GTでは2001年~2004年までスープラを走らせていたセルモチームにスポンサードを行なっており、「auセルモスープラ」として2001年にはシリーズチャンピオンになっている。また、トヨタがF1に挑戦していた時期には、KDDIはトヨタF1チーム(現在のTGR-E)をスポンサードしており、フロントウイングやノーズなどにKDDIのロゴが入っていたことを記憶しているF1ファンも少なくないと思う。

auがサポートする36号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔/宮田莉朋組、BS)

 その後は一時的な休止時期を経て、KDDIがモータースポーツへのスポンサー活動を再開したのが2016年。当時スポンサーを開始したのはTOM'Sチームで、「au TOM'S RC F」「au TOM'S LC500」「au TOM'S GR Supra」と車両名こそ変わっているが一貫してTOM'S 36号車(TOM'Sは36号車と37号車の2台を走らせている)のメインスポンサーとなっている。

TOM'Sへのスポンサー活動は21年チャンピオンとして結実、本年はダブルエースの布陣で臨み、第2戦で早くもシーズン初優勝

本年の36号車はダブルエース(左:宮田莉朋選手、右:坪井翔選手)で臨み、第2戦で早くもシーズン初優勝を果たした

 auとTOM'Sの取り組みが大成功を収めたのが2021年のこと。36号車 au TOM'S GR Supra(関口雄飛/坪井翔組、BS)で参戦し、シリーズ中もコツコツとポイントをためていき、最終戦でシーズン初優勝を遂げると、大逆転でシリーズチャンピオンを獲得した。

坪井翔選手

 そして今シーズンは、36号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔/宮田莉朋組、BS)として参戦中。ドライバーの坪井翔選手は、前述のとおり2021年のSUPER GTのチャンピオンであり、ジュニアカテゴリーでは2015年に日本のFIA F4選手権、2018年の全日本F3選手権でチャンピオンを獲得するという実績の持ち主。スーパーフォーミュラでも2020年に2勝を果たしており、今やトヨタ陣営を代表するドライバーの1人といっても過言ではない。

宮田莉朋選手

 パートナーとなる宮田莉朋選手もジュニアフォーミュラでは2016年、2017年に2年連続で日本のFIA F4選手権でチャンピオンになり、2020年のスーパーフォーミュラ・ライツの初代チャンピオンになるなど、輝かしい実績を残しており、昨年SUPER GTで初優勝を遂げたほか、スーパーフォーミュラでも本年の第3戦鈴鹿で初優勝を遂げ、成長著しい若手ドライバーの筆頭格と言える。

 そんな実力派の2人がドライバーとして採用されたこともあり、今年の36号車は「ダブルエース」や「トヨタのエースカー」とも言われることも多い。4月に岡山国際サーキットで行なわれた開幕戦では、終盤までトップを走っていたが、ピット作業で左フロントタイヤを完全にはめないままピットアウトするという痛恨のミスからマシンを止める結果(レースが赤旗中断になったこともあり、15位完走扱い)となってしまったが、ダブルエースという言葉を証明するかのような強いレースを展開した。

 そして迎えた第2戦では、予選こそ6位と速さを印象づけた訳ではなかったが、決勝では他車と比較すると安定して好タイムを刻んでおり、最終的に2位に大差をつけて450kmのレースを危なげなくチェッカーまで独走した。坪井翔選手はレース後の記者会見で「予選の順位は重視せず、決勝レースで速く走れるようなセッティングを行なうことに注力した」と説明しており、他の車両で発生していたピックアップ(タイヤから出るゴミがタイヤにくっついてしまい、タイヤの性能が低下する事象のこと)が36号車ではほとんど起こっておらず、そうしたセッティングが的中したので安定して速いタイムを刻めたとコメントしている。

36号車 au TOM'S GR SupraはSUPER GT第2戦 富士にて、予選後に行なった決勝レースを見据えたセッティングが当たり優勝につながった

今シーズンもファンシートを富士の2レースで設置するなど、チームとファンをつなぐ活動をしていくとKDDI

レース前のグリッドでの36号車、右はチームのレースクイーンとなる央川かこさん。コスチュームも今シーズンから斬新なシースルーに一新

 SUPER GT第2戦 富士で好成績を収めた36号車 au TOM'S GR SupraをスポンサードするKDDIは、第2戦の決勝レース前に記者説明会を行ない、同社のSUPER GTへの取り組みを説明した。

KDDI株式会社 ブランド・コミュニケーション本部 ブランドマネジメント部 佐伯凌汰氏

 KDDI ブランド・コミュニケーション本部 ブランドマネジメント部 佐伯凌汰氏は、auがSUPER GTのスポンサードを行なう背景として「スポーツを通じてお客さまとの接点を作るというのがスポンサー活動の目的となる。今シーズンは“チームとファンの皆さまをつなげる”というテーマを掲げており、例えばauのことはあまり知らないけれど、チームやドライバーを応援したいというファンの皆さまとチームをうまくつなげていけるような活動をしたい」と述べ、auブランドに対してあまり興味がなかったが、モータースポーツには興味があるというファンにうまくアプローチしていくことで、auブランドの認知度を上げていきたいと述べている。

 実際、2022年の12月にはauが銀座に展開している「GINZA 456 Created by KDDI」で36号車のファンイベントが行なわれており、そうしたファンイベントの開催も、単にスポンサーとしての活動だけでなく、ファンやauの顧客とチームを結びつけたい、そういう意向のもとに行なわれたイベントだ。

 今シーズンに関しては、(以前からも行なわれていたが)富士の2戦(第2戦と第4戦)で、TOM'Sチームや両ドライバーのファンのためにファンシートを設置する計画になっている。実際、今回の第2戦では、auファンシートが特別券として売り出されており、レース前に完売になるなどして人気を集めた。

auファンシート。本年から大型のフラッグも導入され、ドライバーからもauファンシートを見つけやすくなったとのこと

 また、今回からの新しい取り組みとして、ホームストレートに面するグランドスタンドに設けられたファンシートでの応援を盛り上げるための「大型フラッグ」を用意。これはKDDIがスポンサー活動の一環としてレース中にこのフラッグを振り、ファンが一体となって応援することに大きく貢献した。優勝後の会見でも宮田選手は「レース中にフラッグが振られることは事前に聞かされていたが励みになった」と述べており、ファンとドライバーが一体になれたようだ。

TOM'S 代表取締役社長 谷本勲氏

 このKDDIの取り組みに対してTOM'S 代表取締役社長 谷本勲氏は「auという日本での認知度が高いブランドに応援していただけることは、ファンの親しみやすさという点で格段に変わった。そうしたブランドと一緒に新しいファンの獲得に取り組んでいきたい。ファンシートの設置はその取り組みの1つで、昨年末に銀座で行なったファンイベントもその延長線上にある取り組み。今後はTOM'Sもauも熱心に取り組んでいるeMotorsportのようなバーチャルな取り組みを一緒にやっていきたい」と述べ、今後はKDDIの強みである通信やデジタルといった分野でも協業していきたいと説明した。

スポンサー活動だけでなく、サーキットにおける5Gの利用を促進するため5G対応基地局拡大などの地道な活動も行なっていく

KDDIの5Gルーターを利用して富士スピードウェイのピットビルから5G回線を接続してGrooview Multiを視聴している様子

 KDDIは36号車へのスポンサー活動だけでなく、その本業である通信事業における、サーキットでのユーザー体験の改善にも積極的に取り組んでいる。というのも、今多くのファンがサーキットでの通信事情に不満を感じるなど、通信事業者にとって課題が発生しているからだ。

 昨シーズンぐらいから、スーパーフォーミュラやSUPER GTでは、ファン向けに携帯電話回線を利用した動画ストリーミングサービスの提供を開始している。スーパーフォーミュラなら「SFgo」、SUPER GTであれば「Grooview Multi」と、アプリケーションは違うが、どちらのサービスもサーバーから大容量のデータをリアルタイムに受信する必要がある。このためサービスを利用するには大容量のデータを適時送信できるような高速な携帯電話回線が必要になる。

 しかし、サーキットは大型レース開催時こそ多くの人が集まるが、普段はそんなに人がいないため、携帯電話の基地局(端末からのデータを受信してインターネットに流すための施設)なども、そんなに多くのユーザーがいることを前提にした設計になっていないのが実情。そのため、多くのユーザーが集中すると、データ通信しにくくなったりという事象が発生し、大容量のデータを受信する必要があるSFgoやGrooview Multiが使いにくくなったりするのだ。

 その事象を解決するためには「5G(第5世代移動通信システム)」と呼ばれる、新世代の携帯電話回線などを利用することが有益だ(もちろんそれでも、1つの基地局がカバーできるキャパシティよりも多くのユーザーが集まれば通信しにくくなるが、新世代であればあるほどそうしたことは発生しにくくなる)。そこで、通信事業者はサーキットや野球場、サッカースタジアムといった人が集まる場所の基地局をより新しい5Gなどに順次切り替えている。

 KDDIもサーキットの基地局を順次5Gに切り替えているといい、SUPER GTの開幕戦が行なわれた岡山国際サーキットでは、サーキットの全域ですでに5G(より詳細に言うと5G NRという、従来の4Gの帯域を5Gに置きかえた5Gのこと)化が済んでおり、実際に筆者も本年の開幕戦でau回線を利用して5Gで接続できることを確認した。また、富士スピードウェイはau回線に強いサーキットであることもよく知られており、かなり早い段階から5Gが使えるようになっていた。

富士スピードウェイでのエリア対策(出典:富士スピードウェイの5G対策について、KDDI)

 富士スピードウェイも、すでにグランドスタンド、イベント広場周辺、ピットビル周辺、ダンロップコーナー周辺が5G Sub6(5G Sub 6とは、5Gに向けて専用に割り当てられた周波数のこと)と呼ばれるより高速な方式でエリア化されているほか、5G NRも含めればサーキットの全域で5Gが使えるようになっている。さらに、ミリ波と呼ばれる28GHzという超広帯域を利用した、ピンポイントに多くのユーザーを収納できる基地局もイベント広場に設置されており、ミリ波対応の端末を持っているユーザーは超高速に通信することが可能だ。

auのSUPER GTが行なわれるサーキットでの5G対応状況と予定(auの資料より筆者作成)

 KDDIによれば、今後富士スピードウェイと岡山国際サーキットは、ほぼ全域で5G Sub 6化の予定があり、2023年の秋には実現する予定という。また、鈴鹿サーキットに関しては一部、モビリティリゾートもてぎに関しては全域、オートポリスに関しては本年の秋以降に5G化が計画しており、来シーズンに関してはスポーツランドSUGOを除きほぼサーキットの全域でau回線を契約しているユーザーは5Gが利用可能になりそうで、サーキットでスマートフォンをもっと活用したレース観戦がはかどることになりそうだ。

富士スピードウェイの5G対応計画(出典:富士スピードウェイの5G対策について、KDDI)
鈴鹿サーキットの5G対応計画(出典:富士スピードウェイの5G対策について、KDDI)
モビリティリゾートもてぎの5G対応計画(出典:富士スピードウェイの5G対策について、KDDI)
岡山国際サーキットの5G対応計画(出典:富士スピードウェイの5G対策について、KDDI)
スポーツランドSUGOの5G対応計画(出典:富士スピードウェイの5G対策について、KDDI)