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藤島知子の“女性同士のガチバトル”競争女子「KYOJO CUP」レポート
第22回:初の連戦となった第2戦と第3戦。スーパーフォーミュラ併催による思いがけない影響
2024年8月1日 07:05
- 2024年7月19日~21日 開催
スーパーフォーミュラとの併催になり新たなファン層の獲得にも期待
今季の日本列島の夏は梅雨入りが遅く、明けるのも早かったこともあり、湿度の高さと灼熱の気温が続く酷暑に見舞われた7月に。そうした環境の中、7月19日~21日の3日間、富士スピードウェイでKYOJO CUP 第2戦・第3戦が開催された。
2023年までのKYOJO CUPは1シーズンで全4戦をこなすものだったが、2024年はスーパーフォーミュラとの併催で2戦が追加されることになり、全6戦で競う。今季のスーパーフォーミュラは、男性トップドライバーらとともに日本人女性ドライバーのJUJU選手が参戦していることで話題を集めていることもあり、富士スピードウェイには5万2000人を超える観客が来場し、モータースポーツファンの熱の高まりが伝わってくる。
いつもの富士チャンピオンレースのときと比べると観客数は圧倒的に多いが、会場に来られないモータースポーツファンに向けて、いつものKYOJO CUPのオフィシャルYouTubeのライブ配信に加えて、J SPORTやSFgoでも放映される。女性同士で競い合うKYOJO CUPの存在が、これまで届かなかった人たちの目に触れる機会となることに期待が高まる。
併催レースが違うと路面コンディションも変わる!?
今回のレースウィークは、いつもとは違う流れで進行した。普段のKYOJO CUPは予選と決勝を1日でこなしているが、今回は金曜の午前中に3本のスポーツ走行と予選、決勝レースは土曜日にRd.2を行ない、翌日の日曜日にRd.3と続く。予選から決勝までの時間にインターバルはあるものの、コースの環境はいつもとずいぶん違っていた。
レースはラリーやジムカーナと違って、アスファルトで舗装されたコースを連続で周回するものだが、ドライコンディションであっても、気温や湿度、路面温度や路面の状況でマシンの挙動やタイムが変わる。私は5月の開幕戦以降、久びさの走行となるため、身体慣らしを踏まえて1本目を走行。すると、タイヤのグリップ感が春先とは異なっているせいか、コーナーの進入から立ち上がりにかけて、マシンを思うような体勢に持ち込めず、同じ操作をしているつもりでも、いつものリズムで走ることができない。
とはいえ、これまでKYOJO CUPで何シーズンも夏を経験してきたこともあり、何が原因でこのような状況に陥るのか、頭の中で可能性を探ってみる。ドライビングは周囲の環境の影響だけでなく、マシンやドライバーのコンディション、操作の仕方も影響するものだから、すぐにコレといった答えが見つからない。メカニックによると、「前回とセッティングを変えていないから、ドライバーの運転操作が影響しているのでは?」という見解だったが、実はそれ以外にも環境面でいつもと違っていることがあったのだ。
それは、ラバーグリップ。KYOJO CUPのマシンは一般的な量産車が履いているようなドライ路面もウエットも走れるスポーツラジアルタイヤを履いて走る。一方で、今回併催のレースはドライ路面ではハイグリップなスリックタイヤを履いて走るスーパーフォーミュラ・ライツやポルシェ カレラカップ、スーパーフォーミュラが走っていることで、路面にタイヤのラバーが乗っている状態だった。
中でも、速く走るためにたどるレコードライン上は、彼らのマシンのラバーが重なりやすいが、一方でそこから外れた路面はいつもと変わらないグリップのままなので、見た目上は気づきにくいが、いざ走るとブレーキングでボトムスピードが落ちすぎた状態でターンインしてしまったり、姿勢がうまく変わらなかったりして、いつもと違う。戸惑いながらも、私の運転の仕方におかしなところがあるのではないかと疑いながら、オンボードカメラの映像をチェックして予選に備えた。
31℃を超える気温の中で予選がスタート
金曜日、フレッシュタイヤを装着して車検を受け、14時40分から20分間の予選がスタート。少し風は吹いているが、気温は31℃を上まわっている。
コースインして計測がスタートした。ここからタイムアップしていきたいと思っていた矢先、ホームストレートで私の斜め後方を走っていたマシンと1コーナーで接触してしまった。衝撃ではじかれた車体の姿勢を整えるのに、いったんコース外にオーバーランしてコースに復帰したが、競技委員会による判定はアクシデント。2台とも損傷は少なかったため、すぐに再スタートを切れたものの、万が一の衝突を避けるには相手が飛び込んでくる可能性を予測して、もう少し余裕をみて走るべきだったと反省。まだ予選は始まったばかりだ。
KYOJO CUPのマシン「VITA-01」は、周回を重ねたタイヤからフレッシュタイヤに履き替えると、マシンの挙動がかなり変わる。朝8時前後の時間帯で行なわれる予選では、しっかりとグリップするタイヤに合わせて走らせかたを調整するのだが、今回は気温の高さや路面状況の違いもあるせいか、浮ついて、グリップする感触がつかみにくい。一方で、コーナー進入にかけてグリップしたかと思うと、立ち上がりでアンダーステアになることもあったりして、イメージした走行ラインをうまくたどれないのがもどかしい。
結果的には序盤からペースを乱して調子が上がらないまま予選は終了。Rd.2のグリッドは予選のベストタイム、Rd.3はセカンドタイムで決まるが、私は両日ともに22番グリッドからのスタートとなった。
黒澤琢也さんの「気持ちは熱く、頭は冷静に」を心掛けて走った第2戦
土曜日のRd.2は12時10分にコースインを開始。スーパーフォーミュラのピットウォークに合わせて、KYOJO CUPのグリッドウォークの時間が長くとられた。グリッドに並んだマシンとドライバーの紹介は普段のスナップ写真を掲示しながら、それぞれの人となりを知ってもらうような試みも行なわれた。
と、ホッコリした時間はつかの間、ヘルメットをかぶってマシンに乗り込むと、Rd.2のレースがスタート。スタートは比較的スムーズに決まって1コーナーに飛び込んでいくと、前方で接触があり、スピンしている車両がいる。周囲の車両はそれと少し間隔をもたせながら、コカ・コーラコーナーになだれ込んだが、コーナーの途中で2台のマシンが接触して停止し、カウルが損傷しているのを横目に通過していった。
その後、すぐにコーナーポストの信号灯にセーフティカーの導入を示す「SC」の表示。停車車両の回収が行なわれて、4LAP目で再スタートが切られた。1コーナーのブレーキで前に出たが、立ち上がりで2台が迫っていたので、そこで無理をせず、勝負は後に持ち越すことに……。
さらに前方の車両がヘアピンでコースアウトしていたが、ダンロップコーナーのブレーキングとスープラコーナーまでの上り区間で前方の車両との距離を縮めていく。スープラコーナーから最終コーナーまで抜きつ抜かれつの攻防が続き、前方を走るマシンのスリップについたが、4速から5速のシフトアップが遅れるというミス。
それでも、1コーナー、スープラコーナーで1台ずつパスすることに成功した。続いて17番グリッドからスタートしたマシンの背後に追いついたが、コーナーを曲がるときに冷却水を吹いていたこともあり、少しズルリと滑ってしまった。また、距離を縮めていこうと躍起になって走っていると、タイヤの熱が上がってきたこともあり、マシンの挙動が乱れ始める。
粗っぽい操作にならないように注意して、競技のアドバイザーである黒澤琢也さんが言っていた「気持ちは熱く、頭は冷静に」を心掛けながらゴールに向けて周回を重ねる。やがて、ストレートで1台パスして、1コーナーでコースから飛び出した車両の脇を通過すると、9LAPの途中で再びSC導入の表示。SCに先導されたまま、チェッカーを迎えた。
結果は7台前に出た15位でレースを終えた。予選で接触してしまった反省を踏まえ、無理せず一歩ずつ前に進んだ形だが、堅実に走り続けることの大切さが身にしみた。トップを飾ったのは3番グリッドからスタートした17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITAの斉藤愛未選手。2位に86号車 Dr.DRY VITAの下野璃央選手、3位は114号車 Car Beauty Pro RSS VITAの翁長実希選手が続いた。
抜きつ抜かれつの攻防が続いた第3戦
土曜日の一戦の興奮と反省の気持ちが覚めやらないまま、翌日のRd.3に突入。天候には恵まれたが、前日のレースのときよりも明らかに路面温度は高い状況。しかも、今回は予選と決勝2レースを通して使えるタイヤは1セットのみというルール。決勝レースはタイヤの摩耗が前日よりも進んでいるため、タイヤマネジメントはいっそうシビアになる。
22番グリッドからスタート。1つ前のグリッドにいたマシンがスタートですぐに動き出さなかったこともあって、その1台を抜き、1コーナーで18番グリッドからスタートした28号車 Car Beauty Pro RSS VITAの樋渡まい選手のマシンに近づいたが、予選の反省を踏まえ、リスクを避けて、ここでは勝負に出ず。
前方グリッドからスタートしたマシンたちは手が届きそうな位置にいるので、ヘアピンでインを刺そうと一気に飛び込んでいったところ、私の目の前にいた1台のマシンがスピン。避けるラインをとったらおくれをとってしまい、樋渡選手のマシンから離されてしまった。
とはいっても、まだレースは始まったばかり。ヘアピンのブレーキングで追いつき、セクター3へさしかかる。その後、インを刺して、また抜かれることを繰り返し、最終コーナーの立ち上がりからストレートにかけてスリップについた。
なかなか抜けずにいたところ、3周目の1コーナーで前に出ることに成功。抜いたマシンの追い上げを気にとめながら、さらに前にいる集団に追いつきたい気持ちを奮い立たせる。とはいえ、ちょっとでもミスをすれば、すぐに追いつかれてしまいそうだ。案の定、翌周のストレートでスリップにつかれ、順位を取り戻されてしまう。
しかし、まだまだ諦めるワケにはいかない。取り戻すチャンスを窺いながら走行していると、5LAP目でタイヤの状態がキツくなってきた。少し姿勢を乱した隙に離されてしまった。開いてしまった差はそう簡単に縮まらないなか、1コーナーで15番グリッドからスタートした779号車 栄建設 TBR VITAの関あゆみ選手のマシンがスピンしている。すぐに復帰したため、9LAP目のストレートで背後につかれていったん抜かれてしまったが、今度は私がスリップについて、1コーナーでイン側の走行ラインからブレーキ競争をして順位を取り戻す。
その後も攻防は続き、10LAP目で再び抜き返され、立ち上がりで離されてしまった。ファイナルラップのコカ・コーラコーナーで、タイヤのグリップをギリギリで攻めていっていたそのマシンがスピン。その結果、私は19位で週末のレースを締めくくることになった。
トップ集団は手に汗を握る争いが繰り広げられていたようだが、競い合う中で四脱(四輪すべてがコース内から脱輪する)のペナルティを受けたドライバーもいて、最終的には2番グリッドから出走した17号車 Team M 岡部自動車 D.D.R. VITAの斉藤愛未選手がRd.2とRd.3と連続で優勝する快挙を成し遂げた。
タイヤも走行環境も厳しかったRd.3のレース。私自身、かつては同じような状況でハーフスピンしてしまうことが度々あった。今回それは免れたものの、乱れる挙動を制して、力強く前に出ていけるだけのエネルギーに欠けていた。次戦のKYOJO CUP第4戦は8月18日に1dayにて、富士スピードウェイで開催される。自分に負けず、強い気持ちで臨みたいと思う。
新たなステージとなる「KYOJO FORMULA」がお披露目された
今回のレースウィークには、2025年のシーズンのスタートを目指す「KYOJO FORMULA」のマシンが初公開された。ミーティングでは、現在のKYOJO CUPに参戦しているエントラントの代表者とKYOJOドライバーに向けて説明会とQ&Aの時間が設けられた。
カーボンコンポジットモノコックで造られたKYOJO FORMULAのマシンは、コクピットに収まるドライバーの頭上をハロ(Halo)の骨組みが守る形だ。KYOJO CUPのプロデューサーであるレジェンドドライバーの関谷正徳氏によれば、「KYOJO FORMULAで戦う女性ドライバーたちが、将来的にスーパーフォーミュラやSUPER GT、スーパー耐久といった上位カテゴリーで通用するスキルを磨くレースとして展開していきたい」という狙いがあるそうだ。
現在、KYOJO CUPで使われているVITA-01はタイヤがカウルに覆われたマシンで、1.5リッターのVITZ RSのエンジンにHパターンの5速MTを搭載している。一方で、KYOJO FORMULAはそれとは別格のオープンホイールで走る完全なフォーミュラカーで、スリックタイヤとレインタイヤを履いて走る。ボディサイズは4150×1506×全高980mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2753mm。全長方向に伸びやかで迫力のあるボディでありながら、車重は635kgしかない。
搭載されるエンジンは1.4リッターターボ+モーターのハイブリッドで、6速のパドルシフトが組み合わされている。デモカーはブリヂストンのタイヤを履いていたが、実際のレースで指定されるタイヤのメーカーや銘柄はまだ検討中とのこと。
レースのフォーマットは、インタープロトシリーズやスーパーフォーミュラとの併催で、富士スピードウェイにて、5大会10レースを予定。KYOJO FORMULAで戦うKYOJO CUPは純粋にドライバーの腕で勝負する環境をつくり出すことを狙っていて、マシンは運営する事務局によって貸し出しを行ない、運搬、整備、管理される。
レースに参戦できる車両の台数は23台を上限とし、その他に貸し出し用の練習機を数台用意。基本的には年間エントリーすることが前提で、レースの参戦権、年間エントリーフィー、ガレージメンテナンス、レース&合同テスト時のマシンの輸送費、タイヤはスリック15セット&レイン1セット、車両保険をかける予定。それらを含めた年間パッケージ費用は暫定で1100万円(税別)を用意する必要があるとアナウンスされている。
また、それだけではレースを戦いきるには不十分なため、それ以外に負担する費用として、修理費用(保険適用の場合は免責費用)、破損部品代、エンジンやミッションの交換、ガソリン代、サーキットでメンテナンスを行なうメカニックの人件費、カラーリングやシート作成、練習走行費用、占有スポーツ走行料、追加で必要なタイヤ代といった予算を確保する必要がある。
2025年以降は、この新しいKYOJO FORMULAのマシンを使って戦うレースを「KYOJO CUP」とし、現在のVITA-01のマシンで走りたい場合は、富士チャンピオンレースで行なわれるFCR-VITAのレースに新たに「KYOJO VITA」クラスを設けたい考えとのこと。さらに、若手が活躍しているカートレースにおいても「KYOJO KART」のカテゴリーを新たに作り、KYOJO VITAとKYOJO KARTのクラス上位者はKYOJO FOMULAのオーディションに招待するそうだ。
KYOJO FORMULAに参戦するためのハードルは高い。しかし、世界で活躍できる腕をもつドライバーを輩出するマシンとしてふさわしいものに仕上げているという。
いよいよ明らかにされてきたKYOJO FORMULA のマシンと暫定的な開催概要。レースチームが主体となって、ドライバーを決めて参戦するのか、それとも、ドライバーが主体になってチームをけん引し、レースに挑むのか。これまでと違うフォーマットで行なわれる新たな挑戦となるだけに、始まってみないと見えてこないところもある。
現在のKYOJO CUPの参加者は、今後はKYOJO FORMULAのレースにステップアップするのか、FCR-VITAとともにKYOJO VITAにとどまるかで分かれることになると思うが、KYOJO CUPが8年目を迎える活動を続けてきたことで、次なる飛躍に向けたステージが用意されたことには違いない。全体のレベルが年々上がり、上位カテゴリーで活躍する女性ドライバーが増えてきていることをみても、そうした舞台あってこそ、女性ドライバーたちはもまれて育っていくのだろう。自動車大国である日本だけに、より高みを目指して挑戦する人たちを支えるサポーターが増えていってほしいと願うばかりだ。