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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート

最終回:たくさんの応援ありがとうございました

2024年12月22日 開催

KYOJO CUPの2024年シリーズ最終戦が富士スピードウェイで開催されました

1つの節目を迎えたKYOJO(競争女子)CUP

 2024年12月22日、KYOJO CUP Rd.6が富士スピードウェイで開催された。最終戦となる今回は8年間続いてきたこのレースで最多となる37台がエントリーした。

 これまで女性のみで行なわれるレース「KYOJO CUP」の開催が実現してきた背景には、女性レースの必要性を提言してきた関谷正徳氏をはじめ、多くの協力者の熱意とファンのみなさんの応援があって継続してきた経緯がある。

KYOJO CUPの2024年シーズン最終戦は過去最多となる37台がエントリー

 なかでも2024年のシーズンは、スーパーフォーミュラという国内トップカテゴリーのレースとの併催が実現し、これまで全4戦だったところに2戦が追加されて全6戦となり、より多くのレースファンの目に触れるキッカケとなった。

 また、体験型教育サービスを提供するキッズ・コムがシリーズパートナーに加わったことで、優勝賞金が120万円に引き上げられたことも近年の登竜門的なレースとしては高額で、女性レースのトップの座を勝ち取る意義を強いものに変えた。

KYOJO CUPは年々参加選手も観客も増えているが、同時にパートナーも増えていて、パドックではいろいろな展示が行なわれる
1930年にイギリスから日本へ輸入された車両「インヴィクタ 41/2」をレース用に改造したもの
日本初の常設サーキット「多摩川スピードウェイ」で1936年に初めて開催された「第1回全日本自動車競走大会」で総合優勝を飾った貴重な車両。普段は富士スピードウェイにある富士モータースポーツミュージアムに保存されている

 2025年シーズンのKYOJO CUPのマシンは、カーボンモノコックを採用したKYOJO専用のフォミュラカーで開催されるため、VITA-01で行なわれるKYOJO CUPは今回のレースで最後。2025年以降は富士チャンピオンレース(FCR)の1つとして開催されている男女混走の「FCR-VITA」のレースにKYOJOクラスが新たに設けられるそうだ。つまり、今後はステップアップしてフォーミュラのシートを得る女性ドライバーもいれば、引き続きVITA-01のマシンで参戦し続けるドライバーもいることになる。

KYOJO CUPを創設した関谷正徳氏と2025年シーズンから採用されるハイブリッドフォーミュラマシン「KC-MG01」

 さて、話を最終戦に戻そう。前戦までの結果を踏まえると、17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITA 斎藤愛未選手がポイントリーダーになっている。その後ろを僅か4ポイント差で2022年のKYOJO CUPでチャンピオンを獲得した114号車 Car Beauty Pro RSS VITAの翁長実希選手が追う形だ。ただし、最終戦のポイントは1.5倍に跳ね上がるため、最後まで結果が読めない状況。

最終戦前のポイントリーダー17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITA 斎藤愛未選手
4ポイント差で2位に付けている114号車 Car Beauty Pro RSS VITAの翁長実希選手は2022年のKYOJO CUPチャンピオンだ

 最終戦は12月の4週目という真冬の時期に持ち越されたこともあり、気温も路面温度も今シーズンで最も低い環境となった。私は木曜日の午前中から走行したが、わずかに降り始めた雪の降雪量が徐々に増していき、走行中にマシンやバイザーに積もり始め、遠くの視界が白く霞むほどに冷え込む状況となった。さすがにまともに走るのも難しい状況だったが、ウエットの冷えた路面を体感するいい機会となった。

2017年の初戦から参戦してきたKYOJO CUP。全レースに出場しているので、今回で34戦目を迎えた

 今回の私のマシンは従来よりも効きが弱いタイプのブレーキパッドに変更。走らせながら効き具合をみて、前後のブレーキバランスをダイヤルで調整し、その変化に合わせてコーナーごとのブレーキのかけかた、リリースのしかたを変えて走らせてみる。改めてブレーキは減速する役割だけでなく、コーナリングにおける姿勢変化や走るリズムが変わることを実感した。

12月後半とあって路面温度は低く、とても滑りやすい
ブレーキパッドを変更したのに合わせて、ブレーキバランスをコクピットにあるダイヤルで調整しながら自分の走りにアジャストしていく

予選も決勝も冷えた路面がドライバーを苦しめる

 いよいよやってきた最終戦当日の天候は晴れ。澄んだ空気に雪化粧した富士山が真っ青な空とのコントラストでひときわ美しい。雄大に聳える姿は富士スピードウェイの様子を見守ってくれているようだ。

まだまだ路面の冷たい早朝から20分の予選がスタート

 朝8時45分から20分間の予選がスタート。気温は5℃でドライコンディション。2023年のシーズンからコンパウンドが変更された専用タイヤは、今回のような相当に路面温度が冷えている状況でもグリップし始めるタイミングは早まっていると感じるものの、ニュータイヤの練習時より高まったグリップで1周をまとめ上げ、本領を発揮させるのが難しい。

 タイムを詰めたと思ったら、ダンロップコーナーのブレーキ時に5速から4速、3速にシフトダウンしたつもりが、5速に入れてしまう痛恨のミス。肩に力が入りすぎていた私のベストタイムは10LAP目の2分01秒045。結果は23番手となった。

タイヤの性能をきっちりと発揮させて1周にまとめるのは至難の業

 今季の最終戦とあって、パドックには大勢のファンとチームの関係者たちが駆けつけていた。ドライバーに期待を寄せる声を掛ける人もいれば、最後のレースを走り切るために緊張の面持ちでたたずむドライバーもいる。サーキットを走る勇姿を撮影という形で応援しているカメラマンの人にも声を掛けていただいた。長年レース参戦を応援してきてくれたファンに会うと、「最初は少なかった台数もずいぶん増えて、こんなに盛り上がりを見せるレースに成長したのは感慨深いね」とお互いに共感できるのは嬉しい。積み重ねてきた時間によって、絆が深まっていることを感じる。

来場者やファンに向けての選手紹介の様子

 ピットには、同じマシンをシェアして走らせてきたレジェンドドライバーの見崎清志さんが金曜日から応援に駆けつけてくれた。私の走りのダメな部分を指摘してもらい、「チャレンジなしに進歩はない」と投げかけられながらも、なかなか応えられずにいる自分がいた。私の予選タイムは全体の中では決して速くないが、「00秒台が目前のところにきているし、スタートは決めていきたいね」と見崎さん。「ハイ!」といいながら、決勝はまだこれからだというのに、色んな思いが巡り巡って悔し涙がポロリとこぼれた。

多くのサポートがあって走り続けてこられた8年間、感謝しかありません
KYOJO CUPを創設した関谷正徳氏からも激励をいただきました

 時刻は12時をまわったものの、気温は7℃と低いまま。コースインの時間がやってきた。さぁ、泣いても笑っても今回のレースが最終戦となる。

 冷えた路面を考えつつ、エンジン回転を合わせてクラッチミートしてスタートを切る。最終戦は皆が躍起になってくるだろうと見越して、混乱に巻き込まれないように注意深く1コーナーを通過。その先のコカ・コーラコーナーでスピン車両が道を塞いでいたが、避けながら蛇のように連なる集団に食らいついていく。

いよいよ2024年最後のKYOJO CUPの決勝レースがスタート
1コーナーのせめぎあいでは、予選トップの17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITA 斎藤愛未選手のイン側を狙いにいった2番手の114号車 Car Beauty Pro RSS VITAの翁長実希選手が、オーバースピードと冷えた路面でのブレーキングでタイヤをロックさせてしまいコース外へオーバーラン。いっきに順位を落とした

 タイヤとブレーキが温まっていない状況で攻めているとあって、あちこちでスピンする車両が続出。ダンロップコーナーでは後続の2台に抜かれてしまったが、まだ手が届きそうな距離にいる。スープラコーナーで停車車両がいることに気づき、交わしたタイミングで前との距離が離れてしまった。

 その後、序盤で順位を落とした114号車 Car Beauty ProRSS VITAの翁長実希選手が、怒涛の追い上げをみせて追い越していく。その後、私はストレートではダンロップコーナーで抜かれた1台のマシンの後方につき、スリップストリームで抜きに出た。

1周目に順位を落としていた114号車 Car Beauty ProRSS VITAの翁長実希選手が怒涛の追い上げを見せ、4週目の1コーナーで私の背後に迫る

 序盤で引き離されてしまった車両との距離が、ここでじわじわと縮んでいく。セクター3の勾配を駆け上がりながら追いかけていく。しかし13コーナー立ち上がりに、またもやスピン車両があり、避けながら追いかけていく。少しでもアクセルを緩めすぎれば、前方車両と大きな差が開いてしまうので、アクセル操作にとにかく集中。徐々に車間は縮んできたものの、追いつけないのがもどかしい。ダンロップコーナーのブレーキングで1車身まで近づくのに、立ち上がりでまた引き離されてしまう。

同じ性能のマシンなので、ちょっとしたミスで順位が入れ替わってしまう

 再びホームストレートで背後につき、ようやくスリップストリームで前に滑り出た。しかし、1コーナーで抜いたクルマの前に出てインに寄せられるほどの距離がなく、再び前に出られてしまう。まだ諦められるかとヘアピンのブレーキで近づくも、ダンロップコーナーでさらに後ろに迫ってきていた911号車 アキランド VITAの宮島花蓮選手に間に入られてしまった。

4ポイント差でシリーズ2位につけていた114号車 Car Beauty ProRSS VITAの翁長実希選手は、怒涛の追い上げを見せたが15位でゴール。それでもシリーズランキング2位は堅持した

 そこから3台が接近した状態での攻防が続き、ヘアピンで私の後ろについていた76号車 ELEVレーシングドリームOSスハラVITAの佐藤こころ選手が前に出る。4台が連なる形で追a従走行。近づくが立ち上がりでまた離されたりと繰り返す。スリップについて3台が並んで1コーナーへ。オフセットしたラインから隙を伺っても抜きに出られない。セクター3でさらに接近したが、抜くにはいたらず、結果的に23位でチェッカーを受けた。

抜きつ抜かれつの結果、最終戦は23位でチェッカーとなった

 コース上はスピン車両が続出する中、どうにか走りきった最終戦。終わってみれば何事もなかったかのような順位で8年目のシーズンを終える結果となった。なお、最終戦では、17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITA 斎藤愛未選手が優勝し、2位に50号車 BBS VITA 永井歩夢選手、3位に86号車 Dr.Dry VITA 下野璃央選手が入った。斎藤選手は見事に最終戦を勝利で飾り、シリーズチャンピオンを獲得した。

最終戦をポールtoウィンで飾りシリーズチャンピオンを獲得した17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITA 斎藤愛未選手
予選3位から2位でチェッカーを受けた50号車 BBS VITA 永井歩夢選手
予選4位から3位でゴールした86号車 Dr.Dry VITA 下野璃央選手

 私自身はKYOJO CUPが始まって以来、周囲のみなさんのお力添えもあって、幸いにも全戦となる34戦ものレースに参加させていただいた。女性同士が容赦ない環境で競い合い、自分の足らない部分をまざまざと突きつけられ、そうした中にも僅かな進歩を信じて臨んできたレース。女性ドライバーたちの走りが年々レベルアップしてきたことが嬉しく、自動車ジャーナリストとして客観的に捉えて伝える一方で、私自身も成長させてもらったことには感謝しかない。来季からはKYOJO FORMULAがスタートすることもあるし、また、VITAを登竜門としてステップアップを目指すドライバーたちの活躍に注目していきたい。

最終戦の表彰式の模様

2024年シリーズチャンピオンを獲得した斎藤愛未選手にインタビュー

──2024年KYOJO CUP、熾烈な戦いの中でのチャンピオン獲得、おめでとうございます!

斎藤選手:今年は途中までいいポジションを築いてきたので、「このままいけば楽ができるのかな」と感じていましたが、そういう気持ちでは勝てないということを前回のレースでお尻を叩かれた気持ちになりました。すごく悔しくて、このままではチャンピオンを獲れないと思いましたし、Team Mのオーナーを務める三浦愛さんにも「しっかり最後やっていかないと、みんな頑張るからチャンピオンは獲れないよ」と言われて、チームでたくさんコミュニケーションを取って、シミュレーターもやって、実車も沢山練習して、万全の形で挑みました。結果的には最後にまとめられてよかったと思います。

左から、Team Mのオーナーの三浦愛さん、斎藤愛未選手、スーパーフォーミュラとSUPER GTの両方で2024年シリーズチャンピオンを獲得した斎藤選手の旦那さま坪井翔選手

──スーパーフォーミュラ(SF)と併催された第2戦、第3戦の2つのレースで斎藤選手は初優勝を果たし、一気に花を咲かせた形でしたが、そのときご自身に何が起こっていたのですか?

斎藤選手:1戦目は勝てそうで勝てず2位で終わってしまって、SFの時は夫婦(旦那さまは坪井翔選手)同日優勝が期待されていたこともありましたし、主人は勝てる可能性があるなと思っていたので、残るは私だなと思っていたので、愛さんに教えてもらったり、日々努力を積み重ねて結果に結びついたのもありますし、あとはチーム力が大きいなと思います。

KYOJO CUP2024年シリーズチャンピオンを獲得した斎藤愛未選手

──同じドライバーとしてKYOJO CUPのチャンピオン経験をもつ三浦愛選手がこのチームのオーナーですが、彼女と一緒とやってきたことで得た気づきはありましたか?

斎藤選手:数え切れないほどの気づきがありました。ドライバーとしても愛さんは大先輩で尊敬していましたし、チームのオーナーになってからはドライバーのケアだけでなく、チームのみんなのケアがとても上手だと感じました。チームって自分だけで戦っているワケではないので、自分1人が頑張ってもやっぱりダメなんだなということを毎戦毎戦、よくてもわるくてもその中で色んなことを愛さんの背中を見て教えてもらって、ドライバーとしても、人間としても育ててもらったと思います。

斎藤愛未選手が駆る17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITA

──旦那さんがプロのレーシングドライバーということは、斎藤選手にとってどんな風に感じているのでしょうか?

斎藤選手:やはり同じドライバーとして大きな刺激になっています。主人は今年ダブルチャンピオンを獲得していますが、「私も頑張らないといけないな」と私生活で思わされることは沢山ありました。レースってサーキットにいるときは頑張りますけど、私生活で頑張るのってなかなか難しい。身近に頑張っている人がいてくれると目標になりますし、「これくらいやらないとチャンピオンが獲れないのか」というのを見せてもらったし、凄く刺激になって、いい関係性が築けているのだと思います。

 私の努力というよりは、まわりの人たちに支えられて獲ることができたチャンピオンだったと思います。というのも、私自身はまだ未熟で、レースウィークの木曜日は落ち込んでしまったりしていましたけれど、それをチームのみんながクルマについてもアジャストしてくれて、それが最終戦で自信をもって走れた要因につながったので、まわりに感謝しかありませんし、まわりの人たちがいなかったら私はチャンピオンを獲ることはできなかったと思います。

2024年シリーズ表彰式の模様

──—これから、女性ドライバーでもレースの世界を志したいという若い人たちがたくさんいると思いますが、最後にメッセージをお願いできますか?

斎藤選手:カートの場合、男女が一緒のレースで戦っていて、なかなか結果を出すのが大変だと思いますが、4輪にステップアップしてくると、関谷正徳さんが作ってくださった女性だけで戦えるKYOJO CUPがあるので、諦めずに頑張ってほしいです。2024年のKYOJO CUPは賞金金額も上がっていますし、ドライバーとしてしっかり職業として目指せるものになってきています。いまジュニアで頑張っている女の子たちとか、まだ経験が浅い女の子たちがくるまでに、私たちがしっかり職業として成り立つような仕組みを作っておきますので、是非ここを目指して頑張ってきて欲しいと思います。

──心強いメッセージ、ありがとうございました。本当におめでとうございました!

KYOJO CUP2024年シリーズランキング(上位12位)

順位No.ドライバーマシンポイント
117斎藤 愛未Team M 岡部自動車 D.D.R VITA115.5
2114翁長 実希Car Beauty Pro RSS VITA77
386下野 璃央Dr.Dry VITA75
444平川 真子ROOKIE Racing RSS VITA64
5225富下 季央菜KTMS VITA51
650永井 歩夢BBS VITA45
787山本 龍おさきにどうぞ☆VITA26
838佐々木 藍咲LHG Racing DRP VITA23
9213バートン ハナPRIX WORKSHOP21
1037金本 きれいKeePerアポロ電工フジタ薬局VITA12
1115白石 いつもTeam M 神戸の不動産屋さんRe-Kobe VITA9
12761岩岡 万梨恵フクダ電子VITA8
8年間にわたり参戦してきたKYOJO CUP、たくさんの応援ありがとうございました