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SUPER GT開幕、ミシュラン小田島広明氏に第1戦岡山の見どころを聞く

日本ミシュランタイヤ株式会社 モータースポーツダイレクター 小田島広明氏

SUPER GTは今週末に岡山で開幕

 日本でもっとも人気のあるモータースポーツ、SUPER GTが4月15日~16日に岡山国際サーキットで開幕する。2023年は本格的にコロナ過から抜けたシーズンとなり、さらに全国旅行支援も延長となっているため、現地観戦を計画している人もいるだろう。SUPER GTの開幕戦は特別なハンデもなく、シーズン前半の各チームの実力を見極めるのにも最適なレースでもある。

 そんな開幕戦岡山について、日本ミシュランタイヤ モータースポーツダイレクター 小田島広明氏に話しをうかがった。

 昨シーズンのSUPER GTは、日産が新たに投入した新型ZのGT500が強さを発揮し、ミシュラン装着車の23号車 MOTUL AUTECH Z(松田次生/ロニー・クインタレッリ)、3号車CRAFTSPORTS MOTUL Z(千代勝正/高星明誠)、ブリヂストン装着車の12号車カルソニック IMPUL Z(平峰一貴/ベルトラン・バゲット)がチャンピオン争いを繰り広げた。

 最終戦まで激しい争いが続いたが、最終戦の結果により12号車カルソニック IMPUL Zがチャンピオンを獲得。3号車CRAFTSPORTS MOTUL Zはポイントランキング2位となった。

 つまり、ミシュランにとって2023年シーズンは、わずかにとどかなかったチャンピオン獲得のために巻き返す年になる。タイヤに関するルールも変更となるため、ミシュランは2023年最初の戦いにどのように挑むのか、どのようなところに注目すればよいのか、開幕戦観戦の参考にしていただきたい。


2023年のシーズン開幕におけるミシュラン

小田島氏

──2022年はミシュランにとって、4.5ポイント差でチャンピオン獲得を逃した年になりました。同じ新型Z同士の激しいチャンピオン争いとなったのですが、どのようなところが結果を分けたのでしょうか?

小田島氏:一番大きかったのは取りこぼしになります。取りこぼしの原因はなにかというと、クラッシュであったり、アクシデントであったりというところが大きかったです。タイヤ起因によるものは第5戦の鈴鹿くらいかなと思います。

 第5戦の鈴鹿ではレース序盤でデグラデーション(パフォーマンス劣化)が起きてしまって、予測した距離よりも早くピットインしなければならなかった。第3戦の鈴鹿ではかなりいい結果を得られていたので、そこのところの延長線上で持ってきたものがギリギリにいたのかなと。

 第3戦の鈴鹿が思ったよりも暑かった。そのため夏になった(第5戦鈴鹿)分の温度調整はこのくらいとしたところが意外と厳しく出た。今のGT500のタイヤはみんなギリギリのところにいるので、温度レンジがちょっと外れると性能が発揮できない。

 今回の一番大きい反省点としては、ちょっとたれるとかではなく、タイヤがオーバーヒートを起こしてしまうような崖が深かったですね。そこは少し考えなければいけないなというのがある。あくまで予測に対しての対応の幅を、もう少しマージンを持っていればよかったです。

──もともとミシュランは温度の低いところでの性能発揮など、性能発揮できる温度レンジが広めというイメージはあります。

小田島氏:みなさんにそういっていただけます。

──性能を追求していった結果、タイヤの温度レンジが狭くなってしまったということですか?

小田島氏:例えばわれわれが参戦しているWEC(世界耐久選手権)では、3スペックのみを使用しています。あるレースでは何スティントも走るという状況なので、そこからするとSUPER GTは超スプリントのタイヤレンジになります。

 その分性能を高いところに振っているので、タイヤの温度レンジという意味では、ほかのカテゴリと比べて相当ピーキーです。

 ただ、ここの世界(SUPER GT)だけで言うと、他社さんと比べてみなさんにおほめの言葉をいただいているのですが、ミシュランの技術的にはもっと耐久性を上げるとか、もっとレンジ幅を広げるとかすることで、われわれの技術力を鍛えることができると考えています。

──今シーズンのSUPER GTの変更点としては、燃料がカーボンニュートラル系の燃料となります。この燃料変更の影響はタイヤにあるのですか?

小田島氏:カーボンニュートラル系の燃料を使用するという意味では、他社さんと変わりないと思います。ただ、出力に関する影響はあると聞いているので、タイヤの負荷は(2022年シーズンより)異なってくると思います。

──燃料自体の持っている熱量の関係で、カーボンニュートラル燃料はわずかに出力が下がるという話もあります。実際にはいろいろな工夫がされて変わらないかもしれませんが、もし下がるのであったらどんな影響がありますか?

小田島氏:もし少し下がることになれば、タイヤにかかる負荷も下がるかもしれないということになります。そのことでタイヤの耐久性や初期の発動温度(性能面)に影響があるかもしれません。

 また、新しい燃料となることで、燃料の扱い方の差によってチーム間に差が出るかもしれません。

 2022年の勢力図からいくと、日産の新型Zは装着タイヤにかかわりなく、非常によかった。そのようなときにチャンピオンを獲るというのは非常に大きなチャンスでもあるのです。われわれもチャンピオンに到達できるところにはいた。分析をするとそんなにパフォーマンスはわるくなかった。

 ただ、落としてしまうレースがあった。一方で12号車はコンスタントにポイントを獲得した。そこはわれわれとしてはチャンピオンシップを獲るにあたっては必要なことだと思っていますし、(2023年シーズンに)燃料が変わっても戦略が変わるものではないと思っています。

──2023年シーズンはタイヤの持ち込みセット数も変更されましたが、影響はありますか?

小田島氏:6セットから5セットへ減ります。影響するものは確かにあると思うのですが、今までのストラテジを維持するという意味ではギリギリの本数です。

 スペアとして持っていたものがなくなるので、プライマリ(主戦略)を外してしまったときに、結構ギリギリになる。リカバリが難しい本数ではあります。

──レース距離が伸びるのも2023年のシーズンの変更点として大きいのでは?

小田島氏:大きいです。去年も450kmのレースはいくつか走っていて、タイヤもそれに向けて長距離を走れるような開発をしなければならないです。ただ、スティントを見るとGT500の場合は、それほど変わっていない。これは燃費とか戦略上の対応を含めてですけど、タイヤのデグラデーションを含めたラップタイムの推移からすると極端に長いスティントを取るような戦略が必ずしも優位性を発揮できてないというのが去年の経験値なのです。

 今年も距離を伸ばしてはいけないと思うんですけど、現実的にそんなに簡単に伸びるものでもないです。競争力を少し、速さを抑えてでも伸ばさなければいけないということは分かっているのですが、この持ち込みセット数だとそちらにかじを切るのはリスクがある。実験的なタイヤも持ち込んでいるのですが、実戦投入するのはリスクがある。

 戦略の取りしろからすると、従来の戦略をとっても大丈夫な本数なので、ギリギリで外さなければ。来年、持ち込みセット数がもっと減っていくようだと、今度はいよいよ1スティントでもっと長く走らなければいけない。レースに1スペックしか持ち込めなくなるので。

 すると週末に入って、フリー走行に入った時点で外れちゃったなと(取り返すことができなくなる)。今シーズンはレースを回しながら、来年向けに開発の余力があればそういうもの(長距離化)を少しやっていって、準備をしなければいけない年になると思います。

──2023年シーズンは本格的にコロナ禍から抜け、レースに来場されるお客さんも増える年になると思います。実際にレースの現場に足を運んだお客さんに、どのような部分を見てほしいですか?

小田島氏:去年の岡山戦(開幕戦)では、一発の速さはなかったのですが、レースの後半、とくに第2スティントで路面にかなりゴムがあるような状態でもうちのクルマ(ミシュランタイヤ装着車)だけがかなり速い数字でしたし、最終的にはよい結果でした。

 もちろん速さはあったほうがよいのですが、better to haveでレースの結果を追い求めるにはあの戦略は必ずしも間違いではなかったということです。

──それは、速さを追求するよりも、タイヤにゴムが付着するピックアップ現象に強いタイヤを戦略的に選んだということですか?

小田島氏:ピックアップはするのですが、タイムの影響は小さいタイヤになります。そういうタイヤがあるので、それを継続して、より正常進化させていきます。

──ピックアップでゴムが付着するけど、タイヤの形状が変化しないタイヤということですか?

小田島氏:ピックアップするけれど、タイムに対する影響は小さい。要するに(付着したゴムが)取れやすいタイヤということですね。

 ピックアップは今までハンドリングなどに大きな影響がありました。タイヤが摩耗してしまったわけでないのに、タイムががんと落ちて、何周かして(付着したゴムが)取れたなというときに(タイムが)戻ってきてというラップタイムがありました。

 とくに岡山は多いですよね。

 それが去年われわれが投入したタイヤだと、ずっとコンスタントにいいペースで走ることができる。ほかは速さはあるが、(ピックアップで)落ちて、戻ってきたところでわれわれのペースに追いつけなくなる。

──そのタイムの変化を見てほしいという部分でしょうか?

小田島氏:そうですね。岡山のレースは450kmのフォーマットではなく、300kmのレースですが、最後の最後まで分からないよというところです。ミシュランのタグラインであるPerformance Made to Lastとは、そういうことを表わしています。

ミシュラン装着車の23号車 MOTUL AUTECH Z(松田次生/ロニー・クインタレッリ)

 小田島氏は開幕戦岡山の見どころとして、レースを通じてのラップタイムの変化に着目してほしいという。とくにミシュランタイヤ装着車ではコンスタントなタイムを刻んでくる可能性が高く、最後まで分からないレースになるかもしれない。

 ラップタイムの変化を見ることで、どのチームが上がってきそうか、逆にどのチームは苦しくなっているのか、映像に映らないチームの変化も分かりやすくなる。SUPER GTでは全車のラップタイムが見られるアプリ「SUPER GT Live Timing」を出しており、それを使用して周回ごとの変化も確認できる。

 放送と組み合わせて楽しむのもよいし、全国旅行支援もあるため現地に足を運んでみるのもよいだろう。観戦チケットについては完売のものも出ているので、必ず事前に購入するのを忘れないようにしていただきたい。