ニュース

脳トレでサーキット走行のタイムは向上するか? KDDI「eモータースポーツ×ブレインテック」実証実験実施

2022年9月26日 開催

 KDDIは9月26日、脳トレでドライビングスキルを向上させる実証実験「eモータースポーツ×ブレインテック」を筑波サーキットで行なった。筑波サーキットのジムカーナ場では、実証の参加者による実車を使ったタイムアタックが行なわれていた。

 KDDIの「eモータースポーツ×ブレインテック」は2021年度から実施している取り組みで、脳の認知機能に着目した新しいドライビングスキルのトレーニング方法の開発を目的とした実証が行なわれた。2022年度の実証ではその規模を拡大し、実車走行を加えた実証に取り組んでいる。

各種測定用装置を装着したトヨタ「86」
車内にも計測用装置を装備するトヨタ「86」
脳波を測定するイヤホン型ウェアラブル脳波計
目の動きを感知するゴーグルも装着

 2021年度の取り組みでは、リアルレーサーから平良響選手、eモータースポーツ出身リアルレーサーから冨林勇佑選手、山中真生選手、eモータースポーツから山中智瑛選手といったベンチマーク選手を設定して、基準となる認知能力を分析。その分析結果に基づいてトレーニング対象の選手に対して認知能力のトレーニングが実施された。具体的なトレーニング内容については、二つの円が提示され「黄色と赤」の刺激のみボタンを押してはいけない課題「GoNoGo」の成績を高めることが報告されている「ニューロフィードバックによるα波抑制トレーニング」やポジティブ/ネガティブなエピソードを繰り返し想起し、その際の脳波データを基に脳情報解読器 (デコーダー) を学習させ、それを利用して本人がポジティブなことを想起している脳の状態を自ら作り出せるようにトレーニングする「ポジティブ感情ニューロフィードバックトレーニング」などが実施されていた。

ジムカーナ場にパイロンを置いて用意されたコースでタイムアタックを実施
今回実車で走行するコースを再現したシミュレーターで走行
筑波サーキット2000を再現したシミュレーターも用意される
脳波の状態を可視化するソフト
脳トレのためのミニゲーム

 取材当日の会場には、脳トレを実施した10名と、非実施の10名が参加して、実車(トヨタ86)とドライビングシミュレーターでのタイム測定のほか、別の屋内会場では脳スキルの測定が行なわれていた。後日、正式な結果発表がされるが、当日の速報値として脳トレ前に測定したタイムとの比較で、脳トレを4週間実施した10名については、10名中9名がタイムが向上したことが確認された。

実証の参加者の1人 ロードスター・パーティレースに参戦している助川ちひろさん

 実証の参加者の1人、ロードスターレースに参戦している助川ちひろさんに話を聞くと、「5月のレースでは大体13位とか14位とかのポジションだったのが、今回9月のレースでは、決勝はクルマが壊れて完走できなかったのですが、予選で5位までポジションを上げることができました」と話し、実証で行なっている脳トレの効果を感じているという。

 脳トレで具体的に行なっているのは、イライラ棒のミニゲームと感情制御のトレーニングといい、助川さんは「今回分析していただいて、もっと詳しく知りたいじゃないですか、私もまだちょっと理解しきれてないところがあって、自分の測定した数値が他の人と比べてどうとか、どういうときにどうなってるっていうのをあまりうまく理解しきれずにいるので、そこを知った上でも日常生活でも早くなるきっかけ取り入れたいです」とこの実証への期待感を話した。

KDDI株式会社 事業創造本部 5G・xRサービス企画開発部 サービス・プロダクト企画2グループリーダー 伊藤悟氏

 同実証に取り組むKDDI 事業創造本部 5G・xRサービス企画開発部 サービス・プロダクト企画2グループリーダー 伊藤悟氏は「最近、“意外とこれでも脳波は測れるね”といった簡易的なデバイスが出てきて、脳波がもっとカジュアルになるといいよねといってこの実証に取り組んでいます」と、現在ウェアラブルデバイスなどで提供されているサービスのように、脳波を活用したカジュアルなサービスの実現を目指しているという。

 今回の実証が将来的にどのようなサービスとして提供されるかは未定であるが、伊藤氏は「例えば、感情をポジティブに持っていった方がラップタイムが上がるという文献があるらしいのですが、自分の感情を上げたり下げたりできるようになれば、自分がどの状態になったときに一番パフォーマンスが高いっていうのが分かれば、自分でそこに持っていけるようになります。自分の脳波を可視化して見ることができれば、感情を上げるためには何を考えたら感情が上がるかっていうのを自分で試行錯誤することができるのです」などと話した。

SUPER GT 5号車「マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号」のドライバーとして活躍する冨林勇佑選手、TEAM GOODRIDE MOTORSPORTSのドライバーとしてFORMULA DRIFT JAPANに参戦する山中真生選手

 会場には、同実証のサポーターとして、SUPER GT 5号車「マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号」のドライバーとして活躍する冨林勇佑選手、TEAM GOODRIDE MOTORSPORTSのドライバーとしてFORMULA DRIFT JAPANに参戦する山中真生選手も来場、eスポーツから実車へのステップアップを果たしレースの第一線で戦う両選手がこの取り組みに対する期待感を話した。

 モータースポーツのトレーニングに脳トレを生かしていくことに対して、冨林選手は「例えば、F1ドライバーがレース直前に集中するために何かをやっているように、自分が集中できる何かをやるっていうのは大事かもしれない。それは多分、おのおの何が自分にとって集中できるものなのかは分からないですけど、自分に効果がありそうなものを脳トレを生かして見つけていって、それをレース前に実践するっていうのはすごい有意義じゃないかなと思います」と話し、山中選手も「自分も本番で実力が発揮できないところが今の課題なので、脳波をいろいろ調べていただき、どうしたら本番のとき、練習のときと同じ気持ちで本番を走れるかというのを明らかにしてもらいたいですね」などと期待感を話した。

同実証に協力するスバルドライビングアカデミーメンバーも実車(スバル BRZ)とドライビングシミュレーターでのタイム測定、脳スキル測定を行なっていた