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脳トレで実車の走行タイムは短縮するか? auの「みんなの夢をのせるeレーサープロジェクト」実証結果公表

2022年11月18日 発表

 KDDI、アイロック、VIE STYLE、レーシングヒーローの4社は11月18日、テクノロジーの活用で夢への挑戦を支援する「みんなの夢をのせるeレーサープロジェクト」で実施した脳トレーニングの結果を公表。10名のeレーサーが脳トレーニングを受けた結果、トレーニングをしなかった10名と比べて、実車走行で約2.2倍のタイム向上率となり、脳トレーニングの効果を確認することができたとしている。

 みんなの夢をのせるeレーサープロジェクトでは、2022年7月20日〜9月26日の期間、レースゲームを楽しむeスポーツゲーマー (以下 eレーサー) や自動車メーカーをはじめとするパートナーとともに、脳科学とITを組み合わせたブレインテックとeスポーツを活用したトレーニングを通じて、脳の認知能力を高め、実車でのドライビングテクニックの向上につなげる技術の開発に取り組んだ。

 同プロジェクトでは2021年度に実施した実証実験を拡大し、テストドライバーとなる20名のeレーサーが参加。実車などによる走行タイムの測定と約4週間の脳トレーニングが行なわれ、結果として、脳トレーニングを受けた10名のeレーサーは、トレーニングをしなかった10名と比べて、実車走行で約2.2倍のタイム向上率となり、脳トレーニングの効果を確認したとしている。

 今後、KDDIでは、同技術をもとに、eスポーツから実車のレーサーに近づくための脳トレーニングアプリの実現を目指すとしている。

みんなの夢をのせるeレーサープロジェクト

「みんなの夢をのせるeレーサープロジェクト」

「みんなの夢をのせるeレーサープロジェクト」は、将来カーレーサーを目指したい人が、環境や経済的な問題で諦めることを無くす道のりをつくる技術を開発するプロジェクト。一般から募集したeレーサー20名に、スバルのSDA(SUBARU Driving Academy)のドライバー13名などを加えた33名で、実車やドライビングシミュレーターでの走行タイムの測定、脳トレーニングなどを行ない、技術の開発を進めた。

実車での走行イメージ
「T3R Simulator」でのドライビングイメージ

 プロジェクトの流れは、2022年8月1日に、1回目の測定会を実施。筑波サーキットにおいて、実車とドライビングシミュレーターで走行タイムと脳波を測定。また、運転パフォーマンスと相関する認知能力を特定するため、5種類の認知タスク・心理尺度回答を実施し、測定結果をもとに、トレーニング対象の認知能力を特定。

 そして、2022年8月下旬~2022年9月中旬に脳トレーニングを実施。脳トレーニングの対象者(トレーニー)と、脳トレーニングを実施しない比較対象者 (コントロール)10名ずつを振り分け、1週間に1回、計4回の脳トレーニングを実施した。

 2022年9月26日に2回目の測定会を実施。1回目と同様に筑波サーキットで測定した。

プロジェクトの流れ

 プロジェクトでは、参加者の測定データをもとに、脳トレーニングとドライビングスキルの向上との相関関係が判明した、①感覚運動スキルと②感情制御スキルの向上を目指すトレーニングメニューを開発。

 ①のトレーニングメニューでは、ニューロフィードバックと感覚運動トレーニングとして、先行研究で示唆されている運動学習の促進に有効な特定の周波数帯域のアップレギュレーション(その周波数の脳波成分の増強)を目的としたニューロフィードバックを行なった後に、ゲームパッドを利用した感覚運動学習課題をPCで実施。

 ②のトレーニングメニューでは、ニューロフィードバックによる感情制御トレーニングとして、特定の感情を自分で誘発し、その脳波をもとに個人の感情状態を推定する脳情報解読技術を利用することで、目的の感情に自己誘導するニューロフィードバックを行なえる技術を応用して、さまざまな感情が誘発されてもニュートラルに保てるように訓練するニューロフィードバックの訓練を行なった。

脳トレーニングのイメージ

実証結果

タイム短縮率
タイム短縮率 左: 実車、右: シミュレーター

 実証結果として、筑波サーキットにおいて、1回目の測定時と、2回目の測定時の最速タイムの短縮率を分析したところ、特に実車での走行タイム短縮に効果が出た。これにより脳トレーニングは、eモータースポーツと比較して、参加者への伸びしろが大きい運転パフォーマンスの向上につながることが示唆されたとしている。

 一方でドライビングシミュレーターにおいては、結果のばらつきが大きく有意ではなかったものの、絶対値としてはコントロール群と比較し、大きな向上効果が期待される結果となったとしている。これらを踏まえると、開発した脳トレーニングによってターゲットとなる認知能力を伸ばすことで、レースパフォーマンスの向上に因果的に寄与することが示唆される結果となったとしている。

プロジェクトに参加するパートナー

 今後、同プロジェクトでは、技術開発の全体を統括するKDDI、脳科学のVIE STYLE、ドライビングシミュレーターの提供と運転技術サポートのIROC、eレーサーのマネージメントを担うレーシングヒーローの主要4社に加えて、スバルとSUBARU Driving Academyをはじめとする、実車トレーニングのサポートやPCの提供など各業界の知見を有している11社の協力のもと、技術開発を加速。

 auは、同プロジェクトを通して、さまざまな理由で夢を諦めざるを得ない多くの人に、テクノロジーの活用で夢への挑戦を支援していくとしている。