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BMW、量産モデル初のFCEV(燃料電池車)説明会 トヨタ 佐藤恒治社長「水素社会の実現を目指して協力関係を深めていく」

2024年9月5日 開催

オンライン説明会にビデオレターで登場したBMW AGの取締役会会長であるオリバー・ツィプセ氏(右)、トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 佐藤恒治氏(左)

 BMWは9月5日、2028年に量産モデルとして初めてとなるFCEV(燃料電池車)の生産を開始すると発表したことに伴い、ドイツ本社とBMW GROUP Tokyo Bayをつないでのオンライン説明会を開催した。

 BMWグループの各ブランドの方向性としては、BMWではあらゆるパワートレーンの可能性がある限り開発を継続しており、これまでの内燃機関に加えBEV(バッテリ電気自動車)も世界中で展開。水素を燃料とする燃料電池車の実証実験も2023年より世界各国で実施している段階。

 また、MINIやロールス・ロイスにおいては電気自動車ブランドへの移行をすでに発表しており、BMWグループ全体の目標として2030年までに販売台数の5割を電気自動車にするという目標を掲げている。

 そうした中、BMWとトヨタは商用車利用と乗用車利用の双方にシナジーを創出するコア燃料電池技術(第3世代燃料電池)を活用し、乗用車用パワートレーンシステムの共同開発を行なう。この協業の成果はBMWとトヨタ両社の車両に応用されるとしており、具体的には燃料電池スタック、電圧コンバーター、コンプレッサー、冷却システム、エアフィルターなどからなる燃料電池システムの共同開発を進めていく。モーターやバッテリ、水素タンクなどについては各社独自の部品を使うという。

 今回の発表により、両社のFCEVモデルは各ブランドの独自性や特徴はそのままに、特色あるFCEVが選択可能になることが期待されている。開発や調達部門での協業によってシナジーが実現し、パワートレーンユニットの共有が増加すれば燃料電池技術のコスト削減とFCEVの普及率向上につながるとの見通しを立てている。

BMW GROUP Tokyo Bayで開かれたオンライン説明会では実証実験車両「iX5 ハイドロジェン」が展示された

水素社会の実現を目指して協力関係を深めていく

BMW AG バイスプレジデントで燃料電池車を担当するミハエル・ラット氏(左)

 説明会ではBMW AGのバイスプレジデントで燃料電池車を担当するミハエル・ラット氏が概要を説明するとともに、BMW AGの取締役会会長であるオリバー・ツィプセ氏、トヨタ自動車 代表取締役社長の佐藤恒治氏がビデオレターで声明を発表した。

 ラット氏は水素について、気候変動と闘うための世界的な取り組みにおいて重要な役割を果たすとし、「水素の役割は再評価されなければなりません。われわれは乗用車で水素がますます重要な役割を果たすと確信しております」とコメント。

 そしてBMWグループは、2030年までにライフサイクル全体で車両1台当たりのCO2排出量を2019年比で少なくとも40%削減することを目指していることを語り、脱炭素化に向けては利用可能なあらゆる技術を活用する必要があること、地域ごとにゼロエミッション製品を作るだけでは十分でなく、ライフサイクル全体に目を向け、バリューチェーン全体を脱炭素化する必要があると説く。

 また、「これからは電気の時代です。今後数十年以内にエネルギーは現在の化石燃料から太陽や風力などの再生可能エネルギーに変わっていきます。それはすばらしいことですが、再生可能エネルギーはエンドユーザーとは関係ありません。では、バッテリに蓄えられた電気を使用するだけで本当に十分なのでしょうか。電気だけに頼るのは片足で立とうとするようなもので、長くは続きません。エネルギー転換には2番目の足、2番目の技術が必要です。夏の太陽を冬のために貯蔵したり、産業の中心地に海岸からの風力エネルギーを輸送したりできるようなエネルギーキャリアが必要です」と述べ、その中で水素が最良の候補だと述べる。

 その水素を用いたパワートレーンについては、迅速な燃料補給が可能な点を利点として挙げ、「燃料補給プロセス自体は非常に簡単で、安全で、クリーンです。内燃機関車の燃料補給と非常によく似ており、水素タンクを100%満たすのに3~4分しかかかりません。水素燃料電池技術はEV走行と高速燃料補給という両方の長所を兼ね備えています」と、その特徴について語った。

 また、2023年にEUで採択された代替燃料インフラ規則案(AFIR)についても触れ、「すべての欧州諸国で電気充電インフラと水素燃料補給インフラの配備を義務付けることに合意しました。AFIRにより、中核ネットワークに沿って200kmごとに水素充填ステーションの配備が義務付けられています。2030年までに400以上のステーションに相当します。多くのプロジェクトがすでに進行中であり、実際の水素充填ステーションネットワークは数年間でさらに密集するでしょう。このインフラを拡張するための同様の計画は、日本、韓国、中国を含む世界中のいくつかの国で存在しています。重要なのは、このインフラが商用車と乗用車の両方で共同で構築されているということです。このアプローチによって相乗効果が生まれ、配備の全体的なコストを削減します。モビリティおよび輸送部門で飛躍的な進歩を遂げるためには、さまざまな市場にわたる水素充填ステーションのネットワークの大幅な拡大が不可欠です。トラック、バス、乗用車がすべて同じステーションで燃料補給できるようにインフラの構築をする必要が出てきています」。

「現在、世界中で1150を超える水素充填ステーションが稼働しています。これは印象的なマイルストーンです。ただし、インフラは世界的にまだ非常に不均一であり、一部の地域は先頭を走っており、他の地域は遅れを取っています。こうした課題があるにもかかわらず、われわれは将来については楽観的です。FCEVの利用が高まるにつれて、インフラもそれに応じて成長すると予想しております」と考えを述べた。

代替燃料インフラ規則案(AFIR)について

 一方、ビデオレターで登場したツィプセ会長は、「BMWグループとトヨタ自動車は、10年以上にわたり信頼と実績のある協業関係を築き上げてきました。その成果の1つが、iX5ハイドロジェンのドライブトレーンです。そして、モビリティセクターにおける恩恵も認識されています。われわれのパイオニアとしての取り組みやiX5ハイドロジェンパイロットフリートにより、目に見える形で技術を実験し、実感してもらえたこともひと役買ったことでしょう。グローバルプレミアムメーカーをリードするBMWと、世界最大の自動車メーカーのトヨタは、高い目標を共有しています。それは、水素が未来の個々のモビリティに不可欠な存在になることです。憧れの製品こそがその要となります」とコメント。

 また、佐藤社長は「本日ここで、ツィプセ会長とともにわれわれの協業関係の新たな章を始められること、うれしく思います。長年のパートナーシップを通じて、私たちはクルマ作りへの情熱と、BMWの『テクノロジー・オープンネス』、トヨタの『マルチパスウェイ・アプローチ』というカーボンニュートラルに向けた考え方を共有することを確認し合ってきました。これらの共通の価値観に基づき、今後、水素社会の実現を目指して協力関係を深めていきます。トヨタは30年以上、燃料電池技術に投資を続け、燃料電池ハイラックスプロトタイプを含め、水素モビリティの可能性を模索してきました。長年にわたる努力が、第3世代燃料電池システムの革新的な性能という形で実を結びました。例えば効率性の向上により、燃料電池スタックのコストを半減し、航続距離を2割伸ばすことを目指しています。これによりFCEVのラインアップを拡大することができます。次世代の技術とともに、そしてBMWとともに、燃料電池システム全体における共有性を求め、水素動力、水素駆動の自動車がより多くのお客さまにとって現実的な選択肢となるよう努めます」と述べた。